ARK とある青年の日誌   作:車馬超

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第96話

二百七十八頁目

 

 毛皮を集めるだけ集めた俺は、一旦仲間を増やすのを止めて拠点に戻ることにした。

 すると物音を聞きつけたらしいフローラが二階の孵化部屋から顔を出し、慌てた様子で俺を手招いてくる。

 何かあったのかと荷物を下ろすのもそこそこに、慌てて彼女の元へ行くと泣きそうな顔で縋りついてきた。

 

 そのまま驚く俺を涙目で部屋の中へと引っ張り込みながら、しきりに卵の様子がおかしいと訴えてくる彼女。

 実際にタヴィちゃんが身体の下で温めている卵に触れてみると、確かに前より温もりが弱っているような気がする。

 このままじゃ孵化しないかもとフローラは不安そうに俺を見つめてくるけれど、俺としてもどうしていいかなどわからない。

 

 しかし何もしないわけにもいかない……とにかく原因を考えてみないと……。

 

二百七十九頁目

 

 必死に卵を温めているタヴィちゃんに、フローラはせめて栄養をと生肉を与えているがそれで卵がどうにかなるわけではない。

 段々と冷たくなっていく卵をまるで我が子のように思っているのか、フローラは物凄く痛ましげに見つめている。

 もうどうしようもないのかもしれない……だけど放っておくわけにも行かず傍から離れることも出来ない。

 

 そのうちに日が暮れてきて光源のない室内は暗くなってしまい、俺は卵から離れないフローラに代わり篝火を作ると火を焚いて室内を明るく照らすことにした。

 まさかそれが功を奏すとは思わなかった……急に卵に触れていたフローラが感情極まったような声を上げたのだ。

 曰く生き物のような鼓動が返ってきたと……そして温もりも徐々に戻って来ていると……。

 

 そこで今更ながらに思い出したがここは山の頂上に近いところに立っている拠点だ……気温もそれなり低いほうだ。

 俺たちは布の服や皮の服である程度温度調整できているから気にならなかったが、卵にとっては寒すぎたのだろう。

 慌てて焚火や篝火を増やしていき……今度は熱すぎると文句を言われて火を消して……どうにかちょうど良さそうな室内温度へ調整するのだった。

 

二百八十頁目

 

 夜も更けてきて、そろそろ寝たほうがいい時間になったがフローラは卵から離れようとしなかった。

 万が一寝ているときにまた卵に何か異常が起こったら大変だと言う……どうやらよほど入れ込んでいるようだ。

 やはり女の子だからなのだろうか……ここまでの母性を働かせている彼女を無理に動かす気にはなれなかった。

 

 だからせめてこの場所にもベッドを二つ作り、彼女に毛布を掛けてあげながらもう一つの方へ俺は横になった。

 何かあればすぐに起こしてくれと言って目を閉じた俺に、フローラはありがとうと嬉しそうにお礼を言ってくれる。

 それ以上何も言わず、俺は眠るまでの間ずっと無言で……時々薄目を開けてフローラを眺め続けるのだった。

 

 ……眠る直前、俺の意識があいまいになり夢かどうかも分からない状態の中でフローラが意味深に俺を見つめたような気がした。

 そして炎に照らされて赤く染まった顔を向けながら私もいずれ……などとぼそりと呟いた気がしたけれど、それが何を意味しているのか……そもそも本当にあったことなのかすらわからないまま夢に落ちて行った。




【今回名前が出た動物】

アルゲンタビス(タヴィちゃん)
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