流星のロックマンIF   作:ヒトトセ555

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よろしくお願いします。


3. 相棒

 Side:ウォーロック

 

 

 スヤスヤと眠る少年の傍ら、俺は頭を悩ませていた。悩みの種は勿論目下の少年、星河スバルだ。

 

「アイツの息子とは思えないほど根暗で貧相な奴だ。ただ戦闘センスは予想以上……むしろ、高過ぎる」

 

 思い出すのは数時間前の戦闘。

 

『ロックバスター、か。牽制用だね』

 

 始めての戦闘とは思えない身のこなし。一の説明をするうちに、十も百も学んでいるような成長速度。

 電波変換なんて体験は初めてのはずなのに、まるで思い出すかのように色んな事を試しては一人で納得しているような感じだった。見た目の割に喧嘩は得意なのかもしれない。

 

『バトルカードは──使える、よし』

 

 地球人の情報端末、トランサーとか言ったか。あれを媒体に電波変換しているためか、中に入っていたバトルカードもそのまま使えるのだ。俺が教える前にスバルは、自分でそれに辿り着いた。俺が教えたことと言えば、電脳空間への入り方と戦闘の補助だけ。戦い方はアイツ自信があの場で産み出しやがった。それもバトルカードと俺の能力を十二分に活用した、文句の付け所の無いものを。

 

『行くよ、ロック』

 

 そしてなによりもあの目だ。敵を真っすぐに見つめる、覚悟を宿した鋭い眼差し。

 初めて合った俺に驚かず、むしろ状況の解決のために最善策を探す能力。こりゃあまるで。

 

「まるで歴戦の戦士、だぜ」

「う、う~ん……母さん……」

「……いや、気のせいか」

 

 涎を垂らし、ニヤニヤと寝惚ける姿はただの年相応な少年だ。

 考え過ぎかと頭を振り、思考を投げ捨てる。FM星から逃げてきたばかりでまだ緊張が解れていないのだろう。ハッ、俺としたことが柄にもねェ。

 

「お前の息子、巻き込んじまった。すまねぇ」

 

 (ソラ)を見つめ、ここにいない友人に謝罪の言葉を口にする。

 俺があいつらから盗んできたアンドロメダの鍵。一度起動すれば惑星一つを簡単に滅ぼせる巨大兵器の鍵を追って、FM星からどんどん刺客が送り込まれてくることだろう。斥候として送られてくる程度の奴なら俺一人でも勝てるだろうが……いずれ、スバル無くしては勝てなくなる。そしてもし負ければ、この星は終わりだ。

 そんな重大な責務を、俺は目の前の少年に押し付けた。

 

 改めてスバルの顔を見る。未だにやけているその面は、ただの少年にしか見えない。

 しかしその能力は本物だ。今の段階でこれなら、こいつはもっともっと強くなるはず。

 

 そしてそれは俺にとっては好都合。俺の目的の為に無関係の奴を巻き込むのは──なんて、綺麗ごとはこの際捨てる。利用できるものは何でも利用して、俺は俺の目的を達成する。まぁ、危ない場面があったら助けてやらないこともない。

 

それにしても、と思う。

 

「大吾から聞いてた性格とかなり違うが……人間ってのはよく分からねェ」

 

 

 

 

 Side:星河スバル

 

 

 

 

 

 目が覚める。いつもは目覚ましか母さんが起こしてくれるのだが、今日は自然と起きてしまった。仕事を奪われた目覚まし時計をオフにして、枕元にあるビジライザーをかける。

 

「よう、起きたか」

「おはよう、ロック」

 

 目の前にはつい昨日出会った宇宙人がいる。

 ウォーロック。FM星から逃げてきた宇宙人。父さんの知り合いで、アンドロメダの鍵(とんでもないもの)を持ち逃げしてきた張本人。記憶の限り、殆どの場合ボクはこのロックと出会っている。ロックの力が無ければ、ボクは何もできない。

 

 ボクは、記憶で見たような勇敢な戦士では無いのだから。

 

「ねぇ、昨日のことなんだけど」

「あん? 何のことだ?」

「とぼけなくていいよ。ただボクは──君と取引がしたい」

 

 さしあたっては宇宙人との契約だ。いくつか条件を提示し、内容を煮詰めていく。

 記憶でロックの目的は知っていた。どんな思いで地球まで逃げてきたのか、何を求めているのか。何が好きか、何が嫌いか。知らないことの方が少ないと言っても良いだろう。

 一方的に相手を知っているという感覚。……ああこれは、あまり良い気分じゃないな。

 

「フン、お前との契約か。悪くないが、お前はそれでいいのか?」

 

 ボクの話を聞いたロックは顎に手を当て考える素振りをする。

 ボクの提示した条件は、ざっくり行ってしまえば『ボクはロックに全面協力するけど一般人は巻き込まないでね』というものだ。

 

 頭を使うことが苦手なはずのロックだが、決して頭が悪い訳ではない。今の話と状況を吟味した結果、ボクに利益が無いことに気付いたのだろう。

 

 だがそれでいい。記憶で見たボクとロックの関係に、限りなく近付くように条件は考えた。そして、ボクの目的はこれから来る世界の危機を何とかすること。……我ながら、現実味は無いが。言ってしまえば、ロックに協力すること自体が目的だ。

 

「うん、構わないよ。ボクはボクの目的の為に、君の力を借りたい」

「……なるほどな。契約成立だ。よろしく頼むぜ──相棒」

「──」

 

 言われた言葉に一瞬喉が詰まる。その言葉は、星河スバルがウォーロックと信頼関係を築き上げたからこそ産まれた言葉だ。

 ボクみたいな真似することしかできない偽物が、受け取って良い言葉じゃない。

 沈黙するボクを疑問に思ったのか、ロックは言葉を続ける。

 

「ん? 地球じゃあ同じ目的の為に行動する二人を相棒っつうんだろ? 昨日あのテレビってやつでやってたぜ!」

「あぁ、そういう……。じゃあそうだね、うん」

 

 ──よろしく、ビジネスパートナー(相棒)

 そう告げて、ボクは身支度を整えるのであった。

 

 

「よしっ」

 

 気分を切り替える。非常に気が進まないが、来週から学校に行かなければならない。猶予は1週間も無い。今のうちにできることはしておく必要があるだろう。

 

「じゃあ行ってきます」

「ええ、気を付けてね」

 

 家を出て展望台に向かう。あそこは滅多に人が来ないため、ロックと話すにはいい場所だ。今日は家に母さんがいるため、宙に話しかける息子の姿を見せて無駄に心配させる訳にはいかない。

 

「──ってとこだ。あぁつまり、今の俺は」

「絶対に捕まっちゃいけないってことだね」

「あぁ、その認識で良い。そして話を聞いた以上、お前にはこれから追手のFM星人共と一緒に戦ってもらう」

 

 展望台。あたりに人がいないことを確認し、ロックの話を聞いた。

 FM星が地球を滅ぼそうとしていること。その際用いる破壊兵器『アンドロメダ』の鍵を持ってロックは逃亡していること。これを追って多くのFM星人がこの先襲ってくるであろうこと。

 そして、追ってくるFM星人の能力までロックの知る限りの情報を聞き出した。

 

 概ね記憶通りであり、今のところ差異は無い。電波変換した後の能力については前例が無いため分からないとのことだったが、これも恐らく記憶の通りだろう。

 となれば、やることは決まりだ。だがその前に、ロックには聞いておかなければならないことがある。

 

「ねぇロック。父さんのこと、知ってるんでしょ?」

「────」

 

 急にそんなことを聞いたからか、ロックは沈黙してしまった。腕を組み、じっとこちらを見つめる。数回のため息や逡巡の後、やがてボクが引かないことを確信したのか、ポツリポツリと話しだした。

 

「あぁ。お前の親父さん……星河大吾と俺は、話したことがある」

 

 三年前の、あの日のことだ。そう語るロックは、どこか遠い目をしていた。三年前と言えばあの事故──NAXAが打ち上げた宇宙ステーション『絆』からの通信が突如として途絶えてしまった時のことだろう。そこにはボクの父さんも乗っていて、随分泣いた覚えがある。その数か月後、太平洋に『絆』の残骸が大気圏を突き破り落下したことで、『絆』及びその乗員の捜索は完全に打ち切られてしまった。

 

「FM王……FM星の王様と『絆』は連絡を取り合い、友好関係を築きつつあったんだ。だがそこで、ある噂が流れた。『地球人はFM王を騙し、利用しようとしている』ってな」

 

 それを耳にしたFM王は怒り狂い、『絆』を襲撃した、と。その際捕虜として捉えられていた父さんと、見張りをしていたウォーロックが出会ったらしい。そこで意気投合した二人は友人となり、父さんからボクのことを聞いたのだそうだ。だからボクの名前を最初から知っていた。

 

「大吾とお前には親子の絆があった。それを利用して、大吾はお前に繋がる道を作り出した」

「絆……? ブラザーバンドってこと?」

 

 話を聞いていくと、聞きなれない単語が聞こえた。記憶を探るも、やはり聞き覚えは無い。初めて聞く話だ。それに父さんとボクはブラザーバンドは結んでいない。

 

「俺もよく分からねぇが、キズナ理論ってのがブラザーバンドの元になってんだろ? それを利用したとか言ってたぜ」

「……なるほど。で、その道をロックが辿ってボクに行き着いたんだね」

 

 ブラザーバンドは父さんが作ったものだ。その元になったのだから、当然父さんはそのキズナ理論とやらを知っていて、応用もできたのだろう。

 キズナ理論、ティーチャーマンの授業で聞いたことがあったような気がする。

 そうか、ボクは父さんについてまだ全然知らなかったんだ。

 

「ねぇ、もっと教えてよ。父さんのこと」

 

 それからボクとロックは、父さんの話をし続けた。

 ウォーロックがFM王からアンドロメダの鍵を盗んだこと。

 その騒動に乗じて父さんを電波化し、逃がしたこと。

 騒動中父さんとははぐれ、今父さんがどうなっているかは分からないこと。

 

 結果的には大まかな出来事は全て記憶の通りだったが、有意義な時間だったと思う。父さんとロックが知り合いなのは知っていたが、ボクや地球の話をするくらい仲良くなっていたのは知らなかった。それに、少しだけ目標が増えた。

 

「電波化した人間はどれくらい持つの?」

「基本、デリートされない限りずっとそのままだ。飯も要らなきゃ眠りも要らねぇ」

「そう、じゃあ、契約内容に一つ追加しても良い?」

「……あぁ、そういうことか。いいぜ、付き合ってやる」

 

 ロックを見る。その顔にはどこか、覚悟が浮かんでいるような気がした。もしかしたらロックは、最初からそのつもりだったのかもしれない。

 

 世界を救った後は、父さんを探そう。あの宇宙のどこかにきっといる。

 根拠は無いけどそう思うんだ。

 

 

 そうして決意を新たにしてから三日後。相変わらずボク達は展望台にいた。違う点と言えば、既に電波変換も済ませ、ウェーブロード上で仁王立ちしてるくらい。

 

「お、来たぜ」

「ボクにも見えたよ。じゃ、今度はバスターだけで」

「うへぇ、意外と疲れるんだぜあれ」

 

 嫌そうな表情を浮かべるロック(左手)を宥めつつ、今まさにウェーブロードに降って来た電波ウィルス達を処理していく。既に慣れた作業にだった。

 

 契約が成立したあの後、ロックと話し合い今後の方針を決めた。

 やられる前にやれ。それがボク達の結論だ。ひとまず、FM星人は見つけ次第各個撃破していく。それもできれば電波変換前に。

 肩慣らしをしたいというロックの言葉もあり、暇な時間はFM星人の捜索がてらウィルス相手に戦闘や検証の繰り返しだった。お陰で今や自宅周辺どころか町全体にウィルスの姿はほとんどない。多少やり過ぎた気がしないでもないが、今後を考えるとそれでも足りないくらいだ。まだまだボク(・・)には経験が必要なのだから。

 

「だからってわざわざ宇宙から飛んでくるウィルスを出待ちたぁ、どっちがワルモノか分かんねぇな」

「元々わる~い宇宙人でしょ、ロック」

「ヘッ、ちげぇねェ!」

 

 軽口を叩きながら、既に最後の一体となったウィルスの攻撃を避ける。ついでにチャージしておいたロックバスターを近距離でぶち当てて、戦闘終了だ。さっさとリザルトを流し、また空を見上げて仁王立ち。こうしていると、まだコダマタウンにウィルスが沢山いた時が懐かしく感じる。

 時には町中の人のトランサーを覗き見たり、話を聞いて悩みを解決したり、電波ウィルスと電波変換した存在──ジャミンガーと戦闘もあったが、FM星人の手掛かりは未だ見つかっていない。

 

「スバル、休憩の時間だ」

「え、もうそんな時間? ……うわ、ホントだ。電波変換解除、っと」

 

 相も変わらず何の変哲もない空を見上げていると、不意にロックから声がかかる。時計を見ると、既にこの作業を始めて数時間が経過していた。そのまま変換を解除し、数時間ぶりに大地を踏みしめる。

 

「なんか、不思議な感じ」

「寝てる時以外は電波変換してる時間の方がなげーんだ。そりゃそうなるぜ」

「はは、まるで宇宙飛行士だね」

「笑いごとじゃねェっての」

 

 ロックのお小言を聞き流しながら帰り道を歩く。言い出したのはロックの癖に、最近どうにもボクを休ませようとするのだ。肩慣らしはもう良いのだろうか。ボクはまだ足りない。

 ――と、コダマ小学校の近くを通りかかった時。視界の端にある人物を捉えた。その近くにも二人、合計三人のグループだ。何かを探すようにあたりを見回しており、ボクの方を見た途端──結構離れているはずのボクにもはっきり聞こえるような声量で、一人が叫ぶ。

 

「待ちなさい! やっと見つけたわ!」

 

 ずんずんとその人物は近づいて来る。地毛であろう自然な金髪(ナチュラルブランド)を伸ばし、縦ロールのツインテールにしているその人物は、数日前にも同じように声をかけてきた。

 それから暇な時はずっと電波変換していたのだから、彼女たちがボクを見つけられなかったのは当たり前だろう。

 

「今日こそ学校に来てもらうわ!」

 

 その自信満々の目で見つめられるのは、もう何度目のことだったか。

 

 




ちょっとリアルがクソ忙しくなってきたので更新難しいかもです。

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