おっぱいはせいぎ   作:黒マメファナ

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第1話:始まらない物語

 もうすぐ夏休みがやってくる、というところで俺は自分のスマホにあるメッセージを眺めてため息を吐いてしまった。独り身で友達も少ない俺にとって夏休みは暇、というわけではない。むしろその逆だった。友達は少ないと思うけど。

 ──ましろちゃんからはよかったら花火大会の日に出掛けませんかという誘い、ひまりはナイトプールに行きたい、オフ会メンバーのグループチャットでも合宿するかという話題が盛り上がっている状態だった。

 

「いいことじゃん充実してて」

「あのな、そのメンツのほとんど女子なんだけど」

「水着に浴衣、ほら大輔なんて大喜びで胸ばっかり見るでしょ?」

「浴衣はおっぱいあると映えないんだよ」

 

 いやそっち? と呆れ声を出してるところ悪いけど俺はおっぱい好きだけどいやったぜ、おっぱいありがとうございます! って本人には口が割けても言えないの知ってるクセにそういうこと言うの? というか困ってるんだから助けろよ親友! 

 

「しかも前半なんてマジのカレカノで行くようなデート先指定してきてるんだぞ! 俺はどうしたらいいんだよ!」

「付き合わないの?」

「その話、先月に終わっただろ……」

 

 結局ましろちゃんと話して、俺は付き合うとかそういう目でましろちゃんを見てなかったんだごめんと絶妙におっぱいのことを避けて断ったら、どうやら妹的なサムシングだと想ったらしくより好意が直接的になってきた。おかげでタチが悪い。ひまりはひまりでヤバいところをデート先に指定しやがって。ナイトプールってなんだ。

 

「しかもひまりと紗夜さんには俺の性癖バレるし」

「……バレたのに、デートなの?」

「わからん。それは俺も気になってる」

 

 水着だぞ水着、そんなの俺が谷間覗きたくなるに決まってるよな。その辺わかってるはずなのにひまりはいいよとか意味深なこと言い出すし。なんなら最近は紗夜さんにも性癖ヤバいこと相談すると割と優しく接してくれるし。

 

「大輔のフェチなんて……言ったらみんなドン引きするもんだと思ってたよ」

「実際今までそうだったろ」

 

 確かにとつくしは苦笑いをする。俺がおっぱいは正義とか言い出すようになったのは小学校高学年になった頃だ。近所にいた年上の中学生にしておっぱいが出来上がってたヒトに性癖を歪められたのが原因だった。それを知った女子は相当俺をキモいバイキンのように扱ってきたなぁ。お前らみたいな貧相な絶壁に興味はねぇって思ってた気がする。

 

「確か塾の子が言ってた気がする……エロ本の読んで興奮してたって」

「青年誌だったけどな」

 

 ヤングなんたらとかのグラビアに興奮してたんだよ。断じてエロではない。繰り返すが断じてエロではない。興奮してたけど。

 けどその噂が広まって、俺はどんどんと孤独な中学時代を歩むハメになったのは事実である。今となってはどうだっていい。

 

「そういうのってやっぱ、蔑まれるべきだよな」

「私がまだ幼馴染やってるの、初恋だったからだし」

「……だよなぁ」

 

 つくしは初恋で、相当な信頼を築いていたからこそ中学三年間の疎遠だけで済んでた。けど今になってなんか受け入れられるとそれはそれで居心地は悪いんだよな。ひまりなんか被害者とも言える人物なのに、気にしないってと笑うだけ。

 

「でもそっか……大輔、隠さなくてよくなってきてるんだね」

「……まぁそう言われれば」

「そっか」

 

 困惑を露わにしてるとつくしが少しだけ小さな声で呟いた。つくしは俺には甘えがちだけどやっぱり根本は誰かに頼られたい、誰かに必要とされたいという依存で出来上がってる。久しぶりに会ってそれはより顕著になっていることはすぐにわかった。だから、今の状況はつくしの視点で言うなら、自分のお株を誰かに取られるってことになる。それは、確かに寂しいよな。

 

「けど、セクハラはよくないから。これからもおっぱいへの情熱を語る相手はつくしだけだな」

「私に対してもセクハラなんだけど」

「でさ、ナイトプールの前にって水着の試着見せられてさ……これがまたエグいのよ」

「だからぁ」

 

 画像も持ってるというか押し付けられて消してたら怒られるらしいので未だに持ってるんだけど見せるとつくしは文句言いながらすごいねと感心してた。そうなんだよ。これとナイトプールはヤバいと思うんだ。

 

「モテモテだね大輔」

「嬉しくない」

 

 なんというか若干紗夜さんの目も怪しいと思う時あるしひまりとましろちゃん、あと地味に瑠唯さんがくるんだよなぁ。そう言うと目を真ん丸にしてきた。わかる、俺もそう思うんだけど瑠唯さんのラブコメの波動あるんだよな。

 

「ってか瑠唯さんといつの間に仲良く?」

「バイト先にたまたま来てから常連なの。しかも俺を指名してきて二人きりで音楽の話から雑談までなんでもござれよ」

 

 休憩中だし暇潰しになるのは幸いだけど瑠唯さんの目が段々ヤバくなってる。絶対ヤバい。捕食者の視線には敏感なんだ。どっかのおっぱい先輩のせいでな。

 ──そのおっぱい先輩、中身がとんだビッチだったからなぁ。まぁあの年で女の身体に目覚めたらそうなるのも無理はないのかもしれない。中高生の男子なんて万年発情期のウサギさんよ。おっぱいがぴょんぴょんしてるんじゃ~って飛びつく憐れな生き物だよ。

 

「はぁ……モテたくねぇ」

「普段おっぱいおっぱいうるさいクセに」

「おっぱいとモテるのは別物なんだよなぁ」

 

 俺はおっぱいの奴隷だけど恋に焦がれる憐れな生き物にはなりたくないんだよ。それに人間中身が肝心ってのはおっぱい先輩で痛いほどわかってるつもりだ。そういう意味ではトキメキはないかもだけどつくしの方が数億倍マシ。

 

「……その言い方は最低」

「つくしの性格は許容範囲内」

「それも嫌なんだけどっ」

「つくしが幼馴染で本当によかった」

「……許した」

 

 わーい、俺の幼馴染はこんなにもチョロいんだ。チョロいと言えば多分だけどましろちゃんも相当そっちの部類に入ると思う。違いとしてはおっぱいくらいか。後かわいらしい。つくしにかわいげがないかと言われたらあるとは思うよ。

 

「ところでさつくし」

「ん?」

「そろそろ帰んないで大丈夫か?」

「大丈夫、大輔んちにいるって伝えてるし」

 

 なるほどな。二葉家は門限とか決めてるけどこれがまた割と娘に甘いのでガバガバだったりする。連絡すればオッケー、俺んちならオッケー、事情があればオッケーって、そのうちカレシとえっちしてくるから遅くなるねって連絡されますよと冗談めいて二葉父に言ったらめちゃくちゃ怒られた。お前が守れってんな無茶な。

 

「大輔、大輔」

「なに」

「私がご飯作ってあげる! 何がいい?」

「いや俺が作るから座ってろ。頼むから包丁を持つな台所に立つな」

「なんで!」

 

 なんで? お前が悪戯の神に愛されてるからだよ。砂糖と塩を間違えるを地でやるからだよ。オムライス作ってあげようと思ったのにってしかもお前が食べたいだけじゃねぇか! 怒涛のツッコミをしてしょうがねぇと冷蔵庫を開けて……そしてため息を吐いて時計を見た。大丈夫だ、まだ慌てる時間じゃない。

 

「材料ない」

「え……」

「から買いに行くぞ」

「う、うん」

 

 そう言って俺は歩いていけるスーパーまで向かっていく。財布係はつくしだ。そもそもつくしちゃんのお小遣いは交通系IC上限までと決まっている。下手にバイトサボった時の俺よりも多いしなんなら追加のお小遣いも時折もらえるというシステムなのだ。金持ちは悪ってはっきりわかんだね。その上大抵の飲食店は大幅割引してもらえるんだから理不尽の極みである。格差社会はクソ。

 

「あの、大輔……」

「お菓子は一つな」

「ち、違うもん!」

 

 とか言いつつお菓子買ってご機嫌になってしまうあたりつくしは変わらずチョロくてお子様なのだ。ただメシの前に食うなよ。あと無理に袋開けたら中身飛び散るから気をつけろよ。そんな矢継ぎ早の言葉につくしは頬を膨らませるのだった。わかってないから言ってるんだけどなこっちはさ。




まだ何も始まっていないのである。
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