お昼ちょっと前、いつもの羽沢珈琲店とは違うけれどおしゃれな感じのカフェ&レストランの前で俺は氷川紗夜さんと列の最前に並んでいた。今日の紗夜さん、暑いんだろうなぁとは思いつつも露出少なめキッチリカッチリ服装で、安心感があるね。
「二名でお待ちのソウヤマ様~」
「……俺の名前で予約したんですか?」
「ええ、なにか?」
「別に、なんもないっすけど」
ヒカワ様の方が文字数少ないし絶対呼びやすいじゃん。そんなことを思ったけど言葉にする前に紗夜さんはスタスタとスタッフさんについていってしまうので慌てて追いかける。そのまま前にいた紗夜さんが奥の席、俺が手前の席に座りメニューを見る。思ったよりガッツリ目のもあるけど、夜はなんかレストラン的なヤツだったから軽めにしとこ。
「……さて、何から話すべきでしょうか」
メニューが決まり注文し、そしてちょっぱやで飲み物がそれぞれの前に置かれたタイミングで紗夜さんが口を開いた。そ、そうだった。お昼食べながらとはいえ呼び出しなんだよな。ちょっとした緊張感で俺は背筋が伸びる。うーん、穏やかな川だ。和むというか無理におっぱい! ってテンション上げずに済むのはある意味アドかもしれない。
「あなた、自分の視線が気づかれてないと思っているのですか?」
「……ハイ」
あ、これガチ説教だ。まるで某幽霊バトルマンガの敵キャラみたいなセリフが紗夜さんから飛び出してきてさっきとは別の意味で背中が伸びる。というか紗夜さん、そのくだり、短い間につくし、ひまり、瑠唯さんでやってるんです。そうするとましろちゃんだけ気づいて……いやんなワケないよな。流石のましろちゃんでもそのくらいは意識してくれないとマジで悪い男に騙されるからな。男なんてみんなおっぱい目当てのクズばかりだ、特に俺は。
「白金さんは気づいている素振りがない……などと言いませんよね?」
「むしろ燐子さんは視線に敏感だ、みたいなことをあこちゃんから」
これ二ヶ月くらい前の会話ね。俺それ知った瞬間ヒエって声に出そうになったもん。ただなんにも言われないし怖がられてるとかそういう感じもないからまぁいいやって放置しちゃいましたごめんなさい。放置するのはゲームとプレイの時だけにします。
「まぁ確かに白金さんから、それが嫌だと相談されたわけではありませんが」
「……紗夜さんからしたら不快だと」
「そもそもの話です。比べられて愉快だと思いますか?」
「申し訳ありませんでした。スイーツでもなんでも好きなものを食べてくださいホントマジでごめんなさい」
──悪い、俺死んだわ!
マジ土下座したい。いや今すぐ許されるなら地面に頭付けて紗夜さんに謝罪した上で死にたい。比べました、マジで見比べてボリューミーに胸やけしたからあっさり氷川でとか考えてました。失礼すぎてることは承知だけどやめられないし止まらなかったよ。
「謝意がお金とは」
「命でも」
「……そこまでは言ってません」
生きていいって! 俺、生きたい! まだ生きてたい! そんな生きる喜びを感じていると紗夜さんがコホンと咳払いをして厳しい顔ながら、あなたはそうやって視線がふらふらするから現状維持しかできないのです、と説教された。え、なんの説教? なんのこと?
「なんのことって……あなたと白金さんの進展です」
「はい? ちょ、ちょっと待って」
「なんですか」
進展ってなに? つか最初から紗夜さんの思ってること言ってもらっていい? たぶん致命的な勘違いあると思うから。そう言うとそんなはずは、みたいな顔をした後にゆっくりと自分の思考回路を机に並べてくれた。
「あなたは胸が、それもより丸みがありふくよかな胸が好き、ですね」
「……はい、バレてんのか」
「見比べた際の反応で」
この時点で汗ダッラダラです。おっぱいのない女の子におおきいおっぱいが好きなのバレる恐怖ってなんでしょうね、しかも相手は永久凍結使いの氷川紗夜さんだ。俺嫌われてるっぽいし、さらに友達の燐子さんがそういう目で見られてるって知った場合の紗夜さんは本来なら即死刑と言い放ってもおかしくない。だけど、次からの言葉が俺の口を大きく開けさせることになった。
「そんな理由で、とは思いますが幸い白金さんも嫌悪しているわけではなさそうですし、あなたも……別にそれほど性格に問題があるというわけではありませんから。アプローチというものをしてもいいのでは、と言いたくて呼び出したのです」
「そういうことですか~」
「ええ、それでどうしてアプローチされないのですか?」
「まずね……うん、俺別に大きいおっぱいが好きでも燐子さんが好きなわけじゃねぇンだ」
付き合ってる? じゃなくて好きなんでしょ? はよ付き合え、は初めてのパターンだなぁ。まさか紗夜さん公認だなんて嬉しい限りだけど、すいません恋愛感情ないんです。ただ俺は大きいおっぱいを拝んでありがたやって感謝を捧げてるだけなんです。邪な心はあるけど付き合っておっぱいをどうこうしたいとかはねぇんスわ。
「え、でも……好みだと」
「性癖と女性の好みは違うんですよ紗夜さん」
「……わからないわ」
そも自分の女性の好み把握してないけどね俺。でも付き合いたい、好きって思った子はいなくてもヤバ、おっぱい! はいるってだけです。たとえそれで紗夜さんにあなたの言う大きなおっぱいが好きと私が言う大きなおっぱいが好き、そこになんの違いもありはしないでしょうと言われても大きな声で違うのだ! って言うしかないのだ! だーいすきなのはあくまでおっぱいであっておっぱいをぶら下げた女の子ではないのだ。
「理解してほしい、とは思いませんがとりあえず俺が燐子さんのことを好きはないです」
「ないなら二度と白金さんの胸を見ないでください」
「それは無理です」
「なぜですか?」
「そこにおっぱいがあるからです」
ヒトは山を登らずにはいられない、なぜならそこに山があるから。揺れたり震えたりしたら視線が吸われるのは自明の理なのです。というわけなんですがなんでプール反対してたかは理解しました。俺が紗夜さん燐子さんを交互に見て癒しを得ようとする卑しい視線が嫌だから、ですね。
「そうです」
「だったらあこちゃんにうまく説得しといてくださいよ」
「……ですね」
まぁ、まぁまぁ紗夜さんの言いたいこともわからなくないよ。プールの話じゃなくて、俺が大きいおっぱいを持ってる女の子が好きじゃないのって疑問の話ね。そこまで女性の特徴的な一部分に情熱を持ちながらどうして、そういった恋愛感情が湧かないの? ってことですもんね。
「じゃあ逆に紗夜さんに小さなおっぱいが好きですってヒトが告白してきたらどう思いますか」
「小さいと思った時点でその男性の目を潰します」
「怖すぎんだろ」
思わず敬語忘れてツッコミ入れてしまった。えっとじゃあ紗夜さんのおっぱいがおっきくてそれで好きなんですって告白されたらどう思いますって質問の方が望んだイエスノーが訊けるんだろうか。
「……気持ち悪い、でしょうか、率直な感想で」
「うん、それでいいと思います」
「そしてその例えも不快です」
「コンプレックス傷つけてごめんなさい」
「いえ、そうではなく……私は、私という人格を好きになってほしい。そう、思ってしまうから」
私という人格を好きになってほしい、か。つまり内面とか色々なものを含めて氷川紗夜って一人の女の子として好きになってほしいってことか。じゃあやっぱり俺と紗夜さんが恋愛関係で理解し合えることなんてないんだろうね。
「私は、私の全てが嫌いだった。だけど今は……好きになりたいから、好きって言ってほしい。そんな子どものわがままに過ぎないわ」
「俺は……どうなんでしょうね。俺を好きになるようなヒトは好きじゃない、みたいなとこあります」
「……コンプレックスの塊で自己評価が低いから」
「バレます?」
「似たヒトを知っているから」
あーあ、にしても紗夜さんズルいや。俺の性癖知っといてその顔できるんだもん。昼ごはんを食べながら、そして後からご飯中にするお話ではありませんでしたねと言った紗夜さんに俺はそうやって文句が言えてしまうくらいに、彼女の笑みは優しい光を帯びていた。
おっぱいヒロイン図鑑
№07冷たい川の流れる風紀委員:氷川紗夜
アイスリバーさんの名前の如く激流のまないたさん。ゲーム仲間として途中参戦してきており、トゲトゲしい言葉が多い。
彼女にとって彼は最初こそ警戒すべき相手だったが、今ではすっかり牙を抜いている(つもり、本人的には)。彼のおっぱいに関する性癖を女性の好みと勘違いしている。性格によっぽどの難があるわけではないので親切心で燐子との関係を取り持ってあげようとしていた。だが勘違いだった模様。
結論:たぶん脈ナシ。でも別に嫌いじゃないわ!状態、どっちだよ!