最近出逢った神の如く素敵なおっぱいをお持ちの子は全員で七人いる。これを七天の聖杯、カップオブセラフと呼ぶかビッグセブンと呼ぶか、俺は真剣に、そりゃあもう真剣に悩んだ。そして、悩みに悩んだ末に大パイ巨峰主義という非常に頭の悪い名前を閃いたことで後者に落ち着いた。なんて脳ミソの無駄遣いなんだ。
そんなビッグセブンの大天使こと倉田ましろちゃんは七人の中では大きさこそ六番目と他のメンバーに劣るがそのDPS、瞬間火力はひまりのそれを凌駕する。
「お、おつかれ様っ! あのね、コンビニでお茶買ってきといたよ」
「ありがとう、助かるよ」
「うん、よかったぁ」
それは圧倒的距離の近さ、これがガチ恋距離か、なんて言いたくなるほどである。しかも顔もバチクソにいい。ひまりと脳内バトルをさせると持続性のあるひまりか、はたまた瞬間火力のましろちゃんか、なんて熱戦確実である。
「開いてる?」
「え、あ!」
まぁましろちゃんのサイフから出たものだしいっかと冷たいお茶を煽る。最後の方ちょい忙しかったから助かるー! 熱された身体に染み渡るー! 美少女が奢ってくれたお茶うめー! と喉を鳴らすとましろちゃんがあわあわと慌てだした、どうしたの?
「そ、それ……間違えてて、わたしの分で」
「……それで開いてたのか、いいって気にしないから」
「そう……あっ! そうだよね! わたしと先輩の仲、だもんね!」
「ん? そうだね?」
と思ったら急に笑顔になられるのはちょい困惑するけど。俺は間接キスなんて気にするほどのことじゃないし……なんて言ってみるけどそりゃましろちゃんが気にしないならそれ以上なにか言う必要ないからね。どうやら本当に全然気にしてないようで、キモがられなくてよかった。ここで嫌がられてたら死んじゃう。
「ましろちゃんは練習だった?」
「うん」
「この間のライブ、スゲーよかったよ。カッコよかった」
「ほんと? じゃあいっぱい練習した甲斐もあった、かな?」
なんというかしっぽが見える。ぶんぶん振られてる。なんでこんなめちゃくちゃに懐かれてるのかはマジで不明なんだよね。最初なんかモニカの中でも距離あるなぁと思ってたのに三ヶ月ちょいでコレだもん。肝心のイタリアンの店なんだけど、透子ちゃんのオススメっていうからゲテモノか、はたまた金持ち御用達かと警戒したものの、フツーにオープンしたての人気店的なやつで安心した。
「──それでね、そのぬいぐるみを、こう、ぎゅってして寝るとすごくいい感じなんだよ」
「そっか、なんか想像できるなぁ」
うん、かわいいんだけどエアとはいえ実演されると、腕と腕にぎゅっと挟まれて盛り上がる一部分がですね……ごちそうさまです! まだパスタ残ってるけどごちそうさまです! 眼福すぎて心の中で二礼二拍手一礼して拝んでいるとちょっと恥ずかしそうに笑った。
「せ、先輩をぎゅっと、しても……寝れそう」
「俺? いやサイズ的に抱き枕になるのましろちゃんの方でしょ」
ましろちゃんが150センチ代だとすると身長差三十近いし。
──ううん、それにしてもましろちゃんサイズで柔らかさそのままの抱き枕か……安眠できるか? いや無理じゃね? だって、ねぇ?
「あ、でも……先輩と一緒に寝るってことなんだもんね……ドキドキしちゃうな」
頬を赤らめて恥じらうましろちゃんだけど、これは違うんです。決して邪な目で見ていません。信じてくれよ! そもそも一緒に寝ることを妄想した時点で俺はギルティなんだろう。イエスおっぱいノータッチを忘れてはいけない。それがたとえ距離感がほぼゼロのましろちゃんであっても変わることはない。
「そういえば、すっかり暗くなりかけてるけどこの後カラオケって、門限とか大丈夫なの?」
「大丈夫、先輩に送ってもらうからって言ったら許してくれたよ」
ご飯が終わってカラオケ店に向かう頃には既に星空が頭上でまたたいていた。そう信頼されてしまうとこっちもお任せあれ、とナイト様気分になってしまうわけで。まぁましろちゃんがお姫様だとしたら王子様でもナイト様でもなく、俺は農民くらいなんだろう。それでもましろちゃんのおっぱいが豊かに育つためにせっせと働いてしまうのだろう。おっぱいのために働くって……なんかいいね。
「どうかしたの?」
「いや! いや、なんでもないよ」
よくわからない方向に妄想を繰り広げていると、こちらをのぞき込むようにしてましろちゃんに心配されてしまった。まさかあなたのおっぱいを育てるための農家になることを熟考していたなんてバレたらドン引きされること間違いなしだ。そもそも俺は一般的にドン引きされるほどおっぱいアイシテルからな!
「元気ないなら、無理しないでね?」
「無理じゃないよ、ましろちゃんの生歌楽しみにしてる」
「そう? えへへ……じゃあ行こ!」
すごく自然な動作で手を握られて、小さくて柔らかな感触と一緒に小走りのましろちゃんに引っ張られる。元気でかわいくて、癒されるのはそうなんだけど、手汗とか汚くないかなと気になってしまうから、やっぱりノータッチの原則は大事だと思った。
「おお~流石」
「昔からね、カラオケの採点だといい点取れるんだよ」
そしてちょっと狭い部屋に収められて数分後のこと、あっさりと九十点代を連発するましろちゃんに向けて拍手をしていくと肩が触れそうな距離にストンと座って天使の微笑みを、浄化の光を向けてくる。うーん、かわいい、まっしろ! やっぱりましろって名前だけにその微笑みにも驚きの白さがあった。
「歌は好きだったから、ストレス発散にもなるし」
「それがモニカのボーカルに繋がるんだな、上手だと友達にも人気だったんじゃない?」
「……えと、ヒトカラで」
「……あ、ごめん」
「……あはは」
──と思ったら地雷を踏み抜いたせいで即座に堕天してしまわれた。自嘲気味の笑みがすごく寒々しくて、俺はなんとかしなきゃという思いを抱く。この子はご機嫌になる時以外だと、不安になると俺に触れようとしたがる。他人の体温や鼓動が安心するのかな、前に遊びに行った時はフェスに出るためのちょっと大きめのライブの前で、手を繋ぐとすっごく落ち着てくれたから。
「先輩?」
「カラオケなら、誘ってくれれば付き合うよ。暇なら、だけど」
「……うん、ありがと」
手を握ってあげるとすごく安心したような笑顔をする。これがまた、えげつないくらいかわいいんだよな。これが隠れガチ恋量産女子の破壊力なんだろうか。なんでこの子がモテないのか理解できない。女子校だけど、中学からチヤホヤとか当たり前にされてそうなのに。すると、中学の時はもっと地味だったからと笑う。
「高校デビューだったんだ」
「うん、化粧とかは……あんまり上手にできないから、ほとんどしてないけど」
それでこのかわいさなんだからビジュアルはバッチリ高校デビュー成功だと思うし、人間関係的にもモニカのみんながいるんだから成功じゃないかな。
──きっと成人して同窓会とか行くとみんなびっくりするんだろうな、ましろちゃんのかわいさに震えること間違いなし。いやまだ伸びしろがあると想像すると俺がそもそも震えそう。
「今日はありがとうございました!」
「こちらこそ、ましろちゃんのソロライブすごくよかった」
「うん、わたしも楽しかった……おやすみ、先輩」
「おやすみ」
手を振って家の中に入っていくまで見送る。あーあー天使です。これは大天使すぎますね。そんなまっしろ無垢で、故に俺みたいな超弩級の変態に懐いてしまった彼女に嫌われるのが怖いと思う自分と、俺みたいな変態とは縁を切ってほしいと思う気持ちが混在する。いい子すぎるのに自己評価が低すぎるのがどうもな。ただ、きっとこんな風に誰かを誘ってご飯や趣味を曝け出せるヒトは数えるほどしかいないんだとしたら、俺の優先順位が下がるくらいまでは、いいかと自分の家までの道をのんびりと歩いていった。
ラブコメ雰囲気が出てていいわね……ガチ恋距離を軽率にとってくる倉田さんはかわいいなぁ