「全ては世界の終わり——“アンノーン”」
魔力発動の条件はそろった。
後は鍵を開くだけ。
「おいおい、マジかよ。アンリ様の攻撃よりもヤバいかもしれねえ」
「噂はマジだったてっか」
「アレがこっちにこないよな?」
誰もが魔力の余波を感じ取る。
それはアンリとバルディアも同じだ。
「魔力がいくつも混ざっている。あれは複合魔術ね。だけど、それだけじゃあない気がする」
「我の知っている魔法とは少し違うな。勇者の魔法とは違う。アレがこの国の術式か」
二人が見つめる先、膨大な魔素が広場を覆いつくす。
レミリアの表情は変わることなく平然としていた。
「はぁ。また面倒ごとになりそうだ。矢面に立つのは私になるのだろうな」
つい最近、レイフォードはレミリアの真の強さを眼の当たりにした。
そして、それが底では無かったのだと思い知らされる。
魔女兼聖女であるフィアナ嬢の姉としか、民には思われていない。
むしろ、妹の方が優秀だと噂になるほどだ。
だが——
「君の後を追うのは大変だな……。いつか。到達するのだろうな」
『————“ラプラス”』
超巨大な魔法陣が光り、とある魔法が顕現する。
“アンノーン・ラプラス“。
扉はチリと化し、地面は焼け落ちる。
迷宮でなければ、二度と人が住まう土地に戻れない程の、大規模の攻撃術。
それが、堅牢な迷宮の大扉を打ち破る。
「——こんなものね」
誰もが声を発せない。
迷宮の主に匹敵するような、強さ。
魔法を極めし、大賢者の再来だと誰もが思う。
だが、レミリアは——
(まぁ、もっとすごい魔法はあるのだけど。この程度の迷宮なら、これで十分ね)
一人、呟く。
運がいいのかそれは誰の耳に入ることもなく、歓声によって掻き消された。
◇
迷宮の最深部。
そこには、赤く光る水晶が埋め込まれていた。
「これが、この迷宮のコアです。これを取ると、迷宮の力が消え去り、モンスターが生まれなくなります」
「そうなのね。見た感じ、魔素の塊って所かしら」
「あの、この所有権なのですが……」
「ああ、そうね。使い道として、私は要らないのだけど。レイフォード様は必要ですか?」
「うん? そうだな。研究材料としては欲しいが。だが、今の王国にとっては不要でもある。レミリア。君の判断に任せるよ」
重大な役目を押し付けられる。
ゲーム内では登場していない水晶。これを研究すれば、新たな魔法が作れるかもしれない。
それこそ、三大迷宮を通るヒントになるかも。
だけど、今は研究設備はなく、有効活用できる気がしない。
だから——
「アンリ、これは貴方に託すわ」
「いいのですか? これは貴重なものですよ?」
「ええ。でもその代わり、一つお願いを聞いてほしいの。今後、三大迷宮に関する情報が入ったら私に教えて欲しいの。些細な情報でも構わないわ」
「そ、そんなことでよろしいのですか? 私が言うのもあれですが、対価として釣り合わないですよ?」
「ええ。今の私にとっては、重要なことよ。だから、お願いできるかしら?」
「はい! 勿論です。でも、他にも何か困ったことがあれば、何でも言ってくださいね」
「その時はお願いするわ」
コアを抜き取り、アンリに手渡す。
「ありがとうございます——っ!」
だが、アンリの手に触れる寸前。
何かが私の手から水晶を掠める。
「誰かいるわっ! 敵よ!」
私の声に、周囲に緊張感が戻る。
誰もが周囲を警戒し、敵を探す。
だが、どこにも見当たらない。
「そんな、あれは……」
「アンリ、どうしたの?」
「あの影を見てください。あそこに敵がいます」
アンリが指差す方向。
そこには、暗闇が広がり、大きな影が出来ている。
それだけなら、問題はない。
だが——
「——影が動いている? “フレア”」
不気味な影に向けて、炎魔法を放つ。
だが、魔法は爆散することなく影に飲み込まれて、消えた。
「なにアレ……?」
ゲーム内で登場していた記憶は無い。
ならば、文献とかならあったかもしれない。
思い出せ。思い出すのよ、悪恋辞典!
私が一番あのゲームを熟知していた。ならば、何か知っているはず。
「くそっ、斬撃が通らん。実体がない!」
バルディアの声が聞こえる。
実体のない敵。
「それって、もしかして……」
「レミリア、何か知っているのか?」
「はい、レイフォード様。あれは“黒の化身”です」
黒の化身。
ゲーム内では、死精霊騎士と呼ばれていた怪物だ。
「黒の化身? それはもしや?」
「ええ。あれは、人ではありません。精霊の成れの果て。三大精霊王の一つ、それが色を失い変貌した姿ですわ」
三大精霊王。
精霊たちの王たる素質を持ち、自我を持つ精霊。
その内の一つ、“灰色の精霊”。
それが変貌したのが、死精霊騎士だったはず。
ゲーム内では、不死身な化物として登場していた。
正体が明らかになるのは終盤だが——
アレ?
もしかして、ここで正体を言うことってアウト……?
「レミリア! 油断するなっ!」
「炎の杖。かの者を守護せよ」
死精霊騎士が私に襲い掛かるも、アンリの炎の結界に阻まれ、弾き飛ばされる。
「くらいなさい! “フレア”」
瞬時に、攻撃魔法を放つ。
先ほどとは異なり、影から出た影響か攻撃が通る。
「アンリ、バルディア。あいつには物理は効かない。けれど、魔法なら!」
「承知。破神剣!」
バルディアが2mは超える黒の大剣を取り出す。
そして、死精霊騎士へと切りかかり、剣戟が響く。
「アレは魔剣?」
「はい。とある鍛冶師が作り出した魔剣。名をアスカロンですわ」
「はああああああああ!」
バルディアと死精霊騎士が向かい合い、バルディアの一撃が切り伏せる。
「やったか?」
「いえ、まだです。あいつは回復します」
私の言葉通り、死精霊騎士の損傷した身体が元に戻る。
やっぱり、尋常ではない回復力だ。
やはり、攻略法はゲーム通りのようだ。
開発陣がおふざけで造り出した怪物に唯一、通じる攻撃。
——死精霊を精霊へと戻すしかない。
今後ともよろしくお願いいたします。
可能な限り、毎日更新頑張ります。