おっぱいはせいぎ   作:黒マメファナ

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開け放たれる災厄――!

内容はいつも通りです


第2話:パンドラの箱

 ましろちゃん相手には冗談だと思ってた、なんて言ってみたけど実のところ、そんなにひまりの言葉を疑ったことはなかった。確かにひまりはよく冗談を言って振り回してはくるけど、少なくともあの状況では本当なんだってこともなんとなくわかってた。でも俺は冗談だって都合よく解釈している。

 ──だってさ、俺だよ? おっぱいがあればいい、おっぱいが正義だなんて女性に対してウルトラ失礼な宗山大輔のことを、今すぐ付き合いたいと思ってるくらい好きな子が二人、今すぐってわけじゃない事情があるけど想ってくれてる子が二人いるという事実に、俺が耐えられるはずないじゃんか。

 

「その……よかったんですか?」

「はい、って言っていいかわかんないんですけど」

 

 麻弥さんと相席になり、気まずい沈黙が流れる。いつもならここでオタトークに花が咲くところなんだけど、さっきのシチュエーションからそれはちょっと無理がある。というか元来麻弥さんも俺もそこまでおしゃべり好きじゃないんだから当然黙っちゃうんだよな。

 

「いい子っスよね」

「ましろちゃん?」

「ええ、はい……ジブンにはない、こう輝きというか、彩さんに感じたものと違うけど似たようなものを感じます」

「それは」

「ああいう子を素直、と言うんだろうなぁと」

 

 確かにましろちゃんは素直な子だ。不満があると顔に出るし嬉しいことがあると顔に出る。よくもまぁ三ヶ月も気づかなかったなと今では思う程度に、俺のことが好きって気持ちも顔に出る。それに比べればきっと、麻弥さんなんてひねくれものに入っちゃうんだろう。

 

「ジブンは、今まで諦めてきたことが多すぎて、何をどう言ったらいいのか……わかんなくなってしまったので」

 

 かわいい女の子、そんな姿への憧れ、でも麻弥さんはそれをいつしか諦めて自分には似合わない、相応しくないと遠ざけてきた。それはアイドルになってかわいいと周囲に褒められても変わることはない。

 

「化粧とか、こうスカートとか……アイドルとしては二つともよく使っているのですが、プライベートでは未だに、試す勇気もなくて」

「なんで、ですか?」

「なんで……っスか? うーん、だいたいそういうのってきっかけは()()()()()の場合が多いんじゃないでしょうか。ジブンもそうですし」

 

 だよな、と俺は小さく息を吐いた。挑戦する理由がきっかけ、挑戦しない理由はきっかけのない、なんとなくだ。音楽が好きで、バンドが好きだけど楽器を勧められて断るのに理由を探すけど、結局はなんとなく。それが普通だ。人間なんでも挑戦できるヒトなんていやしないんだから。

 

「失敗、したくないんスよね」

「確かに」

「怖いんスよ。ドラムは失敗、というかちょっとミスっても平気で、じゃあ次はとか思うのに、やってないことは失敗が怖くてしょうがない、変なハナシですけど」

 

 まるで滑りやすい緻密なガラス細工を持たされるような気分だ。触ってみなと言われて、手に持った瞬間、それがただの破片となって床に散らばるという恐怖に怯えて首を横に振るだけ。もしくは、それを見て失望する誰かを見たくないだけ。

 

「端的に言うと自分に自信がない、ですよね」

「ええハイ、そういうことになりますね」

 

 やってみなきゃわからないって言葉もある。そりゃあ、砕けたガラス細工を見て相手にごめんと明るく言えるヒトならいいかもしれない。でも俺や麻弥さんは割ったらきっと二度とその相手の顔なんて見れもしない。罪悪感でどうにかなりそうになる。次は割らないようにするからなんて、口が割けても言えない。

 

「──でも、俺は……そんな自分はやめられないけど、変わりたい。そう思ってます」

「それは、すごいことですよ……だってジブンは、今の矛盾したこの気持ちに負けそうになっていますから」

 

 矛盾した気持ち? と首を傾げると麻弥さんはハッとしてから、気まずそうに目線を逸らした。え、また俺なにかしちゃいましたか? チート能力もなければ入学試験で壁を壊してもいないけど。壁は壊したらやっちゃってるだろ。

 

「ああいえ! 宗山さんは、別に何も……」

「いやそれ逆に気になりますよ」

「ええと……その」

 

 今度は俯いてしまった、でっか、じゃなくていかん今はマジメになるところだった。今までシリアス風モノローグを貫いてきたのにここに来て崩れてきちゃったよ。よし、修正完了です。さぁこい、何を言われてもマジメに対応してやるぜ! 

 

「どんなことでも言ってください。俺と麻弥さんの仲じゃないですか!」

 

 推しって以上に今みたいに二人で話せるオタ仲間、言うならもう俺の認識としては実は麻弥さんはつくし並みのベストフレンドになれるんじゃなかろうかみたいな勢いがある。そう思って麻弥さんの悩みを取り除いてあげようと言葉を掛けた。すると、麻弥さんはおっぱいの上で手を組んだ。

 

「……胸が」

「おっぱ……胸が?」

「胸が苦しいんです、上原さんや倉田さんと一緒にいる、それどころか、二葉さんと一緒にいる姿を見るだけで」

「……え」

 

 それって何かの病気……じゃなくて、えっとなに? おっぱいが苦しいってサイズの小さい下着つけてるとかそういう? ヤバい、脳が現実逃避し始めた。取り除いてあげようと藪をつついて蛇が出てきてしまった。

 

「友達とか、オタ仲間とかそうやってジブンの中で線を作っても、ダメなんです……嫉妬してしまうジブンがいるんです」

 

 嫉妬! 嫉妬なんですか! ごめんなさい胸がって言った時点でおっぱいのことしか頭になかった俺を許してくれる優しいとかいうレベルじゃない子はこの世界にはいますでしょうか。ましろちゃんはダメ、あの子はそれでセクハラしてくるから。

 

「って、え? 嫉妬って……」

「いつから、なのかわからないんですけど……イベント終わりに一緒にご飯を食べる仲になった頃にはきっと、隣で楽しそうに話す二葉さんに羨ましいと思っていました」

「そう、ですか」

「ジブンと話している時より……倉田さんの方がずっと笑顔が多い気がして、仲良さそうで、そんな風にモヤモヤするジブンが、嫌で」

 

 ──今すぐってわけじゃない事情があるけど想ってくれる子がいるんだよ。そうひまりが言っていたのは、でもやっぱり本当のことだったらしい。その一人が彼女だったんだ。麻弥さんは、ずっと前から。

 

「でも、もうごまかせないので……聞くだけ聞いてください」

「はい」

「ジブンは、ジブンは……っそ、宗山さんが……好き、です。もうジブンは、この気持ちに嘘が吐けなくなってしまいました……ごめんなさい」

 

 謝られるのは、困ってしまう。好きって気持ちを向けられるのも。だって、俺はここでハイなんて軽く言えるようなやつじゃない。確かに麻弥さんのこと、嫌いじゃないし推しだしでこのまま応えたらきっと、毎日が楽しくなる気がする。でも、それじゃあダメなんじゃないの? と思う気持ちもある。

 

「……俺、今日ってかついさっき、ましろちゃんに告白されました」

「そ、そう、ですか……それは」

「断って、たぶんあの子、泣きながら帰ったんだと思います。我慢できるほど意地っ張りじゃないから、きっと大泣きしながら、家に」

 

 ズキリと胸が痛む。できれば、ましろちゃんの泣き顔は見たくなかった。泣かせといて言うことじゃないけど、泣かせたくないって思ってた。そんなましろちゃんをフって、麻弥さんの告白にじゃあわかりましたなんて言いたくない。それに、麻弥さんにはまだ、俺がなんで麻弥さん推しになったかも、言ってないのに。

 ──だったらホラ、俺がやることと言ったら一つだ。俺は、俺はいつだってきっとおっぱいが正義だから。

 

「ごめんなさい」

「──っ、そ、うですよね……」

「俺、麻弥さんのおっぱいしか見てませんでした」

「……え?」

「麻弥さんの大きなおっぱいが好きで、そんなおっぱいを拝みたくて推しになったし近づきました。他の女の子も、全部、全部そうなんです」

 

 そう、麻弥さんが線を引けなくなったのなら、俺から線を引けばいい。俺はおっぱいが大好きなゴミ男で、ましろちゃんも麻弥さんも、所詮はおっぱいしか見てこなかったカス野郎だから。好かれて誰かと付き合うことが、許されるはずないでしょ。

 




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