部屋に戻って俺は息を吐く。汗掻いたしとっとと温泉に漬かりたいと俺は個室の露天風呂に向かっていく。
──それにしても、卓球勝負はヤバかった。なにがって揺れる。マジで揺れる。スマッシュ打つたびにたゆんと揺れて俺を惑わせてくるもんだからデュースにまで持ち込まれて大変だった。
「あー、強いじゃん大輔!」
「いや、ひまりに追い込まれてる時点で弱いって」
元部長なのにな。そりゃあ手加減はもちろんした。じゃないと面白くも揺れるおっぱいも見れないし。だけど最後の一点取った時なんて本気だったよ。でもひまりはその答えが何か不満だったようで、もうと膨れていた。
「じゃあ勝った報酬をあげないと」
「情報提供、だっけ?」
「……まぁ大輔にとっていいこと、とは言ってないけど!」
え、それもう詐欺の手口じゃない? 卑怯じゃんそれ! そう抗議するも知りませーんと笑ってからひまりは少し時間を置いて、大輔はホントに恋人作らないの? と俺に問いかけてきた。恋人って作るものだったのか、あれか水がどんだけで炭素とアンモニアと石灰と……ってやつ。無から恋人は作らないし特定の誰かと付き合うつもりもないよ。
「うん、だけど今この旅行に来てるヒトの中に大輔が今、本気で好きだーって言ったら応えてくれる、カノジョになってくれるヒトが二人、頑張っていけば付き合えるヒトが二人いるよ」
「……なんだそれ」
具体的でちょっと怖いこと言うなよ。そんな風に困ってみせるがひまりはホントホントと笑みを向けてくるだけ。まるでギャルゲの親友ポジみたいな詳しさで、万が一俺が主人公って言ってもそういうのつくしの役目じゃねと思ってしまう。
「信じられないと思うけど、事実なんだよ」
「そっか」
嘘とか冗談の類であってほしいと思ったよ。恋愛ってなに、ラブコメ展開には憧れないこともないけど誰かと付き合って、誰かの傍に立ってることが想像つかなさすぎて。もし告白されたとしても、そんなの全部断るに決まってる。俺にとって大事なものはおっぱいであってやっぱり誰かと付き合うことじゃない。
「まぁ、大輔ならそう言うと思った」
「……ごめん」
「ううん、私は大輔のこと好きだもん」
「え、ちょ」
「あはは、違う違う! 四人の中のヒトリってわけじゃないよ!」
このタイミングで好きって言うの狙ってんだろと思ったらやっぱり狙っていたようでからかわれたらしい。ひまりはそういうやつだ。お気楽っぽいけど相手のことちゃんと見ていて、それでしょうがないなぁって顔で俺に寄り添ってくれる。
「俺も、ひまりのこと好きだな」
「えー、カレシにするのはなぁ、浮気癖なかったらもうワンチャンあったかも……なんて!」
「ったく」
「でも味方でいてあげるよ。女癖悪いのは直したほうがいいけど!」
「俺の女癖が、悪いか」
ひまりはじゃないとこの状況は生まれなかったよと文句を言われて、俺は俯いた。誰かとは教えてくれなくて、教えると俺があまりにヒドイ態度をとるからと断られてしまった。俺の味方じゃないのかよ、と思ったらそれを読んだ上でそれは大輔を不幸にするからねとカッコいいことを言って別れた。
「誰だよ……」
いや一人はなんとなく察した。流石の自己評価ゴミクズの俺でもね、この中にあなたのことを好きな女の子がいますって言われれば即座に好感度順くらいには並べられるんだよ。その中で一人、ひまりの勘違いがなければ一人は確実な子がいるんだよな。
──思えば、最初から色々とおかしい言動はあった。やたらと距離が近いし、仲良しアピールしたがるし、何より顕著だったのは今回の旅行だ。
「あ、お帰り、お風呂どうだった?」
「めちゃよかった、つか大浴場じゃないから使いたい放題なのはいいな」
「確かにね、わたしたちは時間で分けたほうがいいってなったよ」
「マジで修学旅行みたいだな」
「ね、わたしも入っちゃおうかな……?」
「いいんじゃ……ん?」
待て、なんかいるな? サラっと会話したけどなんか部屋に荷物が増えてて……って荷物!? しかもこの荷物ってましろちゃんの? 待って俺今ましろちゃんと会話して、と思ったら向こうからひろーいと声が……あ、手遅れだった。
『もしもーし、どしたの大輔? 大浴場の時間割なら教えないよ』
「そこは教えろよベストフレンド! じゃなくて、ましろちゃんこっちにいるんだけど」
『え? さっきお土産見に行くって言って……あ、荷物ない!』
『ふーすけどしたの?』
『電話? 宗山さんから?』
なにしてんのアンタら全員そろって。いや荷物持ってステルスこいたましろちゃんがすごいのか? いやいや待てって、そりゃね、昨日までの俺ならパニックにはなっただろうけどお風呂上がりのましろちゃんの白ふわおっぱいをゆっくり眺めながら事情を訊けばいっかーとでも言うところなんだろうけど。ひまりのおかげでよくないことだけは判明してんだよなぁ! なーにが俺が今、本気で好きだーって告白すればカノジョになってくれる、だ! 既成事実作りに来てるだろあの子!
『もしもし』
「あ、瑠唯さん。悪いけどましろちゃん回収に来てくれると嬉しい」
『……倉田さんは、とっくに手遅れよ』
諦めんなよ! どうしてそこで諦めるんだよ! と熱くなったところで瑠唯さんから冷静沈着の冷や水を浴びせてくるような言葉が俺の胸を刺した。曰く、ましろちゃんに瑠唯さんは以前どういう関係なの? 問いかけたことがあるらしい。ちょうど瑠唯さんが俺んちで服を乾かした次の日だ。
『そこで彼女、先輩は恋人なんだよって言い切ったわ』
「……は?」
『私も混乱したわ、あなたも倉田さんも嘘を吐いていなかったから』
想像のナナメ上どころか真上を突き抜けるような衝撃の事実が瑠唯さんから告げられた。だからあの後バイト先に来た時に本当に付き合っていないのね? とかいうことを聞いたんだね。瑠唯さんそん時に教えてくれよ。無理か、というかたぶんましろちゃんと付き合ってるんだよね的な発言を各所から訊ねられた理由も今はっきりわかったわ。
『……ひとまず、ご飯の時間までは耐えてることね』
「無茶言ったね?」
る、瑠唯さーん! そう言って瑠唯さんはフェードアウトしてそういうことだからとつくしの声が続いて電話が切れた。クソ、後で絶対瑠唯さんの風呂上りおっぱいを眺めに眺めてやる! こうなったらセクハラだこのやろう! いつもしてるぞこのやろう!
「せ、先輩」
しばらくどうしようどうしようと考えているうちに脱衣所からましろちゃんがやってきた。浴衣姿のましろちゃんになんとかして勘違いを解かないと! という焦りの思考回路がおっぱいで埋め尽くされる。しっとりとした風呂上りの雰囲気に和服ながら湯気が上がりそうなおっぱいの谷間が俺の喉を鳴らした。
「あの、ね?」
「な、なんでしょう?」
「……そんな見られると恥ずかしいよ」
さっと胸元を隠され、顔を赤らめられる。普段だったらそこで畳ということもあり素早く土下座するところだけど俺は言葉が出てこない。なんとかしなきゃという気持ちとおっぱいが見たいという欲望に俺の心が半分こ半分このヒートメタルだ。
「髪、乾かしてほしくて」
「え、俺?」
「自分だとうまくいかなくてさ……先輩が上手だよってつくしちゃんが言ってたから」
余計なこと教えてんじゃねぇぞつくしぃ! お前ひとりでできるもんロープレどこに置いてきたんだよ! ただ、まぁつくしが一人で上手にできないって泣きついてきてそれを俺がなんとか調べながらキレイにしてやって以来、たまに嫌なことあると、わざわざ俺んちの風呂借りてまで頼んでくるんだからタチ悪いんだよ。
「なぁ、ましろちゃん」
「……ん?」
「いや、ましろちゃんって俺のどこが好きになったのかなって」
「えっ……えっと、えっと……全部!」
「全部、か」
自分の全部を好きになってくれる。かわいい子にそんなこと言ってもらえるのはすごく嬉しいことなんだろう。いいところも悪いところもあって、そんな全部を内包して好きだと笑ってくれる。恋をしてくれる。そういうのに心揺らぐことこそがラブコメ展開の本筋なのだろう。
──だけど、だけれど、俺はだからこそ言いたい。俺は、ゆっくりと息を吐いた。するとどうだろう、肩越しに見えるおっぱいにも心が湧きたつことなく冷静になっていく。
「俺は自分の全部を見せたつもりないけどね」
「……え」
「はい、おしまい」
「あ、うん……ありがと」
全部を見せたことがある人物はこの世界でたった一人、二葉つくしだけだ。つくしだけが俺の全てを知ってる。知った上でつくしは大輔と付き合うことは絶対にありえないと明言してるし、俺もつくしもその気持ちに甘えて今日まで親友としてやってきた。ここに十年以上の重みがあるのに、どうして数ヶ月のましろちゃんが、全部を言い切るのだろう。なんでそんな嬉しそうな顔で俺を好きって笑うのだろう。だから、嫌いだ。
「わたし、やっぱり今日ここで寝てもいいかな? ほら前はそういう予定だったから──」
「俺は付き合ったつもりなんてないよ、
「──っ!」
ほらなひまり、俺が恋愛展開になることはイコールとしてロクな目に遭うわけないじゃないか。だって最初のラブコメが自分と付き合ってると勘違いして部屋までやってくる幼馴染の友達、なんだから。本当に──ロクでもねぇな。
おっぱいヒロイン図鑑(裏)
№01私がカノジョだもん!:倉田ましろ
ある意味裏も表もなく純粋に恋人関係勘違いを幸せいっぱいに堪能しているが、一方で恋人らしいふれあい、実感を欲し始めている。付き合った記念日は五月のGWの時、第11話のプレゼントは彼女なりのサプライズ二ヶ月記念のプレゼントでもある。
同時に今回の旅行でキスを最低目標に、と考えてあわよくば抱いてもらおうとしていた。ましろ、僕はねとか言ってる場合じゃないぞ
え、ダーク大輔出てきちゃった……どうしよ。これが主流になるようならタイトル分けてコッチ完結にしちゃいます。