ARK とある青年の日誌   作:車馬超

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第897話

???頁目

 

 あの人が残して行った日記を久しぶりに当時のメンバーみんなで開いてみた。

 本当に懐かしい内容ばかりで笑ったり涙が零れたり……それぞれの顔に感情がとめどなく溢れてくるのが分かる。

 もしこの場にあの人が立ち会っていればどれだけ盛り上がっただろうか。

 

 そう、結局あの人は帰ってこなかった。

 オベリスクとやらを起動して守護者と戦いに行ったきり音沙汰もない。

 一応その時に軽い震動とオベリスクの発光現象があったから恐らくは別のARKに旅立ったのだろうとハンスさんは仰っていた。

 

 けれど私達の顔から視線を逸らしたままだったから、多分彼にも本当のところはわかっていないのだと思う。

 ルゥちゃんに干渉した何者かの影響なのか未来の知識があるハンスさんでもオベリスクからの情報が判別しにくくなっているそうだから。

 実際にあれからこの砂漠の環境も微妙に変化が起きている。

 

 生態系としてもこれまで一度も見たことのなかった砂の中に潜る動物やら死体から発生する謎の儀式めいた出来事と共に襲い掛かってくる変な生き物まで現れ始めて結構大変だった。

 まあ一番驚いたのはあの人が良く言っていたのとは違うであろう移動飛行拠点とでも言うべき存在を外周部の砂漠で目撃した時だ。

 その度に私もキャシーもつい夢中になってしまったけれど、毎回モーリツさんやハンスさんの知識と経験則にはお世話になっている。

 

 だからハンスさん自身はいつも謙遜しているけれど、私達は色んな意味で彼に頼りっぱなしで感謝し続けている。

 彼が未来知識で作ってくれた設備はどれも便利なものばかりで、私達のトライブはどんどん快適になってきている。

 何よりルゥちゃんも使っていたあの動物を収納して運べるポッドはとても便利だった。

 

 どうも作った当時使えなかったのは遠くで雷が鳴っている不思議な天気が原因だったらしい。

 たまたま制作したタイミングにその天候だったというのは不運過ぎる気がするけれど、もしあの時点でこのポッドの有効性を理解してたらあの人はもっと早くここを旅立っていた事だろう。

 お陰でこの日記に記されているような多くの思い出を作ることができたのだからむしろ私達にとっては運が良い出来事だったのだろう。 

 

 実際問題、あのポッドを用いて効率的に進んで行ったらルゥちゃんの事件にもあの人は立ち会えず私達がどうなっていた事か……またそれを乗り越えたとしても今となってはこのトライブの要となりつつあるモーリツさんと絆を育む余裕もなくて、やっぱり今ほど安定した状況には至れなかったかもしれない。

 あの人が立ち去る前に何事か二人きりで話し合っていたモーリツさんだけれど、その後からは本格的にあの日が居なくなった穴を埋めるようにトライブの方針を打ち出してくれるようになった。

 まあルゥちゃんをある意味でダシにして片腕で生存能力が低い人でも見捨てないトライブという名目でこの砂漠に来る人達をまとめようとする案には色々と思うところがあったけれど、ルゥちゃん自身が自分に出来ることを頑張りたいと言ったこともあってその方針のまま今に至っている。

 

 実際にそれが思いのほか上手く行っていて、またルゥちゃんが純朴そうな容姿に加えて儚げな印象まで加わって本当に信仰の要となりつつあるのはびっくりしている。

 だから実際に指揮しているのはモーリツさんだけれど、本当にかつてここにいたライアさんのようにルゥちゃんは皆の信仰を支える巫女になりつつある。

 そしてその傍にはいつもシャルル君が控えている……二人ともあの一件を乗り越えた上で神様に失望するだけでなく自分たちなりの見解を見出したようだ。

 

 まあそれに加えて年齢と価値観もそこそこ近い男女ということもあって多分……ううん、この手のよそ事には下手に首を突っ込むと藪蛇になるのはハンスさんの一件ではっきりしている。

 

 ……ああ、でも本当におかしな騒ぎだったなぁあの時は。

 

 最初こそ私達ハンスさんに申し訳なさも覚えていたのに……特にキャシーなんか結構思うところがあったみたいなのに、まさか新しくやってきた科学者だって言う女性と恋仲になるなんて。

 しかもキャシーにも私にも似つかない性格で……だけど唯一胸の大きさだけはキャシー以上だったせいで……いや多分そこじゃなくて内面に惹かれたんだと思うけれど、とにかくその時は特にキャシーが気にして損した!!とか結局胸なのか!?とか大騒ぎして大変だった。

 まあそれはあの人がいなくなった後でモーリツさんが作ったビール樽から精製したお酒のせいも重々あるのだろうけれど……。

 

 だけどお酒という発想がこれまで全くなかった時点で改めてあの人の若さと、そういうことを考える余裕もなく全力でこのARKの攻略に力を振り絞っていたのだと意識させられてしまった。

 残ってくれたオウ・ホウさんなんかは私達や新しく来た戦闘経験のなさそうな人たちを見守りつつ戦闘技術を教えながら、もし身体が戻ったらあの人とお酒を飲みかわしたいとよく呟いている。

 私も……ううん、私達みんなも同じ気持ちだ……もう一度あの人に会って話したいこと伝えたい事、逆に聞きたいこともいっぱいある。

 

 特に私とキャシーがその……やっぱりだいぶお酒の力も借りたりしたけれども、あの人に心配をかけていた関係にも一応前向きな、というか良い感じな関係になったこともお礼と謝罪交じりに伝えてあげたい。

 だから結局待ち切れず日記を開いてしまったけれど、私達はいつまでもここで待ち続けるつもりだ。

 或いは私達が居なくなってもこのARK全体が安定して平和な環境になると確信できた時には、もう動物も殆ど捕まえただろうしあの人を追いかけて行ってもいいかもしれない。

 

 その時にすれ違いになってもいいように私もこうして日記を残すために筆を執ることにしたのだから。

 どれだけ時間が経ってもいいから無事にまた再開したい……出来ればフローラさんと一緒に……その時まで私達はあの人が築き上げた物を守りながら頑張り続けるつもりだ。

 だから名残惜しいけれどあの人の日記はこの辺りで閉じるとしよう……そして今度こそあの人と再会した時にみんなで読み返そう……その時まで取りあえず、さようなら。




今回名前が出た……???

〇〇〇〇〇〇〇(砂に潜る動物?)
〇〇〇〇〇〇(謎の儀式めいた出来事と共に襲い掛かってくる変な生き物?)
〇〇〇〇〇〇〇(移動飛行拠点とでも言うべき生物?)

次回で長かったスコーチドアース編も終了です……本当に長くなったなぁ。
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