精霊の力を全て引き出す。
それは精霊の好感度が低い場合、反逆により全ての魔素を奪われかねない。
最悪の場合、身体自体を乗っ取られることもありえる。
「レミリアさん……!」
全ての精霊の力を一身に引き受ける負荷は高く。視界がモノクロに映り、指先が痙攣する。
それは、全身へと広がり、震えが止まらなくなる。
精霊からは困惑を感じ取れる。
どうして、このような行為をしたか理解できていないようだ。
「……こ、このくらい、問題ないわ。だから、そんなに不安な表情を見せないで」
「で、ですが……」
「大丈夫よ。少しばかり疲れただけ。……それよりもシルフィア。遠くに旅に出る準備は良いかしら?」
「たび?」
「ええ。さしずめ、地下ツアーって所かしら」
精霊もシルフィアも困惑する。
だけど、今は時間がない。それに説明しても理解してもらえるとは思えません。
だからこそ、こうしたのだ。
「“エレメント・バースト”」
無理やり奪った魔素を全て別の魔法へと置き換える。
それは、遥か遠くまで繋がるロード。
地上と地下を繋ぐ道。
シルフィアの手を掴む。
そして視界が暗転する。
「え、えええええええええええ!」
「喋らない! 舌を噛むわ……ッ!」
少しの浮遊感と共に、遥か地下へと落ちる。
全ての道を魔法で無理やり削り、数100m下まで繋げた。
普通であれば、不可能。だけど、私たちの周りに集った精霊、微精霊の力を全て引き出したことで可能だ。
「こ、これは……どこまで!」
シルフィアが叫ぶ。
いきなり落ちた事象を受け入れられずにいるようだ。
だけど、今は余裕がない。
落ちるスピートは上昇していく。
それを、魔素で障壁のようなものを張り巡らし、熱量といった危害を加える要因のみを排除していく。
だからこそ、突風も摩擦力も何も感じていない。けれど、少しでも気を緩めれば、瞬く間に大怪我に繋がるだろう。
距離にして、数100m。時間にして、10秒ちょっと。
暗く狭い先、そこを通り抜けると、広場へと降り立つ。勿論、全ての衝撃を緩和したことでダメージは一つもない。
「着いたわ。ここに精霊は居るはずよ……。だけど、暗いわね。“ファイア”」
手元に炎を宿し、目の前を照らす。
熱量により、少しばかり暑く感じる。
見た所、地下空間にしては整いすぎている。
自然に出来た洞穴とは思えない。人為的な建造物であるようだ。
だけど、こんな地下空間にこんな物があるとは……。
「アレは何でしょうか?」
シルフィアが指差す先。そこには、一際大きな扉が見える。
色は白く、土ではなく、石でできているようだ。
「あれは扉ね。こんな所にあるなんて、違和感ね。だけど、精霊の影はあの先にありそうね」
「弱まった精霊が居るのですね。でも、あんな重たそうな扉、どうすれば……」
「そうね。壊せないかしら……“スーパーノヴァ”」
一際大きな質量の塊。それを壁へと向け解き放つ。
ゲーム内では、攻撃魔法として、全てを壊し尽くす“咆哮”。
衝撃が響くも傷一つ就く様子はない。
普通の石とは思えない程に耐久力があるようだ。
「どうしようかしら……」
ここにフィアナが居れば、より強大な魔法障壁を張り巡らし。
もっと高威力の魔法を使えるのだが。
私だけであれば、多少は無理をする場面だが。隣に立つシルフィアを巻き込んでしまう恐れがある。それだけは避けなければ。
光の巫女として、彼女は国に必要でしょう。
国民の希望となりえる存在。彼女をここで失えば、どうなるか分からない。
下手をすれば、国が亡ぶ可能性すらあるのだ。
それ程までに、光の巫女は重要な存在だ。
「レミリアさん、他にいく道は無いのでしょうか?」
「そうね。見た感じだとないけれど。少し待って」
視界には、目の前の壁しか見えない。
だけど、普通の洞窟とは違い、ここは迷宮のような場所であれば、隠されている可能性だってある。
「現状、あの壁を壊せないわ。だから、そうね。シルフィアの言う通り、少し探索しましょうか」
歩き続け、周囲を探索する。
壁を触り、魔力を流し込む。もし、何かあれば反応するはず。
「これも違うのね。全く、紛らわしい」
一通り見た所、楕円状の広場のようだ。
そして、見た所入り口は一つ。重厚な石扉。
そして、それ以外は何一つない。装飾すらない、無機質な部屋だ。
「おそらく、この部屋は倉庫のようなものね。目の前の扉の向こうから入ることしかできない……」
「あのもう一度、上空に上がってから折りなおすことはできないのですか?」
「……一回きり。ここから上空に上がる魔素はそれだけ。とてもじゃないけれど、もう一度ここまで来ることはできないわ」
「そんな……!」
「そうね。全てはシルフィアに任せるわ。貴方がどうしたいのか、それに従ってあげるわ」
私の皮肉気味の言葉に言葉を失うシルフィア。
今日初めて会ったばかりの私の言葉は彼女を戸惑いさせ続けているようだ。
けれど、彼女が本当に光の巫女ならば——
「わたしは精霊を助けたいです。だから、ギリギリまで粘りたいです」
想定通りの言葉が返ってくる。
もう少し、迷宮探索を続ける必要がありそうだ。