七深ちゃん曰く親のアトリエと言う名の別荘で、周囲に建物がなくここ数年は使ってないということもあり透子ちゃんと瑠唯さんが提案し私財を投入し、バンド練習ができるようにリフォームしたもの、それが今回の合宿場なのだとか。ただ機材とかにそこまで詳しくないお嬢の集まりであるため、瑠唯さんがそれならと練習スタジオでバイトしてる俺の名前を挙げ、ましろちゃんが食いついたと。
「……バイト代取っていい?」
「宿泊費」
「ごめんなさい、誠心誠意ボランティア精神でやらせていただきます」
よろしいとリーダーつくしは満足気だ。ムカつくから透子ちゃんにこの間の砂糖と塩を間違えた事件の話をリークしてやったところ、透子ちゃんはしばらくつくしの顔を見るたびに笑っていた。それはいくらなんでも笑い過ぎじゃね?
「いやいや、あれは笑うっしょ! つーか大輔サンいてくれんのマジ助かる! あたしらじゃ絶対なんか破壊するね!」
「そうね」
「そうね、じゃないんだよなぁ」
瑠唯さん冷静に頷かないで。バイトとは違ってなんかないと呼ばれないからのんびりとした時間を過ごさせてもらってる。なんならちょい散歩に行ってみたりして、結局のところ日本の夏だから暑いことには変わりないけど、こうベタっとした風じゃないのは好印象だ。ここに住みたい。
「あ、そーだ、宗山さ~ん」
「なに?」
「夕飯、注文しといたから、受け取っといてくださいね~」
「注文?」
なんだろう、ピザとか? そんな疑問を解決してくれたのは大量の肉と野菜を配達員のお兄さんから受け取った時だった。ば、バーベキューセット。しかも高級肉だ。なにこのセレブ、めっちゃ腹立つな。いや俺も食えるから役得レベルなんだけど。ただし俺はバイトもといボランティア要員なので、炭火の準備もさせられる。バカみたいに広い庭に置いて、テーブルと椅子を出して、これは流石に瑠唯さんやましろちゃんが手伝ってくれたけど。
「先輩にばっかりやらせるのは嫌だし……一緒にいたいし」
本音が漏れてるのは気にしないでおく。フったとはいえ、気まずくなりたくないという俺のわがままのせいでまだまだ、ましろちゃんはこんなノリだ。そこに瑠唯さんまで加わるとなると面白いことが起きるんだから大変だ。
「二葉さんが手伝いにこないのは意外ね」
「あいつは俺に触るな近寄るなって言われて落ち込んでるところ」
「……過保護ね」
「そう思わせてやらかすのがウチのつくしちゃんのすごいところなんだよ」
特に火の近くなんてダメに決まってんだろ下手すると火事になりそうだ。ドジっ子の領域越えてるんだからなあいつ。
──そんな雑談交じりで炭火の準備ができたところで俺と透子ちゃんが焼く係になる。まぁ女子力高いし手際はいいからね、透子ちゃん。
「野菜はいらん! 肉だ! 肉をよこせー!」
「……炭酸だよね、飲ませたの」
「うん、そうだったと思うけど」
ただしノリに酔ってる。それを瑠唯さんが野菜も食べないと栄養効率がよくないわよと透子ちゃんとましろちゃんの皿にピーマンやらナスやらを乗せていく。ましろちゃんの箸が止まっていて、まぁドンマイ。
「せ、せんぱーい……食べて」
「たまねぎと交換」
「焼いた、たまねぎ……」
焼いたたまねぎもダメなんかい。キノコもダメだし、そうなると本当にキャベツくらいしか食べれる野菜がないんだよな。諦めたようにましろちゃんはキャベツをもしゃもしゃとウサギみ溢れる姿で食べていた。ふと、隣を見るとつくしはピーマンを見栄で食べようとして固まっていた。お前も緑黄色野菜食えないんだから無理するなよ。
「ほら、たまねぎ食え」
「……大輔が苦手なだけじゃん」
ピーマンを奪い取ってたまねぎを押し付ける。うるせぇ、ピーマンもナスも食べれるんだからいいだろ。それに食べれないわけじゃなくてハズレ引いた時の辛い感じが嫌いなだけなの。メインは肉だし、ところでめちゃくちゃ高級そうな肉なんだけど、これ金とか大丈夫なのかと訊ねると偶にはパーっとやんないと! と酔っ払いが言い出した。透子ちゃんのポケットマネーなん?
「あとは、あれ! グッズとかの売上!」
「幾らか売れていたものね」
グッズやらは透子ちゃんと七深ちゃんで手作りしているらしい。まぁ透子ちゃんなんて個人のブランドまで持ってるわけだし、アクセとかの小物……ってあれがハンドメイドってマジですか? 俺も持ってるけど。
「言ってなかったっけ?」
「と、というか……先輩わたしたちのグッズ買ってたんだ」
そりゃ俺はガールズバンドのオタクなので。それにしてもマジかぁという感じである。そりゃそうだよな、プロじゃないアマチュアのバンドでグッズ制作とかしてくれる事務所なんているわけないもんな。全然その辺りのこと頭から抜け落ちてたよ。完成度ヤバすぎでは。
「シャツとかね、七深に案もらってんだよ、な!」
「う、うん~あ、でも~これくらいフツー、だよね?」
そういえばロゼも燐子さんが担当してるからこそ、アマチュアであのレベルの衣装の完成度を誇ってるし、フツーあんなに統一感ある衣装をアマチュアが持ってるわけないもんな。なんか俺の頭の中に何バンドかアマチュアなのに衣装とかグッズの完成度がすごいのが通り過ぎてったけど、特殊なんだもんな。パスパレに慣れ過ぎてて忘れてた。
「まぁ懐石のフルコースとかだともっと掛かるから、こんなのミクロンミクロン!」
話のスケールがミクロンじゃないのはツッコんでいいやつ? 一般的な高校生は合宿で料亭行きませんよ? 人数分払うって意味だもんなあれ。やっぱ金持ちは悪。義賊さんこいつらですよ。
「ふぅ、食った食った……どうしたんシロ?」
「星、キレイだなぁって」
すっかりみんな腹も膨れ、火が消えかけていた頃、ましろちゃんの言葉に促されるように見上げると、濃紺の夜空を埋め尽くさんばかりに星が瞬いていた。一瞬、言葉を奪われるような輝きの後、つくしが俺の肩に頭を乗せてきた。
「眠い?」
「ううん、なんか……昔のことを思い出して」
昔、というと天体観測をした時のことだろうか。天の川が見たいと言ったつくしのために二葉家にくっついて俺も観に行ったやつだったな。確かに、あの時とシチュエーションは似てるな。山の上にあったコテージの庭の芝生に寝転んで、二人で流れ星を見つけようって躍起になったっけ。
「あの時、確かお前寝落ちしたよな」
「そうだっけ?」
「そうだった。俺が部屋まで運んだんだからな」
背中に背負って、あんときはまだそういう羞恥とかなかったどころか泊まり先になると絶対に俺と一緒に寝たがってた甘えん坊をベッドに寝かせて、結局流れ星を見つけることができずじまいだったな。
「じゃあ、今日もやる? 見つけるまで」
「流星群の時にな」
「そんなのすぐじゃん」
「すぐでいいんだよ、バカ」
すぐじゃダメだよ、とつくしは星を見ながら、すぐじゃダメ、ゆっくり二人で探すからいいんだよ、と笑って俺の言葉を否定した。珍しく昔みたいに甘えてくるつくしに、俺はその頭を撫でながら一言だけ言ってやった。
「みんな見てるけどな」
「……え」
「つくしちゃん……ずるい」
「幼馴染は思い出で勝負するものなのね」
「ふーすけやるじゃ~ん♪」
「つーちゃん、だいたんだ~」
暗がりでもわかる。なにせつくしは幼馴染でベストフレンドなんだからな。今、こいつは顔を真っ赤にして俯いてぷるぷるしてる。そのうち爆発して、俺に向かって知ってるなら早く言ってよ! 大輔のバカ! と罵りながら部屋に逃げ帰るんだよ。
「知ってるなら早く言ってよ! 大輔のバカ!」
──な? これが二葉つくしってやつなんだよ。んで、ああいうことやっといて後で俺にグチグチ文句言ってくるまでがテンプレ、それをごめんなって甘やかして寝落ちしたあいつを部屋まで運ぶのもテンプレ、ここまでがテンプレでここからもテンプレ幼馴染なんだよなぁ、なんせつくしだから。でもまぁ、そんなところもかわいいやつだって許せるのは、やっぱり俺もつくしに相当甘いんだろうな。いいんだけどさ。
ラブラブなのか……実はお前ら。