麻弥さんと意気投合というか、今みたいに握手会に行っても楽しそうにおしゃべりをしてくれるようになったのは、彼女が偶々俺のバイト先にやってきたことが原因だった。機材の調子が悪くてどうしようと店長が頭を捻っていたところに颯爽と現れ、そして工具を楽しそうに使って修理してしまったというエピソードだった。
「あれ、いつもイベント来てくださってる方っスよね……?」
「ど、どうも」
それが何度か握手会に参加し、そしてその癒しの神おっぱいを拝んでいる存在だった大和麻弥さんが身近な神おっぱいとなった瞬間でもあった。以来、イベント終わりになると連絡をくれたり、一緒にご飯を食べたりとアイドル相手なのかと疑う日々があったんだよな。あったんだよなっていうか現状そうなってるとも言うけど。
「いやぁ、実はここのブレンド、アイスでもすごくおいしいってちょっとした話題のお店で……こっそり狙ってたんです」
「て、テキトーに入っただけなのに」
「一人で入る勇気がなくてどうしようと思っていたところに宗山さんがいてくださって助かりました、フヘヘ……」
渡りに舟でしたと恥ずかしそうに笑う麻弥さんは続けて何にしますかと訊ねてくる。いやこの状況で選ばれるのはアイスコーヒーでしょうよ。確かにメニューには暑い夏にぴったりのイチオシ商品として大々的に紹介されてて、ってクッソお高いですね! 価格三千円ブルーアイズマウンテンじゃん。そこまで高くないけど。
「ジブンはあのバンドはもうちょっとベースの音量を上げたほうがいいと思うんです!」
「あー、あの子マジでやってること地味に変態チックですよね」
「そう! サラっと目立たないところで、新曲のライブ映像見ました!?」
「俺現地行きましたよ」
「はぁ~! 羨ましいっス!」
アイドルとする会話じゃない。うん絶対アイドルとする会話じゃないただの同ジャンルについてうるさいオタク同士の会話だ。まぁ麻弥さんはホラ、お仕事忙しいからね。でもこの瑠唯さんと語り合うのとは違う雰囲気のあるバンド関係のトークは違った楽しみがある。
「音響とかが残念だと突入したくなるんスよねぇ……」
「そ、そうですか」
「いやそうじゃないでしょ! みたいな!」
ただ麻弥さんキラキラ笑顔なんだよなぁ。フツーにおっぱい以前に顔がいい。おっぱいもいい、最強すぎんか? こうしてすっかり言葉までオタクモードになっている自分がいて、麻弥さんもオタクモード全開で、いや同じジャンルの通がもう一人いるという安心感はすごい。できたらこれをおっぱい方面にも一人ほしいところだ。
「わ、ホントにおいしいっスよコレ」
「ほんとだ、なんというか、コクがある?」
「冷たいものって味覚が鈍くなる、って話は聞いたことありますが」
そうなんだ、と頷くと麻弥さんはちょっと自慢気に味覚についての知識を披露してくれる。博識麻弥さんの登場だ。そもそも一般の想像するアイスコーヒーって苦くて味がしないみたいな感じあるよね。でもこれはそれがない。かと言って酸味も控えめだしで値段にも納得の高級感まであるよ。
「これを……安く作る方法はないものでしょうか」
「相当気に入りました?」
「ええとても。ジブンはあんまり高級品とか、そういうの胃もたれしてしまう気がして苦手なんスけど……これはジブンの中にあったイメージの革命です!」
ちょろっと調べてみるとどうやらアイスには深煎りの方がいいらしい。この辺りはイヴちゃんも働いてる羽沢珈琲店のえーっと、そうそうつぐみちゃんね。あの子やそのお父さんに訊ねてみるのもアリじゃないかな。
「いいっスね……って、宗山さんって確か常連さんでしたよね?」
「俺ですか? まぁ暇な時はだいたいあそこにいますね」
癒し空間なんだよな、またの名をおっぱい特異点ともいう。ほぼほぼひまりの暇潰し相手させられてることの方が多いけど。それもまたおっぱい特異点のパワーである。そんなくだらないことを考えているとちょっとだけ困ったように、ですよねと呟いた。
──そうなんだよね、麻弥さんの住んでる範囲的に高校がひまりたちと同じってことも考慮すると結構近いところだと思うんだけど羽沢珈琲店で麻弥さんに会ったことは一度もないんだよな。え? もしかして俺避けられてる?
「え、ええっと……実は」
「避けてる……んですか」
かなりショッキングな事実に気づいてしまった。なんだろう俺、麻弥さんに避けられるようなことしたんだろうか。心当たりはないことはない。そもそもひまり理論でいくと麻弥さんも俺の視線に気づいてるという事実があれば避けられることは本来ならなんら不思議ではない。なんなら現状の意味がわからなくなるだけで。
「ああいや! 別に宗山さんと顔を合わせたくないとか嫌ってるとかじゃないんです!」
「……え?」
「むしろ宗山さんとは、そのオタク仲間のような親近感を覚えますし……その、ジブンなんかを最初の頃から応援してくださっているので」
「えっと、じゃあどうして?」
「ジブンのプライベートってガサツすぎて、今はほら、お仕事終わりでメイクもしてますし髪も、こういってはなんですがキマってるので」
だけど、完全プライベートだと化粧道具なんてほぼ持ち合わせてないためすっぴんだし髪もきっちり整えるわけじゃない。そんな女子力がない状態なんだと麻弥さんは明かしてくれた。えっと、つまりプライベートで会いたくなかった理由って?
「宗山さんに、普段のジブンを見て幻滅されるのが……怖くて」
「そうだったんですね」
正直、俺はメイクがうんぬんとかおしゃれがどうとかはよくわからない部類の人間だし。そもそも仕事終わりである麻弥さんの私服のセンスが悪いかどうかって訊ねられたらかわいいと思いますよって答える人間だ。そもそもダサいなぁと思っても否定はしたくないし。
「そういえば麻弥さんは自分に自信を持てないって言ってましたよね」
「そ、そうなんです」
なんかのラジオか番組か何かの時にそう言っているのを聞いた気がした。フツー自分に多少なりとも自信があるからこそアイドルやってんだろって思いがちなんだけど麻弥さん、元は裏方でパスパレのドラムが決まるまでのサポートメンバーだったんだよね。だったのに結局見つからずじまいで正規メンバーになったって経緯だもんな。結成秘話かなんかで見た。
「はい、だから最初はホントにジブンなんかがアイドルなんて……って、流石にお仕事の時はアイドルとしての心構えみたいなのはできてきたんスけど、プライベートとなるとやっぱり自信が」
「あはは、プライベートに自信が持てるヒトなんていませんって」
プライベートの自分に自信を持てるヒトなんて全体の何割いるんだろうか。少なくともつくしも俺も、俺の知り合いもプライベートの自分に自信満々で生きてるヒトなんて見たことがない。それこそ同じアイドルの白鷺千聖さんとか、なーんにも考えてなさそうな氷川日菜さんとそのお友達のめんどくさお嬢様とかは別だけど。
「俺なんて、ただガールズバンドおっかけてるだけのクソオタっすよ? それで自信満々になるわけないじゃないですか」
「宗山さん」
しかもおっぱい狂いときたもんだから最低辺のゴミもいいとこだ。ただ近づいていいおっぱいと近づくとヤベーおっぱいがいることには気づいてる。日菜さんとか弦巻嬢とかは間違いなく近づいてはいけないおっぱい。あと番犬がうるさいから花音さんもだめ。
「まぁ、なんですかね。次からは羽沢珈琲店で会ったらのんびりトークでもしましょ。俺は麻弥さんなら大歓迎なんで!」
「……フヘヘ、それならお言葉に甘えて」
そのタイミングでカラン、とアイスコーヒーの氷が溶けた音がした。それにしてもこのお店、今度誰かコーヒー党のヒトに教えたいくらいの感動だったな。コーヒー党、コーヒー党……うーんビッグセブンは瑠唯さんが紅茶、燐子さんおっぱ、じゃなくてミルク、ひまりがカフェオレ、ましろちゃんはオレンジかアップルジュース、イヴちゃん緑茶か抹茶、んで有咲が不明ってところか。誰もおらんのよな。
そうすると必然、一緒に行く相手は麻弥さんだけになる。向こうのお仕事忙しいし値段がアレなのでまぁ、それでバランス取れてるってことにしておくか。
おっぱいヒロイン図鑑
№05ビッグセブンのフヘヘな機材オタク:大和麻弥
上から呼んでも下から呼んでもやまとまや、上から見ても下から覗いても大ボリュームのおっぱい(最低)。アイドルという関連からイヴとのコンビも多く拝む対象。
彼女にとって彼はいつもイベントに来てくれて話が通じるオタ仲間っぽさがある。一方プライベートで会いすぎるともしかしたらジブンの女子力のなさに幻滅されそうで避ける傾向にあった。なのでプライベートの関わりは少なめだった。
結論:脈ある……??? いかんせんお互い自己評価が低いためアレな模様。
次回はイヴちゃんの出番ですよ!ブシドー!