まさかの告白、まさかの相手ということで焦りはしたけど、俺はそれを冷静に断ることができた。これにて一件落着、ではないかもしれないしスマートなやり方とは言えないけど、これでいいのだ! と俺は自信満々だった。
「いいわけないでしょバカ、ホントにおっぱいのことしか考えてないんだから」
「……究極にディスってくるね」
事実だけど。ひまりは怒り気味にまたそういうことするんだからと俺にトゲトゲしい言葉をぶつけてくる。何がダメだったのだろうか、まさか告白されたら応えろとか言うつもりないよね? そもそもましろちゃんの時点でカスとか言わないよな?
「それは言わないけど、ホラ付き合うかどうかは勝手じゃん?」
「じゃあなにがダメなの」
「断り方」
「どういうこと?」
あれ以上に上手に断る方法、全然知らないんだけど。困っているとひまりはドでかいため息を吐いてきた。ひど、わざわざこれ見よがしにため息吐くの? 幸せ逃げるよ? そう言うとさらにため息吐いてくるもんだから流石にムカっとする。
「揉んでやる」
「できるもんならやってみなよ」
「ごめんなさい」
「わかればよろしい」
負けた。俺はなんてクソザコなんだろう。というかこういうセクハラを嫌がるもんじゃないの? 俺の常識がおかしいの? やっぱり常識なんて子どものころに集めた偏見のコレクションでしかないってコトなの?
「まぁ大輔の常識はおかしいよ、うん」
「嘘だッ!」
俺は常識人として過ごしてきて……はいねぇや。いっつも頭の中おっぱいおっぱいでいっぱいだった。おっぱいでいっぱい、なんて三点のギャグで笑いそうになる自分が嫌だった。もちろん百点満点中の三点である。
「大輔さ、なんでそんなビビってるの?」
「ビビッて……る?」
「怖かったんでしょ? 麻弥さんと関係が変わるのが」
「……別に」
怖かったとかそういうのじゃなくて、単純に嫌だったんだよ。何がって言われるとアレだけど自分と付き合う麻弥さんが嫌だった? なんて言ったらいい? 言葉をごちゃごちゃ並べているとひまりがわかったわかった、と頷いてくれる。
「恋愛なんてない、でも一緒にいて楽しいって思ったヒトから急に好きって言われて、それは違うって思っちゃったんだ」
「……まぁ、そんな感じ」
もっと言うなら麻弥さんが恋するならいいんだよ。でも、恋する相手は選んでほしいっていうか、もっといいヒトなんてそれこそ芸能界に幾らでもいるじゃん? イケメンで性格までイケメンでどうしようもなくイケメンなヤツとか、語彙力ないな。
「大輔じゃダメなの?」
「どこにイケメン要素が?」
「顔?」
「顔で人間選ばれちゃダメでしょ」
するとまぁ大輔はそこそこだけどねと鼻で笑ってきた。でも、人間は中身でしょ。身なりとか整えるのは失礼にならないようにってだけだし、中身がクソゴミの俺が顔のレベルどころか中身のレベルも高い女の子に好きになってもらうのはそれこそ世間に対して失礼だと思う。
「じゃあ、私が好きって言いだしても?」
「そりゃもちろん」
「ふぅん……かわいいとは思ってくれてるんだ?」
何言ってるのかわからないけど、ひまりはかわいいでしょ。何かとオシャレなところもちょっとドジなところも、なんならヒトのこと振り回してる時の楽しそうな顔も全部かわいいよ。というかおっぱいだけでここまで仲良くなろうとは思わないよ。人間中身だもん。
「それが私に言えてなんで麻弥さんとかましろちゃんには言えないの?」
「だって、それが別に好きって気持ちなわけじゃないから」
「そんなの、二人もわかると思うけど」
そう? 俺だったら勘違いしちゃうよ。そんな褒められちゃったら俺のこと好きなのかもトゥンクしちゃう。だからこそなんだけど。でもさ、それとは別にやっぱり俺があの子たちやひまりと一緒にいる時に一番考えてることがおっぱいだから、それはちゃんと嫌われるべきだと思ってる。
「なんで」
「気持ち悪くない?」
「相手によるでしょ」
「相手によってはいいの?」
「まだそれわかってないの?」
なんで今めちゃくちゃバカにされたの? 嘘でしょ? と思ったけどそれをわかることが本当に変わることだよとひまりに指摘され、項垂れた。こんな気持ち悪い性癖を拗らせといて自己肯定感を見直せって言われても困るって。
「あれでしょ、好きなヒトになら……って言うんでしょ」
「まぁましろちゃんとかはそうじゃないの?」
「ひまりは?」
「前に言ったよ。覚えてないならいいけど」
そんな会話をして、もう一度ちゃんと麻弥さんとお話をしてこいと檄を飛ばされて俺はトボトボと道を歩いていた。すると、前から宗山さん、と声を掛けられて顔を見上げた。そこにはお仕事帰りなのか、ちょっと化粧と変装をした麻弥さんにバッタリと遭遇してしまったのだった。
「あ、麻弥さん。えっと……すいません、それじゃあ」
「待って、待ってください宗山さん!」
「嫌です!」
「嫌なんスか!?」
けれど面白そうとか言うクソみたいな理由で、隣にいた氷川日菜さんにあっという間に追いつかれ捕縛され、そのまま近くのファミレスに連行されることになった。フツーに全力疾走したのに追いつかれたんだけどあの子の運動神経どうなってるの? 天才ちゃんヤバすぎでしょ。
「……あれから、ずっと考えました。考えたんですけど」
「考えて、それで?」
「ジブンの気持ちに嘘はないし、宗山さんの言葉が本当だったとしても、ジブンは変わりません」
さっきひまりにブン殴られた言葉がそのままマイルドに、麻弥さんの口から放たれる。日菜さんは面白そうな気配を察知したものの空気を読んで今おねーちゃんさんを呼んでいるらしい。空気読めたのか、あの天災ちゃん。
「その……宗山さんは、おっ……胸に興味があったのは、視線でなんとなく気づいていましたから」
「……非常に申し訳ない気持ちでいっぱいですけど土下座で許してくれますか?」
「い、いえっ、そういう謝罪とかは求めてないっスから!」
このやり取りも何回目なんだろうな。そのくらいに俺はヒトのおっぱい眺めてる最低な日常を送っていたし、それと同じくらいみんなわかってて見逃してくれてたんだもんな。死にたい。マジで泳がされていたって事実が恥ずかしすぎて死にたい。
「それに、ジブンは宗山さんの言いたいこと、なんとなくわかります」
「……えっと?」
「きっとジブンも、例えばここで宗山さんに好きだと言われても……断ってしまうくらいにジブンに魅力があるだなんて、思えないんスよ」
それは、確かに言いたいことがわかるわけだ、と納得した。やっぱりオタ仲間でオタトークができる割と陰キャコミュ障みがあるだけに俺と麻弥さんは思考回路が似るのかもしれない。違うとすればそれは、諦めるだけ諦めてなにも得ていないのか、アイドルになって諦めたものと向き合おうとしてるかくらいか。麻弥さんのおっぱいくらいでっかい違いだけど。
「でも、ジブンはジブンの感性でジブンを語るのをやめようと思うんです」
「それは……つまり」
「はい。誰かの感性を信じる。だから……誰かがジブンを好きだと言ってくれるなら、その相手のことを信じて、ありがとうと言える人間になりたいです」
誰かの感性を信じる。それは、まさに俺が変わりたかったものの先にあるのかもしれないと感じた。俺も、いつかはそうなれるのだろうか、麻弥さんのように。告白されて、おっぱいが好きなクソ野郎だからやめといた方がいいだなんて無駄な断り方をしなくても、いいのだろうか?
「だから……今は無理でも、信じてほしいんです。ジブンの感性を……なんて。ジブンで信じれてないのに言える話じゃないっスね……フヘヘ」
──なにより、オタ仲間だからなんて理由をつけずに麻弥さんと一緒に笑える日が来るのなら。他の誰でもない、麻弥さんの感性なら信用してもいいかもしれない。俺はまずはそう思うことにしようと決めた。
次で終わりかな?