突然だが、私の兄。レイフォードはここ最近、恋をしている。
その相手は、私が良く知る人だ。
だけど、私がお膳立てしても、望んだ光景は見られない。
むしろ、何故かお兄様の評価が下がっているような気すらある。
「お兄様。今日こそは、歩み寄ってくださいね」
「なんの話だ?」
場所は王宮のお兄様のお部屋。
家庭教師の教えを聞き流すお兄様を見つけ、声をかけたのが先ほど。
家庭教師の人曰く、今日は朝からこんな感じで身が入らないのだとか。
だから、妹の私に半ば無理やり託されました。
——お悩み相談をして、いつものお兄様に戻してほしいと。
まぁ、私から見れば、隠せているかどうかという違いだけで、いつも通りのお兄様だけど。
「……ねえ、本当は分かっているよね?」
私の問いかけに、首を振る。
流石は、私に毎日呪詛を掛けられるだけはある。
天然もここまでくれば、厄介なのですね。
「リア姉さまとは、最近どうですか? 私、先ほどお会いして、本のお話をしてきました。何でも、星屑魔術について、勉強中のようです」
「星屑魔術? 聞いたことがない。カノンは知っているのか?」
「聞いたけど、理解できなかったよ。でも、三大迷宮を通るのに必要とは言っていたよ」
「三大迷宮か……まだ、諦めていないのか」
「何を諦めるの? お兄様の恋路?」
「違う。まあ関係はしているが」
どうにも歯切れが悪い。
ここ最近、迷宮について話すと、毎回顔を歪める。
そんなに迷宮が嫌いのなのかな。
「そうなのですね」
「そうだ」
これ以上、聞き出すのは無理っぽい。
それなら、次は親友に聞いてみることにしよう。
◇
塔の最上階。
そこに私の親友、フィアナは居た。
窓には鉄格子が嵌められ、常に複数の騎士が護衛という名の監視についている。
少し前は、リア姉さまが居た場所だ。
だけど、魔女と聖女、両方なってしまった為に、変わる様にフィアナが閉じ込められている。
本人は魔法の研究ができるから不満は無いと言っているけど。
……お兄様と違い、心の底ではどう思っているのか読み取れない。
まぁ、聞けば教えてくれるけど。
「カノン、久しぶりね」
「うん。久しぶり。それって、新しい魔法書?」
「ええ。姉さまが持ってきてくれた。何でも、姉さまが途中まで開発した魔法陣らしいけど。未だに、何の効果があるかは分からないわ。姉さまに聞いても、はぐらかされてしまいますし」
「そうなの? そんなに難しいの?」
試しに、魔法書を捲り読んでみる。
見たこともない、魔法陣が中央に描かれ、文字がびっしりと書き込まれている。
それは、数十頁に渡り、続いている。
——そっと、本を閉じる。
「うん、分からない。でも、リア姉さまが天才なのはわかった」
「ええ。それは間違いないわ。それで、今日はどんな相談?」
「ええと、いつもの。友達の話なの」
「ええ。友達ね」
少しばかり含みを持たせた言い方。
そんなにフィアナ以外の友達が居ることに驚かれてしまったのだろうか。
実際には、フィアナ以外には親友はいないけれど。
「そう、友達の話。その子、最近好きな子ができたの」
「ああ。確かに……そうなのですね」
「? 何で分かるの?」
「前にちらっと言っていましたよ?」
「そうだっけ?」
記憶にはない。
けれど、頭脳明晰なフィアナが言うならばそうなのだろう。
「そうだったかも。それでね、最近色々とアプローチのお手伝いをしていたの」
「常日頃のお礼を準備して、渡したけど、遠慮して受け取って貰えず。さらに、指輪が間違えて入っていたと思われて、返された話ですね?」
「? そこまで話したかな?」
「風の噂に聞きました。何でも、いきなり指輪を渡されて、婚約者でもないのに困った、どうしようって、言っているのを風の噂で聞きました」
「そう、それ。何をどうやっても、おにい、友達の思いが伝わらないの」
もはや、隠そうとしていない姿にフィアナは笑いそうになる。
「それでね、どうすればいいかな?」
「アドバイスが欲しいのですか?」
「うん。私が何を言っても、うまくいかないから。フィアナなら、妙案があるかなって」
「そうね……今は待つべき、かな」
フィアナの答えは私が思い浮かべていたものとは違った。
押してダメなら、もっと押せ。
これは王族の家訓でもあり、私にとっての格言だ。
だけど、反対のことを言う。
「待つ?」
「ええ。今はまだ気持ちの整理が出来ていないのかも。だから、もう少し時間をおいてから、親睦を深めてから、もう一度気持ちを伝えてはどうでしょう?」
「そうかな。そうかも……ありがとう。次はそう伝えてみる」
持つべきものは優秀な友達だ。
私の悩みを瞬く間に解決してくれた。
でも、どれくらい待てばいいのかな。
数日、数週間?
「一番大事なのは、当人の気持ちだと、私は思いますよ。人によって、関係構築にかかるスピードは違います。一日で絆を結ぶ場合もあれば、数年掛かる場合もあります。それが、恋心ではないでしょうか?」
「なるほどです」
私の疑問も直ぐに晴れた。
ここ最近、お兄様とリア姉さまの関係が縮まらず、モヤモヤしていたけど、もう少し待ってみよう。それでもだめなら、呪詛の回数を増やそう。
大好きな二人が結ばれれば、私も幸せな気持ちになれると思う。
いつか、二人仲良く歩く姿を後ろから見るのが、私の夢だから。