夏休み最後のオフ会は夏らしいところがいい、とはあこちゃんのセリフだった。ゲームをしながら、ボイスチャットでそれぞれオフ会の予定を詰めていく。地味な周回だからこそできる会話だなと思ったのは内緒である。
「宇田川さんはどこか希望あるんですか?」
「海!」
「……プール、行ったばっかりだよ、あこちゃん」
そういえばRoseliaでプール行ったんだっけ。でもその時に俺はダメだと紗夜さんに拒否られたばっかりだからなぁと成り行きを見守っている。あと別に海とかは何回行っても楽しいってタイプなのでいいけど。
「もし海だとして、宗山さんは準備、できているのですか?」
「え、うん」
なにせひまりの男避けにナイトプール行ったからね。そんなことを言うとあこちゃんがイマドキっぽい! と反応を示し、燐子さんにはカップルで行くものじゃないんですかと訊ねられた。
「まぁ、友達同士ってのもありましたけど、ひまりはカレシも一緒に行ってくれる友達もいなかったみたいで」
「ひーちゃんに友達いないは嘘だよ」
「確かに、上原さんは友達が多いイメージですね」
そんなこと俺に言われても。友達と行けよと言ったらみんなに断られたんだもんって泣きつかれたんだからしょうがないじゃん。俺はヒマだったし見返りとしておっぱい見放題なんなら多少なら触ってもいいよとまで言われたら断れないじゃん。これは墓までもってく秘密だからいいとして。
「ひーちゃんって、そうさんとかなり仲良しですよね!」
「いつも……一緒に、いるイメージは、ありますね」
「まぁ、私はどういう関係か知っていますから、とやかく言うつもりはありませんが」
まぁね、ひまりは紗夜さんと同じように俺のおっぱい性癖を知ってる一人だから、どうしても仲良くなりがちというか旅行が終わって変わろうって後にも関わりやすいやつではあるから。でもどうやらあれでも関係を疑われているらしい。どうしたらいいんだ俺は。
「あーでも、夏っぽいところでオフ会したい!」
「涼めるところがいいのは確かですね、暑いところは苦手なので」
「わたしも……そっちのほうが、ありがたい、かな……」
確かに、俺も望んで暑い場所に行きたくない。そもそも温泉旅行も避暑が目的だったし実際暑さからは多少遠ざかったせいで家帰った夜は廊下の暑さにどうにかなるかと思ったレベルだし。
「何かありませんか、宗山さん」
「俺に訊くんですか」
「別荘は?」
「ねぇよ」
思わずため口で返してしまった。うちのことお金持ちだと思ってた? 残念! うちは母がお嬢様なだけの中流階級です~! なんなら白金家と宇田川家の方がたぶんお金持ちです~! そうやって煽るとわたしの両親にあるか訊ねてみますと言い出した。ほら見ろお金持ちじゃないか!
「りんりんの部屋広いよ」
「そうなんだね」
「だってピアノドーン! で、画面三つでっかいのあるからね!」
そういうあこちゃんちもドラムを叩くスペースがちゃんとあるらしい。うちはそんな広くないし多分紗夜さんもリアクション的にそれほどめちゃくちゃ広い! って部屋ではないと思われる。
「やっぱり、近くにはないから、泊まりなら……って」
「泊まりならあるのね」
やがて戻ってきた燐子さんの言葉に紗夜さんがちょっとトーンを落としてツッコミを入れていた。先を越されてしまった。小さな山の中腹にあるコテージでなんでも近くに流れる川は流れが穏やかだから川遊びもできるのだとか。その一言にあこちゃんが行きたい! と画面の向こうで目を輝かせる姿が想像できた。
「また……水着ですか」
「いいじゃないですか! 紗夜さんの水着! そうさんも見たいよね?」
「まってあこちゃん、それはなんて答えても怒られるやつだよ」
それにしても燐子さんの水着か……揺れるのかな。ついつい真剣にそんなことを考えてしまっていた自分がいて、首を横に振った。いかんいかん、変わるんだろ宗山大輔! そのお前が燐子さんの水着を妄想しててどうする!
「な、なにか想像していませんか宗山さん?」
「……別に、なにも」
「まったく……」
ほら見ろ怒られちゃったじゃないか! 理不尽なことをあこちゃんにぶつけたい気持ちになったがそれは抑えておくとして。夏の合宿オフ会の目的として、顔を合わせてレイドイベントをすること。あと川遊びとかバーベキューをして親睦を深めることが挙げられた。川遊びやバーベキューはシンプルにあこちゃんのやりたいことでもあったけど。
「基本的な……用品等は、こちらで用意、するので……」
「私たちは衣服などの泊まり用具一式ですね」
「あと水着!」
「キャンプで汚れるといけないので……そちらの、配慮もお願い、します」
「ジャージとかでいいかな」
「いいと思いますよ」
我ながらなんて忙しい夏休みなんだろうか。でもきっとこういう慌ただしくて楽しい夏休みは今年だけなんだろうという思いもある。何せ俺は変わらなきゃいけないから。変わる前に燐子さんの水着が拝めるというのは神、ひいては紗夜さんの慈悲によるものなのだろう。ダイナマイトボリュームのおっぱいが揺れるのが最後に見られるなら、安いものだろうな。
「ん?」
それじゃあと解散になり、風呂上りに俺はスマホに着信が来てることに気付いた。つくしか、それともましろちゃん……と考えてあの子はもうないんだろうと思いなおす。じゃあつくしかと折り返そうと中身を見ると、意外すぎる名前、白金燐子という名前が刻まれていた。
「……あ」
「もしもし?」
「……もし、もし……あの、急に、かけてごめんなさい」
「いえ、お風呂だったので」
これが風呂前につくしから連絡あったり、前までならましろちゃんが電話したいって言いだすからと防水ケースに入れたスマホを風呂に持ち込んでそこで半身浴しながら長電話というのもたまにやっていたが、手放していたのが原因で長く気づけなかった。謝りながらも、どうしたんですか? と珍しいなんてものじゃない電話相手に訊ねた。
「あ、あの……きゅ、急なお願い……なんですけど」
「はい」
「オフ会、前に……二人で、出かけることって……できますか……?」
「なんだ、そういうことなら、いいですよもちろん……ん?」
ん? 今このヒトなんつった? オフ会前に出かけることってできるか? うんできる、でも確かに俺は
「えと、なんというか、俺からいうのはおかしい気もするが、大丈夫です?」
「は、はい……たぶん」
多分じゃダメでしょう燐子さん。とは言うが、燐子さんとしてはどうしても俺に二人で会いたいという意図があるらしい。マジか、ここで燐子さんとのデートイベントとか、フラグ管理どうやったんだろう、周回プレイでじっくりおっぱい眺めたいから調べて攻略サイトに載っけときたいな。
「では、明後日の……朝に」
「はい」
「おやすみなさい……」
「おやすみなさい」
電話を切って、ベッドに放り投げて、長い長い息を吐く。おお神よ、また俺なにかしちゃいましたか? これは祝福か試練か転生特典のどれ? 俺そんな敬虔な信徒として神に仕えたつもりはないよ。たぶん前世でも。
──とりあえず枕に思いっきり叫び声をぶつけて近所迷惑にならないように吐き出してからひまりに電話して相談することにした。返事は変わるんじゃなかったの? という至極全うな正論だった。正論で殴るのは反則だって言ってるじゃんか。
「ここで男性の目線に耐性のない燐子さん相手におっぱい大好きしたら大輔のこと罵ってあげるね」
「……どうぞ」
「諦めるの早すぎだよ、変態」
「既に罵ってるじゃないか!」
私は別におっぱい大好きな大輔のまま関わってもいいって思ってるから耐えきれたらデートしてあげるねとご褒美の約束をして、俺は燐子さんとのデートに臨むことになった。ところでひまりはそれでいいのかなとたまに思うんだけど、本人はいいって言うんだよなぁ。よくわからんけど、おっぱいはほしい。まだ何にも変われない俺はそう思ってしまうのだった。
――燐子、動きます。