累積経験値10万を超えた私の乙女ゲー攻略日記   作:楠ノ桶

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18話 雷霆迫撃ってね

大精霊との決戦は王族専用の闘技場で行うこととなった。

 

せっかく、王城に来たのにカノンとお茶会を開くこともなく残念だ。

 

 

 

「――それで、どのような作戦で戦うのですか? やはり、炎系統の魔法で攻めるのですか?」

 

「そうね。最初はそれで様子見をするつもりよ。基本的に、防御魔法は使えないし、ひたすら攻撃を続ける展開に持っていこうかしら」

 

 

 

無限に近い魔法の中でも、私が得意とするのは炎系統だ。

 

闘技場であれば、少しばかりはめを外して、広範囲魔法で暴れるのも手かな。

 

だけど、大精霊がボロボロにしては、他貴族から厄介なことを言われる可能性もあるし、手加減も必要かな。

 

 

 

「――姉さま。どうか、油断だけはしないでくださいね。姉さまはお優しいので、情けを掛けてしまうかもしれません」

 

「ええ勿論、徹底的に潰すよ? それに、もしも私の力が通じない場合には、直ぐにリタイアするつもりよ。負け戦なんて意味のないことをして、消耗する意味もないしね」

 

「それならいいですが。……姉さま、頑張ってください」

 

「ええ、ありがとね。フィアナの期待を裏切らないよう、全力で勝ちに行くわ!」

 

 

 

闘技場に着いた私とフィアナ。

 

少し遅れて、レイフォード様と大精霊も現れる。

 

大精霊の姿は、以前見た死精霊騎士とはうって変わり、白い。

 

 

 

全身が黒く、表情すら読み取れなかった顔ははっきりと見える。

 

どこか、レイフォード様を幼くした姿に、戸惑ってしまう。

 

 

 

「あの、レイフォード様。そちらが、大精霊様でお間違いないでしょうか?」

 

「ああ。私と契約した大精霊であっている。……以前の姿とは違い過ぎて、驚くのも無理は無いが、正真正銘、大精霊ムー様さ」

 

「それならいいですけど。その姿は……」

 

「ああ、私の魔素に毒されてしまったとのことだ。何でも、王族の魔素は少しばかり違うようでな」

 

「そうなのですね。――大精霊様、本日はよろしくお願いいたします」

 

 

 

そこで、初めて大精霊の目が私へと向く。

 

少し、いやかなり好戦的な視線を向けてくる。

 

私、そんなに恨まれるようなことをしたかしら?

 

 

 

『あの時の小娘か。……その身体にとくと味わってもらうぞ』

 

「ええと? なんの話ですか?」

 

『しらばっくれる。我を蹂躙したことを忘れると思うか』

 

「あの、話が見えないのですが。貴方に攻撃をしたのは、バルディアだったはずで……」

 

「レミリア。大精霊様が言っているのは、私が契約する直前のことだ。君が使った魔法の効果を思い出せば分かる」

 

「あの時ですか。少しばかり、曖昧なのですが。ええと、魔鎖を大精霊様に繋げて、その後は……地面に叩きつけ――」

 

 

 

大精霊様の動きを止めるべく、魔鎖を伸縮し脳天から地面へと叩きつけたのだった。

 

バルディアの攻撃は全然通用していなかったのに、あの攻撃だけは呆然としていたような。

 

 

 

『我を地へ這いつくばさせたこと、忘れたとは言わせん』

 

「なるほど。ですが、あの時の私の判断は間違っていたとは思いません。あの時の、貴方は冷静さを欠いていました。現に、あれが無ければ暴走したままでしょう?」

 

 

 

少しばかり、思い当たるのか追撃はしてこない。

 

だけど、私を見る眼がより一層、強くなった。

 

そして、突風が強まり、弱まる。

 

 

 

『小癪な……生まれたての若輩が……』

 

 

 

私ではない存在へと毒を吐く。

 

おそらく、微精霊や精霊が私に襲い掛かる魔法を撃ち消したのでしょうね。

 

大精霊と言え、数千を超える精霊を相手にするのは難しいはずです。

 

それに、この場に占める魔素の量は限られている。

 

 

 

なんせ、レイフォード様が来る前に辺り一面の魔素を食事するよう、精霊たちにお願いをしている。だから、大精霊は体内とレイフォード様の魔素で魔法を賄うしかない。

 

この勝負、始まる前から私の優勢だ。

 

 

 

「では、始めようか。だが、レミリア、大精霊様。相手を吹き飛ばす程度に収めてほしい。流石の私でも、生存をかけた模擬戦は承認できないからね」

 

 

 

それなら、この勝負自体を止めて欲しいものです。

 

だけど、これまで魔法を使えなかった殿下が、初めて魔法を使う瞬間を楽しみにしているのが、表情から声から分かってしまう。

 

それを止めるのは、私たちには無理な話だ。

 

だからこそ、全力全霊で、攻撃をするしかないのだ。

 

 

 

「ええ。準備は出来ていますわ――フィアナ、レイフォード様に防御魔法をお願い」

 

「分かりました」

 

 

 

レイフォード様とフィアナを包み込みように防御魔法が発動する。

 

その硬さは私の全力をもってしても、骨が折れる程の強度だ。

 

あれならば、問題はないだろう。

 

 

 

「では……行きますわ」

 

『掛かってこい、少女』

 

 

 

 

 

大精霊との距離は数十メートル。

 

中距離魔法で先制ね。

 

 

 

「“サンダーボルト”」

 

 

 

空中に魔法陣を描き、魔素を流す。

 

次の瞬間、魔法陣が揺らぎ、真直ぐ雷が降り注ぐ。

 

そして、大精霊の身体に当たる瞬間、消え失せる。

 

 

 

「な……ッ⁉」

 

『この程度、避ける必要も無い』

 

「それなら――“フレア”」

 

 

 

炎の塊が地面を溶解する勢いで突っ込む。

 

だが――

 

 

 

『無駄だと分からないか』

 

「なんで……ッ」

 

 

 

私の魔法は発動した。それに、魔法障壁に当たった感覚もない。

 

それなのに、大精霊は無傷のままだ。

 

 

 

「なにか絡繰りが……」

 

 

 

何か魔法を使っている?

 

それで打ち消したと考えるのが自然だ。

 

だけど、そんな素振りは無く。未だ、魔法を使っている様子もない。

 

であれば、スキル?

 

 

 

『一つ言っておく。我に魔法は通じない。これは――私の呪い』

 

「呪い……? それって、もしかして旧帝国の――」

 

『ようやく気付いたか。愚か者……誰があの現状にしたと思う』

 

 

 

ようやく気付いてしまった。

 

だけど、それは異常だ。

 

――魔法を使えなくすることができるなんて

 

 

 

『では、我も動くとするか』

 

 

 

次の瞬間、空を無数の光が埋め尽くす。

 

それは、先ほど私が放った魔法に酷似している。

 

 

 

「それは、私の……」

 

『気づいたか。だが、遅い。“サンダーレイン”』

 

 

 

空から無数に雷霆が轟く。

 

轟音と共に、地面は抉れ、砂煙が吹き飛ぶ。

 

 

 

「“フレイム・ウォール”」

 

 

 

雷霆を炎の障壁で相殺する。

 

だが、衝撃は止められず、私の身体が後ろへと吹き飛ぶ。

 

 

 

「……ッ!」

 

 

 

声にならない苦痛を背中で受け、肺の空気が吐き出される。

 

頭がチカチカと痛み、視界は涙でぼやける。

 

 

 

『ははははぁぁぁああああああああ』

 

 

 

嘲笑を浮かべ、全身で嗤う大精霊。

 

その眼は復讐心が見え、未だなお途切れない。

 

 

 

『この程度で終わりだと思うなよ』

 

「レミリア……ッ! 大精霊様、約束が違う!」

 

『殺してはいない。それに、小娘もまだだ』

 

「っ……ッ。え、ええ。勿論ですわ。このまま勝利を譲るつもり訳がないでしょう」

 

 

 

私には、ゲームで培った無数の魔法がある。

 

例え、この身体が回復魔法を使えなくても、それで諦める程、物分かりもよくない。

 

それに、この場で大精霊を抑え込めなければ……いつか災厄となって降り注ぐ。

 

 

 

「――まだ、これからですわ」

 

 

 

フィアナが今にも駆けだしそうな程、心配そうな表情を浮かべている。

 

レイフォード様も、予定とは違う結末に叫ぶ。

 

 

 

「私の本気、見せてあげますわ。もう一度、地面に這いつくばさせて見せますわ」

 

「レミリア。何を……?」

 

「空から響く、鐘の音――“レコード”」

 

 

 

これで、ダメならもういい。

 

全てをこの魔法に託す。

 

 

 

「――――“サウンド・ベール”」

 

 


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