累積経験値10万を超えた私の乙女ゲー攻略日記   作:楠ノ桶

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37話 ぼうれいってね

 

術者の回路。

 

それは、おそらく魔術回路。魔法使いにとって、魔法を発動させるための道標のようなもの。

 

その中枢に潜り込むと、精霊“ノー”は言った。それがどれほど、危険なことなのか、この世界で生きてきた私にはわかる。

 

それは、想像したくない程に過酷で酷い光景を見せられたのだと。

 

 

 

精霊との契約、それは信頼の受け渡し。

 

他人には見せられない記憶すら、精霊は見通す。

 

例えば、レイフォード様の契約精霊を拘束すれば、王国の情勢を知るのと同義。

 

それ程に、精霊と人の結びつきは契約により強まる。

 

だからこそ、信じられない。

 

契約もなしに、魔術回路の中枢に潜り込むなんて。

 

 

 

「穢れた精霊……。それがあの子を苦しめているのは分かった。それを助ける方法はないの? 完全に契約していないのであれば、追い出すことだって」

 

『無理だと思う。あの少女に憑いた精霊は穢れ、元の性質すら変貌したモノ。女神さまは光の精霊っていうけど、僕にはもはや精霊には見えないデス。……あれは、亡霊デス』

 

「亡霊……。精霊が変質したモノ。精霊ではない存在、悪霊のようなもの。それなら、光属性魔法なら浄化することだって……。」

 

 

 

精霊の性質は6系統に分けられる。

 

精霊ごとに、限られた領域では、神の御業に及ぶ光景を創り出す。

 

光の精霊が司るのは、女神の祝福。

 

それはありとあらゆる悪意を正す。

 

 

 

『浄化デスか。でも女神様、それは貴方にはムリな話。攻撃魔法しか使えない貴方にはできないデスよ』

 

「それは……。」

 

 

 

精霊“ノー”の言う通り、私は光属性魔法に適していない。

 

力技で無理やり使うことはできるが、あれ程に壊れた元精霊を正せるとは思えない。

 

慈悲に溢れ、聖女を与えられたフィアナなら可能性はある。

 

けれど、今この場に連れてくるには時間が足りない。

 

 

 

「仕方ありませんね」

 

『何を……?』

 

「私にはこれしかできません」

 

 

 

手元に魔素を集め、凝縮する。

 

それを無数に生み、遙か底へと投げ入れる。

 

 

 

「貴方がそこに引きこもるなら容赦しないわ。たとえ王族でも。私は大切な貴方を助けるために貴方を傷つける」

 

 

 

膨大な魔力が底に沈み、そして爆散する。

 

それは、無系統魔法に分類され、かつての私が創り出したオリジナル魔法。

 

6系統には属さず、その領域外の魔法。

 

 

 

『……効いてない』

 

 

 

“ノー”のいう通り、カノンには傷一つ付かないだろう。

 

だってこれは――内側から全て壊すモノだから……。

 

ごめんね、カノン。

 

――私は貴方を救えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅぁ、ぁああああ、ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアア」

 

 

 

 

 

悲鳴が響く。それは、遙か底に閉じこもる少女の口から零れ続ける。

 

痛みはない。だけど、叫ばずにはいられない。心の底から何かを追い出そうと躍起になる自分を制御できない。

 

 

 

見えたのは記憶。

 

幸せな日々の欠片が脳裏を焦がし、投げ捨てたはずのひび割れた心に突き刺さる。

 

そして、どうして捨てようとしたのか分からないし、覚えていない。

 

 

 

あるのは、隣に立つ精霊が私を見つめてくる。

 

その眼は静かで私の動きをただ見ている。

 

 

 

「あなたは……私にとって何……?」

 

 

 

精霊と呼んだ。それなのに、その精霊と出会った記憶がない。

 

昔からの友達だと思っていたのに、その根拠となる記憶がどこにもない。

 

心臓がバクバクと音を鳴らし、喉の奥がキュッと締まる。

 

先ほどまで、信頼していた精霊に嫌悪感を抱き、同時に末恐ろしい感覚に苛まれる。

 

どうして、こんなに恐ろしい存在を精霊だと思い込んでいたのか分からなくなる。

 

 

 

光の精霊と私は読んだ。

 

リア姉さまと話しているとき、これまで過ごしてきた人生。そこに、アレはいつから居たのか記憶にはない。

 

――アレは何なのでしょう(・・・・・・・・・・)

 

 

 

もはや精霊とは思えないし、思いたくない。

 

 

 

『―――――――――――』

 

 

 

アレの口が開き、何かを耳元でボソっと零す。継ぎ接ぎだらけの言葉は聞き取れない。

 

けれど、それが私を食そうとしているのだけはわかる。

 

アレは、私をエサとしか見ていない。

 

 

 

「……ッ」

 

 

 

怖い。怖い、怖い……。

 

逃げ出したいのに、遙か底に押し込められ、心臓に纏わりつくアレが怖い。

 

逃げたいのに、どこまでも憑いてくるアレが怖い。

 

 

 

ふと、アレと眼があってしまい、その瞬間。体中が痺れ、魔素が急激に失われていく。

 

アレが奪い取ろうとしているのだと、思う。

 

 

 

もはや、何もかも理解できず。それでも、逃げ出すように辺りに魔法を放つ。

 

魔力制御すらされていない魔法はアレを通し、遙か空に届き、轟音となって降り注ぐ。

 

破片が落ちてくるも、暗い何かに遮られ届かない。

 

 

 

 

 

 

 

――私は何もかも放棄した。

 

 

 

 

 

 

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