おっぱいはせいぎ   作:黒マメファナ

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したいんだよ!


第2話:プールデートがしたいよ!

 酷暑日ってもうなんか名前だけで溶けそうになる。焼けるような炎天下を避けることを忘れたように俺とましろちゃんはパラソルの下でかき氷を食べていた。俺のその視線は、ちょっとましろちゃんに向けては、また逃げてを繰り返す。

 

「……まだ慣れないの?」

「一生慣れない」

 

 そんなましろちゃんはかわいらしくもあり、だがそのスタイルの良さを前面に押し出した青色水玉のセパレートの水着で、下はフリルスカートみたいになっているものだった。今はプールから上がっていることもありおしりまで隠れる白色のロングパーカーみたいなラッシュガードを装備してはいるが。おっぱいなぁ、やっぱその露出度だと谷間がなぁ! 

 

「気になる? ドサクサに紛れてなら触ってもいいよ」

「セクハラ禁止です~」

 

 からかわれるような逆セクハラがいつもの会話となってしまい始めた八月の末頃、察しが悪くてもわかると思うけど俺とましろちゃんはプールにやってきていた。そのプールデートなんだけど、このきっかけがまたすごくましろちゃんのガンガンいこうぜみたいなスタイルなんだよな。

 

「ひまりさんから訊きました」

「なにを?」

「ナイトプール行ったって、二人で」

「……まぁ、約束してたし」

 

 行ったけどマジで何もなかったよ。ナンパ防止なのはそうだったんだけど、うらやまけしからんムフフなイベントも逆になかったよ! そう言うけどましろちゃんは頬を膨らませて不満をアピールしてくる。この子実はまだ俺のことカレシだと思ってない? なんでここでヤキモチ妬けるの? ヤバくない? 

 

「わたしも」

「言うと思った、やだ──」

「──って言うと思ってヒマな時をつくしちゃんに訊いてバッチリだし、なんならプールのチケットももらったから」

「準備万端!」

 

 逃げ道を瞬間的にふさがれたらもうどうしようもないんだよなぁ。俺は諦めてその三日間をましろちゃんのために使うことに……はて、三日間? ちょっと待って、どういうこと? プールなのに日帰りじゃないの? 

 

「一日目の夕方に到着して、ホテルで寝て」

「ホテル」

「翌日の朝イチのプール入って~」

「朝イチ」

「夕方まで遊んで、温泉入ってホテルのディナー食べて寝て、次の日のお昼に帰るの!」

「贅沢ゥ!」

 

 ましろちゃんがあどけない笑顔で言い放った計画に一体いくらお金がかかると思っているんだい! 染まってる! 完全にあの金持ちの集団に染まってるよましろちゃん! 正気に戻って! キミは富裕層側ではないはずだ! 

 

「ホテルもつくしちゃんが取ってくれたし、移動費はママが出してくれるって」

「……おかしくね?」

 

 おかしいとは思う。けどここまで外堀を埋められた俺に敵うはずがなく、結局折れてましろちゃんとのプールデートに来ていた。だが二泊、二泊である。当然部屋が分けられてるわけないし、幸いなのはベッドとベッドの間に隙間があったことだろうか。普通のホテルなので当然ある。一泊目はなんとか先日の技で耐えきった。寝顔見てたらいつの間にか寝落ちして朝起きたら一緒のベッドだった時は飛び上がったけど。

 

「日焼け止めは何回も塗るといいんだよ。ほら」

「ん、背中やってよ先輩」

「お、おう……」

「朝もやったじゃん、慣れようよ~」

 

 いやマジ、マジで慣れない。こんなの一生慣れるわけないじゃん。昨日やらされた髪を乾かすのとはワケが違うんだよ? いやましろちゃんのサラサラ髪に触れるのも若干ドキっとする時あるんだけどさ。

 ──ましろちゃんの背中、しかも素肌に触れてっていうのはなんか違うでしょ。うなじと、そこに結ばれた水着の紐とか、背中どころか腰まで素肌のこの状態とかおっぱいとかおっぱいとかおっぱいとか! 

 

「おっぱいに塗る?」

「塗りません」

 

 谷間に手を入れるの想像しちゃった。イエスおっぱいノータッチ! 俺は絶対にこのおっぱいに触れたりしないぞ! そんな覚悟を決めた俺は無心で塗り終わり、逆にましろちゃんが俺の背中に日焼け止めを塗ってくれる。

 

「……えい」

「ちょ、ましろちゃん? なにしてんの?」

「先輩の背中おっきいから、ぎゅってしたくなっちゃった、えへへ」

 

 背中越しに嬉しそうな声が発されるけど、ましろちゃんのボリュームじゃ当たり前だけどむぎゅっと柔らかい感触を伝えてくるのである。これが同じ人の肌なのかと感動するレベルの柔らかさである。二の腕とおっぱいの柔らかさは一緒っていうけどあれは絶対嘘、こっちのが断然柔らかい。

 

「……じゃなくて、なっちゃったじゃないよ、もう」

「ご、ごめんなさい」

「いや……怒ってるわけじゃなくて」

 

 いや割と怒り気味だった。でもこうやってフォローしてしまうのは、しゅんとされるとどうしても優しくしたくなるという、ましろちゃんのある種の魔性と言うべきものなのかもしれない。

 

「じゃあ、ぎゅってしたい」

「じゃあって」

「怒って、ないんでしょ?」

 

 まるで子どもが抱っこ、と甘えるように両手を広げてくる。あの、ヒトが割と見てるんだけど。言うと関係ないもんと頬を膨らませてきた。それに背中じゃなくて前からなんですか? おっぱいが前からダイレクトアタックしてくるんですか? もうやめて! 上から見える谷間にもう頭がどうにかなりそうなのに?

 

「……俺はましろちゃんのカレシじゃない」

「うん、でも好き」

「うぐ……そんな簡単に好きって言う」

「だって、前は言えなくて……後悔したから」

 

 そんな風に自嘲的に笑うましろちゃんの言葉に、俺は返す言葉がなかった。好きって言えなかったから、三ヶ月も遠回りして、お互い言いたいことなんにも言えずに表面だけの幸せをなぞっていた。おっぱいこそが正義だと信じて疑わない俺と、そんな俺と付き合ってると信じて疑わなかったましろちゃんとの、歪んだ間違いだらけの時間。

 

「ましろちゃん」

「……ほ、ほらっ、プール入ろうよ! ココにいても暑いだけだし!」

「待って」

 

 立ち上がり、空元気を振りまく彼女の手を俺は繋いでいく。流石にハグはできない……人目もあるし。だけど、手を繋ぐくらいなら。あとは、そうだな……流れるプールとか、波の出るプールとかでなら、もう少し距離が近くてもいいかもしれない。

 

「先輩?」

「ごめんね、こんな中途半端な男で」

 

 好きって気持ちを宙ぶらりんにしたまま付き合ってるわけでもなく、こうして誘われるままにデートをしている俺は、やっぱりましろちゃんのキラキラした好きって気持ちを受け取っていいような男じゃない気がする。

 

「そうだよね、先輩はおっぱいが好きって言う割にはわたしが触っていいよ、見ていいよってしても逃げるし」

「セクハラはしない主義だし、逆セクハラされる趣味もない」

「でも、そんな中途半端な先輩が好きなんだもん」

 

 ましろちゃんはすぐそれだ。俺がこれは悪いところだよ、こんなのが俺だよって言うのに。そんな先輩が好きって言葉で返してくるからずるい。彼女に引くって言葉はないのかってくらい、好きというキレイな花束を俺に渡し続けてくるんだよ。

 

「簡単なことだよ」

「簡単か?」

「うん、先輩がこれはなるほどなぁって納得しちゃう言葉」

「え?」

 

 ましろちゃんの精神構造を、しかも俺への好きという猛攻をなるほどなぁって納得する言葉があるんですか! それはぜひとも知りたい。めちゃくちゃ知りたい。浮き輪に乗って、流れるプールに流されるましろちゃんとはぐれないようにと掴まる俺に向かってとびっきりの笑顔を向けてきた。

 

「わたしにとっては先輩が正義だから! 大好きな先輩が傍にいてくれるのが、一番幸せだから!」

「……なるほどなぁ」

 

 俺にとっておっぱいが正義であって、大きなおっぱいが見れるのが一番幸せだったように、ってことか。なるほどなぁって思わず言っちゃったことで、クスクスと笑われてしまう。その笑顔がホントにキラキラしていて、嬉しそうな顔をしていて。

 

「勝てないよ……まったく」

 

 この時に俺は、俺は気づいてしまった。いつの間にか、ましろちゃんのおっぱいだけじゃなくて、人柄にも笑顔にも、なにもかもに惹かれていることに気づいた。

 ──きっと、あの温泉の時からそうだったんだろう。俺は、ましろちゃんが好きだ。どうしようもなく、好きになっていたんだ。

 




というわけで急展開? いやもう最初から好きだっただろオメー。
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