のんびり書いていきます。
書きだめがあるうちは二日に一回投稿します。
「……そろそろかな」
コダマタウン、展望台。記念品なのか置き場所が無いからなのかは分からないが、機関車の模造品が近くの公園スペースに置かれている。町の外れにあるここは人工光が少ないこともあって、ボクの趣味である天体観測には持ってこいの場所だ。人が滅多に来ないのも都合が良い。ボクにとっても──これから起こる出来事にとっても。
時刻は夜。いつものように天体観測をしてくると母さんに告げ、家を出てきた。父さんのビジライザーも忘れていない。腕の携帯端末──トランサーを見ると、母さんからメールが届いている。どうやらあと一時間ぐらいで帰らなければならないようだ。
「ビジライザー、何も見えないなぁ」
手持ち無沙汰のため、昼に天地さんから受け取ったビジライザーをいじくる。見た目は白い縁に薄緑の少し変わったただの眼鏡だ。視力補正のようなものは一切なく、今のところただの変わった色のサングラスだ。
「本当に電波が見えるのかな」
本来、このビジライザーにはある能力がある。それは、装着者に電波を見せるという能力だ。
この世界では電波技術が発展し、今や電子機器はほとんどが電波で操作可能だ。電波技術の粋である電波体──ある程度の自我を持ち身体が電波で構成されている存在──なんかもいて、それらが自動車や重機なんかを動かしているのだ。そういった存在は普通目に見えないが、ビジライザーをかけていると見える、らしい。
実際、他のボクは見たことがあるようだ。ピッチングマシーンの電波体なんかもいるらしい。
手元のメガネを見る。そんなに凄いものを父さんは作っていたのか。このメガネ、凄いんだなぁ……。
と、ビジライザーをかけなおした時だった。
「うわ、なんだ!?」
突然トランサーから警告音のようなものが鳴り響く。耳障りなそれは、不明な何かが急激に接近してきていることを知らせるものだ。
そしてその信号元は──
父さんは三年前、宇宙事故で行方不明になっている。嫌というほどそれは知っている。
しかしこうしてトランサーに表示される名前は、間違いなく父さんだ。つまり、父さんのアクセスシグナルを伝って何かが近づいて来る!
「……ほんとに父さんのシグナルなんだ」
奇妙な感覚だった。もしかしたら妄想かもしれないあの記憶の通りに、事態が進んでいる。つまり、あの出来事は全てこれから起こり得るという確証でもあった。
警告音の間隔がどんどん狭まる。やがて連続したけたたましい騒音となり、直後、何かが正面からぶつかってきた。
──ドンッ。
「いたたた……」
「……はーん、ここが地球か」
衝突と共に、ビジライザー越しの世界にノイズが走る。そのノイズはやがてはっきりした形となった。
孔雀緑の身体は、人間でいう所の鳩尾から上しか無い。頭から肩、胸部は青色の鎧に包まれ、獣を連想させるように牙と爪は鋭い。宙に浮く姿は、なるほど確かに、知っていなければ驚くだろう。昨日のボクなら腰を抜かしていたかもしれない。
ビジライザーを外す。目の前の
ビジライザーをかける。目の前に
何度か繰り返していると、そのうち
「なるほど、そのメガネで俺が見えるのか」
「その通りみたいだね」
あまりにも聞きなれたセリフと光景に、つい記憶の口調で話してしまう。
違う違う。彼とボクは初対面なのだ。ボクが自然と受け入れていることに、逆に彼の方が面食らっているようだった。
「ほお、驚かないんだな」
「まぁね。ロッ──んん、ところで君は?」
また間違えかけた。ギリギリで誤魔化せたが、ここで不信感を持たれても困るのだ。
気を引き締めなければならない。これから起こることに彼──ウォーロックの力は必ず必要になる。
「……まぁいい。俺の名前はウォーロック。ロックとでも呼んでくれ。FM星からやってきた──まぁ、有り体に言えば宇宙人ってヤツだ」
俺からすればお前ら地球人の方が宇宙人だがな、とウォーロックは付け加える。
ウォーロック。FM
父さんが行方不明になったのは、単なる宇宙事故が原因じゃない。それには彼の来たFM星が関わっているのだが──今は考えている時間は無さそうだった。
突如、汽笛のような音が展望台に鳴り響く。発生源を見ると、動かないはずの機関車から火花が散り、車輪が回転し始めていた。見た目にそぐわず電子制御で動いていたらしい。
「チッ、もうきやがった……! オイ! 星河スバル!」
「ボクの名前……っ」
彼──ロックが叫ぶ。教えていないのにボクの名前を知っているのは、やはり父さんから聞いたのだろう。
そして動き出した機関車。あの中には、FM星からロックを追ってきた電波ウィルス──数年前から突如その数と種類を増やし始めた電脳プログラム──が入り込んでいるはずだ。電波ウィルスは今のように電子機器に入り込み、誤動作を引き起こす。今回のは、意図的に引き起こされた誤動作だ。
「細かいこたぁ後で話す! 今は俺の指示に従え!」
ボク以外の人がいないことは来た時に確認しているため、ロックの話を聞く時間はある。
しかしこのまま何もしなければ、暴走機関車はそのままコダマタウンに突っ込み、甚大な被害が出るだろう。もしかしたら母さんに危険が及ぶかもしれない。
それは、ダメだ。
「教えてロック。ボクはどうしたらアレを止められる」
「話が早いじゃねぇか、気に入った。お前ら地球人はカードフォースってのがあるんだろう? 空のカードを出しな!」
覚悟を決める。それは、今までの日常を捨てる覚悟。そして、戦い続ける覚悟だ。
言われた通りに空のカードを出す。個人のウィルスバスティングが当たり前となった現代で、電波ウィルスを倒すためのプログラム、バトルカードが流通している。このうち中身が入っていないカードはブランクカードと呼ばれ、ロックが言ったのはこれのことだ。
「あぁ。そして──ハァッ!」
「……カードが、光った」
「今そいつに、俺の力を与えた。そいつを持って、そのメガネで空間の歪みを見つけろ!」
ロックがカードに手を添えると、ブランクカードが光りだした。とりあえずウェーブカードと仮称する。ビジライザーをかけたまま周囲を見渡すと、展望台を降りて丁度影になっている場所に、ソレを見つけた。
「これが……」
「ああそうだ。ウェーブホールと呼ばれている、電波空間の歪みだ。そいつの上に乗って、さっき教えた通りにしろ!」
足が震える。これから起こることを知っているだけに、怖気ついてしまう。けれどボクは、もう引けない。
頬を叩いて気合を入れる。
「立ったよ。ここで良いんだね」
「あぁ。そこで叫べ」
「うん──」
大きく息を吸う。そして、叫ぶ。始めて言うはずのセリフなのに、やたら馴染んだ感覚が少しだけ気持ち悪い。
「電波変換! 星河スバル──オン・エア!」
トランサーにウェーブカードを読み込ませ、それを腕ごと掲げる。
強い光が僕の身体を包み──次の瞬間、ボクは空に立っていた。
「そういや言ってなかったな。ここはウェーブロードっつう、電波の通り道だ。俺と電波変換し、お前は今電波体となった。こいつであの機関車を止める」
それだけじゃない。ボクの姿は変わっていた。全身が青装束に包まれ、上半身はロックを連想させる薄い鎧のようなものに覆われている。自分からは見えないが、頭部にはヘッドギアが装着され、目元はバイザーで隠れているはずだ。そして左手だった場所には、ロックの顔がある。
さっきロックが言った電波変換とは、電波体と人間が一つに合体することを意味する。即ちこの姿は、ロックとボクが一つになったもの。
身体が軽い。物理的に体重がほぼゼロになったこともあるがそれ以上に──身体に馴染むのだ。電波変換してみて初めて分かる。あの記憶の通りにとは行かないまでも、きっとボクは戦える。戦えてしまう。
「あの近くに行けばいいんだね」
「あ、あぁ。……やけに落ち着いてんなコイツ」
「──行くよ」
足に力を込める。記憶の通りなら、多分行けるはずだ。
込めた力を一気に開放する。踏みしめたウェーブロードがどんどん小さくなっていくのが見えた。
そしてそのまま、機関車の近くのウェーブロードに着地する。
「よし、できた……!」
「やるじゃねーか。ますます気に入ったぜ。そのまま機関車の電脳に入れ!」
ウェーブロードはいたる所に張り巡らされている。それを辿れば大体の場所に行けるが……それ故に、道が複雑だったり直線距離で行けなかったりする。なら、跳べば良い。
今ので記憶と感覚のズレは無くなった。今後失敗することは多分無い。
機関車にはウェーブホールと似た、空間の歪みがあった。これに飛び込めば、機関車の電脳とやらにいけるとのことだった。
そして飛び込んだ先には──膝下ぐらいの大きさで、ヘルメットを被った何か。あれが電波ウィルスだ。
「予想通りだ! おいスバル、そいつらを倒せば機関車は止まる!」
「分かった」
そこから先はよく覚えていない。夢中になって戦っていたら、いつの間にか終わっていた。ただ分かっているのは──ボクの初戦闘は、何事もなかったということ。そして、
「こいつは思わぬ収穫だ。これから暫くお前んとこに世話になるぜ!」
「うん、いいよ」
ボクのトランサーに、居候が一人増えたということだ。
ゲームだとセーブ&ロードでいくらでも失敗できるじゃないですか?
結局後に残るのは全てに成功したっていう結果だけ。じゃあ失敗した過程ってどこ行ったんです?
プレイヤーの経験値、ですよね(にっこり)。
この小説はそんな思い付きと妄想でできています。