「栗毛」のアーモンドアイ 作:栗東寮の玄関のガラスになりたい
無敗やしソダシしか勝たん!
投稿者は原作について致命的なデバフがかかっているので初投稿です。
わたしはアーモンドアイじゃない
朝から最低な気分だ。
精神年齢では10個も下の上司を泣かせ、挙句慰められて、
ようやく持ち直した情けない童貞を、どうしてこんなにも痛めつけるのか。
私はアーモンドアイじゃない。
私が物心ついたころから欠かさなかった日記だ。
このところ必死に頑張っていたから、紐解く暇も気力もなかった。
ふと思い立って、未読の日付を開けばこれだ。
メイクデビュー、その日の日記。
本来そこにあったであろうページは破り捨てられ、
それまでの可愛らしい丸文字とは似つかない、怯えたようなたどたどしい文字。
私はアーモンドアイじゃない。
仮定に仮定を重ねて、足りない頭で導き出したのは、
俺は死に、私に転生なり、憑依なりした、という突飛な仮説だった。
私が私じゃないというなら、私になった俺はいったい何だ。
なけなしの理性も、諦観すらも否定された俺は、どうすればいい。
決まっている。
頑張るしかない。
迎えた4度目の未勝利戦。
精魂尽き果てるまで突っ走って、ようやく3着。
初めての入着だったが、まったく喜ぶ気にはなれない。
何かコツをつかんだ、とか、仕掛けるタイミングが分かった、とかでは無い。
トレーナーの指示でも意向でもない。
まったくの根性論だった。
旧軍よろしく玉砕覚悟で突撃した結果、偶然に陣地の手前へ届いたに過ぎない。
その後は才能という機関銃にハチの巣にされて名誉の戦死だ。
2階級特進で1着ってことにしてもらえないか。
特技と趣味とを兼ねつつある現実逃避に勤しんでいると、お小言の時間が始まる。
日記の件以来、自暴自棄になっている。
逃避気味であってなお、自覚があるほどに顕著なのだ。
そんなものを見過ごすトレーナーは地方にすら居ない。
「アーモンド。」
幾分怒気を孕んだ声色。
俺の走りは彼女のキャリアも掛かっている。
一蓮托生の相手がヤケを起こしていては、不機嫌にもなろう。
「シニアで才能が開花する子も少なくないの。」
疾駆の後の敗北。
いたたまれない思いの初ライブ。
心身ともに気だるかった。
ソファに寝たまま、目だけを声の主へ向ける。
「我武者羅な走り方じゃ、ケガしちゃう。」
オーバーワークこそしていないが、本走では理論も理性も投げ捨てて突っ走った。
故障どころか、レース中の死すら想像できる。
「無茶をして走って、それで勝てるのなら、みんなやるでしょ。」
ここに至って初めて、
彼女は、私が死にかねない事をやらかした事についてご立腹なのだと気付く。
「この世界は優しくも甘くもない。」
そんなものは嫌と言うほどわからされた。
私の末脚は、現状未勝利戦ですら機能しない。
だから、文字通り死ぬほどめちゃくちゃに走った。
学園ではレースに関する授業が事細かに設定されている。
先日受講した『脚質と戦略』は非常に役に立った。
私は差しや追い込みが得意なウマではない。
力量と技能と経験の不足で、後方に位置しているだけ。
終始後方にいるから、不発に終わった差し又は追い込み、という事にされている。
相対的には、末脚があると言える。
しかしながら、傑物どもが持つような、きらめきは無い。
本質は、無為無策の丸腰なのだ。
元上司たちの下らない談義でも、そういう馬がかなり居ると聞こえた気がする。
「戦略再考については認める、鬼気迫る逃げだった。正直かなり印象が変わったよ。」
いつもの慰めを、上の空に聞く。
何か、
大事な何かを、思い出しそうになっている。
「走り抜く根性は誰にも負けてなかった。しっかり鍛えれば重賞だって目指せる。」
アーモンドアイは、どうだった。
脚質、戦略、勝ち鞍、騎手。
何でもいいから思い出せ。
「言わせてやろうよ、栗毛の怪物再び現る、って」
キャッチフレーズは、確か、
――瞳に夢を。
「それいいね。」
無敗の三冠馬、無敗の三冠牝馬と繰り広げたジャパンカップ。
最強の輝き。
元上司は何と言っていた。
「色云々よりずっとカッコいいかも。」
やっぱ鹿毛は強いよ、統計上も鹿毛が圧倒的だよな。
最高の鹿毛だ、アーモンドアイは。
銀行だし。
なるほど。
私は『アーモンドアイ』じゃない。
(投稿間隔について)今のままではいけないと思います。だからこそ、投稿者は今のままではいけないと思っている。