もうすぐ八月、つまり誕生日が近いためお祝いしてもらったバイトの帰り、偶々花咲川の近くを通った時のことだった。まだまだ暑いその空気の中でちょっとした日陰で涼んでいる花音さんを見つけて、声を掛けようとしてから一瞬固まった。番犬いらっしゃると声を掛けただけでバウバウ吠えられるので勘弁してほしい。
「あ、宗山さんこんにちは」
「どうも」
「バイト帰りですか?」
そんな逡巡してる間に気づかれ先制で挨拶されてしまった。どうやらいないのかな? まぁ彼女おっぱいよろしくぽわぽわしてるから千聖さんいてもフツーに話掛けてくるんだけど。そんな警戒網を張っていると千聖ちゃんならいませんよと笑われてしまった。
「……誰待ちですか?」
「別の知り合いですよ」
「なら安心した」
お、濁された。千聖さんじゃなくてこの雰囲気だともしや……と邪推してしまう。なんか友達は友達、後輩なら後輩って言う。じゃあ知り合いってなんの時に使うかって、恋人を誤魔化してる時に使いたいって心理が働くらしい。そうだよな、俺も知り合いって紹介するヒトおらんもんな、あははは。
「──校門前に長時間男性がいると問題になるのでなるべくなら羽沢珈琲店くらいで待ち合わせてほしいところですが」
「あ、紗夜ちゃん」
「問題になるんスか」
「夏休みで生徒が少ないとはいえ女子校ですよ、ここ」
そんな邪推に妄想を重ねて失礼なことを考えていると氷の風紀委員、氷川ぺったんこ紗夜ちゃんさんがやってきた。つか紗夜ちゃん……ちゃん付けで呼ばれてるんですね紗夜さん。目線で送るといつも通り睨まれた。ごめんなさい。
「私、美咲ちゃん待ちなんだぁ」
「そうですか、ならこの不審者は?」
「バイト帰りで通りかかっただけ」
「知り合いだから声掛けたんだ……ごめんね?」
どうやらミサキちゃんという子を待っていたらしい。それがレズカップルなのかはわからないけど花音さんはどうやらカレシじゃなくても知り合いという単語を放つ匂わせの天才だったらしい。いいな、花音さんに知り合いだよって紹介されて匂わせたい。やっぱいいやあのシャイニングぺったんわんこにヒートエンドされたくない。
「花音さん、ごめんお待たせしました」
とか言ってる間にどうやら花音さんの待ち人がやってきたらしい。黒髪ボブでピンクの髪留めつけた、ちょっと飾り気がないのにかわいいというか美人というか、雰囲気も相まって俺の中で花音さんのカノジョ説が浮かび上がってきた。ただそうすると千聖さんとのドロドロが頭の中で妄想されるのはやっぱりてぇてくないな。
「大丈夫、宗山さんが話相手になってくれたから」
「宗山さん? えっとこっちの?」
「うん、知り合い」
「……知り合い」
ちょっとミサキちゃんさんが訝しむような視線を送ってきた。はい、匂わせ成功! 千聖さんいなかったら存分にしてくださいありがとうございます! 紗夜さんが苗字通り氷のような視線を向けてきてる気がするけど紗夜さんは割と優しいのでこういう時何も言わずに後で怒られるの知ってるからね! 後でならいくらでも土下座するぜ!
「いつも花音さんがお世話になっています、奥沢美咲です」
「いえいえ、こちらこそ宗山大輔です」
そんな事務的な会話をしていると続いてあれ奥沢さんまだ帰ってなかったの、ともう一人、ビッグおっぱいの金髪縦ロールツインテちゃんがひょっこり対仲良しモードの口調で話しかけ、そしてそのメンバーを見てびびったような顔をした。
「お疲れ有咲、生徒会?」
「お、おう……なんだこのメンツ」
「そうだった、もう行かないと」
「そうだね、それじゃあまたね……」
市ヶ谷有咲が発した言葉でスマホを確認した美咲ちゃんが花音さんを連れて行った。残ったのは俺とたぶん燐子さん待ちの紗夜さんと、ちょっと疲れた顔した有咲の三人。まぁこのメンツなら大丈夫……えっと俺がおっぱいに視線が吸い寄せられなかったら大丈夫でしょう。紗夜さん既に睨んできてるし。
「相変わらず女性関係ルーズですね……まさか市ヶ谷さんとまで知り合いだったなんて」
「う……たまたまですよ、ね有咲」
「ま、まぁ……成り行きというか、倉田さんが」
あ、それ以上はまずいと思ったけど紗夜さん眉を持ち上げて反応されていらっしゃった。紗夜さんは現時点で俺の性癖である巨乳好き、大きいおっぱいへの愛情を向けている知り合いが燐子さん、ひまり、イヴちゃん、たぶん麻弥さんで、あと花音さんで、その状態でもルーズだって怒られてるのに。もうだめだ……おしまいだ。
「なるほど、Morfonicaですか」
「……なんスか」
「言いたいこと、わかるのでは?」
ええとってもわかります、やったね以心伝心。うれしくないやい。でも紗夜さんだってモニカメンバーの憐れなベストフレンド以外はおっぱいが大きいことなんて知っているに決まってる。いやまじ、全部キセキというか偶然の出会いなんですよ。ホント信じて。俺おっぱい目当てにナンパするような男じゃないから。
「なんか……紗夜先輩と宗山さんって、結構仲いい? 感じなんですね」
「まぁゲーム友達だし」
「宗山さんっ」
「ゲーム?」
「ぼ、ボードゲームです。羽沢珈琲店で偶々、偶然です!」
あれ、もしかして紗夜さんってロゼ以外にネトゲ廃に足を突っ込みかけてること言ってない? いや家族であるおねーちゃんラブの妹さんにはバレてるのかもしれないけど、もしかして他のヒトには隠してる? と思って紗夜さんに目を向けたら黙ってろとでも言いたげな視線を合わせられた。目と目が合う瞬間にしゃべったら殺されると気づいたのはちーちゃん、じゃなくて千聖さん以来だった。
「──いや、それにしてもマジで宗山さん、人間関係複雑なんだな」
あの後すぐ燐子さんと合流し名残惜しくもおっぱいにサヨナラバイバイした俺はおっぱいと旅に、じゃなくて帰路についていた。あの二人はあそこからバンドの練習あるらしい、鉄人かよ。複雑かと言われても全然複雑じゃないよ。知り合いがこの近辺に多いってだけで。
「けど、ほぼ女子じゃんか」
「女子校近いし」
「じゃなくて、つか何回か会ってるけど全部別のヒトだし」
あれ、もしかしてまだ俺股掛けクソ野郎だと思われてる? 確かに初対面ましろでその次はひまり、燐子さん、今回は紗夜さんに花音さんだもんな。言われてもしゃーなしとも思うけど別にいっつもラブラブな雰囲気とか形成してなくない? それだったらたぶんお前ハーレムラブコメ系の世界に巻き込まれてるよって忠告するけど。
「いや、みんなと仲いいし」
「……有咲が内弁慶なだけでは」
「う、うるさいな! 私だって……ちょっとくらいは」
俺の知ってる有咲はなんだかんだ友達いっぱいいるイメージだけどね。イヴちゃんも俺が有咲と知り合ってるって知ってから高確率で有咲の話してくるし。バンド仲間とも仲良さそうだし。やまぶきベーカリーで会うあの子も結構有咲の話振ってくるよ。
「沙綾んちにも行くのか」
「ひまりに付き添って時々ね」
「そういやそんなこと言ってたな……だから私が混乱したわけだけど」
「それ詳しく」
「ん? だって倉田さんと付き合ってるのに上原さんとデートして、んで燐子先輩の手伝いしてイヴ……はまぁ誰にもあんな感じだけど、紗夜さんとも」
「スゲー勘違いだな」
合ってるけどね、ましろちゃんと付き合ってるって部分以外ほぼ事実だけど男女関係があるからそうなってるんじゃなくてフツーに燐子さんはネトゲのオフ会で知り合ってあこちゃんを挟んでれば会話できる程度だし、ひまりは俺のことボディガード扱いだし、紗夜さんはむしろ俺のこと嫌いじゃないかなってくらいだし。
「いや、あの態度は嫌ってねーだろ」
「そう?」
まぁ嫌われる態度ってのを知ってるから、そう考えると確かに紗夜さんは優しいというか友達として接してくれてるところはある。大きいおっぱいに視線を注ぎすぎるクセがなければって言われたしな。もうそこが俺のアイデンティティの九割九分九厘だからそれをダメ出しされたら代走要員がホームラン王と打点で比べられてるようなもんだけど。
「んじゃ、またな」
「おう、香澄ちゃんにもよろしく」
「言っとく」
誤解はあんまりなんとかなってる感じはないけど、まぁ前の近づかんどこみたいなオーラは感じなくなったのがいい兆候だな。ただそう一歩引いたところから見るとやっぱり俺って女癖が悪いということになるんだろうか。別に誰が好きとかないし身体的な接触とかないんだけどなぁ。俺はちょっとまた認識を改めることにした。
おっぱいヒロイン図鑑
№10ビッグセブンのツンデレ縦ロール:市ヶ谷有咲
ビッグセブンという単語が生まれた直接の原因。それは二大巨乳には追い付かないもののひまりと同格の強者のおっぱいだった。
彼女にとって彼はましろにカレシだと紹介されている。だが沙綾からはひまりと仲がいいことを伝えられ、妙に生徒会メンバーとの仲がいいことも知ったため警戒してはいるが一応いいヒト扱い。訊いただけ偉い。
結論:大輔の女癖が悪い。脈以前の問題。
これでメインメンバー全員の図鑑が解放されましたただエキストラは№12までいるんだよなぁ……