流星のロックマンIF   作:ヒトトセ555

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無印編
1. 目覚め


 灼熱。最早熱という概念そのものを具現化したようなソレが、横を通り過ぎる。一瞬前に自分がいたそこは崩壊という過程すら飛ばし──消滅した。遅れて、肌を通してビリビリと轟音が伝わってくる。

 怖い。恐怖なんて言葉では表現しきれない、言わば死の概念。触れれば死ぬ、当たれば死ぬ、躱しきれなければ死ぬ。そういった恐れが身体を強ばらせる。ただ、それこそ死に直結する──故に唇を噛み切り、痛みで無理矢理思考をリセットする。

 

 考えろ、考えろ。どうすれば自分はアイツを倒せる? アイツらの力を引き出した所で、出力が足りないのは目に見えている。今まで数多くの電波体と戦って来たが、ハッキリ言って目の前の敵は規格外だ。力の桁が、存在の格が、違い過ぎる。

 

「いつまでそうして考えているつもりか、ロックマン」

「……くッ、やるしかない! ロック!」

「おうッ!」

 

 天に手を掲げる。身体を稲妻が走り、まるで最初からそこにあったかのように、力の象徴が顕現する。

 

「トライブオン! ベルセルク!」

 

 掲げた手の中に硬い感触。握ったそれを引き抜くと、閃光と共に雷を纏った剣がその姿を現した。同時に、稲妻が鈍く輝く鎧を形作り、体の奥底から凄まじい力が湧いてくる。──だが。目の前のアイツに勝てるイメージは、相変わらず浮かばない。

 

「ウオオオオオッ!!」

 

 声を上げ、突進する。振り下ろした剣は真っすぐにアイツ──アポロン・フレイムの正中線を捉え、その体を引き裂く……はずもなく。

 

「ふむ、その程度か」

「がッ」

 

 指先で剣は受け止められ、お返しとばかりに巨大な火球で吹き飛ばされる。

 今まで受けたどの攻撃よりも痛い。そして熱い。たった一撃だけで、もう腕に力が入らなくなってしまった。

 

「先の一撃は戯れだ。おいそれと尻尾を振って逃げ出すか、適わぬと知りつつ死に足掻くか。好きな方を選べ。場合によっては生き残れるかも知れぬぞ?」

 

 アポロンはボク()を見つめる。答えなんてもう、決まっていた。

 

「ロック、付き合わせてごめん」

「ハッ、なに言ってんだ。俺様が引くわけねェだろ。……スバル、お前だけなら」

「断る。ボクがロックを置いて行く訳無いよ」

「ハハッ、そりゃあいい!」

 

 遥か昔実在した、本物の戦闘民族ベルセルクの戦士ならば、互角の戦いを繰り広げられるのかもしれない。しかし生憎とここにいるのは、その遺物に頼ることしかできないちっぽけな地球人。

 

「行くよロック。君に会えて良かった」

「行くぞスバル。お前に会えて良かった」

 

 限界を超えてベルセルクの力を引き出す。鎧が罅割れ、身体が軋む。纏う稲光は更に激しさを増し、紫電へと色を変えた。

 

「死を選ぶか。それも良いだろう」

 

 剣を構え、踏み込む。

 そして────。

 

 

 

 ###

 

 

 

 

 鳥のさえずりで目が覚める。時計を見ると午前八時……設定していたアラームの時間まであと二時間は残っている。二度寝にはちょうどいい時間だ。引きこもりになってから生活リズムがどんどん崩れていってる気がするが、まぁいいだろう。母さんが起こしに来るまで今日は寝よう。

 

 そうしていつも通り布団を被り直し寝ようとした──直後。ドクンと体の奥底でナニカが蠢いた。

 

「え、なにこれ」

 

 驚いて体を起こす。胸に手を当てるも、心臓の鼓動は一定だ。心臓のドキドキじゃない。もっと別の、よく分からないナニカが首をもたげようとしているような、そんな感覚。

 

 ──ドクン、ドクン、ドクン。

 

 息が荒くなる。一定間隔で起こっていたそれは、どんどんその周期を狭めていき今やほとんど間隔が無くなっていた。なぜだか、嫌な予感がする。

 

 ──ドクンドクンドクンドクンッ!!

 

 酷い頭痛がする。何かが軋むような感覚がする。壊れてはいけない大切な何かが悲鳴を上げている。

 本能的に頭を押さえるが、ソレは止まらない。閉めている扉を無理やりこじ開けられるような、嫌な感覚。

 

「うっ……!?」

 

 突然視界に流れ出した、知らない『映像』。

 時間が止まった。違う、感覚が引き延ばされているんだ。その中で、強制的に、目をそらすことも許されず、それだけが等速で動き続ける。全てが止まった世界の中で、その『映像』だけが動いている。

 身体は動かない。なんだ、なんなんだよこれ……!?

 

「がっ、うぐぅう……! あ、あぁぁ……!」

 

 口から声が漏れる。ほとんど無限に引き延ばされた感覚のせいで、それが声かどうかも分からない。

 無限に近い苦しみの中で、その『映像』の共通点に気付く。

 

 人がいる。顔の部分だけ黒い靄で塗りつぶされた、いろんな人がいる。次から次へと場面は変わり、見たこともない誰かが、何かが沢山いる。その中で──人だけ、必ずその中心にいる。空にかけられた半透明の道の上に立ち、左手は大きな口のようになっている。輪郭は不明瞭だが、その人物だけは黒い靄は無い。青い姿で、赤のバイザーから覗くその虚な目がこちらを向き──目が、合った。刹那、ノイズと共に『映像』が切り替わる。

 

 

 ──とある引きこもりの話。

 幼い頃に父が返らぬ人となり、そのせいで人とのつながりを極端に恐れるようになった少年。毎日学校に誘いに来るクラスメートを無視し続け、望遠鏡を覗いていた。唐突にある日、巨大な電波兵器によって地球が滅んだ。

 

 ──とある臆病な少年の話。

 奇妙な相棒(宇宙人)と共に別の宇宙人と戦い続け、その果てに巨大電波兵器にあっけなく敗北した。驚いたことにブラザーなんてものを持っていた

 

 ──とある青い戦士の話。

 相棒と、ブラザーの力で一度地球を救い、そして別の危機にブラザーに裏切られた世界。後悔の最中、地球は滅んでいた。

 

 ──とある大罪人の話。

 二度地球を救い、その力を過信する余り、別の可能性を開いてしまった世界。滅んだ世界のそれらに敗北し、結果、全てを台無しにした世界。

 

 一つも見覚えは無い。身に覚えもない。なのにその青い姿の少年は、戦士は、全てボクと同じ顔をしていた。

 

「誰、なんだ。この痛みは、気持ちは、どうしてこんなに……痛いんだ」

 

 映像に伴い、その少年の体験したであろう痛みが、想いがボク自身にも流れ込んできた。何もかもを無視して異物を無理矢理ねじ込まれる感覚。体感したことの無い気持ち悪さに、思わず涙が零れた。

 

「誰だか知らないけどやめてよ……! 人の頭の中で、勝手に……っ」

 

 訳が分からない。分からないはずなのに、ボクの意思とは別に身体が勝手に情報を整理していく。まるで操り人形のようだった。終わりの見えない苦痛に耐えているとふと、唐突にそれらが収まっていく。そして──理解する。してしまう。

 

 あの戦士達は全部ボクだ。失敗まみれのこれらの物語は、全てボクの物語だ。

 

 なんだこれは。何故、どうして。疑問は尽きない。ただ理解できたのは──これらの映像は全て本物なのだろうということ。未来の、ボクの辿る末路なのだろうということ。

 そう考えると不思議と納得がいった。ストンと胸に落ちた気がする。あるいは、何か大切なモノを落としたような。

 

 頭痛が収まった。映像はもう流れない。数えるのも億劫になるくらい色んな世界を見たはずなのに、時計の針は五分と進んでいなかった。後に残ったのは気味の悪い感覚と、揉みくちゃになったベッドだけ。その感覚もどんどん薄れていく今、あの映像で疑似的に体験したものは全てボク自身の記憶として頭と身体に馴染みつつある。

 ……ボクは、どうすればいいのだろうか。

 

 宇宙人──FM星人達が攻めて来る。物語なんて言い方はもうできない。見たあの世界は、これからこの世界が直面する未来だ。それにFM星人を、あの巨大電波兵器(アンドロメダ)を何とかしたところで今度は太古の文明ムーの力によって世界がまた危機に陥る。

 

 どの世界も、ボクが引きこもり、逃げ続けた場合必ず滅んでいた。立ち向かった時も、場合によっては負けて結局滅んでいた。つまりは、世界を救える可能性があるのはボクただ一人ということ。それも確実じゃない奇跡ありきでの話だ。

 

 馬鹿げている。そんな、それって、ないだろ。

 

「うっ、おえぇ……」

 

 腹から熱いものがこみあげて来る。ベッドの上は流石にまずい。

 布団を跳ね除け一階のトイレに直行する。途中、母さんが驚いたようにこちらを見た気がしたが構っている暇はなかった。個室に入り、鍵を閉め、もはや限界だったソレをぶちまける。

 粗方ぶちまけ終わっても尚収まらない吐き気は口を拭うことで無理やり抑え込んだ。

 

「はぁ、はぁ……クソ、ふざけるな!」

 

 思わず叫ぶ。思考がまとまらない。それでも幾度となく経験した危機のお陰で、嫌でも落ち着いて判断できる。そんな自分が気持ち悪い。頻繁に危機が迫って来るこの世界が気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い! 

 

「クソッ!」

「ス、スバル? 大丈夫? 顔色悪かったけど、嫌な夢でも見たの?」

 

 コンコンというノックの音と、心配そうな母さんの声にはっとする。

 ……八つ当たりしても仕方ないか。来るものは来るのだ。来てしまうのだ。だったら、その対処法を考えるしかない。いくら気持ち悪いこの世界だろうと、そこにボクは暮らしている。母さんも、あの三人も、そして……彼女も。他にも、あの世界でみた沢山の笑顔が、この世界には存在しているのだ。

 

 ボクが何もしなければ、それらは全て潰される。圧倒的な力、理不尽の前に、塵の如く吹き飛ばされるだろう。

 

「……それは、嫌だな」

 

 ボクがかつて仲良くした人。ブラザーを結んだ人。あったことも無い知らない人……までは正直守ろうとは思えないが、逆にそれ以外の皆を傷つけられたくはない。

 何よりも、母さんが傷つけられるかもしれない。それだけは許せない……! 

 決めた。自分が傷つくのは嫌だ。けれど、母さんを護るためならボクは一人でも立ち向かう。とりあえずは、今心配させてしまっている母さんを安心させることからだ。

 

「ご、ごめん! ちょっと嫌な夢見ちゃって、その」

「……そう。……やっぱり大吾さんの夢かしら

 

 扉越しではあるが、ボクが母さんの声を聞き逃すわけがない。無意識に呟いてしまったのであろうその内容もボクの耳にはばっちり聞こえている。

 星河大吾……ボクの父さんだ。数年前、宇宙人とブラザーバンドを結びに行くんだ! なんて言って飛び出して──未だ帰ってこない、ボクの憧れでトラウマ。

 父さんを失ったことでボクは人との繋がりを失う怖さを知った。そして、二度とそんな思いをしないために他人との繋がりを一切断ち切ることを選んだのだ。学校も休んで、いつか父さんを迎えにいくために宇宙の勉強もしだした。母さんを悲しませることは分かっていても、ボクは人との繋がりが怖くて──そして引きこもった。

 

 でもそれは、今日までだ。父さんの分までボクは、母さんを守らなきゃならない。

 

「気分が落ち着いたらでいいから出てきて頂戴ね。今日は天地さんが来る日だから」

「うん、分かった。……ねぇ、母さん」

「なに? スバル」

 

 震える身体を無理やり抑え、声だけはいつも通りに振る舞う。

 一呼吸してドアを開けると心配そうにこちらをのぞき込む母さんと目が合った。

 落ち着け、落ち着け、大丈夫だ。なにせ間接的とはいえ、何回も死にかけたし死んでいるのだ

 それに比べたら大したことは無い。

 

「ボク、学校行くよ」

 

 

 

 ###

 

 

 

 Side:あかね

 

 私はこの日のことを、一生後悔している。

 

 スバルが突然学校に行くと言い出した。あの人──大吾さんがいなくなってからずっと引きこもっていた息子が外に出ようとしている。それ自体はとても嬉しいことだ。でもどうしてか、私は素直に喜べなかった。

 それはきっと、まだ私が前を向くことができていないからだ。

 

 努力はしている。それでも脳裏にこびり付いてしまっているのだ。戻ると言って出掛けた大吾さんが、二度と帰ってこなくなった時のことが。

 もしかしたらスバルまで失ってしまうかもしれない。そう考えると、口ではスバルに「学校に行ってみない?」と言いつつ本当は引きこもっていることに安心感すら覚えてしまっていた。

 

 ダメな母親だ、私は。いつまでも過去に縋ってしまう。でも今日、あの時のスバルの目は真っすぐ前を向いていた。それは私の大好きな大吾さんの目によく似ていて……隠し切れていない怯えは私によく似ていた。

 どこまで行っても私たちは似たもの同士の親子のようだ。そのことが、私に勇気をくれた。

 

 スバルは前を向いた。なら私も前を向くべきだ。今は無理でも、少しずつ。

 大吾さん、私頑張るから。死んだなんて思っていない、いつか帰って来るって信じてるから。どこかで見守っててね。

 

 天地さん──大吾さんの仕事の後輩──から大吾さんがかけていた薄緑のゴーグルを受け取るスバル。その姿を見守りながら、私は前を向く決意をした。

 

「聞いたよスバル君、学校に行くんだって?」

「……母さん」

「あはは……話しちゃった」

 

 だから、ジト目で見つめて来る息子の背中を押してあげよう。大吾さんもからかうとよくこんな目をしたものだ。

 それがどこか面白くて、つい私は笑ってしまった。

 

 そのついでで思い出したが、大吾さんは色んな女の人にモテていた。かっこいいし頼りになるから当たり前と言えば当たり前だったのだが、私としては非常に複雑な思いであった。

 そしてスバルはその血を継いでいる。贔屓目かもしれないが顔は大吾さんに似て整っているし、成長すれば更に……。その時何人も女の子を泣かせるかもしれない。

 

 これは、今のうちに教育しておいた方が良いかもしれない……!

 

「それじゃ、お邪魔しました。スバル君、頑張ってね」

「はい、ビジライザーありがとうございました。さっきのお話の件もお願いします」

「はは、任せておいてよ」

 

 スバルと並んで天地さんを見送る。その際スバルと何か話していたようだが、今の私の耳には入っていなかった。

 バタンと扉が閉まるのを確認して、隣のスバルの肩を掴む。

 

「スバルッ! 学校に復帰する前にちょっとお話があるわ!」

「えっ!? 急にどうしたの母さん!?」

「安心して、しっかり教えてあげる。女の子の扱い方!」

「急に何言ってるの!?」

 

 慌てたスバルと顔を見合わせ、一瞬沈黙が生まれるが直後同時に吹きだす。こうして一緒に笑うのもいつ振りだろうか。少しだけ肩の力が抜けた。慣れてしまった寂しいリビングに、暖かさが少しだけ戻ったような気がした。

 

「もう、急に変なこと言いださないでよ母さん」

「ふふ、ごめんねスバル。スバルが学校に行くって言ってくれたことが、嬉しくて……」

「母さん?」

 

 あぁだめだ。私も歳をとったものだわ。すぐに涙が出てしまう。けれど、息子の前では強い母親でいなければならない。

 目じりを擦り、滲んだ視界を振り払う。

 

「……大丈夫! きっと大吾さんだって喜ぶわ! もし友達が出来たら連れてきてね!」

「そう、だね……うん、きっと連れてくるよ」

「楽しみにしてるわ」

 

 キリッとした息子の顔を見て、思わず笑みが零れる。

 しかし私はこの時気付くべきだったのだ。

 

 ──あの子の目が、酷く淀んでいたことに。

 

 

 

 

 




流ロクの二次創作が! 少ない!
需要(俺調べ:サンプル数1)に対して供給があまりに少ないので自分で書くことにしました。
もっとみんな気軽に妄想投下してもええんやで……?
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