今日はスピカのトレーナーはお休みして、他のチームの敵情視察も兼ねて良い逸材がらいないかチェックしに、ここで一番デカいレース場まで行くことにした。
チームの皆には今日は軽めのトレーニングを通達してある。それが終わったら、スペの祝勝会をやるみたいだ。仲が良いことはチームスピカのトレーナーとしてはとても嬉しい限りなんだが、パーティーの経費は俺持ちなのがキツいところだ。
どうやらスペの食事量は凄いらしいので、俺の財布が空にならないように言い聞かせなければな。
そうこうしているうちに目的地まで着いた。今は授業が終わって練習に直行している奴らが何人かいるようだ。レース場が見渡せる丘の上にポジションを取り、持ってきた双眼鏡でウマ娘達を観察する。
「おっ、ヒシアマゾンにナリタブライアンがいるじゃねぇか」
よく見るとおハナさんとこのチームリギル所属の実力者達がいた︎︎。「女傑」ヒシアマゾンに、「シャドーロールの怪物」、ナリタブライアン。二人ともこの学園屈指の実力者と知られており、同期のライバルとしても彼女達はライバル関係にある。お互いの存在を認め合える者は成長するという良い例だ。
今彼女達は軽く身体を解しながら何かを言い合っている。しばらくして、二人でダートのコースを超え、芝のコースの方に移動した。どうやら併走をするらしいが、二人の事なので半分より少し上程の力で競走でもするのだろう。あの二人が一緒に走るのは珍しく無いが、良い機会なので観察することにした。
双眼鏡を構え直し、あちらにフォーカスを合わせる。
「芝コース2000mと少し・・・・・・」
スタート位置を見る限り、今日は中距離で走るようだ。2000mということで、ナリタブライアンは得意な距離だが、ヒシアマゾンにはほんの少し短いか?
「おっ、始まったな」
二人の併走が始まった。流石の実力者、両者スタートは完璧だ。最初のコース取りはナリタブライアンが1バ身離して先頭。ヒシアマゾンはやはり追込策・・・・・・二人なのでそれは正しくないかもしれないが。普段通り後ろから抜け出すタイミングを伺っているようだ。ナリタブライアンもレースではヒシアマゾンと似た作戦を使うので、今の位置はやや走りづらいかもしれない。
それにしても二人とも速い。本気は出していないだろうが早くも最初のコーナーに入る。もう200mを走ったことになる。
常勝チームリギル、おハナさんは幅広い距離が走れる育成をすることが多い。その為、基礎のステータスが所属しているウマ娘は皆高い。彼女達を見れば分かる通り、並のウマ娘ではあの走りにも負けてしまうだろう。全力を出していない、軽めのランでもだ。チームリギル、超えるには少々高すぎる気がするが・・・・・・。
「へへっ、うちのウマ娘達はそんな壁に恐れたりしないぜ」
リギルと肩を並べるなら、恐らくうち一番近いだろう。スズカとゴルシ以外はまだまだこれからだが、ポテンシャルは負けてない。
改めて自分が育てるチームに希望を抱き、明日からのトレーニングにより一層やる気を持てた。
「さて、二人の併走の様子は・・・・・・ん?」
いつか超えなければならない壁の猛者二人の観察を続けようと集中すると、よく見ればコースの外に何か動く影が見えた。
「おいおいなんだありゃ」
見たことも無いウマ娘だ。仕事柄学園のウマ娘の顔はほとんど覚えている自信があるが、初めて見るウマ娘だった。それがコースの外、柵の向こうを走っている。なぜあんな場所で走ってるんだ、あいつ。
俺は自然とそちらに意識が向いた。あのウマ娘は、何もかもが一目見て特徴的だ。というかあいつ、制服にローファーを履いていないか?あれであの速度が出せるのか、なかなかの逸材では?
腰の下まで伸びた綺麗なブロンドの髪を靡かせる、とても映える見た目。
この距離でも分かる程の優れたフィジカル。
「高いな、もしかして俺と同じくらいあるんじゃねぇか?」
コースの内と外を隔てる柵があのウマ娘の腰と同じ程の位置にある。1mの高さの柵より少し高い。とても脚が長い事が分かる。それに加えて振っている腕も長めなように見える。
フォームは変わっている。長い手足を無理に振るわず、腕を後ろ向きにして脚の回転率も速い。上半身は前に傾いていて頭の位置も低く、あれではウマ娘が繰り出す速度を保つバランスが取りにくいように思える。何故あのような独特なフォームをしているのか。
「・・・・・・風の抵抗を無くしているのか」
大人気を博した忍者の漫画を思い出した。速さを追求した彼らの走り方は、あのウマ娘の走り方と酷似している。彼女はやがて併走をしている二人のウマ娘に重なった。
・・・・・・面白い。
初めて見たはずのウマ娘、一度見たら忘れないような容姿に、変わった走り方。何故コース外を走っているか。俺はあいつに釘付けになった。
ヒシアマゾンとナリタブライアンは既に第2コーナーを曲がり切っていた。それと並行するようにあのウマ娘も走っている。
向こうの直線の途中、ヒシアマゾンとナリタブライアンの二人がコース外を走るウマ娘に気づいた。速度を緩めずとも僅かに同様している顔をしている。走っている途中にも関わらずお互いに顔を合わせ、「なんだあいつ?」とでも言わんばかりの怪訝な顔で、臨時ではあるがもう一人の併走相手を見ていた。
それでも気にせず併走を続け、第3コーナーに入った時にそのアクシデントは起こった。
「あいつが走る先、木が生えているぞ!」
コース外はそれ程大きくはないが風邪避けの木々が植えてあり、このまま進むとあいつは正面から突っ込むことになる。見えているのかいないのか、全く避ける素振りもなくそのままのスピードでコーナーに入る。
「危ねぇ!」
このままでは、ぶつかる。思わぬ乱入者の異変に気づいたのか、リギルの二人もギョッとした顔で視線を外に向ける。当の本人は段々と障害物との距離を縮めて行った。そして、木の少し手前で彼女の
やっと避ける気になったのか。それでも遅い、もうダメだ、木にぶつかると思った瞬間。
俺は驚くべきものを見た。
「あのスピードで木を躱している!?」
なんとあのウマ娘は生えている木々を人混みをかき分けるか如く、躱し始めた。先程までの独特な走り方ではなく、もっとしっかりとした走り方になった。そしてそれはとても綺麗なフォームであった為、
「ブロワイエ・・・・・・」
とても驚いて口に力が入らず、咥えているキャンディが落ちてしまった。間違いない、あれは紛れもなく近年最高のウマ娘であり、つい先月に電撃引退をしたヨーロッパの王者、ブロワイエの差しだ。
基本に忠実であるが故のパーフェクトなレース展開。彼女の芸術的とも言える、「終盤で加速力を上げ、追い抜き続ける」。あの代名詞と同じ体制だ。
独特なフォームは見る影も無く、彼女はブロワイエのフォームで速度を落とす事無く木にの群れに突っ込み、尽く躱しながらスピードを維持してコーナーを曲がっているのだ。
言葉も出ないとは正にこの事だ。彼女がやっていることは常軌を逸している。無茶なバカをしているのと、真似とはいえブロワイエのフォームをコピーしているのだ。
だがやはり、
それと比べれば、当たり前だがレベルが足りないなと思った。
そしてリギルの二人は、あのウマ娘が木にぶつかりそうになった瞬間こそ動揺した様子だが、木々を躱し始めて一瞬だけホッとした後に気にせず自分達のレースに集中し始めた。
三人が最終コーナーに入り、最後の直線へ向けて勝負を賭ける時。ヒシアマゾンとナリタブライアンは似ている部分が幾つかあるが、逆に異なるとろこはここの勝負強さである。
今回は見れそうに無いが、彼女の強みは「最終コーナーを外から追い抜く」時にある。このような併走では二人の力が測られる事もないが、距離と二人のみという事が悪かっただろう。この局面ではナリタブライアンに軍配が上がるだろう。
ヒシアマゾンも聞こえはしないが声をあげ最終コーナーで追い抜こうとするが、上手くナリタブライアンのブロックにあい、思うように走れてない。あの賢さの高さもナリタブライアンの強みである。
結局最初から最後の直線までヒシアマゾンは前に行けず、二人の・・・・・・いや、三人の勝負はクライマックスへ。
だがクライマックスと同時に、ここが最大のチャンスでもある。500m程の直線では何があるか分からない。先頭が内側に位置付けでもしなければ内からも外からも抜けれるのだ。今回はナリタブライアンがややコース中央寄りに走っているため、ヒシアマゾンの強みではないが十分に抜かせるタイミングがあるのだ。
彼女もそれに気づいたのか、ヒシアマゾンはニヤリと笑って左右に動き始めた。今までブロックを敷いていたナリタブライアンは最後までその作戦で行くつもりだったのか、まんまと揺さぶられている。これによってナリタブライアンは後ろへの注意を余儀なくされた。さすがに実力者なだけあり、ここに来てヒシアマゾンの冷静さが効いてきた。
そのまま距離だけが過ぎ、残り200m。とうとう差はアタマといったところまできた。ここからヒシアマゾンが抜くのか、ナリタブライアンが守りきるのか。双眼鏡に思わず力が入る展開。
手に汗握る勝負だったが、俺は忘れていたんだ。そして強制的にこう思わされた。
途中にあのコース外を走るウマ娘を見た瞬間、このレースの主役は彼女だった、と。
俺は、思わず双眼鏡を落とした。
最後の直線、このレースを制したのはあのコース外を走っていたウマ娘だった。
「なんだ・・・あれは・・・・・・」
未だに信じられない。併走をしていた二人も同じ気持ちなのだろう。息を切らせ、呼吸を整えながらも何が起こったのか信じられないという顔でレースの勝者を見つめていた。
きっと、俺とヒシアマゾンとナリタブライアンは、同じ事を思っているだろう。
最後の200m、あそこで走っていたのは誰だ。
併走をしていた二人に加えあのウマ娘を一人で、そしてブロワイエの真似を含めて四人が走っていたとするならば、最後の最後、
またフォームが違かった。あまりにも速く衝撃的でよく見えなかったが、まるで獣のような体勢でゴールに喰いついていた。お世辞にも綺麗とは言えないそのフォームは、彼女が初めて見せたものだった。
「コースの外と内・・・・・・4回もコーナーを走って1着・・・・・・」
当たり前だがコース内で走るのと、もはやコースでもない外を走るのでは訳が違う。距離も違う第3コーナー付近には木が生えていた。レースには障害物があるのも存在するが、一部にそれがあっても1着。
「怪物なんて言葉じゃ済まないぞ、こりゃ」
視線の先の本人は、猫から自分の物らしき帽子を取り返して、その瞬間また猫に奪われて、もう一度追いかけっこを始めて風のように何処かに去ってしまった。もしかしてずっと猫を追いかけていたのか?
最後の最後。あれはブロワイエの真似とは全く異なるナニか。コピー等という次元では無い、まるで本人・・・・・・。俺はーー。
「
納得のいかない、喉に引っかかる、胸につっかえる。
とにかく得体のしれない感情と共に、あの勝負は終わってしまった。彼女の一人勝ちで。
「一体何者なんだ・・・・・・」
「ブロワアルセーヌ」
俺の魂の抜けた呟きに、後ろから女性の声で返答が返ってきた。
「あ・・・おハナさん・・・・・・」
振り返るとチームリギルのトレーナー、東条ハナこと、おハナさんがいつの間にかいた。いや、おハナさんだけじゃない。周りに他のトレーナーやウマ娘、ざっと100人程のギャラリーがいた。俺は気づかないほどあのレースに釘付けになっていたのだろう。周りは信じられない光景を目にした表情になっているが、恐らく俺と同じ顔をしているのだろう。
「ブロワアルセーヌ。今日から転入してきた、あのブロワイエの妹らしい」
「ブロワイエの・・・・・・妹!?」
そういえばフランスから転入生が来ると職員会議で小耳に挟んだような・・・・・・。
通りでブロワイエの真似が出来るわけだ。少し上手すぎる気もするが、それには納得がいった。だが、あの最後のは何だったんだ。あれも真似をしていただけで、彼女はそういう才能を持ったウマ娘なのか?いや、違う気がするな。トレーナーとしての勘が、彼女には得体のしれないナニがあると、そう言っている気がした。
「全く、転入初日からやってくれる。ウチのチームメンバーの心が軽く傷ついてしまった」
おハナさんは困ったように頭を抱えた。レースからしばらく立っているが、未だにヒシアマゾンとナリタブライアンは信じられないような顔をしている。
何せ、練習とはいえ走って負けたのだ。レースに負けるというのは、ウマ娘として一番プライドが傷つけられる瞬間だろう。
「あいつらに気にするなと言って何とかなるといいが」
おハナさんは深いため息と共に、自分の教え子の元に向かっていった。
あのレースは多くの人達の目に入った。あのブロワアルセーヌを自分のチームに入れようと、争奪戦が始まるだろう。
そしてこれからのトゥインクルシリーズは大荒れになるぞ。
こうしてはいられない。俺はおハナさんに挨拶をすませ、トレーナー室に足早に向かった。
なるべく多く、早く。今までの資料やさっき見たレースを元に、ブロワアルセーヌの対策だ!
誤字の報告ありがとうございます。直し方がよく分からないです。今回めちゃくちゃ読みづらいなと思いました。次回はもっと上手く書けるよう頑張ります