ビッグセブンの中で一番気安いのはもちろんひまりだと思う。前から俺の性癖、おっぱいへの並々ならぬ、って自分で言うのもアレだけど、取り敢えず恐らく男性の平均よりも相当におっぱいが好きってことを知って、それでも冗談まじりに友達をやってくれるやつだから。とはいえ、ひまりとは突発的に会わなければ基本デートしてることが多いこともあり、友達というには二人で出掛ける先はかなり勘違いされがちな場所ばっかりだけど。
「もしもし」
「もっしも~し! 来週暇?」
「急になに?」
「映画さ、カップル割引がある日に行きたいな~って」
──例を挙げるとこんな感じ。見たい恋愛映画が割引なんだけどカップル限定だからと俺を誘ってくる。ついでにおいしいスイーツのお店だとか、買い物の荷物持ちも手伝う。代わりに服を見てくれたりましろちゃんやつくしが喜びそうな場所を教えてくれたりしていた。言わば人間関係の相談役的な立ち位置。あとファストフードにたまに寄るとクーポンで割引できる時はしてくれる。そうやって利益を享受し合う関係だった。
「本物のカップルとか考えないの?」
「ないない! いいなぁってヒトもいないし」
「どういう人がいいなぁってなるんだよ」
「ん~、こうさ見た目及第点で中身がおっけーくらいじゃないとなぁ」
「具体的なラインは?」
「まぁどっちも大輔くらい」
つまりどういうことだよ、と呟くと大輔がギリギリセーフ? と言ってきて流石に勘違いしそうになったこともある。ただ、知り合いの中で一番恋人にしたいのは俺で、一番距離が近いのは俺、及第点の最低ラインも俺だけど脈ナシという、俺はわけがわからないよと目が真ん丸無表情のマスコットめいた地球外生命体になった気分だよ。
「おっはよ~、まった?」
「今来たとこ」
「うんうん、もうちょっと嬉しそうにしてくれたら満点だった」
「採点基準むずくなってね?」
「そういうものでしょ?」
いやでしょとか言われましても。ただひまりはなんかバカンスに行く前の芸能人みたいなサングラスにヒールのサンダル、水色ストライプに腰に巻かれたベルト代わりの黄色い布がアクセントとなっているワンピース。涼し気で、またおしゃれな感じがひまりらしいというかなんというか。というか腰を絞るからおっぱいが強調されてて俺としてはしょっぱなから眼福です。
「ふふん、お気にのやつだからね!」
胸を張らないで、揺れてるから。そう言うともっと見てもいいよほらほら~とからかってくる。ひまりの絡みは旅行でされたましろちゃんの逆セクハラよりもひどいものがある。あのね、周囲のヒトも見てるから。すげ……でっか……みたいな視線浴びてるよ?
「……恥ずかしいね」
「俺はいいのか」
「大輔は慣れた横からおっぱい見てくるなって思うとむしろ安心する」
「バカなの?」
「なんで今罵倒されたの私?」
そんなことはどうだっていいんだよと新幹線に乗り込む。曰くひまりは新幹線にはほとんど乗ったことがないらしく流れていく景色にはやーいとか言ってはしゃいでいた。子どもみたいですね。
「なんで大輔は慣れてるの?」
「おじさんに時々連れられて土日で美味しいもの食べに行くとか、二葉家と旅行する時とか乗ってたんだよね」
「お金持ちっぽい発言、じゃあじゃあ、飛行機も?」
「そりゃね」
海外旅行だって片手じゃ数え切れないくらい行ってるからね。何回か言ってるけど二葉家が仲良くしてくれてその甘い汁をつくし経由で吸ってただけであって、俺んちがセレブってわけじゃない。まぁそのセレブ生活が甘すぎて二葉家に入り浸ってた時期もあるんだけど。
「えー、私の家だったらじゃあ二葉家の子になりなさい! とか怒られてる気がする」
「はは、うちの母さんはその言葉を真に受けたクチだからな」
箱入りで、でも外の世界を知りたかった母は家を飛び出して今の父とほぼ駆け落ちみたいな感じで結婚して即座に俺を妊娠したらしいし。じいちゃん、父方の祖父が父さんと一緒に直接謝りに行ったり、それこそ仲を知っていた二葉家が手を回してくれたりと色んなことが大変だった時期だよと父さんに話してもらったよ。
「恋って……やっぱりそんな劇的なものなんだね」
「なんだろうね」
「ましろちゃんも……他の子もそうだったんだろうね」
他の子、そういやひまりは後三人、俺のことを好きな子が旅行に来てるって話してたよな。あれって結局誰だったんだ? 訊ねるとひまりは露骨に嫌そうな顔をしてくる。そういうのに気付けないタチなのにそんなつもりもないんだからさ、教えてくれないと同じこと繰り返すじゃんか。
「確かに……んーじゃあしょうがないなぁ」
そう言って俺は、ましろちゃんの他に瑠唯さん、麻弥さん、紗夜さんが俺のことを好きだったという事実を知った。うっそだぁとは思うけど、ひまりがそこで意味不明な嘘を吐くメリットないしなぁ。そこで実は私でした~とか言われたほうが嘘っぽいし。
「これ聞いても、やっぱりだめ?」
「うん、みんな結局俺がおっぱいおっぱいして知り合った人ばっかだし」
紗夜さんはないけど、他三人はおっぱいが大きいから関わってただけ。紗夜さんに至ってはもっと最悪で、燐子さんがおっぱいでかくてその友達だから関わってただけだし。そりゃ、俺の性癖を知っても色々と話を聞いてくれたことは感謝してるけど、俺のことを好きだったからと言われると……いや紗夜さんのことおっぱい関連で下げてばっかだったんでとしか言いようがない。申し訳なさすぎるんだよな。
「もったいないなぁ。私としてはましろちゃんか瑠唯ちゃんはすごいラブを感じてるよ」
「……瑠唯さんは、バイト先に来るから」
「会いたいんだろうね」
しれーっとした顔で意見を参考にしたいのでとか言ってやってくるクセに実はめちゃくちゃ乙女な理由で俺のバイト先に足を運んでたことになるもんな瑠唯さん。嫌かどうかって言われたらなんかかわいいじゃんってなるけど。ましろちゃんに至っては俺が四人って言われて唯一察した人物だから割愛。
「大輔はさ」
「ん?」
「幸せになりたくないの?」
「……なにその質問、怖いよ」
だけどひまりの目は冗談の色を感じなくて、誰と付き合っても正直ちゃんと幸せになれる気がするよと、例えおっぱいが好きで好きでしょうがないんだって言っても、付き合えるからこそ好きでいてくれてるんだと思うよとひまりは言った。
「どうなんだろうね」
「ほんとはね、私と遊んでる暇があるなら恋愛してきなさいって言いたかったけど」
けど、あまりに俺にそのつもりがなさそうだったから、だったらせめて自分だけはそんな関係とか何も考えずに、それこそおっぱいこそが唯一至高の正義だと掲げたまま、楽しい思い出を作れるようにとナイトプールだけの予定を変更したのだと教えてくれた。
「俺さ……旅行の間とかその後とか色々、なんというか理想の恋愛みたいなのを考えてたんだよ」
「どんなのだった?」
「見た目より中身派なんだけど」
「大輔がそれ言うとめっちゃ嘘っぽい」
確かにね! 俺も普段おっぱいおっぱい言ってるクセに性格の方が重要とか言うなって自分に思うもんな。でも、見た目より中身、じゃなきゃつくしに初恋はできないでしょ。いや発育する前からの恋ではあるんだけどさ。
「あれなんだよ、中身と見た目が七三の割合てきな」
「びみょー」
「確かに」
性格は、くだらないことで笑ってくれる人がいい。俺のおふざけにも笑ってツッコミをしてくれるような、なんならおっぱい弄りに笑ってくれるのが一番嬉しいっつうか安心するっていうか。もちろん実は傷つくとかだったらダメだけど。あとはやっぱ見た目? スラっと系のお姉さんか元気なおっぱいさんか、おっぱいでっかいおっとり系の三択。
「ほぼおっぱいだね」
「そうそう」
「で、具体的には?」
「……いや理想だから」
とはいえ性格に一番近いのはつくしかな、次点がひまり。見た目は紗夜さんひまりかましろちゃん、燐子さん花音さんあたり。リサさんも正直あり。するとどっちにも私がいるじゃんとからかうように笑われた。
「なに大輔、もしかして私のこと大好きなの?」
「いやお前もね」
「私は大輔のこと好きだよ?」
「そういうのはいいから」
そういうところが割と嫌いと言い放つとひまりはごめんねと言いながら俺の腕に抱き着いてきた。そういうところだぞこのやろう! ただやっぱり、ひまりとのデートは気を遣う割合が少ないのはなんというか、ほっとするんだよなぁ。
ひまりにとって大輔
大輔にとってひまり
みたいな関係。