のどかな景色、小鳥のさえずりが涼しさを運んでくるような朝の空気に俺は息を吐き出す。そしてそんなテラスのてすりに腰掛け、俺はこの美しい景色に連れてきてくれた燐子さんや、それを立案してくれたあこちゃんや紗夜さんの方を向いた。
「……あなたたちは、なぜここに来て
「だってぇ~、レアドロップが、レア装備がぁ~」
「……ふふ、うふふふふ……」
まるで美しい景色や小鳥の歌うような声とは正反対の死屍累々、亡者のうめき声である。止めるものがいないとこうなるのは世の必然か。というかここで残りの夏休みをみんなで過ごす合宿というのは笑える話で……あの、キミたちRoseliaはどうしたん?
「Roseliaは、今井さんと湊さんが海外旅行をするので自主練習となりました」
「新婚旅行?」
「家族旅行……ですよ?」
あれね、俺とつくしの家で一緒に行ってたやつね。なんでも新しい音楽を見つけてくるわだそうで。バンドの練習だけじゃなくて個人で技を磨く期間も確かに必要ですからね、と紗夜さんは補足してくれた。個人で技を磨く期間なのに、この二人はこんなんなのですが。
「仕方ありませんね、ベッドに行ってもらってお昼ご飯の時間になったら起こしましょうか」
「ですね、じゃあ燐子さんの方よろしくです」
そういいながら小柄なあこちゃんを抱えていく、ちょっとずるいみたいな顔してるところ悪いけど燐子さん抱えるのは俺にはできません。おっぱいへの意識がすごいことになるからね。そう思っていたら紗夜さんもしばらくじっと燐子さんのおっぱいに視線を向けていた。なにしてんの。
「いえ……なんでも」
そう言って二人を部屋に押し込めて、俺は紗夜さんと朝ごはんを食べ始めた。いいんですかね、と問うと徹夜したほうが悪いのよとばっさり切り落とされていた。紗夜さんは眠いからってとっとと寝たもんね。
「まったく、いくら解放されたといっても節度ある生活はしてもらわないと困るわね」
「まぁまぁ、あこちゃんたちも楽しそうだったし」
「私だって、その楽しいに水を差したくて差してるわけじゃないわよ」
「そんな怒らないでくださいよ。ほら、終わったら外でも散歩行きましょうよ」
「……そうね、朝のうちなら涼しそう」
なにせクーラーいらずな感じだもんな。開けっ放しの窓から爽やかな風が入り込んでくる。ところで朝ご飯おいしいですね、というとそう? と首を傾げた。普段は朝が弱いから作らないこともありそれほど自信がないらしい。自信なくてこれですか。
「それにしても、不思議な感じがしますね」
「なにがですか?」
「あなたと朝ご飯を食べて、片付けて散歩に行こうとすることが、ですよ」
「合宿ですから」
この空気のいい場所でゲーム合宿で引きこもるのはほら、もったいないし。そこには紗夜さんも同意だったようで行きましょうかと食器を食洗器にかけて、出かける準備をしていく。散歩でもって言ったけど見方によっては立派な紗夜さんとのデートである。本人も意識はしていないんだろうけど。
「ところで」
「はい?」
「変わるメドは立ちましたか?」
「あー、えっと」
「……そんなことだろうと思ったわ」
突如切り出された話題に反応できずにいるとため息をつかれてしまった。嘘ついてもまぁ、さっきの燐子さんのくだりでバレてるんですけど。やっぱりね、自分の性癖だから変わろう変わろうとしても目線が吸い寄せられちゃうんだよなぁ。
「でも、そうですね……努力は認めますよ」
「え?」
「変わろうともがいていることが伝わるということです」
伝わっているのか……なんか諦め気味なんだけど。そう思いながら歩いていると川に通じる場所にやってきた。燐子さんの言っていた通り浅めで澄んだ水が穏やかに流れていた。手ですくうと夏だということを忘れるほどに冷たくて気持ちいい。
「これは確かに、川遊びがしたくなるのも頷けますね」
「あこちゃんとかすっごく喜びそう」
「ですね……ふふ」
どうでもいいことかもしれないけどなんだかここに来て、紗夜さんの笑顔が多い気がするなぁと微笑む顔を見て思った。やっぱり紗夜さんも都会で心が荒むのだろうか。俺は基本おっぱいがあれば都会だろうが田舎だろうが癒しは得られるけど。
「さて、一旦帰りましょうか」
「そうですね、遊ぶならみんなで、ですよね」
「燐子さんの胸が見たいからでは?」
「違います」
確かにやっぱり燐子さんの水着は見たいか見たくないかで言ったら見たいよ! 当たり前でしょ、だって燐子さんだよ? たわわなおっぱいはもちろんのこと、黒髪ロングと日差しに弱そうな白い肌のコントラスト、深窓の令嬢のような日陰と微笑みが似合う清楚系が水を掛けられる様! 変なスイッチ入ること間違いなしでしょう!
「……なるほど、事実なのね」
「なんの話です?」
「あなたは性癖を抜きとするとお嬢様然とした静かでお淑やかな女性か、スラっとして凛とした大人な女性か懐いてくれるかわいらしい女の子が好みという話よ」
「……それを、どこで?」
それあれだ。おっぱいを抜きにして眺めていたい、もしくは関わっていたい女性の基準みたいなやつだ。特に前述の二つが好みで、なんでかっていうと俺みたいなおっぱい大好き変態野郎には一生縁がないからである。縁がないと思っていたんだけどね。
「やっぱり、忘れているわね」
「まって、俺紗夜さんにそれ教えてたっけ? いつ?」
「忘れているならいいわよ」
そっぽを向かれてごめんと謝るがいいんですと立ち上がってまたコテージへと戻っていく。ああ、眉間に皺が寄ってしまった。やばいな、この合宿中にちゃんと思い出しとかないといけない。そんな気がする。そうやってうんうん唸っていると、紗夜さんがこっちから視線を逸らしたまま訊ねてきた。
「……どちらが好みなんですか?」
「え?」
「お淑やかなお嬢様と、その……スラっとした女性の」
「どっちか……?」
やば、そんなこと考えたことがないな。おっぱいを抜きにして好みのタイプがどっちか、だよな。わかりやすい話でいくとお淑やかなお嬢様タイプが燐子さんでスラっとした大人なタイプが紗夜さんだな。すると、うーん。
「後者、ですかね」
「ほぼ差はないけれど、ですか?」
「いやまぁ、今まで考えたこともなかったので。でも、紗夜さんみたいにスラっとした女性をカッコいいって思う気持ちはありますね」
「……そう」
それこそ、俺つくしと知り合いだからお嬢様タイプいっぱい見てきたんだよな。そうすると純粋にカッコいいヒトってのはぐっとくるというか、そもそもなんかそのカッコよさに惚れて紗夜さんと一緒にいる感じはあるんだよな。
「そういうことを言ってしまうのね」
「嘘ついてもすぐバレそうなので」
「それで正直になってしまうところは……好きですよ」
そのセリフに俺は肩を跳ねさせてしまった。好きって単語に過剰反応するのはカッコ悪いな、えっと取り繕う……のはもう無理っぽい。紗夜さんがこっちを見てちょっと微笑んできてる。小馬鹿にしてるような感じだ。
「紗夜さん」
「ふふ、すみません……少しデリカシーがありませんでしたね」
「ホントに」
ましろちゃんの一件以来、ちょっとそういうのは敏感なんだから。でも紗夜さんは微笑みを崩すことなく、燐子さんとあこちゃんがダラダラとするリビングに入っていった。
──俺の方を振り返った紗夜さんはまるで妹のかわいらしい感じの笑顔を浮かべていたような気がしていた。
「紗夜さん、どーしたんですか~? なんか嬉しそう?」
「……ふふ」
「べ、別に……そんなことないですよ」
あこちゃんが覗き込むようにして、燐子さんが何かを察したように微笑みを浮かべていた。紗夜さんが恥ずかしそうにしている。俺はそんな三人のやり取りをぼーっと眺めながら、さっきの紗夜さんの笑顔の意味を考えるのだった。
おっ?