めぞん一刻 二次小説 風立ちぬ   作:今津晶

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第9話  最終話 風立ちぬ

<そして二日目の朝を迎えた山の宿”一刻館”>

<天候は今ひとつで、どんよりと雲が掛かった空が続いている>

 

朝早くから響子さんは何やら義父の弟と長い事話し込んでいた。

その様子をチラリと通り掛かったた五代君は目撃している。

 

―そんな時だった。―

 

“ジリリリリリ~~~ン”

 

一刻館のフロントの電話がけたたましく鳴った。

急いで五代君が電話に出た。

 

“コンコン”

 

[三鷹さん、お電話ですよ!]

そのまま三鷹さんの部屋へと向かった五代君。

電話は三鷹さん宛だった。

 

[ん?僕にかい?]

怪訝そうな表情で電話口に向かう三鷹さん。

 

そして電話口でしばらく三鷹さんは誰かと激しい口調で話した後、また自分の部屋へと不機嫌そうに戻ろうとしていた。

そこで五代君を見付けた三鷹さんは五代君を促し、二人で旅館の中庭へと出た。

 

[もう冬も近いなあ・・・五代君]

三鷹さんがおもむろに言う。

 

[そうですね、山の冬は早いですね]

五代君も無機質に返答する。

 

三鷹さんと五代君。

二人してどんよりとした空をただ眺める。

 

[さて、五代君]

[僕は残念な事に今日中に東京へと帰らねばならなくなった]

 

[理由は色々と有るのだが、“見合いの相手への返事をこれ以上待たせられない”、“何としても見合いをしろ!”]

[叔父が強力にそう言ってきてねえ]

[僕も父も、少なくとも叔父にはお世話になっている身だから、あまり邪険にも出来ないんだよ]

 

[5年・・・・5年かぁ・・・・]

[音無さんが・・・響子さんが・・・]

[もっと早いうちに結論を出してくれていたら・・・]

 

[僕も・・・そして五代君、君も]

[こんな山の中で悶々と悩まずに済んだのかも知れないがね]

[まあでも、前のご主人への一途な想い]

[それを胸にして生きる響子さんがまた眩しくて・・・]

[長い事待ち続けているのでもあるけど]

 

[単刀直入に言おう]

[五代君、響子さんが僕たちにどんな結論を返してくるのかは分からない]

[だけど、響子さんが決めた事を素直に認めてあげよう]

 

[僕は・・・・・]

[響子さんがプロポーズを受け入れてくれなかったら・・・]

[もう二度と、彼女の前には姿を現さない]

[見合いでもして、新しい人を探す事にするよ]

 

三鷹さんは五代君に今日中に東京に戻る事を告げ、そして、響子さんの決めた結論を尊重してやろうと言った。

 

もしそれが、三鷹さんにとって、””叶わぬ夢””となったとしても、5年間も愛した人への感謝の想いを込めて、

 

~~爽やかに身を引いていこうと~~

 

それがこれからの響子さんの為に成るのなら。

三鷹さんも悩みに悩んだ末、出した答えだった。

 

[僕も、三鷹さんと一緒です]

[響子さんにとって、一番幸せな選択]

[それがとても大切なんだと、今回の事故で初めて悟らされました]

 

[それまでは響子さんに自分の想いばかりぶつけて・・・・困らせていたかも知れない]

[でもこうして冷静になって考えてみると、僕はまだ役不足だという事を痛感しました]

[だから・・・・・]

 

[響子さんが一刻館の管理人復帰への道を選択しなかった時]

[それが・・・・・僕と響子さんの””お別れの時””だと覚悟しています]

 

五代君もまた、悩んだ末にひとつの結論を出した。

響子さんが一刻館へ戻って来ない時は、新しく部屋を借りて、””響子さんの前には二度と現れない””と。

 

 

“ヒュウウウ~・・・”

 

突然冷たい北風が吹いた。

 

三鷹さんも五代君も感じていた。

 

“”今日が三角関係の最後の日だと“”

 

再びこの3人が顔を揃えることはもう無いだろう。

別れの時は北風と共に、刻一刻と近付いて来た。

 

午後になった。

空には厚く鉛色の雲が立ち込めている。

 

三鷹さんは五代君と話し終えた後、響子さんを連れて出掛けて行った。

そして三鷹さんはもうこの旅館へは戻っては来ない・・・。

 

五代君も決心し、義父の弟にここでのバイトを切り上げ、東京へ帰ると告げた。

 

 

―もう後数時間で3人のこれからが決まる―

 

“バタン!”

 

[さあ、どうぞ]

三鷹さんと響子さん、何度か二人で訪れたこの湖に車を停めた。

 

もし、今日が””二人の最後の日””となったとしたら・・・。

三鷹さんはそんな思いも含めて、この場所を選んだのだった。

 

北風は冷たく吹き抜けていき、辺りに人影は見えない。

 

[それで、先程もお話しましたが、僕は今日これから東京に帰らなくてはならなくなりました]

三鷹さんは改めてこれから東京へ帰ると響子さんに話し、

 

そして・・・。

 

[響子さん・・・・]

[僕と一緒に・・・これから東京へ帰りませんか?]

[そして二人で一緒に暮らしませんか?]

[ずっと・・・ずっと一緒に]

覚悟を決めたように三鷹さんは響子さんの瞳に必死に訴えた。

 

[もしも、答えが“NO”ならば・・・・]

[今日を最後に響子さんの前には現れません]

悲痛な告白だった。

胸が張り裂けてしまいそうなほど。

 

響子さんは三鷹さんの言葉を聞き、“ポロポロ”と涙を流し出した。

 

[ありがとうございます三鷹さん]

[お気持ちはとても嬉しいです]

 

[でも、でも・・・]

[ごめんなさい]

 

[三鷹さんはとても優しくて素敵な方だと思います]

[5年もの間、待たせてしまったというのに・・・]

[あたし、何て言ってお詫びしたらいいのか・・・]

響子さんはただただ、三鷹さんにひたすら謝るだけだった。

 

三鷹さんの事は素敵な人だと思う。

けど、今すぐ結婚までとなると・・・。

これが響子さんの三鷹さんに対する答えだった。

 

“素敵な人”としては受け入れられたけど、結婚して一緒に暮らす、“愛する人”には届かなかったのだろう。

 

[・・・分かりました]

[正直に僕の問い掛けに答えてくれてありがとう、響子さん]

 

[あなたとの5年間、とても楽しかったです]

[これからはお互い、別々の道を生きていくんですね]

 

[お幸せに・・・・・・・]

[そして・・・・・・・・・]

 

[サヨナラ]

 

三鷹さんは響子さんへ最後の言葉を掛けると力無く笑い、車に乗り込み、湖から消えていった。

もう逢う事もないだろう二人のラストシーン。

車のテールランプが消えて行くまで、響子さんは三鷹さんの車をじっと見送っていた。

 

―その時だった!―

 

[響子さん!]

五代君の声がする。

 

“もしかして空耳かしら?”

 

一瞬自分の耳を疑った響子さんだったが、振り返るとそこには五代君の姿が・・・。

 

[五代さん・・・・どうしてここへ?]

驚きを隠せない響子さん。

 

[実は三鷹さんにここへ来いと書かれたメモが残されてまして]

[それをさっき旅館のご主人に渡されて、急いでバスに乗ってここまで来ました]

[そのメモに書かれていたことは、]

 

###この湖に誰もいなければ五代君の負け###

 

###僕も、響子さんもいればお互いの負け###

 

###もう五代君も僕も響子さんとは逢わない###

 

###だから3人で最後のお別れをしよう###

 

###そして響子さん一人でいれば・・・・###

 

###五代君の勝ちだ###

 

[こんな風に三鷹さんは書き残していました]

 

三鷹さんは五代君へもメッセージを残していた。

それを義父の弟に託した三鷹さんは、どんな想いだったのだろうか?

あるいは””こんな結末””を予測してメモを残していったのかも・・・。

 

だが、その真意はもう知る事すら出来はしない。

 

 

響子さん、五代君、二人だけの湖。

 

[綺麗な湖ですね]

[小さいけどとても神秘的で]

 

湖の水面を、赤く色づいた葉たちが彩りを添えてゆく。

五代君が湖を見詰めて言う。

 

[綺麗ですね・・・]

[ホントに・・・]

 

二人はただぼんやりと水面を見詰めた。

肌を刺すような冷たい風が吹き抜けてゆく。

 

突然響子さんが話を始めた。

 

[帰りましょう、五代さん]

 

[旅館へですか響子さん?]

 

[違いますよ、時計坂へ]

[一刻館へ]

 

[あたし、もう一度・・・5年前の原点に戻ってみたいんです]

[待っていてくれる人もいるみたいだし]

 

[それで・・・、いいと思うんです]

[焦らないでゆっくりと、無くしてしまった記憶と向き合おうと]

 

今の五代君の隣にいる響子さんからは、ここへ来た当時のような迷い、苦しむような様子は微塵も感じられない。

凛とした気高さと、包む込むような優しさが同居した、””五代君の知っている響子さん””の姿がそこにはあった。

 

五代君は聞きたかった。

 

“本当にそれでいいのですか?”と。

 

だが響子さんの迷いのない吹っ切れた表情を見て、聞くのを止めた。

 

 

[さあ、帰りましょう]

[五代さん、バスが来ますよ]

 

[は、はい]

 

響子さんと五代君は蓼科を後にしようとしていた。

色々とあった高原の秋。

 

一人の男は笑うのではなく安堵し、そして一人の男は寂しく去って行った。

 

響子さんの記憶が戻るコトは残念ながらなかったけれど、また一刻館でいつもの日常が住人たちと待っている。

 

[五代さん、雪ですよ!]

 

[あ、ホントだ!]

 

高原の秋は終わりを告げ、バスを待つ二人の周囲には雪が散らつき始め、冬の訪れを知らせてくれた。

 

 

 

完結

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