めぞん一刻 二次小説 風立ちぬ   作:今津晶

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第5話  闘争の開始

三鷹さんは響子さんと二人で近くをドライブした。

最初は三鷹さんに対して警戒心を抱いていた響子さんだったが、明るくて気が付く三鷹さんの人間性に触れ、

そんな思いは消え去ろうとしていた。

 

とても静かな高原の秋。

吹き抜ける風は穏やかだが、少し冷たい。

三鷹さんは小さな湖を見つけ車を停めた。

 

[ほほう、こんな所に湖が]

 

ほとんど人影のない湖。

静寂が辺りを包む。

湖の周囲は木々に覆われ、神秘的な感じが漂う。

 

[綺麗ですね・・・]

響子さんはその湖の神々しいまでの綺麗さに感動している様子。

 

[湖も綺麗ですが・・・]

[今日の音無さんはもっと綺麗ですよ]

さすがは三鷹さん。

キザなセリフをさらっと言ってのける。

 

[やだわ・・・三鷹さんたら]

頬を染めてまるで少女のように恥ずかしがる響子さん。

 

[ははは、本当の事を言ったまでですよ]

[僕は嘘をつくのが苦手な人間ですからねえ]

三鷹さんの本領発揮と言う所だろうか?

 

[ごめんさない、三鷹さん]

[あたし、どうしても記憶が戻らなくて・・・もう何年もお付き合いさせて頂いているというのに・・・]

[あたし、初対面の人と同じように・・・あなたに冷たく接してしまってるかもしれない・・・]

響子さんはとても歯痒かった。

 

目の前にいる人は、周囲の人たちや、アルバムの写真などから、間違いなくここ数年親しい間柄なのに、

その部分の記憶が全く無く、三鷹さんとどう接していのかとても悩んでいたからだ。

 

[呆れたでしょう?こんな女に?]

響子さんは自嘲気味に言った。

 

[そんな事は無いですよ、音無さん]

[もしも、もしもこのまま音無さんの記憶が戻らなくても・・・それならそれで構わないです]

[嬉しいじゃないですか]

[もう一度あなたを好きになる事が出来る]

[そう、新しい恋が始まると思えばいい。]

三鷹さんは何の抵抗もなく今の響子さんを受け入れようとしている。

 

そう、三鷹さんにとって記憶が途切れていようがいまいが、響子さんに変わりはないのだから。

 

[ありがとうございます]

[そうおっしゃって頂けると、気持ちが楽になりますわ]

三鷹さんの温かい言葉に、響子さんの心は・・・・。

 

[でも、私・・・惣一郎さんの事が、どうしても・・・]

今の響子さんにとっての最大のギャップ。

 

それは響子さんの記憶が惣一郎さんが死んで間もない所で途切れているということ。

その現在との時間のタイムラグをどうやって埋めていくのか?

それは響子さん本人だけではなく、両親や、音無の義父も心を痛めている事であった。

 

もう惣一郎さんが死んでからかなりの時間が経過している。

が・・・響子さんの中ではまだ・・・。

手を伸ばせば届きそうな距離。

まだ温もりが忘れられないくらいの時間しか経過していない。

 

[分かってますよ、音無さん]

[どこまでも僕は待ちますよ。]

[僕には音無さん以外に考えられないですから]

三鷹さんの自分に対する真っ直ぐな気持ち。

 

響子さんは胸が高鳴るのを感じ始めていた。

 

三鷹さんは気になっていた事がある。

 

[いつまでこちらにいられるんですか、響子さん?]

それはいつまで蓼科に滞在するのかということ。

 

それに対して響子さんは・・・。

 

[ふふふ、何となくここが自分に合ってるような気もするんです]

[空気も綺麗だし、時間の流れもゆったりとしてて]

[ず~っとここで暮らせたらいいな・・・とか]

 

[都会の実家にいるとどうもせわしなくて]

[何か焦りみたいなものを感じてしまうんです]

[だから出来る限りここに居たいけど、父も母も心配してるだろうし、どこかで気持ちの整理をつけなきゃ]

響子さんはとても揺れていた。

 

響子さんの揺れる心を感じ取った三鷹さんは・・・。

 

[僕はどこまでも響子さんについて行きますよ]

[もしも、この土地で一生暮らしたいとおっしゃるのなら、]

[僕もここに根を降ろしますよ。]

 

[少しでもあなたのそばにいたい。]

自分の全てを投げ打ってでも響子さんのそばに居たいと告白した。

 

[三鷹さん・・・・・・]

響子さんは三鷹さんの告白にかなり“グラッ”と来ているようだ。

 

[さあ、そろそろ戻りましょう]

[少し冷えてきたようだ。お体に障ります]

三鷹さんと響子さんは一刻館へと戻って行った。

 

 

[ただいま帰りました。]

元気よくニコニコと笑って一刻館に戻ってきた響子さん。

 

[おお、響子さん楽しかったかい?]

その表情を見て義父の弟もホッとしたようだ。

 

[だいぶ・・・明るくなったようじゃなあ]

[ここに一人でいた時とは別人のようじゃ]

三鷹さんを捕まえて義父の弟は言った。

 

[さて、明後日からは連休じゃから忙しくなるぞ]

 

秋の連休はこの宿にとって大事な掻き入れ時だ。

 

[そうそう、急遽バイトを頼む事になってなあ]

[親類に頼んでいたんじゃが、突然来れなくなったと言いおってのう]

義父の弟は連休期間バイトを頼んだと三鷹さんと響子さんの前で話した。

 

[へえ~どんな人ですか?]

それがどんな人物か興味を持った三鷹さんは義父の弟に聞いた。

 

[え~と五代君とか言ったかな?]

 

[え!五代・・・・ですか?]

義父の弟の口から出た名前は“五代”だった。

 

まさかただの同姓だろうとは思いつつも驚く三鷹さん。

しかし気になったのでちょっと遠回しに探りを入れてみる。

 

[その人は東京の人で若い方ですか?]

 

[ああ、時計坂に住んでる人らしいが]

義父の弟の言葉にショックの三鷹さん。

 

誰にも邪魔されずに響子さんと二人きりでいられると思ったのが・・・。

それは儚くも甘い夢となった。

 

“流石に五代君もアクションに出たか。”

“来るならこい、五代君。僕は負けはしない。”

 

ライバル五代君に負ける筈は無いと確信を深める三鷹さんだった。

 

[こんにちは~!]

[バイトにやって来た五代です、五代裕作です]

 

遂に五代君が山の宿一刻館へやって来た。

だが所詮短期でのアルバイトではあるが・・・。

 

[おお、遠い所をよく来たねえ]

義父の弟が出迎えた。

 

[しかしキミ、何でこんな山奥で働こうなんて思ったんだい?]

[大した給料ももらえないのに]

ここを志望した理由を尋ねる義父の弟。

 

[あ、いやあ、僕、山とか大好きですし]

適当な事を言って誤魔化す五代君。

 

[あっそう]

義父の弟もあっさりしたものでそれ以上追求しなかった。

 

早速その日から旅館の手伝いを始めた五代君。

露天風呂や旅館内の掃除をしながら、必死になって響子さんの姿を探した。

するとほどなく・・・。

 

[あ~今日も楽しかったですわ、三鷹さん]

[お食事までご馳走になってしまって]

 

[いえいえ、とんでもないです]

[響子さんと過ごす時間は何物にも代え難いですから]

 

旅館のロビーの方で響子さんと、あろう事か三鷹さんが、仲良さそうに外出から戻ってきたのが目に飛び込んで来た。

 

[おお、お帰り]

[今日はどこへ行ってきたのかな?]

ニコニコと二人を出迎える義父の弟。

 

[ええ、今日は美ヶ原の方まで]

[とても綺麗でしたよ]

[音無さんに負けないくらい]

三鷹さんはしっかりと響子さんを誉める事を忘れない。

 

[やだわ、三鷹さんたら]

響子さんもそんな風に言われて悪い気がする筈も無い。

 

ここにきた当初より、二人の距離は日増しに近付いていくのが手に取るように分かる。

その光景をぼんやりと見ている五代君。

 

“やっぱり三鷹さんの方が先に来てたのか・・・”

“それにしても響子さん・・・・・・”

“三鷹さんと随分と親しそうに振舞ってるなあ・・・”

 

五代君は三鷹さんが自分よりも先に蓼科にいる事はある程度覚悟していた。

しかし、響子さんは自分と三鷹さんの記憶は消えている筈。

だから先に三鷹さんが蓼科に乗り込んでも、記憶が無くなる前のように、

親しくなるまではある程度時間が掛かるだろうと。

 

五代君は予測していたのだが・・・。

 

現実は五代君の予測を裏切り、記憶が無くなる前よりも、三鷹さんと響子さんの仲は親密そうに見えた。

ちょっとばかりショックを受けて立ち尽くしている五代君を三鷹さんは見付けた。

 

[あれ?五代君じゃないか!]

[バイトしに来たんだって?頑張ってくれたまえ]

三鷹さんは五代君の登場にも余裕の笑みを見せ、

 

“キラ!”

 

自慢の歯も輝くほど上機嫌だった。

 

[こんにちは]

[ええっと・・・]

[確かお見舞いに来てくれた方ですよね?]

響子さんも五代君の姿を見つけて話し掛けるものの・・・。

それはとても余所余所しく、他人行儀な物だった。

 

[こちらへはアルバイトで来られたんですか?]

響子さんが五代君に尋ねる。

 

“違うんです!”

“僕は響子さんを追ってここまで来たんですよ!”

 

と、

 

思わず叫びたい五代君だったが・・・。

 

[え、ええ、山が・・・自然が大好きなんですよ!]

言える筈もなく、優柔不断で言いたいことがはっきり言えない性格の五代君は適当な言葉を並べてしまった。

 

3人のやり取りを義父の弟はただ黙ってみているだけであった。

 

 

その日の夜。

 

五代君は旅館でバイト中はもちろん住み込みだ。

義父の弟と寝食を共にする。

 

[さあ、明日から数日間は忙しいぞ。五代君]

義父の弟は五代君にそう話し掛けると、更にこう続けた。

 

[キミ・・・・・山が好きでここに来たなんて言ってたが、あれは嘘じゃろう?]

[キミも三鷹さんのように響子さんを追いかけてきたのと違うか?]

非常に鋭い一言。

 

[・・・・・・・・]

音無の義父の弟の余りにも鋭い指摘に何も言葉が見付からずに黙り込む五代君。

 

[ははは!図星のようじゃな!]

そんな五代君を見て義父の弟は高らかに笑った。

 

[まあ、頑張りたまえ]

[三鷹さんという強力なライバルもおるしのう]

[さあ、明日も早い。そろそろ寝るとするか]

響子さんにとって義父の弟は、軽く五代君の肩をぽんと叩いた。

 

澄み切った空に降り注ぐ日差し。

山はすっかり秋の色を深くしている。

 

翌日は連休初日という事もあってとても忙しかった。

館内の清掃、午後から来るお客さんのために部屋のセッティング、食事などの準備に義父の弟は五代君と二人で追われた。

 

そんな二人の姿を見て響子さんも自然と体が動き出した。

 

[ええっとこんな感じでいいかな?]

五代君は玄関先の掃除をしていた。

 

一方の三鷹さんはロビーからどこかへ電話をしている様子。

その表情はとても苦々しいものだった。

 

しばらくすると・・・・。

 

[すいません、ちょっとどうしても外せない用事が出来まして]

[東京に戻らないといけなくなりました]

[なんとか都合つけてまたここへ戻って来れるようにしますから・・・]

三鷹さんは残念な事に急用で東京に戻らねばならなかった。

 

その表情には悔しさがありありと滲み出ていた。

 

そして五代君を見付けると・・・。

 

[五代君、とても残念な事だが、僕は東京へと帰らなくてはならなくなった]

[せいぜい僕のいない間に頑張りたまえ]

[ふふふ、次にここへ戻ってくる時は・・・]

 

[僕は音無さんにプロポーズするつもりだ]

三鷹さんはここへまた戻って来る時、響子さんにプロポーズすると宣言した。

 

[前のように長い事時間をかけるのではなく、今回は速攻で勝負を決めさせてもらうつもりだよ、五代君]

[じゃ]

勝ち誇ったように三鷹さんは車に乗り込み東京への帰路へ着いた。

 

五代君にとっては三鷹さんが急用で居なくなり、邪魔者も無く響子さんに近付けるが・・・。

 

しかし・・・。

三鷹さんは次にここへ戻って来る時に、勝負を賭けると宣言した。

 

今の二人の仲にちょっとやそっとじゃ割って入れそうもない五代君。

三鷹さんが戻って来るまでに五代君は響子さんの心を掴めるのか?

 

それとも運良く響子さんの失われた5年間の記憶は戻るのだろうか?

 

 

以下次回

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