おっぱいはせいぎ   作:黒マメファナ

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既にフィールドは(ホーム)だけどアウェイ状態


第3話:二人きりの攻防

 これは夢なのだろうか。いやそういう願望があったわけじゃないけどさ、現実にしてはありえないことだと咄嗟に頭が判断してしまった。うんこれ夢だわ、たぶん瑠唯さんが家に来たあたりから既に夢に違いない。

 

「現実逃避しないで」

「……いや、だってさ」

 

 告白されたんだよ俺、しかもさっきまでの話の流れでだよ? 現実だと認識できなくて当たり前じゃない? というかなんで瑠唯さんはそんな冷静なの? 俺はもう今疑問符しか語尾につけてないよ?

 

「けれど少し告白を急ぎ過ぎた、と後悔しているわ」

「まぁ、そりゃそうか」

「ええ」

 

 瑠唯さんが冷静なのはなんでかは知らないけど、俺が冷静でいられているのはひまりのおかげかもしれない。結局誰かは教えてくれなかったけど、ナイトプールの時もハッキリとまだ三人、明確に俺のことを好きだって思ってくれてる子がいるって話をされてたから。瑠唯さんなのかという驚きはあったけど。そして、瑠唯さんの後悔は間違いなく俺がさっきまではっきりと誰かと付き合うことは考えられないって言ったからだ。

 

「……好きなヒトに、誰とも付き合うつもりがないとハッキリ言葉にされ、冷静になれというのはヒドいと思いませんか?」

「冷静じゃないの?」

「もちろん」

 

 どこが? どこに冷静じゃない要素あったのか教えてもらっていい? そわそわしてる様子もないし相変わらずのポーカーフェイスだし。あ、もしかして隠してるからなのか。そう考えると瑠唯さんってすごいヒトなんじゃなかろうか。俺には到底真似できない技術だ。

 

「クソみたいなこと訊くね」

「ほんの些細なきっかけではあるけれど、あなたに惹かれたのも事実よ」

「質問を聞いてもらっていい?」

 

 いやまぁなんで好きになったのが俺なんですかって質問だから合ってるけどさ。やったね瑠唯さんと以心伝心だ! これがまたつくしの時よりも嬉しかったりするから厄介なんだよな。俺はちょっと息を吐いて、吸ってと整えてから瑠唯さんに向き合った。

 

「俺は、瑠唯さんと並ぶときっと釣り合ってないって言われるよ」

「そうかしら? もしそうでも私から見れば、幸せだわ」

「……おっぱい、はもう論破されてるんだった」

「そうね」

 

 ぐぬぬ……だからこその否定だったのか、自分が付き合うことが想定にあるからこその発言なんだから。そもそもおっぱいがどうとかってのも全部明かしてるから付き合ってから幻滅するみたいなことないし、俺付き合う前から幻滅されるタイプだからこういう経験もない。

 

「そうね、私生活はきちっとしているし」

「よく性癖さえなんとかなればとはつくしに言われるよ」

「……そう」

 

 ああ、えっと勘違いしないでほしいんだけどつくしがそう言ったの性癖さえなければ付き合ってた的なサムシングじゃなくて、性癖さえなければもうちょっとモテただろうにっていう嘲りの声だから。因みにうるせぇ未だに小学生と間違えられるクセにと返してケンカになった。これを周期的に繰り返してる。最近起こったのは旅行後すぐのことだ。

 

「ごちそうさまでした」

「おそまつさま」

「食事中にごめんなさい、こんな話」

「いや、いいよ。瑠唯さんの気持ち知れたから」

 

 疑問ではあったんだよ。バイト先のやつらにセクハラまがいのことを訊ねられても涼しい顔をして通っていた理由とか、噂になってるのにそれでもかまわないと俺の休憩中の相手をしてくれてた理由とか。

 ──好きなヒトの傍にいたい。そんな、ましろちゃんのようなまっすぐで純粋な恋心をただ表に出さずに実行していただけなんだって気づけたから。

 

「それで……今日はもう、帰ったほうがいいかしら?」

「なんで?」

「なんでって……」

 

 いつからなんだろう。きっと俺がそうなんじゃないかなって思うずっと前から、瑠唯さんは俺を好きでいた。俺が瑠唯さんのおっぱいを崇めて、そのおっぱいを眺めるためという下心で一緒にいる間、瑠唯さんは春風のような乙女心で傍にいてくれた。俺のことを気持ち悪いと謗ることも、咎めることもなく。そんな静かで優しい月の光のような彼女に、俺が返せることと言ったら、それを認めてあげることくらいだろう。

 

「俺、まだ正直、誰かを好きになる気持ちってのがガキの頃で止まってる」

「……二葉さん?」

「そう、初恋以来、ずっと誰かを好きになったことなかったからさ」

 

 いつだって俺にとってはおっぱいが正義だった。おっぱいしか正義じゃなかった。まるで子どもの頃憧れていた日曜朝のヒーローが至極当たり前のように悪に立ち向かう正義であるように。でも、大人になれば見方は変わる。ニチアサヒーローの悪役だって全部が全部ただ悪いことがしたいわけじゃないってこともわかるようになる。

 

「瑠唯さんは、なんか俺に別の正義を見せてくれそうだなって」

「……だから」

「そう、だから……ってすぐ付き合うわけじゃないからね?」

「ええ、でも……泊めてくれるのね?」

「うん。そのつもりだったのにやっぱり帰ってっていうのは薄情でしょ?」

 

 着替えとか買わせちゃったからね。それに、俺にだってメリットづくめだ。まず堂々とおっぱい見ても許されそうなところ。それからおっぱい眺めてても嫌われることがなさそうなところ、さらに言うと……誰かになんか言われることも休憩時間や帰る時間を気にせず瑠唯さんとくだらない話ができることかな? 

 

「じゃあ一緒に寝ますか?」

「それはダメでしょ」

 

 婚前交渉はまぁいいとしても、恋人じゃないのに一緒のベッドに寝るはヤバいでしょ。それに童貞な上にそうなりそうな可能性も皆無な俺の部屋に避妊具なんて便利アイテムがあるわけもないし。

 

「そうだと思って買ってあるわよ」

「はい? いつ?」

「コンビニに売っているわよ、あれ」

 

 いやそれは知ってるよ。こちとら小学生高学年の時からおっぱいは正義のエロガキでしたからね。昔は揉みたい弄りたい吸いたいのゴミだったし。そういう知識もどこからか手に入れてコンビニ行くと挙動不審に探してたもん。

 

「よかったわね」

「何が?」

「子どもの頃夢に見たもの……目の前にあるじゃない」

 

 あるじゃない、じゃないんだよなぁ。瑠唯さんって実は結構……いやこれ以上は言うまい。しかも照れるような素振りもないんだから。そういう意味じゃ瑠唯さんに敵いそうにはない。というかエロガキのエロ妄想を中途半端に大人になった俺に向けられると奇声を発しながらどこにいようと相手を殺しそうになるから。シャイガイなんだ俺は。

 

「もし」

「はい」

「もし……付き合うとするなら、なんかそうすぐにがっつくんじゃなくて、大切にしたい。そう思うけどね」

「あなたらしいわね」

 

 その声はよく考えなくても楽し気に弾んでいた。なんか前提条件を知ると一気に瑠唯さんの解像度があがった気がする。洗い物を手伝ってくれた瑠唯さんに先にお風呂どうぞと示して、俺はゆっくりと息を吐いた。

 

「……あれは破壊力バツグンだな」

 

 ──いやカッコつけたけど瑠唯さんのデレってエグくない? あのいかにも恋愛なんてカロリーの無駄遣い、非効率的よ。社会的にその方が効率的ならお見合いで私に見合ったヒトを決めればいいでしょう、とか言いそうなクールなあの子がだよ? 甘酸っぱい恋をしてる。しかも俺に。こんなの耐えきれる男おるん? 俺が耐えきれてるのは単にましろちゃんのおかげだったりする。あの子の猛攻に耐えただけあって俺の心の要塞は堅牢だ。ただし搦め手に弱いこともバレてるらしいのでこうやって、二人きりなんだよなぁ。

 

「今日これで……明日は、デートになるのか」

 

 こんなことを考えてる時点で、俺は相当瑠唯さんのかわいさにやられている気がする。そしてその前に薄着の瑠唯さんとここから朝まで過ごすって考えるとなんだかすごく、とても不健全な気がしてきた。流石に防御高いカッコだよな? いやあの瑠唯さんだと確証はできないな、と俺は帯を引き締める気持ちで瑠唯さんを待っていた。

 

 

 




もう攻略されかけてるよ大輔! しっかりして大輔!
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