紗夜さんの言葉、告白に俺は少し言葉を失う。何か言うべきか、そう悩んでいるとあこちゃんと燐子さんが戻ってきたようで、紗夜さんはちょっと離れていく。その頬は赤く染まっていて、あこちゃんが不思議そうに訊ねてきた。
「紗夜さん? どうしたんですか?」
「いえ、なんでもないわ」
そのタイミングで俺はお風呂先にもらうねと立ち上がった。三十六計逃げるに如かず。圧倒的に不利な状況でどうしようもなさそうな時は逃げるに限る。孫氏もきっとこういうシチュエーションを想定していたに違いない。
「……宗山、さん」
「あれ、燐子さん?」
「少し、いいですか?」
お風呂上り、あこちゃんがお昼寝タイム……いやもう夕方だけど、疲れたのかソファですやすや寝ているところで、それを見守っていた燐子さんが俺に用事があるとかで部屋に招く。どうしよう、お風呂上りの燐子さんは約二週間ぶり二回目だが、寝間着ということもありまた別のドキドキ感がある。というか緩めのワンピースタイプなのにおっぱいでっか。
「紗夜さんと……何かありましたか?」
「あ、えっと……何かあったというか、なんというか……」
「……以前、相談した……内容の続き、ですね」
──なんで、と言いそうになって思い出した。そうだった。燐子さんは前に俺と紗夜さんが両片想いでやきもきしているのではないか、と思って二人で話をしてくれてたんだった。俺が否定したことで話は終わっちゃったんだけど、あの時の燐子さんの言葉は半分だけ当たってたってことだもんね。
「紗夜さんは……やっぱり、宗山、さんのこと……」
「みたい、告白されちゃったよ」
「……嬉しくは、ないんですか?」
嬉しいかどうかでいったら、どうなんだろう。紗夜さんが俺を? って戸惑いの方が大きいかもしれない。嫌われてるとは思ってないけどいい印象を持ってないとは思ってたのに。まさかの逆だなんてね。
「えっと……氷川さんは、前からきっと……気になっていたのだと、思います」
「なんだろうね」
どういうきっかけだったんだろうとか、そういうのはよくわかんないけど。だからこそ燐子さんは俺との距離感を見て、両片想いだって勘違いしたんだろうし。燐子さんはその言葉に頷いて、それから少し困った顔をした。
「……宗山さんは、どうしたいんですか……?」
「どうしたいって言われると困りますね」
好きって言われて悪い気はしない。それはましろちゃんの時にも思ったことではあるけど。悪い気はしないけど、困ってしまうんだよね。どうして、って燐子さんに訊ねられるけど、俺は苦笑するしかない。
「嬉しいとか、やったって気持ちよりどうして俺なんだろうってなるんですよ」
「……なるほど、自分に自信が、ないから……ですね」
「それです」
わかりますと燐子さんはゆっくり頷いた。そっか、燐子さんも引っ込み思案で人見知りだから自己肯定感が低いんだっけ。俺からすると燐子さんは魅力的にすぎて話しかけにくいまであるんだけど。たぶん同じゲームやってなかったら遠巻きに見守るだけのおっぱいさんだったに違いない。実際Roselia知ったばかりの頃はそうだった。
「わたし、から見ると……お似合い、という感じがします」
「……お似合い、って恋愛的に?」
「いえ……全体的に」
全体的ってめっちゃふわっとした言葉に思わず首を傾げる。燐子さんは慌てたように矢継ぎ早に、というにはつっかえつっかえだけど会話のテンポが見ていて微笑ましくなるような二人だと、まるでその場面を思い出しているように柔らかく笑った。
「そうですか?」
「はい……紗夜さんも、宗山さん相手、だと……嬉しそうに会話をするので」
「そうなのかな」
あ、でも燐子さんと話す時の紗夜さんは柔らかくて、あこちゃんと話す時は優しさが増してるような感じはする。オフ会メンバーの中で言うと俺に対しての切れ味は増すばかりだからなぁと言うと、それが気を許してる証拠ではと燐子さんは主張する。
「気を許すと切れ味が上がるのか、武器か何かですかあのヒト」
「ふふ……使い手と心を通わせると、威力が、上がる……みたいなニュアンス……ですね」
「いや、ですねじゃないです」
ボケだから、乗らないでください。というか今更だけど燐子さん、俺と二人でおしゃべりしてて平気なんですね。そう言うと苦手だったらコテージで合宿なんてできませんよと微笑まれた。どういうこと?
「それも、氷川さんが……宗山さんは、胸が好き……ではあるんですけど、決してそれで、わたしにいやらしい目をするような、ヒトじゃないって……」
「それで、いいって思ったんですか?」
「はい……」
「それだけで、合宿を?」
「夏休みが、終わる前に……氷川さんと、宗山さんが……うまくいくといいな、と思ったのも……あります」
どうやら、あこちゃんが夏休み中に夏休みらしいオフ会がしたいという願いは知っていたからこそ、それを利用するかたちで燐子さんは紗夜さんのために、そして紗夜さんは燐子さんのねらいを知った上で俺との距離を詰めるためにこの合宿を計画したらしい。
──あれ、もしかして俺、紗夜さんの罠に嵌まってるという見方もできるのでは?
「そう、ですね……流石、策士で……戦士です」
「後方支援で黒幕の燐子さんらしい言い方ですね」
「……氷川さんが、誰かを好きになる……というのが、嬉しかったので」
そのまま、燐子さんは紗夜さんのことを教えてくれる。燐子さんが知る紗夜さんの過去というか、どうやってRoseliaとしてここまでやってきたかを。前は妹の影を振り払うため、妹から逃げるためにギターを始めて、そして技術を磨いた先で湊友希那に見初められた。未来でRoseliaと呼ばれるバンドに必要なギタリストだと確信されたらしい。
「……でも、その根っこにあるのは……暗い感情でした」
「だよね、日菜さん、妹を否定することでギターやってたんだから」
燐子さんは頷いて、でもそれが自分の音を好きになりたいという想いを持って自分の音を奏でるためにギターを弾いていきたいと前向きなものに変わっていった。そうして、Roseliaのギタリスト氷川紗夜は形成されていった。
「……そっか、自分の音を好きになりたい。自分を肯定していきたい、か」
「はい」
だから変わるってことに優しい目をするようになったのかもしれない。紗夜さんはそういう自己肯定をする先輩的な立ち位置で俺に話しかけてくれて、そして余計なものがいっぱいついた、その根っこにある俺のことをちゃんと見てくれた。
「紗夜さん……」
「やっぱり……本当はもう……答えは出ていたのでは、ありませんか?」
その言葉に……俺は頷いた。紗夜さんの想いを受け取って、そして燐子さんの話を聞いているうちに腹は決まった、と思う。うん、確証はないしここでそうしようと思ってもいざ紗夜さんの言葉を聞いてどうなるかなんてわかんないんだよな。
「……宗山さん」
「さ、紗夜さん?」
「お風呂あがって……入ってもよろしいでしょうか」
話がひと段落ついてそのまま談話していると、コンコンコンと扉を叩かれる。はいはい、と扉を開けると微笑みを浮かべて、それから……奥にいる燐子さんを見て何故か目がすっと細まった。なんで、なんで怒ったの?
「白金さんが……どうして宗山さんの部屋に?」
「あ、あの氷川さん……違うんです」
「何が、違うのですか?」
「いやホントに違うんだよ紗夜さん」
「──やっぱり、何も変わらないのね。あなたは、自分の性癖に正直になってしまうのでしょう?」
そう言って悲しい目をする紗夜さんに言い訳ができるはずもなく、俺は閉められた扉を見守ることしかできずにいた。
──え、これもうハッピーエンドで終わるんじゃないの? なんでまだ波乱起こるの?
ザ、勘違い再び。その流れは共通ルートでやりましたよね?