二度目となる瑠唯さんの襲来はとんでもなく突然起こった。いやもう一生ないと思っていたイベントに俺の心臓はドッキドキだよ! しかも、二度目の今回はウチに泊まるだなんて言い出すもんだからもう大変、俺の頭の中は混乱のおっぱいお花畑……はいつも通りか。
「おじゃまします」
何が問題っておっぱいなことだよね。むしろそうじゃなかったらここまで心臓が不整脈もかくやということもなかっただろう。それでもまだ平気なのは前回招いたことがあるという実績に他ならない。まぁ前回はお風呂と乾燥機貸しただけ。今回はそれに加えてご飯に泊まりなんだから。
「寝る場所なんだけど、俺の部屋でいい? つか俺ソファで寝るからベッド使う?」
「どちらでも大丈夫よ」
「なら」
うわー、うわー、なんか緊張する。誰かを招くって経験もないのにそれが女の子で、しかも瑠唯さんだっていうんだから、ここで緊張しなかったらきっと心臓に毛がフッサフサで将来の心配はしなくてよさそうだ。
「んで……っと、ちょい準備するんでくつろいでいて」
「ええ」
「テレビ自由に見ていいよ」
リモコンを手渡すと、瑠唯さんは大丈夫ですよと首を横に振った。スマホを取り出して動画を観ようとするから、よかったらとテレビに繋がるケーブルを見せる。映し出されたそれは色んなライブ映像だった。きっとスマホの中には俺の知ってるものから知らないものまで幅広いガールズバンドの映像があるんだろうなぁ。
「熱心というかストイックだね」
「いえ、私は元々こういった音楽形態に疎かったので、その差を埋めなければいけないのですから」
「それをストイックって言うと思うんだけど」
苦笑いしながら、俺は中学生の頃から研究に研究を重ねてたどり着いた、自分の舌に合うおいしいトリカラをすっかり慣れた手際で用意し始めていく。同時にスープを作っていく。中華風スープがあるとないとじゃやっぱ違うんだよな。アレンジで色んなもの掛けたりとかね。あと余ったのは小さく切ってチャーハンに入れるとか。
「……中華が好きなの?」
「え? いや、んー、子どもの頃よく外食してたのが中華風のチェーン店でさ」
家でもあの味が食べたい! じゃないけどさ、ああいうのをカッコよく作ってつくしを喜ばせたかったみたいな。そんなくだらなくて、子どもっぽい理由だよ。そう言うと、少しだけ目を伏せながら、そうと呟いた。
「やはり、二葉さんはあなたにとって特別な存在なのね」
「特別っていうか……まぁ、確かに特別かもしれないね」
恋愛感情とかはとっくにどこかに置いていってしまったけど。それでも俺にとってつくしは特別なやつではある。なんてったってずっと近くにいた初恋の子であり幼馴染だからね。そんな面白くもない話を瑠唯さんに打ち明けた。
──というかこういう気持ちみたいなのを言葉にして聞かせたの、瑠唯さんが初めてかもしれない。
「胸が性癖だと自覚したきっかけは?」
「ん? えーいや、覚えてない。少なくとも中学の時から大きいのが好きだった」
なんだろうね、そういうの細かい過去のイベントがあってそういうのをイチイチ振り返れるタイプでもないし、いつの間にかおっぱいが正義になっていて、それとは全く関係のないところでつくしへの恋心は凪いでたんだよな。
「すると、ふとした瞬間に波立つことはありそうですね」
「どうだろ」
今じゃベストフレンドであって幼馴染という以外の気持ちはない。変わらなきゃって思った中で、つくしだけは変わらない全ての俺を知ってるやつだから。だから、なんて言ったらいいんだろうな。変わらなくていい場所、みたいな。
「……なら、私にも」
「え?」
「隠している気持ちや、言いたいことが……あるのかしら?」
思わず運んできたトリカラのお皿を落としそうになった。えっと、え~まぁ、確かにそういうのはあるよ。隠してるというか嫌われたくなくてメッキを頑張って貼り付けてきた部分が。俺が頑張って女の子に気に入られるムーブをしようとしてる理由とかも、その一部だよね。
「そうしたらセクハラしてもいい、じゃないけど、気安い関係になれば多少おっぱい見ても許されるんじゃないかって考えての行動だよ」
「あわよくば見たり触ったりできる、と?」
「ううん、触るのはナシ。それは絶対に守る。気に入られたいとかじゃなくて、見るだけで幸せだから」
故意だろうとそうじゃなかろうと、それは絶対にしたくなかった。イエスおっぱいノータッチの精神ね。あれだけは紳士であろうとしたから、じゃなくてもし俺だったら自分の身体に触れられて仲良かったとしてもどう思うかという話だ。答えは死ねカスだからね。極端な話、嫌われたくないから。というか全部嫌われたくないから。
「かと言って誰かに好かれたいわけじゃないんだよね」
「どうして?」
「んー、まぁ例えとして挙げるにしては現実味なさすぎるけどさ、瑠唯さんが俺のこと好きだとするじゃん?」
「……ええ」
そんな間を置いてから頷かないでおくれ。ありえないとは思うよ? でも、だから現実味がなさすぎるからって前置きしたじゃんか。それはまぁ置いといて、続きを話すとするか。俺は気を取り直してそのクソみたいな例え話を続けていく。
「そこで俺も好きだーってなって付き合ったとする。すると俺と瑠唯さんは恋人なわけじゃん?」
「そうね、できれば将来まで考えてくれると嬉しいけれど」
「……なんて?」
「なんでもありません」
「そ、そう? まぁいいや、その状態でも俺はやっぱり燐子さんとかましろちゃんのおっぱいに出会うと見たいし、仲良くなりたいって思うわけだよ」
果たしてその時に瑠唯さんはどう思うのか? という話なんだよね。すると瑠唯さんはフツーならば恋人ではない女性の胸部を見る男というのはどちらの目線からしても不快極まりないものですと言い切った。うんうん、俺が言ってほしかった言葉だ。だからこそ、俺は例え誰かを好きになろうとしても、誰かに好きになってもらったとしても、付き合う気がないんだよ。
「縛られることを嫌う、と」
「かなり悪く言うと」
な? そもそもそんなことをする男なんて願い下げじゃない? だからこそ俺は若干イケメン寄りで性格も表向きはいいはずなのにいまだにカノジョなし童貞なんだよな。瑠唯さんはなるほど、と納得の顔をしてから、ゆっくりとですがその理論には穴があるわよと指摘してきた。
「え、どんな?」
「
「そ、んなこという女子いる?」
「好きな男性なら、見られても平気でしょう? そもそも恋人ならば裸だって見る可能性があるのに」
昨今では婚前交渉は別段批難されるものではありませんからと追加され、ちょっと恥ずかしくなる。または気にしないと言われる可能性もないわけではないですよと言われてそれはないでしょと反論する。だが瑠唯さんは涼しい顔で俺の作ったトリカラを丁寧に味わってから息を吐いた。
「別にあなたは好みの胸部を持つ女性全てに恋をするような惚れっぽい男性ではないでしょう?」
「……そりゃ、恋愛的な好きとおっぱい好きは別だからね」
「ならいいじゃない。窘めたいなら相手を選ぶことと私なら触ってもいいという許しを使えばあなたも息苦しいとは思わないのではないかしら?」
確かに、と俺はすっかり論破されてしまった。やば、逆転されてしまった。異議あり! と指を突き付けられぐぬぬしたよ。なるほど、と頷きそうになったもん。じゃなくて、そんなレベルファイブな話じゃなくて、そんな器もおっぱいもでかい上に俺のことを好きな女子どこの世界にいるんですかねって話なんですけど。
「……わけのわからないことを言いますね」
「俺、そんなこと言った?」
「──あなたと私が恋人同士、という仮定でしょう? 一般論を口にした覚えはありません」
「え?」
「そもそも千差万別、十人十色である恋愛において一般論、というのは少々、ナンセンスでは?」
突如ソロモンに帰ってきたヒトのように四文字熟語を多用された。俺も返しとくか? 焼肉定食! 違うな、話が逸れた。でも、まぁ瑠唯さんの言う通りなのかも。恋愛観はヒトによって違う、か。俺が特殊な方なんだからその理屈は理解しなきゃいけない。
「でも、それだと瑠唯さんはそう考えるってことになるけど」
「その認識で相違はないですよ」
「俺のこと好きなの?」
「そうですよ、というかそこは仮定ではなく前提でしょう。そこまで私の考えは入っていませんよ」
「あ、そっか、なんか早とちりしたよ」
「ええ」
あっぶな、なんかワケのわからんこと口走った。ちょっとびっくりしすぎたのかもしれない。瑠唯さんがおいしそうに、これまた意外なことに結構食べてくれてることにほっこりしながらトリカラの話をしようと口を開いて……俺は会話の違和感に気づいた。
「……どうかしましたか?」
「え、肯定した?」
「しました」
「……俺のこと好きなの?」
「ええ」
「え!? うそでしょ!?」
──驚きのあまり近所迷惑レベルの声が出た。よかった、口にもの含んでなくて。だけど流石静謐かついつでも冷静沈着なビューティおっぱいの持ち主。涼し気な顔でここで嘘を吐くメリットもありませんし、会話の効率も悪いですよとスープに頬を緩めていた。なんでそんな落ち着いてるのあなた? そんな温度差で、俺はまさかの瑠唯さんに告白をされてしまったのだった。
脳内八潮
(このまま手をこまねいていては二葉さんに取られてしまうとはいえこんな告白の仕方をしてしまうなんて、私はなんて悪手を、ああでも、彼はなんて言ってくれるのかしら? なんだかそわそわして落ち着かないからスープ飲みましょう。あ、おいしい)
恋する乙女に安息はない。
一応更新について活動報告をしたためておりますので、よければそちらもご確認よろしくお願いします。まぁもしかしたら突如毎日更新できなくなるかも! 程度の話ですので。