第0話:プロローグは雨の日常にて
女性の部位のどこが好きかと問われるとオレは即座に、脊髄反射で答えようおっぱいが好きだと。おっぱい好きと言っても世の中にはたくさんいるが俺は大きいのが好きだ。キリンさんよりも象さんの方が好きな理論だ。ごめん自分で言っててよくわからなくなってきた。とにかく俺がいいたいのは。
──大きなおっぱいは素晴らしいぞルークってことだ。誰だルーク。そんな暗黒面もとい巨乳面に堕とされて久しい俺ではあるが、最近は色々ありすぎて安易にそうも言ってられなくなってきてるんだけどワトソンくん、真剣にどうしたらいいと思う?
「……ひとつだけさ、文句言っていい?」
「どうぞ」
「最初のくだりいる?」
「いるだろ親友よ」
「親友! えへへ……じゃなくって!」
何を怒ることがあるマイベストフレンド。俺が気軽に話ができるのはやっぱりお前だけなんだよ。そう言うと彼女、二葉つくしは調子いいこと言ってとため息を吐いた。うーん、今日も相変わらずまな板のフレンズやってるな。
「じゃあそういうことで」
「あーちょっと待ってお願いですから!」
「真剣な相談じゃなかったら本当に怒るから」
真剣な相談ではあるんだよ。ほら、前に話したじゃん、ましろちゃんに告られた話。GWの時なんだけど映画の帰り道にめっちゃそれっぽいこと言ってたってやつ。そういうとつくしはそれねとため息をついた。
「ましろちゃん、落ち込んでた。返事がないって」
「一ヶ月くらい待たせちゃってるんだよな……」
「それはよくない。ちゃんと話すべきだと私は思います」
だよなぁ、としとしと雨降りの外を眺めて俺はゆっくりと頷いた。ずるずると先延ばしにしてしまい、ついに六月に入ってしまったところで、梅雨前線は数百メートルの距離でも億劫になりかねない雨を降らせていた。
「なんで付き合うとか付き合わないとか、そういうの決めれないの?」
「バカやろう、人生初の告白だぞ……簡単に断ったらこの先どうやってカノジョ作ればいいんだよ」
「大輔には一生無理」
「お前!」
ただならどうして付き合わないのかと言われたら当然、俺がおっぱいを愛しすぎているからである。ましろちゃんのことなんてぶっちゃけおっぱい大きくて目の保養くらいにしか思ってない。そもそも好きなものとか、趣味とかもよく知らん。俺はガールズバンドのオタクやりながらおっぱい追いかけてるだけのクソ野郎なんだよな。
「最低だね」
「言うな、知ってる」
「ほら、他にも仲がいい人が」
「俺の知り合いほとんどおっぱい基準だからな」
そうじゃないのはオフ会についてくる氷川ぺったんこさんと一生に何度もないくらいの良縁だと思ってる最高のフレンドぺったんこ二葉つくしくらいだからな。それ以外はおっぱいがでっかければ仲良くなるしでかくなけりゃそれっきりみたいな感じだし。
「もしかして大輔は私のこと嫌いなの?」
「んなわけ」
「……そういうとこがダメなんじゃないかな?」
「どこだよ」
女性関係がルーズなところだよ、と言われてあまりにもそれが存在しない記憶すぎて首を捻ってしまう。女性関係が……ルーズ? ごめん一体誰の話してる? 宗山大輔? もしかして同姓同名の別人のことじゃなくて?
「私の幼馴染に宗山大輔は一人しかいないけど」
「だよな……俺が女性関係にルーズなの?」
「ほら、いっぱいいるじゃん」
身の回りで特段と仲のいい女性、つくしでしょ、ましろちゃん、ひまり……んーあと一応オフ会メンツ? そんなもんじゃない? そう言うとそうするとファミレス一緒になる麻弥さんと常連さんだからイヴちゃんもそうだよと補足してくれたなるほど。
「その中で大輔がデートしたことあるのがましろちゃんとひまりさんでしょ」
「あとつくしな」
「イチイチ言わなくていい」
事実は正しく精査するべきだぞつくし。ひまりやましろちゃんのアレがデートならつくしとなんて毎週くらいの勢いでしてるよ。だがそれは不都合な事実だったようでつくしは顔を真っ赤にしてバカ! と大きな声を出してきた。うるさい、下の階に響くでしょうが。
「ママは買い物行ったよ、さっき」
「雨の中をか? 手伝わなくてよかったかな」
「いいんじゃない? 必要だったら呼ぶでしょ」
二葉母は中学三年間くらい疎遠だったこともあって去年入り浸っても嬉しそうにお茶とかお茶菓子とか出してくれてはいるが、やはりなんというか勝手知ったる相手ということもあり、偶に重い荷物とかがあると手伝うこともある。ほぼ第二の母親みたいなもんだ。
「とにかく! 話が逸れたけど、大輔はそういう思わせぶりというか、胸があれば誰にでも優しくするのやめないとまたましろちゃんみたいなことになるよ?」
「そう……なのかなぁ」
俺にとっての女性の扱いの基準はつくしなんだよな。つくしが一番ひどい扱いをしてる。発言の際にはなーんにも考えちゃいないし、興味ない映画は徹底して後でつくしの聞き役になるだけだし、なんなら服にはダメ出しすることの方が多いし。
「……よく私怒ってないよね」
「まぁお前だって俺が恋愛映画に興味ないの知ってるし、一時期似合う服も選んでたの俺だったし」
「確かに」
大人っぽいファッション雑誌買うお前が悪い。つんつるてんの小学生体型のお前にはそれに似合う格好ってのがあるってのに無視しようとするお前が悪い。それに恋愛映画についてはもう興味もないの知ってるのにそれでもボッチ映画館が嫌だってだけで連れてかれてるし。つかそろそろバンド繋がりでその友達くらいできただろ。
「う……だって、大輔はなんにも考えなくても誘いやすいし」
「同レベルじゃん」
「うるさいなぁ、ずっと一緒なんだもん……しょうがないじゃん」
そう、しょうがない。俺とつくしがこんな性欲爆発しかねないうら若き年齢になっても兄妹みたいな距離感でいられるのは、俺とつくしがしょうがないやつだから。
俺は、つくしにしか自分のフェチズム、おっぱいのことを打ち明けられてない。つくしは俺にしか甘えん坊でどうしようもない依存しがちなところを見せられない。そういうしょうがないところが、俺とつくしを付き合ってると疑われるほど仲のいい幼馴染という関係に括っていた。
「……初恋なんだけどね」
「それ、私もなんだけど」
「はぁ……しょうがない、ちゃんと話合うよ」
「ん……私もいた方がいい?」
「いや、後で電話する。つくしがいるとましろちゃんも変に暴走するかもだし」
わかったとつくしは立ち上がってお茶のお代わりをくれる。この香りはなんとなく落ち着いてしまう。なんか超高級ブランドの茶葉だった気がしなくもないけど、俺にとっては二葉家でよく出てくる馴染みの紅茶でしかない。つかゲームしようぜゲーム。
「ゲーム……あそういえば、今度の秋に」
「……もう二度とお前の代わりに攻略なんてしてやんないからな」
あの乙女ゲーはヒロインのおっぱいが大きくなかったら頑張れなかった。だけどあれで納得できなかったのはヒロインの名前を変えられるところで二葉つくしになっていたところである。現実見ろよこのすってんてんと何度思ったことか。あとつくしはもっと夢見がちで積極性はない。甘えん坊なのはそう。
「ゲームより借りてきた映画観ないと、返却期限が近いよ」
「なんで俺がいないと見れないんだよ、ホラーじゃないのに」
「ホラーは大輔が一緒でもムリ」
はいはい、と俺はつくしに促されるままリビングのソファでダラダラと映画を観ることになった。最近バイトが連勤だったせいか途中で寝落ちしてしまって、気付いたらつくしと肩を寄せ合って寝ているところを二葉母に激写されていた。なんでそんな嬉しそうな顔で写真撮ってるんですかと言ったら小さい頃の旅行帰りの構図と同じだったから思わず撮ってしまったらしい。寝顔は昔から変わんないねぇとニマニマされたのだった。
時系列が六月に戻っていて完全イフになっています。大きな転換点としては一度目のましろの告白に気付いているという点です。