こうして急展開ながらも俺とましろちゃんは今度はお互いに勘違いなく恋人同士ということになった。交際ゼロ日であればどうかと思うんだけどね。でもまぁそれは俺たちのペースとしてはベストということで、これでめでたしめでたし。
──めでたし、でいいんだよね? ここから夏が終わってしばらくしたら別れそうになってたりして、そこからなんやかんやもうひと悶着ないとちゃんと付き合えないとか、そういうのないよね?
「いや、なんの相談?」
「相談っていうか、順調すぎるというか」
「アタシに言われてもな~」
時は夏も終わり、二学期が始まってしばらくした頃のこと。苦笑いをされてしまうけどしょうがない、リサさんにばったり会ったんだから。あとなんというか変わらない、変化がないのもそういう焦りを後押ししてるのかもしれない。
「別れる原因がないんだから、そもそも別れないでしょ」
「そんなもんなんですかね~」
「だからアタシに訊かないでってば」
なんというか、確かに付き合う前までは某日本一高い山の近くにあるジェットコースターや海辺にあるジェットコースターくらいに色々あったと思うけど、今はこう……うーん、刺激がない。ジェットコースターが観覧車になったくらいだ。
「んー、ドキドキだけが恋愛じゃないって思うけどな」
「いやでも、マジで付き合う、恋人になるって決めた日くらいまでドッキドキだったんですよ」
でも、朝チュンして至近距離でましろちゃんの笑顔を見た時も、手を繋いだ時も、別れ際に抱き締めた時もキスした時も、その時ほどドキドキしなくなって、最初はそんなもんかなって思ったけど、そこから何度かデートしてもホントにドキドキしなくて。
「じゃあましろのこと、好きじゃないの?」
「好きですね」
「……あれこれ、もしかしてアタシ惚気られてる?」
違います、真剣な相談ですよ! と言うけどリサさんもそれ以上はあーはいはいと聞き流してくる。くそう、まともに取り合ってもらえなくなった。そのまま俺はリサさんと別れてうんうん唸りながら帰路についていく。
「なに唸ってるの?」
「最近ましろちゃんにドキドキしないって相談だったのに、取り合ってもらえなかった」
「そっかぁ、ドキドキしないの?」
「うん、なんかほっとすることが多いんだよねぇ」
こうやって手を繋いでいても、なんか一緒にいる安心感こそあるけどもう手汗かいちゃうこともないし、笑顔はかわいいなぁって思うけどそれ以上はないし。俺は、もしかしてすごくダメなことをしてるんじゃないだろうかなんて心配がある。
「……って、ましろちゃん」
「考え事しながら受け答えしてたよ今」
「マジか」
「ちょっと構ってもらえなくて不満です」
隣にいつの間にかいたのはその恋人の倉田ましろちゃん。付き合った後も変わらず甘えんぼでガンガンいこうぜなスタイルでなんなら逆セクハラも普通にまだしてくる。時と場合を選べば俺としてはおっぱい一生触ってたい部類の人間なのでアレですが。
「不満だから、今日は先輩の家がいいな」
「……不満ならしょうがない」
「やった、えへへ」
俺のカノジョかわいすぎん? いかん、こんなメンタルだから惚気とか言われて真剣に取り合ってもらえなくなるんだ。でも自慢したい自分もいる。ましろちゃんはかわいくて、一緒にいると安心して、その安心感が好きだなぁって気持ちになる。
「ドキドキしないかぁ」
「ああでも、ドキドキしないけど好きって気持ちは確かだよ」
「うん、わたしもその気持ちはわかるよ。というか普段の先輩にいちいちドキドキしないし」
それ、元気よく言ったら俺へのダメージが入るんだけど。だけど、ましろちゃんは続けて、でも先輩のことが大好きだよと癒しオーラ全開の笑顔ではにかんでくる。ずるいね、相変わらずましろちゃんはずるい。でも恋することに関して俺がましろちゃんに敵うはずがないんだよな。ずっとずっと、俺を追いかけてくれた子なんだから。
「でも、ドキドキしなくてよかったって思うこともあるよ?」
「なんで?」
「だって、ドキドキしてたら……デートのたびに大変なことになっちゃうよ」
「……確かに」
そういう意味だとほっと安心する好きでよかったのかなぁとは思う。隣を歩くましろちゃんの一挙手一投足に心臓跳ねてたらそれはもう一種の病気なのかもしれない。元々恋の病だって言うくらいだし、間違ってないかもしれないけど。
「じゃあ、ましろちゃんは恋愛にドキドキがいらないって感じ?」
「んー、いらなくはない。ドキドキしたい」
「……俺じゃ、無理だけどね」
やっぱりそういうロマンチックさを求めるものらしい。だけど、まぁ元がおっぱいおっぱい連呼してた変態野郎ですから。そんな俺にロマンなんてものは求めるだけ無駄なんだろうな。まぁかくいう俺もおっぱい以外にはロマンはあんまりわかんないから。
「え、無理じゃないよ?」
そんな自嘲的な言葉は、ましろちゃんにあっさりと打ち砕かれる。どういうこと? と首を傾げるとちょっとだけ頬を赤くしながら、今からどうするの? と急に質問を変えて訊ねてくる。今からって、えっといつものパターンだと俺の部屋でイチャイチャして、そのうち自然とそういう感じになって、夜くらいまで寝て泊まるか泊まらないかはその時の気分、みたいな。
「それが、どうかした?」
「……えと、先輩に迫られるの、結構ドキドキするっていうか……コーフンする」
「それセクハラじゃね?」
「せ、先輩のセクハラ判定どうなってるの……?」
セクハラって相手が思ったらもうセクハラなんだぞと言うと恥ずかしいこと言わせた先輩の方がセクハラだもんと頬を膨らませてくる。くだらないケンカだ。ホントにくだらない。結局こんなの結論つくわけなくて、なんだかんだでお互いに好きって気持ちに流されちゃうのに。
「とにかく! わたしは先輩にドキドキできるから、大丈夫だよってこと!」
「そっか」
そうやって俺をのぞき込むように上目遣いをしてくるましろちゃんの首にほんのわずかにお揃いのネックレスが見えて、当時誰かさんにあげた時は金属アレルギーで着けてくれなかったのが割とショックだったし寂しかったなということを思い出した。
「ん?」
「いや……金属アレルギーがなくてよかったなって」
「そだね」
調べたところによると一応、金属アレルギーに対応したアクセサリーがないわけではないらしいのだが、そういうのを調べるのはパッチテストが必要らしいし、そもそも当時はもう、つくしと一緒にいることでもてはやされるのに辟易し始めているのと、年上のおっぱいのおっきな先輩に性癖歪まされてる最中だったから。対策もせずに、結局それっきりだった。
「でも着けすぎると痒くなっちゃうこともあるみたいだから、お部屋着いたらなるべく外そうね」
「だね」
「えっちする時も邪魔になる時あるし」
「……往来で」
「誰も聞いてないって」
そうでもないんだって、案外誰か聞いてるもんだよそういうの。でも、これからネックレスじゃなくて指輪ってなった時に痒いから外す、とか言われないようにしないと。ふとした呟きに、ましろちゃんはえっ、と驚きの声を出した。
「えっ、てどうした?」
「……それはずるい」
「なにが?」
「今のはドキドキさせるためにわざとでしょ!」
「いやなにが?」
──原因がさっぱりわからず俺は困惑するしかないところが余計に気に入らなかったようで、ましろちゃんは顔を赤くしながらばか! と家まで走っていく。いや俺の家なんだけど。母さんはどうやら二葉母と出掛けているらしい。必然二人きりなのが、ちょっとだけ恥ずかしいような、母さんに隠れなくていいことを安堵したらいいのか。
「ただいまー」
「おじゃまします」
「はいはい、っと、急に来たな」
「今日はいっぱい構ってくれないと離れないから!」
「元気よく宣言するな」
「ほらほら~、先輩の大好きなおっぱい触ってもいいんだよ~?」
「とりあえず部屋行ってから堪能させてもらいます」
「えっち」
誘導尋問では? あれこれ俺が悪いのか? やや納得いかないと思いながらも、俺はましろとドキドキしないんだけど、ちゃんと好きって思える時間を過ごしていく。ドキドキはしないかもしれないけどムラムラは割と頻繁にしてる気がすることを伝えると、ましろちゃんは部屋に入る前と同じことを、俺のベッドの枕に突っ伏しながらつぶやいたのだった。
おっぱいヒロイン図鑑(完全版)
№01わたしが大・大・大せいぎ!:倉田ましろ
きっかけはただ純粋に優しかったから。本当に男への免疫がなくて、嫌われがちな態度を取っても優しく接してくれる彼が笑ってくれるからと一緒に過ごしていた。本人としてはおっぱいのことしか考えていなかったが。おっぱいへの熱い想いを知ったことでそれを利用して、恥ずかしいとは思いながらも優しいだけの大輔に向かって手を伸ばし続けた故の勝利だった。
大輔がおっぱい好きということについては、見過ぎなのは気になるものの自分が持つものであるが故に、じゃあそれを武器にすればいいんだというある種の脳筋ゴリ押し。好きなヒトならオールオッケー。おっぱい、やはりおっぱいは全てを解決する(ただし大輔に限る)
というわけで倉田ましろ編完結となります! 次回は№02八潮瑠唯となりますので、また少し時間が空くかもしれませんがよろしくお願いします!