「――掴まえた」
魔鎖が死精霊騎士のコアへと接続された。
その瞬間、夥しい量の情報が脳を埋め尽くす。
それは、ゲーム内でたった一枚絵に過ぎない、大精霊ムーの記憶。
友と信じ、契約を結んだ幻王アース。
だが、国の繁栄を優先し、魔石に大精霊をバラバラに切り刻み、閉じ込めようとした悪意。
その結果、大精霊は契約を断ち切り。
国全ての輝く魔石を全て、二度と魔素を宿さない石屑へと変貌させた。
「これが貴方の記憶……」
醜悪な人の心を知り、全てを復讐へと向けた。
故に旧帝国は力を失い、今では小国へとなり果てた。
これは――ゲームでは描かれていない物語。
誰の目にも記録にも残らず。
大精霊だけが持ち続けた後悔。
「だけど――彼なら。レイフォード様なら大丈夫」
だって、彼は主役なのだから。
魔法を扱えない無能と蔑まれ、血筋しか認められていなかった少年。
だが――ここを境に変質する。
「――これでもくらいなさい!」
魔鎖を強く引き、地面へと思い切り叩きつける。
腕力だけではなく、魔鎖の伸縮力を遺憾なく発揮した衝撃力は死精霊騎士を頭から地面へと叩きつけられる。
流石の死精霊騎士と言え、今の一撃は相当応えたようだ。
手にしていた、黒剣を落とす。
「――レイフォード様、今ですわ!」
「ああ。後は任せておけ」
レイフォード様の手が死精霊へと伸びる。
そして、両肩を掴む。
「僕はレイフォード。君と話がしたい。君の目的は復讐か。それとも――期待か」
唐突な問いかけに誰もが息をのむ。
私が予想していたのは、王子としての地位を使った交渉術だと考えていた。
だが、レイフォード様は違うことを告げる。
「復讐なんて意味がないとは思わない。だが、君の復讐をするべき相手は誰だ?」
「アア」
「残念ながら、君が憎み、心の底から亡ぼしたい国は存在しない」
「……」
レイフォード様の言葉に、死精霊の動きが止まる。
そして、首を傾げ、顔を向ける。
黒く染まった影で、表情はうかがえない。
「君がすべきこと。それは何だと思う。それが、分からないからこそ、暴れているのなら、一刻も早く、辞めるべきだ。君の戦いは数百年前に終わっている。君の復讐は既に達成されている。なんせ、帝国の人間は、魔法を使えないのだから」
帝国。
それは、私たちが住まう国の隣に位置する。
迷宮を通らずとも、飛竜に乗れば、数日で行けることもあり、僅かにだが交流はある。
そして、その国にとって私たちの国は必要不可欠な存在だ。
「レイフォード様の言う通り。帝国は未だ魔法を使えないわ。――貴方が残した魔石の成れの果て、黒魔石は国中の魔素を吸い続けている。貴方が望んだとおりにね」
魔法の無い国。
その原因たる黒魔石。
いかなる魔法も分解し、魔素として吸収する。
鋼鉄の武具ですら、傷一つ付けられず。
鉄よりも重い重量により、移動することさえ叶わない。
まさに――大精霊の残した呪い。
「ガガガああ」
「全く恐ろしいわ。貴方は大国を崩壊させたのよ。魔法大国だった旧帝国も今じゃあ、機械化を推し進めるしか、生き残れない敗戦国よ」
「そうだな。まあ、我が魔法騎士団ですら、あの石の前では無力であるが。……この国に限れば、それも問題は無くなる。いくら、相手が機械兵器を持って来ようとも、優秀な魔法使いが大勢いる我が国の敵ではない。」
「ギイギギ――イミトハ」
初めて、死精霊が言葉を発する。
意味。たぶん、契約を結ぶ意義が理解できないのだろう。
かつて、契約者に裏切られたムーにとっては余計に。
「メリットか。そうだな。貴方が亡ぼした旧帝国。その歴史書をお見せできるな。それに、今の帝国がどうなったかその行方も分かるだろう」
「イマ」
「ああ。君が憎んだ旧帝国。だが、指導者は何代も変わっている。今もなお、憎み続ける対象であるか、貴方には確認する義務がある。亡ぼしたのであれば、その後の責任を負うべきだろう」
「セキニン」
「僕と契約すれば、帝国に調査団として、訪れることができる。それで、問題があれば、外交担当として、僕が矢面に立つことも約束しよう」
「ドウシテ、ソコマデスル」
レイフォード様がこちらをちらっと見る。
なんか、いやな予感が……
「――彼女に頼まれたからな。僕をそこまで信じてくれたんだ。その期待に報いるのは当然だろう」
何だかとんでもないことを口走ったよ、あの王子。
まるで、この全ての出来事が私のせいにあるみたいではないか。
口を動かし、何とか撤回するように身振り手振りで伝える。
すると、少しばかり首を傾げたが、小さく頷いてくれる。
「これは、全て。レミリアが言ったことだからな。貴方と契約することは私にとってメリットがあるのだろうさ」
――ああ、何も伝わっていなかった。
むしろ、私が首謀者だと断言されてしまった。
まあ、この計画全て、私が招いたことだけど。
「――レイフォード様、私が言いたかったのは——」
何とか、言い訳しないと。
このままでは、レイフォード様の親愛度が上がってしまう。
それだけは避けないと、魔界に行けなくなる。
だが、瞼がとてつもなく重たい。
まるで、寝不足で数週間過ごした時のような感覚だ。
――ああ、私。魔素使い切ったのでした
そこで、私の意識は途絶えた。
とてつもない誤解と共に。