いつだったか、前にひまりと会っている時につくしがうちの母親の伝言を届けに羽沢珈琲店を訪れた時のことだった。仲良く話をしている俺とひまりを見て、つくしが超絶早とちりをしたんだよな。それを宥めた後で、チラリと恋人の話をした。
「……大輔はないね」
「ないのか」
「いやだって、ん~、だって大輔だしなぁ」
「どういうことだよ」
なんかカレシにするって感じじゃないんだよね、とかひまりは俺を見てそう言う。別に俺だってカレシにしたいとか言われても断るつもりだったし、俺はそっかと話を流していた。ただ、ひまりは続けた。
「ただ、大輔がどーしても私といたいって言うなら、考えるけど!」
「なんで上からなんだよ」
「……私は、正直そういうのわかんないし」
わかんないって言うところが、俺と一緒だなと思った。だから俺はひまりと一緒にいた。その時間が思いの他楽しくて、いつの間にか、その時間を失いたくないって思ってしまったんだ。だから、俺は誰かと付き合うってことを考えなかった。もし誰かと付き合わなくちゃいけないんだったら、きちんとひまりにフられて、この関係を終わらせてからじゃないと。そう思うようになってた。
「私も」
「……え?」
「大輔がモテてたのはわかってた。だから、誰かを選ぶかを見届けようと思ってたんだ」
「そっか」
「それで、誰も選ばない時は……その時は私がって」
だから、カレシなのか。というかひまり、もしかして最初から? そう言うと最初からじゃないよと身体をくっつけてくる。きっかけは夏休みに入ったくらいの時のことだったらしい。友達との恋バナで自分の理想の男性像みたいな話をしてた時らしい。
「それが、俺だったの?」
「まぁねって、大輔本人に言われるとムカつくね」
「なんで」
「だって、それまでないって言ってたのに……しかも大輔だよ」
「それがわかんない」
でも今は好きなんだもんと唇を尖らせる。なにそれかわいいって言ったじゃん。というかそれに怒ってたのも不意打ちで照れてたのか。というかどんどん身体を寄せてくる。足をパタパタとして水を跳ねさせながら、というか肘に当たってるおっぱい、じゃなくて左胸からちょっとだけ早い鼓動を感じた。
「私ね、大輔のこといつの間にか好きになってた。一緒にいてくれることが、すっごく嬉しいって思うようになってた」
「……俺も、おんなじだよ」
そう、この気持ちは好きって気持ちだ。たぶんひまりもそれに気付いてたんだと思う。だからこそこうやって泊まりってことにして、一緒にいる時間を増やしたってことか。
「ん、そういうこと! 気付いたの、旅館の時だけど」
「俺は自分で自分に気付いてなかったよ」
でも、今はあの時一緒にいてくれて嬉しかったのは事実だし。そうなると結構前からなんだな俺も。自分では気付かなかったけど。そう考えるとうーん、今の状況確かにドキドキするんだけど。
「なんかすごく……なんかなし崩しだけど、付き合う?」
「いいのかな、こんなので」
「いいんじゃない?」
そんな軽くていいのか。でも、こうなった以上はもうぐだるだけだからまぁ、いっか。頷くとひまりは満面の笑みでやったとかわいらしく喜んだ。ちょ、抱き着かないでもらえます? ここがプールで自分が水着だってこと忘れてない?
「んー? 忘れてないよ? ほら」
控えめに示されたところを見ると、僅かに見えるところで男が女を後ろからカップルが見えた。うわ、キスしてるどころか男の手が思いっきりおっぱい揉んでるし、下に……は見ない方がいいな。こんなところでなにしてんのホテル行けよって思うんだけど。そのカップルだけじゃなくて至るところでいちゃいちゃしていらっしゃる。夜目遠目笠の内とはよく言ったもんだね。
「あ……あれは見なかったようにしよ」
「だ、だな」
あれと比べればめっちゃひまりのアプローチは健全なのかもしれない。でもひまり曰く、こういう開放感もカップルには必要なものなのかもしれないとか。開放しすぎでは。あんなのはほとんどいないとは言うけどさ。
「で、でも……大輔もさ」
「うん?」
「触りたかったら触って、いいからね?」
「は?」
「ほら……おっぱい、好きでしょ?」
は? 大好きですけど? そんな風に恥じらい交じりに強調されたら視線が吸い寄せられるくらいには好きですけど? でも急にそうやって煽られると、困ってしまうしあのカップルに引っ張られるのはよくないと思うよ。
「じゃあ……」
「ん?」
「もっと、いちゃいちゃしたい」
「……それくらいなら」
慣れないことだけど、こういう時ひまりが喜びそうなことを考えて腰に手を回して抱き寄せる。なんか、なんというか、この慣れないリア充の空間が、水着姿のひまりとすぐ近くにいるこの景色が、キラキラと輝いてみえる気がした。
「……何点?」
「ん? 当然、満点だよ」
「よかった」
「なになに~? カレシになったら急に強気じゃん」
そうじゃなくて今まで遠慮してただけなんだけどね。遠慮というか自分なんかがこれ以上ひまりとの関係を疑われるのがよくないって勝手に考えてただけだけど。というかなんかそっちだってカノジョになったら急に採点甘々になるじゃん。
「自分に自信のないだめだめな大輔の採点と、大好きなヒトへの採点は違うからね」
「大好き……そっか」
「うん」
そんなこんなで急にリア充めいて甘々なナイトプールを楽しんだ後、ディナーに舌鼓を打つ。そのままお風呂に入って、一足先に部屋に戻ってから気づいた。
──あれ、このままここで泊まるの? 大丈夫? ひまりと?
「え、恋人だしいいじゃん」
「よくなくない?」
むしろ恋人だとよくない気がするよひまり。ほら、今までそういう関係じゃないからって踏み越えずにいられた言い訳が使えなくなるわけだし。ちなみに俺、そういう言い訳ないと我慢できる自信はないよ。しかもプールでああいうの見ちゃったら尚更なんだけど。
「……もう、紳士な大輔はどこ行っちゃったの?」
「エセなので」
「私は……ちょっとくらいは覚悟してる、けど」
はいダウト。確実にそれは嘘でしょ。とはいえホントに手を出すわけにはいかないため、適度に話をした後、ひまりのベッドとは顔の向きを反対にして目を閉じた。最初は寝れるかと心配していた俺だったけど、結局疲れていたのか意識がゆらゆらと朧げになっていった。だからこそ、翌朝になって俺は絶叫するハメになったのだった。
「なん……なにしてんのお前!」
「ん……朝から、うるさい」
「いやうるさいじゃなくて」
目が覚めたら眼前にすやすや穏やかな寝顔を晒す美少女がいたら誰だって絶叫すると思います。なんでお前、俺の腕の中におさまってるのか小一時間ほど問い詰めていい? というかこれでもかってくらいおっぱい押し付けられててよく今まで寝てたな俺!
「小一時間はだめ……朝ご飯食べれない」
「そうですね!」
「おはよ、大輔」
今更になってやや甘い声で朝の挨拶をしてくれるひまり。俺もだけどヒトのベッドに入り込んで勝手に抱き枕になってきた彼女もぐっすりだったようで、欠伸を一つして起き上がった。だがまだ眠いようでこっちに身体を預けて大輔~とかわいらしく甘えてくる始末である。急に距離縮めてくるとこっちもどうしていいのかわからなくなるんだけど。急展開すぎん?
「ごめん、迷惑だった?」
「いやそうは言ってないけど」
「じゃあ、甘えていい?」
「……言葉にされると恥ずかしいので嫌だ」
迷惑じゃないし素直にかわいいなこの生物って思うけどやっぱり、甘えていい? と言われるのは顔が赤くなってしまいそうだから拒否っておく。するとひまりはそっか、と笑って俺の手を握ってくる。昨日から唐突に始まったラブコメのせいでこっちは何をどうしたらいいのかわかんない。これ、俺がおっぱいおっぱい興奮するだけのギャグのはずだよね?
「じゃあ今、なんでもしていいよって私が言ったら、おっぱい触る?」
「いや……どっちかっていうと」
俺にとっておっぱいは正義かもしれない。ひまりのおっぱいはそれこそ俺にとっての正義であるのかも。谷間を見るどころか生のおっぱい見てもいい触ってもいい、なんて甘言に俺はくらくらしてしまうくらいだ。だけど、と俺はあのナイトプールで本当にしたかったことをさせてもらうことにした。肩に頭を乗せたひまりの方に顔を向けて、ひまりもそれを嬉しそうに受け入れてくれた。
「……ん、満点」
「おっぱい触ったらどうなってたんだろうね」
「さぁね? でも私は大輔に甘々採点しかしないから、全部満点だよ」
「それは甘やかしすぎ」
ひまりは甘い。甘えるのも上手で甘やかしてくるのはあからさま。だからきっとまたみんなに目撃されることがあれば今度こそ誤解ではなく、ああこいつら付き合ってるんだなって認識されるんだろう。でも、そんな人目なんて気にしないひまりに俺が点数を付けることがあるとするなら、まぁきっと、満点以外はないだろうというのは確信できた。
ひまり「で? 何点だった?」
ましろ「うっ……悔しい、くそぉ……ひゃく……」
ひまり「そりゃどうも」
おっぱいヒロイン図鑑(完全版)
№04:ラブコメ係数100点!上原ひまり
隠れてない隠れヒロイン。どのルートでもなんだかんだナイトプール行って頑張れと負けヒロインを繰り返していた。今回は脈ナシから脈アリへの劇的な変貌を遂げたキャラであるが故に開き直ってめちゃくちゃラブコメしまくる。二人の相性は見ればわかる。
おっぱい好きなのは公言してほしくない。だが自分のは見て欲しい。付き合った後なら下心で見られても平気である。