「栗毛」のアーモンドアイ   作:栗東寮の玄関のガラスになりたい

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(実際のレース記録に基づくと、作者の心が折れてしまうので、改変してます。)

(どブラックにドップリ浸かった社畜おじさんなので、壊れる恐怖とか、本来必要なネジが何本か抜け落ちてるってことにしといてください。)


3.Heartaches by the number

 タイムを刻む度、心が痛くなる。

 

 死にたくなるほどに伸び悩んでいる。

 俺が私に成り代わった弊害か、単純に努力が足りないのか。

 

 メイクデビューから、はや3週間。

 12人立ての未勝利戦の結果は6着に終わった。

  

 不甲斐ない結果に、只々いたたまれなかった。

 俺でなければ、私のままだったならば、あるいは…

 そんな思考が、寝ても覚めても続く。

 

 末脚に全てを賭ける、という方針は間違っていないはずだ。

 ハナを進んで逃げ続ける程のスタミナは無い。

 武器と呼べるものは、私の踏ん張りが利く足腰と、

 不本意ながら培われた俺の根性くらいのものだ。

 

 同期たちを見る限り、体格で特段不利ということも無い。

 しかし勝てない。

 模擬レースや並走は無論、体躯づくりの坂路やダートでも、競ってみた。

 走る度に時計は早くなるが、それは周りも同じだ。

 数秒早くなったところで、結局差は縮まらない。

 

 私は、きっと優秀なはずだ。

 そうでなくては、9冠になどなれる訳がない。

 

 競馬には様々なレースがある事を、先日学んだ。

 

 泥臭いが、それでも人々を引き付ける地方レース。

 新聞の一面を飾り、持て囃される中央レース。

 

 なかでも、中央の最高峰たるGⅠは別格扱いとされる。

 冠と言えば、特に断りがなければGⅠを指す。

 

 俺が知っていたのは、俺の上司たちが話していた内容だけだ。

 曰く、

 ハルウララという馬が、勝てないくせにちやほやされるのはおかしい。

 ゴールドシップという馬が、大一番でやらかしたせいで大損した。

 ディープインパクトという馬が、強いけど特別秀でている訳ではない。

 アグネスデジタルという馬が、変態だ。

 

 その他も俺の上司たちの主観、いわば個人の感想でしかない。

 挙句、この学園で学んだうえでも、よく分からない事がある。

 お気に入りのリュックとはどういう意味なのだろう。

 

 ともかく、主観塗れの情報の中でハッキリしている事がある。

 

 アーモンドアイが9冠を達成したことだ。

 GⅠを9回勝つほどの馬ならば、ウマ娘としても相当に優秀なはずなのだ。

 

 未だにうだつが上がらないのは、俺の努力が不足しているのだろう。

 月下、ひたすらに駆け抜けて、きっと…

 

 「アーモンド!ストップ!」

 

 足りない努力を補おうとすると、これだ。

 

 「オーバーワークは厳禁だよ。」

 

 堺トレーナーはエネルギッシュな人だ。

 いつも明るく、元気で、とてもやさしい。

 俺の人生には、居なかった人種だ。

 

 「少し、歩こうか。」

 

 彼女が穏やかな口調になるときは、とても怒っている時だ。

 

 「焦る気持ちは分かる。」

 

 黙って隣を歩く。

 重苦しい空気のせいか、なんだか鉄の味がする。

 

 「あなたには未来があるの。」

 

 トレーナー懇親会はどうしたのか、などと軽口を叩ける雰囲気ではない。

 

 「末脚は着実に強化できてる。勝負どころをかぎ分ける勘もよくなってきた。」

 

 ――勝てないじゃないですか。

 

 己の掠れた声に驚いて、思わず立ち止まる。

 

 ――追い付くどころか、取り残されて、

 

 声は続かない。涙が溢れて、自然とうつむく。

 寒くもないのに躰が震える。

 

 「普通のウマ娘は、君のように走れない。」

 

 思わぬ言葉に、向き直る。

 トレーナーの顔は、滲んでよく見えない。

 

 「未勝利戦、上り3ハロンは32秒だった。」

 

 馬群に呑まれて思うようにのれず、最後にやっと走れた。

 私の未勝利戦の主観は、これに尽きる。

 

 「重馬場になった中山の外側を末脚全ツッパなんて、脚を壊す恐怖が勝って、できない。」

 

 壊れる、なんて考えもしなかった。

 勝てない事の方がよっぽど怖い。

 

 「尋常じゃない度胸と、根性がある。」

 

 今勝たなきゃ、置いてかれるのだ。

 …きっと、貴方にも。

 

 「アーモンド、私は君のクラシック戦線を見たいの。」

 

 割れ物にそっと触れるように、柔らかに抱きすくめられる。

 

 「今はまだ、発展途上。体力さえつけば呑まれることも無くなる。」

 

 涙は未だ止まってくれない。

 

 「3コーナーから4コーナー、内に隙間を見出した時に君は、はばたいていくの。」

 

 「だから今は、雌伏の時。無茶したって勝てないんだから。」 

 

 かすかに聞こえる、しゃくりあげる声。

 なんだ、トレーナーだって泣いてるじゃないか。

 

 「君のほうが背が高いから、抱きしめて慰めても、カッコがつかないね。」

 

 無理やり笑って見せるトレーナーは、私よりも震えている。

 

 ――ありがとう。

 

 きっとここは、ごめんなさいじゃないだろう。

 女性経験も、上司に労られる経験もないので、わからないけれど。

 

 「…門限あるんだから、夜に走ったりしちゃダメ!」

 

 「物足りなければ、ちゃんと私に相談すること!いいかな?」

 

 頷いて答える。正直今の私の声は、聞くに堪えない。  




毎日でも食べたいというのは、毎日でも食べているという訳ではないです。
好きなもの食べたいときってありません?

皆にバレないようにスイーツパクパクですわ、止まりませんわ、毎晩これですわ!してるほうが嘘くさくないですか?
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