おっぱいはせいぎ   作:黒マメファナ

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瑠唯さんは基本的に雰囲気違っていいと思います


第14話:コメディ展開にならない相手

 ちょっと片付けとか受付でゴタついて、終わりが二十分ほど遅れたのにも関わらず、瑠唯さんはお店の前で優雅に待ってくれていた。瑠唯さんは身長が高いからそれほど見上げるまでもない十センチほどを僅かに視線で合わせて、それからまるで台本をそのままなぞるような口調で随分と遅くなりましたねとトゲを刺された。

 

「ごめん、受付が混んでて」

「そのようですね、三十分ほどヒトの出入りが激しかったようですから」

 

 チクチクと、とは思うけどまぁそれでちょっと外に出て忙しいから待っててと言えなかった俺にも落ち度がないわけではない。その隙や他のヒトに無理やり押し付けて帰るって選択ももちろんあっただろうし。そうしなかったのは俺の怠慢だ……ってもうバイト終わったんだった。マジメモード終わり! おっぱい! 瑠唯さんは腕を組むのがデフォというかクセのようなので強調されてイイネ! 

 

「ふぅ、それで」

「さっきの話が中途半端だったので、そのままで帰るのはのちに支障が出ます」

 

 中途半端というかほとんど雑談だった気がする。そういうのは効率が悪くない? と思うけど、訊きたいことがあったんだからそっちを今日消化したいってハラなんだろうね。じゃあついでにメシでもどう? とちょっとだけ意識しちゃうような誘いをするといいですねとなんともまぁあっさりと承諾されてしまった。場所は、まぁ近いところファミレスでもと誘い、そして歩いている途中だった。ポツポツとし出したと思った次の瞬間、バケツをひっくり返したような、目の前が煙るほどの雨が降り始めた。

 

「うげ、マジで?」

「……予報にはありませんでしたね」

「って、それより楽器ヤバい! とりあえず近場……俺んちに!」

「……はい」

 

 ちょうど近くに俺んちあったから助かったけど、服はずぶ濡れ……ということで、長い長い回想でしたとさ。現在目の前にはおそらくノーブラノーパンで俺のロングパーカーと、ちょい暑いだろうけどスウェットを装備してコーヒーを飲んでいた。つか母さんいねーと思ったら友達と泊まりだと。クソったれが。

 

「そ、そういえば」

「はい」

「電話越しの演奏、よかったよ」

「よかった、ですか……調和も何もかもを度外視してしまったのですが」

「やっぱりさ、俺は音楽に感情が乗ってる方が好きだよ」

 

 とりあえず気まずいので俺から言いたかったことを消化していく瑠唯さんはそういうのを苦手にしてるかもしれないけど、気持ちの乗った演奏ってのはやっぱりその気持ちをちゃんと音でオーディエンスに伝えてくれるものだと思うんだ。音程とか、技術とかだけが音楽じゃない、少なくとも現代音楽はそうだって思うよ。

 

「あなたは」

「ん?」

「あなたには、少し興味があります」

「へ?」

 

 ちょっと待って前のめりにならないで前のめりに……ってこのネタ前にやったな。でもいつもよりもぷるんと揺らされると、ドキっとしてしまう。そういや前にひまりが羽沢珈琲店の二人席で独りだれてるところを目撃した時に、おっぱいが重いからクセで机に乗せるのがフツーだと言い張ってたな。あれはよかった、じゃなくて瑠唯さんもするのかな、なんかしそうにないぞひまり。

 

「私から見てあなたには才能がある。音楽に携わるものとしての才能が」

「……買い被りだよ」

「その目と耳があるのに?」

「だからそれが」

 

 真剣な目だった。瑠唯さん相手におちゃらけたおっぱいトークもできやしないし、こんなテンプレのラブコメ展開なのにひまりやましろちゃんのような感じに持っていくこともできやしない。マジメで真摯な目が、紳士とか言いつつただ逃げ続けてるだけの俺にシリアス展開を突き付けてくる。いいじゃんそんな過去とかどうだって、俺はおっぱいはせいぎってふざけた主義の男で、宗山大輔なんて名前もロクに呼ばれることのない、ただおっぱいおっぱいって女性の一部分に興奮して喚き散らす愉快で不愉快な存在、それでいいじゃんか。

 

「何か理由があるのではないのですか?」

「ねぇよ」

「は?」

「ねーって、んなもんどこにも。俺はステージ立つほどの努力をしてない、それだけ」

 

 才能、あったかもしれない。もしかしたら、努力を重ねればステージに立つ側だったのかもしれない。だけど俺にはその努力をしてこなかった、いや、そういうモノに触れようとすら思わなかった。大した理由じゃない、ただなんとなく、なんとなくそういう生き方をしてこなかっただけ。親に反対されたワケでもそれが原因でトラウマがあるわけでもなんでもない。なんとなくだ。それ以上の理由はないよ。

 

「俺の人生なんてつまんないもんだよ。とてもベストセラーには、それどころかネットに上げたとしても反応がもらえそうなものじゃないよ」

「……なんとなくで、諦められるものなの?」

「大半の人間は、そうでしょ」

 

 ガールズバンドってジャンルにのめり込み、その一瞬の煌めきがいつかの自分のためになるって全てを掛けてる瑠唯さんたち、みんなには到底想像もできないだろうけど。大半の人間はこの瞬間が将来にどうつながるかなんてものを考えて生きてるわけじゃない。俺だっておっぱいが好きって個性だけど、これが将来になるかなんて思うわけないじゃん。行きつく先は性犯罪者か? 

 

「……私は、音楽を一度見限った立場だわ」

「見限った?」

「ええ、この世界は一番ではないと価値がない。そう信じて生きてきた私にとって、なまじ才能があったとしても、一位にはなれなかった音楽に、意味なんてない。そう思っていたわ」

「でも今は」

「ええ今は、価値とか意味とか、それを越えたものを探している。人生で言うならきっと回り道なのでしょうけれど」

 

 その言葉で瑠唯さんがどうして俺を気にしているのかがわかった気がした。どうして音楽を諦めたのかって訊いたのもそれか。なんとなくどころか具体的な理由があっても自分は諦められなかったから。でも、俺はその問いかけに納得させるような答えを持ってない。

 

「なんとなくだから……ですか」

「そもそも諦めるとかじゃなくて挑戦してないってだけ」

「挑戦、していない」

 

 チャレンジ精神大事っていうけどさ、そういう人生を変えるほどのチャレンジってやっぱ尻込みするわけじゃん。だからテキトーにガールズバンドのオタクやって、それ関連でバイトして、趣味の範囲で終わらせる。そういうくだらないモブの生き方をしてるだけなわけよ。

 

「それこそ、人間関係だって」

「人間関係?」

「……あーえっと」

 

 やっべ口滑った。シリアスだからって俺がべらべらと語りすぎるのはよくないことだとは思ってたけど人間関係の話なんて瑠唯さんが把握してるわけねーじゃん。いやぁでもこれ嘘は通じなさそうだし言えよってオーラ感じるなぁ、むしろオーラぶつけてきてる。気当たりを感じられるとは俺も戦士になったのかもしれない。

 

「毎度言われるんだよなぁ、誰々と付き合ってるの? みたいなこと」

「倉田さんと付き合っているのでしょう?」

「……はい出た」

 

 はいはい出たましろちゃんね、今何票持ってるんだろう。強いのがひまりとましろちゃん、次点でつくし大穴が燐子さんってとこかな。そんな反応をすると瑠唯さんのリアクションが一瞬固まった。どうやらマジで付き合ってると思っていたらしい。付き合ってるわけ、そもそもそうしたら瑠唯さんをお食事に誘った挙句雨にかこつけて家に上げる俺、浮気者すぎんか? 

 

「確かに、軽率には違いありませんね」

「でしょう!」

「……よかった」

 

 椅子に背中を預けてほっとされる。揺れる、揺れるけどこれはなんか見ちゃいけない気がする。なにせあの下は生おっぱいかと思うと喉が鳴ってしまうよゴクリ。まぁ確かにバンド仲間のカレシの家に上がって薄着とかなんて言ったらいいのかわからんくなるだろうしな。

 

「サイト見たら通り雨だって、乾燥機終わって止んだらまたメシでもどう?」

「……そうですか、ええ、いいですね」

 

 ほっとしたせいで腹減ってたことを思い出しそう提案すると、瑠唯さんはいつもの無表情で頷いてくれた。だからたぶん、いや絶対に気のせいだとは思うんだけど。

 ──まさかね、実際に雨が止んで乾燥機が終わった音を聴いて取りにいくその横顔が、とっても不満げだったなんてきっと角度の問題だったんだろうね。

 




おっぱいヒロイン図鑑
№08ビッグセブンの静かなる令嬢:八潮瑠唯
 どちらがでかいんだ……と燐子の不動の一位を揺らすほどのボリュームを持つビッグセブンの二番手(暫定順位)。バイト先に一番足を運ぶのは彼女でもある。
 彼女にとって彼はつくしの幼馴染の一つ上でありガールズバンドのオタクもやっていることもあり、同時に居心地のいい相手でもある。

結論:おや、おやおやぁ~? もしかすると、もしかするかもしれませんよ(名探偵)

ということで、次回はまた別のヒトの回で!
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