死精霊騎士。
それは、ゲーム内では未知の敵として登場した。
姿は鎧を連ねた騎士に見え、人としか思えない。
だが、尋常ではない移動速度、防御力を誇り、大剣を一振りするだけで、暴風が吹き荒れる。
殺し屋とは違うベクトルのヤバさを持つ怪物だ。
序盤にして、そんなヤバい奴らと二回も会うとは。
私は呪われているみたいだ。
「レミリア、それで何をすればいい」
だが、私はゲーム終盤までの知識がある。
死精霊騎士の正体が元精霊であり、もとに戻す手段があることも。
「レイフォード様。全ては貴方のお力に掛かっています」
そう、これは王族であるレイフォード様にしか任せられない。
全ての発端である、精霊としての死。
その原因は、かつて繁栄した旧帝国の物語に記されていた。
精霊を裏切り、魔素を奪おうとし失敗した旧帝国。
その呪いとして、国内の魔石が全て、灰色へと移り変わる大事件。
“灰色の粛清”
それを知らないと、正体すら予想できないだろう。
私も途中までは、殺し屋の仲間だと思っていた。事実、殺し屋が出現すると必ずセットで現れる。
疑うなと言う方が難しい話だろう。
だが、実態は異なる——
「レイフォード様。あれは精霊です。だから、契約ができます」
そう、精霊と人は契約を結べる。
魔素は変質しているが、その本質は同じ。
人を愛し、精霊を導く王。
大精霊ムー。
三大精霊の一つ。
「アレと契約だと? いくら何でも難しいだろう。君とは違い、私は魔力を持たない」
「そうですわね。でも、レイフォード様ならできますわ」
「無理難題を言うな。だが、信じよう」
「ほんとですか?」
てっきり、もっと疑うかと思ったが、すんなり受け入れてくれた。
普段、疑念の眼を向ける彼らしくない。
ゲーム内でも、初期のレイフォード様はツンツンで、主人公の言うことは何一つ聞いてくれないのに。
「早くしろ。猶予が無いだろ?」
「は、はい。レイフォード様には、魔力がありません。ですが、魔力無しでも契約はできますわ」
「魔力無しで契約だと……?」
「ええ。魔力の有りなしは、魔力回路という循環路の効率が良いか悪いかを示します。レイフォード様の場合、魔力回路の効率が鈍い……人並……普通なだけですわ」
「ぐう」
「ええと、それは事実ですから、怒らないで聞いてくださいね?」
「……ああ、分かっている」
絶対に分かっていない眼だ。
だけど、状況が緊迫しているからか、文句を飲み込んでくれる。
「精霊との契約。それに、魔力回路は関係ありません。あるのは、魔力庫と呼ばれる、魔力を体内に蓄えるものです」
「魔力庫……?」
「いうなれば、精霊を収める箱のようなものですね。魔力庫が大きいほど、高位精霊を入れることができます。反対に、小さければ微精霊としか契約できません」
「なるほど……。なら、レミリア。君は、精霊と契約しているのか? 君ほどの魔法の使い手であれば、高位精霊と契約していても何らおかしくはない」
痛いところを突かれます。
確かに、私の魔法力はゲーム知識が合わさり、最強に近いものです。
ですが、精霊とは契約していません。
それは、妹のフィアナもそうです。
はぁ……言いづらいなあ
けど、言わないと進めないし……
「……私は契約していません」
「それなら、どうして魔法を使える? 精霊と契約なしで、あんな凄い魔法を使えるものなのか?」
「——私、精霊に好かれる体質みたいで」
「は……?」
「契約しなくても精霊たちが力を貸してくれるのです——正確には、微精霊といって、自我が幼い子ですけど」
そう、私とフィアナ。その他にも、魔法を扱える大多数は精霊に愛されている。
魔力回路が優れていることに加え、精霊好みの魔素を持っているかによって左右される。
ゲーム終盤、精霊が好む魔素はかつて、武勲を立てた英雄たちの子孫に強く惹かれるといった裏話が出たときは納得したものだ。
ヴァーシュピア家は武勲を立て、成りあがった経緯があるからなおさらだ。
「なるほど。俄かには信じがたいが。君が嘘をつくとは思えない。よもや、こんな状況で、な」
「流石の私も、アンリとバルディアが時間稼ぎをしてくれる時に嘘はつきませんわ。レイフォード様に嘘をついたことがありましたか?」
「ふっ……それで私はどうすればいい」
少し笑われた気がする。
まあ、気のせいでしょうけど。
あの腹黒レイフォード様が花の咲くような笑顔で私を見るはずもありませんし。
きっと、勘違いです。
「方法は簡単です。精霊に認めさせるのです」
「認めさせる、か。そこまで言うのだ。具体的な方法は決まっているのだろうな?」
「拳で語りかけるのです、古今東西、古から拳で語り掛ければ通じま……う、嘘です。だから、そんな怖い顔で睨まないでください」
ああ、怖かった。
真面目な場面で茶化そうとした私も悪いが、いきなり人を殺しそうな視線を向けられるとは思っていなかった。
これが暗黒面Verレイフォード様か。
怒らせない様にしないと……
「で、本当はどうすればいい?」
「精霊のコアを掴み、語り掛けるだけです。拳ではなく、言葉で。誠心誠意、心を込めて話してください」
「精霊のコアとはなんだ?」
「精霊って、魔素で覆われたコアみたいなものがあるんです。それを手のひらで包んで、話せば伝わります」
「……この状況で、か?」
「それは、二人を信じてくださいよ」
まあ、なるようになるだろう。
あの二人は、迷宮攻略者だ。
私とは違い、本物だ。だからこそ、少しの猶予は生まれるだろう。
「まぁ、私も戦いますけど。“フレア”」
炎球を無数に生み出し、死精霊騎士へと向ける。
アンリの魔法、バルディアの斬撃を掻い潜り、逃げ惑う敵を吹き飛ばしては、魔素を消耗させていく。
(なんだか、君の方が物騒だ)
レイフォード様が何か言いたげですが、今は無視です。
少しばかり、本気を出しても問題ない敵です。
だからこそ、今は全力で対峙しましょう。
次回、決着です。
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