おっぱいはせいぎ   作:黒マメファナ

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後日談:モテる男のホワイトデー

 女性の部位のどこが好きかと問われると俺は即座に、脊髄反射で答えよう──おっぱいが好きだと。

 だが世の中には一口に「おっぱい好き」と言っても千差万別だ。その中でも俺はおそらくオーソドックスであろう大きいおっぱいが好きなタイプだ。言うならば人気投票で上位のキャラクターが好きなミーハーの中に異彩を放つ変態ってところか。よくわからない例えな気がしなくもない。

 ──とにかく、俺は大きいおっぱいが好きだ。大きいおっぱいこそ正義だ。その辺は周知されるべきだと俺は感じている。そう、もう一度言おう、俺にとってあくまで大きいおっぱいこそが至高にして正義なのだ。そこのところは忘れないでもらいたい。そして決して誤解のないようにお願いしたい。小さいおっぱいに興味のクソもない、俺にとっては大きなおっぱいが正義なのだ。

 

 

 


 

 

 

 三月十四日は世間的で言うところの「ホワイトデー」だ。なにやらホワイトと言うといかがわしい妄想もしてしまいがちだ。特に乳白色という単語に俺は底知れない卑猥ポイントがあると思ってる。声に出して読みたい色だと思うよ乳白色。

 ──いきなり脱線したけど、まるっと一月前、閏年でなければきっかり四週間前、バレンタインデーで女性から男性に、まぁなんでもいいけどとにかくチョコをもらった人にとってはそれをお返ししなければならない日となる。モテない男性諸氏においては関係のない話だろうけど。

 

「まだか? 今出た、からもう二十分だけど」

 

 そんな素敵でもあり、もらいすぎた人には財布の心配をする日の前の休日、俺はスマホを耳に当てながらそわそわしていた。

 原因は言うまでもなく待ち合わせ相手が予定時間の三十分後になっても姿を現さないことだ。いやマジでなにしてんの。

 連絡は寝坊した、忘れ物した、と続いて、現在返信は返ってきていない。恐らくショートカットしようとして迷子か何かでパニクってる最中だろう。本当に凡ミスの女神様に愛されてる。嫌な女神だなおい。

 

「お、おっ、おまたせ!」

「ん、迷子か?」

「う、うん……道、間違えてパニクっちゃって」

 

 ──だから迎えに行くって言ったんだよバカ、と文句を言おうとして振り返ると、そこには誰か知らん美人さんがいた。思わず固まってしまった。

 お察しの通り今日はデートの待ち合わせである。デート相手は言わずもがな幼馴染であり元は大親友(ベストフレンド)でもあり、現状の関係は恋人ということになる二葉つくしだ。そしてつくしちゃんといえば見た目も子ども中身も子どもの年齢詐称のつんつるてんなんだよ。俺は愛しのマイハニーがこれまで一度だって高校生ですねと言われたことがないことを知っている。

 

「だか……え、誰キミ」

「ひど! う、そ、そんなに怒ってる……?」

「い、いや……あの、いや怒ってはない。うん」

 

 きっと同じバンドでファッションリーダーどころか自分のブランドのプロデュースもしてるで有能ギャル系お嬢様の桐ヶ谷透子ちゃんが入れ知恵どころかフルプロデュースしたんだろう、ということは一目でわかった。

 だけどそれでも、例えそれをわかっていても息を呑むほど、今日のつくしはかわいかったし美人だった。いやマジでつくしちゃんは最高にかわいいのは俺にとっては空気は窒素が大部分を占めてるくらいに当然のことなんだけどさ。そうじゃないんだよ。

 

「あ、あー……えっと、変じゃ、なかった?」

「全然、びっくりしただけ……ギャグじゃなくて、マジで」

「そ、そっか」

 

 恥ずかしそうにヘアアイロンで巻いたんだろう降ろした髪をくるくると指先で遊ばせる。ちゃんと付き合い初めて半年くらい経ったけど、ここまでファッションで本気を出してきたのは初めての経験だった。いや今日クリスマスじゃなくてホワイトデーっすよつくしちゃん。

 

「だ、だって……クリスマスの時、ダメ出しされたし」

「したね」

「背伸びしすぎって……それが悔しくて」

「それで透子ちゃんに?」

 

 頷くつくしと俺の間に妙な空気が流れ始める。いつもはワンピースとか、割と子どもっぽい格好してること多くて、ツインテも相まって子どもっぽさ全開だったのに。

 しかもちょっと近づけばすぐわかるけど化粧もしっかりしてる。今回は百点どころじゃない点数してる。

 

「はぁ……」

「な、なんでため息」

「そういうの、もっとしっかりしたデートの時にしてくれ」

 

 そんな気合全開のつくしちゃんのデートコーデとは裏腹に今日はデート未満のおでかけなのだ。目的は買い物であり、しかも内容も前述のホワイトデーのお返しを買いに行くだけだ。そして買いに行かなきゃなとボヤいたら何故かデートすることになってた。つくしにもあげるんだけど、一応は。

 

「大輔はこういう時は見張ってないと浮気するかもしれないし」

「なんだそれ」

「いいから!」

「まぁいいや、行くか」

「うん!」

 

 見慣れたはずの笑顔も、いつの間にか繋ぎ慣れた手も、俺の心を揺さぶった。

 ──ホワイトデーだけの予定だったけど、普通にデートでもいいか。今日のつくしは俺にそう思わせるには充分すぎる破壊力が出ていた。今日のつくしちゃんはパワーが違うぜ。

 

「大輔は、誰にあげるの?」

「正確には誰に返すの、だな」

「そういう誤魔化しいいから」

「えーっとだな」

 

 頭に思い浮かべていく。まずは隣にいるつくし。こっちは恋人だし現状一緒にいるので食べたいものをあげようと思う。後はモニカの残り四人、うち二人が本命チョコとのたまってきた。後はひまり、有咲、ゲーム友達の紗夜さん燐子さんとあこちゃん。羽沢珈琲店関係でつぐみちゃんとイヴちゃん。麻弥さんだな。さりげにビッグセブンからコンプしてたりする。

 後は花音さんやらこころやら、リサさんやら羽沢珈琲店で会った人総勢五人くらいからもらったよ。

 

「うわ」

「うわって言うのやめて」

「多いね」

「本当に」

 

 数自慢とか学校でやってたけど、俺は自分のクラスじゃゼロで通ってる。実際は余裕の二桁である。バレンタイン当時は内心で余裕ぶちかますことができたし羽沢珈琲店通っててよかったと心から感謝したよ。

 それが今、財布にダイレクトアタックしてくるのが問題なんだよ。俺のライフはもうゼロなんだよ。

 

「本命はどうするの?」

「一つはいいとして二つなぁ」

「誰?」

「……は?」

「え、なんでめっちゃバカにしてきたの?」

「誰って、お前だよ二葉つくし」

 

 お前が三つ目の本命チョコなんだよ! と言うと今明かされる衝撃の真実を突きつけられたかのようにつくしは驚いていた。いや、まさか義理チョコだったの? それはそれで恋人から義理チョコもらうのなんかショックなんだけど。

 そう言うと、つくしは苦い顔でそれを肯定してきた。え、マジで義理なんですか? 

 

「なんか大輔には毎年上げてるから、流れで」

「マジで義理かい!」

「いや、まぁ……ウン」

「そこは嘘でも今年からは本命だからとかロマンあふれる言い回しを求めてたよ」

「私に?」

「ああ……ごめん」

「謝らないでよ!」

 

 まぁつくしだし。事実ロマンの欠片もないし。幼馴染でベストフレンドだったお前に正直なところなーんにもラブコメは期待しちゃいない。このデートだって、手を繋いでいることと、俺の意識の中の他にはなにひとつだって俺とつくしは変わってない。初恋で、幼馴染で、隠してることなんてない息抜き的な存在、それがつくしだ。

 

「ところでさ──大輔?」

「あ?」

「また通行人見てたでしょ」

「ああ、うん。おっきかった」

「もう!」

「で、なに?」

「その、ビッグセブン? から本命もらった感想は?」

「え、えーっと、困った」

「困ったんだ」

 

 そりゃ困るさ。それが既に恋人でさ、おっぱいの型取って作りましたなんて言ったら興奮のあまり食べるのに下半身が大変なことになるかもしれないけど。大きいおっぱいなのと恋愛対象なの、知ってるってか現状実感してるでしょうがつんつるてん。

 それにそんなつんつるてん、じゃなくてつくしと付き合ってるの知ってて本命チョコってのはまさに私は諦めないって宣言でもあるわけでしょ? あんまりつくしを不安にさせるのはよくないしな。

 

「俺がバカみたいにおっぱいおっぱい言ってるのも、ましろちゃんと瑠唯さんがビッグセブンなのも、知ってるだろ」

「そうだけど」

「──俺は、つくしのカレシだからな。つくしが安心して好きって思ってくれないと、困るんだよ」

「ふ、ふーん、そっか……そっか」

「なんだよ」

「なんでもないっ」

 

 上機嫌になってるとこ悪いが、お前付き合ってるの知られた上で俺に本命チョコ渡してくるってそれマジで舐められてるよ。つくし相手ならバトっても勝てるだろうって思われてそうだよな、特に瑠唯さん辺りに。

 まぁ口には出さずに、ホワイトデーのためのちょっと高そうなお菓子のコーナーにたどり着く。

 

「わぁ、かわいい……!」

 

 色んなチョコやらクッキーやらのラッピングや箱を見ておめめをキラキラさせるつくしちゃん。おまかわ。

 じゃなくて、つくしばっかり見てるとなんにも進まん。だけど今日のつくしはプロのマジシャン並に俺の視線誘導が上手だ。ついついつくしの横顔や後ろ姿を目で追いかけてしまう。おかげで多分おっぱい四回くらい逃してる気がする。

 

「大輔は何を買うか候補は?」

「今ぶっちぎり一位がつくしちゃんのお持ち帰りかな」

「……変態」

「そのつもりはなかったけど気が変わってきた」

「えっち」

 

 こう、なんていうかつくしが頬をちょっと染めて恥ずかしそうなえっち、って声には何か下半身とか性欲とか劣情に作用する成分が含まれてるよな。全部同じか。

 何ヶ月かは嫌がるつくしを絆して流して宥めて押し倒してたけどクリスマス辺りについに自分からもえっちな顔で誘ってくるようになってたりする。でもめっちゃ恥ずかしがるんだよ。かわいいでしょうちのつくしちゃん。

 

「誰に向けて自慢してるの? ってか誰であっても恥ずかしいからやめてよ!」

「つくしと付き合ってない世界線の俺」

「危ないやつだよ!?」

 

 諦めようつくし、俺は危ない変態なんだ。とまぁイチャイチャしてないでちゃちゃっと買うものを決めていく。このしっとりクッキーいいな。特にしっとりって単語にそこはかとないエロスを感じるよ。

 ──隣からの視線が痛いのでこれ以上はやめておこう。

 

「あとはキャラメルとか、マカロン……たっか、まぁいいやマカロンと」

「紅茶とかもいいかもね」

「いいなそれ、花音さんとか珈琲店メンツはそれにしよ」

「紗夜さんもそれでいいと思うよ」

「だなぁ」

 

 なんだかんだでつくしいてくれて助かってる部分はやっぱアドバイスくれるところだよな。ブランドメーカーの紅茶の葉のセット、マカロン、高級キャラメル、バウムクーヘン、平均値は目指せ二千円である。それでも二桁いるから二万どころか三万とか余裕でぶっとぶんだけど。こういう時化粧品とかを贈る文化もあるらしいが俺には無理である。

 

「つくしくらいだよな」

「隣にいるからね、でも私も透子ちゃんいないとわかんないよ?」

「つくしだなぁ」

「どういう意味!」

 

 結局つくしを除いて総額が四捨五入したら四万に到達した。店員さんも驚き顔だ。俺もびっくりしてたけどな。バイト学生にはツラすぎる出費だよ、また今月もつくしちゃんのヒモ生活か、悲しいな。

 して、最後に残ったつくしちゃんの番だけど、何がいいとか決めたんだろうか。

 

「うん、決めた」

「なに?」

「──大輔」

「ん?」

 

 名前を呼ばれて手を繋ぐつくしを見ると、つくしはほっぺどころか耳まで真っ赤になっていた。

 でも、それでもつくしは俺をまっすぐ見つめて、間違いなく、聞き間違いも言い間違いもなく確実にその一言を口にした。

 

「大輔の時間がほしい」

「……は、具体的には?」

「春休みになったら、デートしよ。クリスマスのリベンジで、今度はもっと大輔にかわいいって言われる服で来るから」

「襲ってもいい?」

「いいわけあるかっ」

 

 どうやらつくしはどんどん、いい女になってしまっているようだ。それが嬉しくもあり、寂しくもある。同時に、俺もちゃんとつくしの成長に応えられる男でありたいと思う。幼馴染で、初恋だからつくしのハートを射止めたんじゃなくて、ちゃんと、二葉つくしのカレシとしてつくしが惚れてくれる男に。

 

「温泉宿とかいいかもな、泊まりになるし俺の金じゃ無理だからあんまりお返しにはならんかもしれないけど」

「……どんな部屋でも一緒には入らないからね」

「え、だめなんですか!?」

「なんでそこでめちゃくちゃびっくりできるの!?」

「そういう意味のホワイトデーかと」

「変態! ってか大輔付き合ってから下ネタ多すぎ!」

「そりゃ、つくし相手だからな」

 

 手を引っ張り、引き寄せたタイミングで手を放して腰を抱きながら身を屈めて唇を奪ってやった。身長差がかなりあるから横からというより上からになるけど、つくしはどうやらその上からのキスに弱いらしい。二度目を迫ると拒否しきれずに唇が合わさる。お菓子コーナーで人目にはあんまりつかないけど、ちょっと強引すぎたかな。怒られると思って身構えていると、おや、勢いが弱く潤んだ目でつくしは熱っぽい息を吐いていた。

 

「……家、さ」

「ん?」

「誰も、いない?」

「残念ながら今日はいる」

「い、いるのに……ああいうキスするの、バカじゃん」

「そんなムラムラつくしちゃんにはいいお知らせがあるよ」

「……言い方」

 

 そう言って俺は二葉母からもらったとあるカードキーを見せる。セレブ界隈に足を突っ込んでいる二葉家は別荘こそないが、俺がつくしには内緒で正式に両親にお付き合いしてること、結構真剣に将来まで考えてることを伝えていた。そしたら正月に一緒に旅行した際にこんなものをもらっていたのだった。それはなんと、俺とつくしんちから徒歩三分、駅から徒歩八分ほどのところにある高級マンションの三部屋ブチ抜きの鍵だった。

 

「な、なにそれ」

「若くて健全な俺たちのためにだってさ」

「……ママってば」

 

 家だと親がどうのって言って無理な時もある、でも高校生だからホテルは無理だってなるだろう俺たちの背中を押してくれる素敵な鍵だ。これまでは使う機会ないし、なるべくあるって思うのはやめとこうと思ってたもんだけど、つくしの反応見て俺も我慢できそうになかったからな。

 

「行くだろ?」

「……うん」

「そうこなくちゃ」

 

 なーんて余裕ぶっこいてチャラ男みたいなテンションを出している俺ですが、完璧に虚勢である。というか今日のつくしのかわいさが限界を越えていらっしゃっている。そういう意味だとマジで透子ちゃんナイスすぎる。でもキスと誰にも確実に邪魔されない空間に行くって事実にこっちのドキドキがヤバすぎて頭おかしくなりそうだ。

 

「顔あっつ……大輔のばか」

 

 こんなつくしのテンションで俺が我慢できる可能性なんて万が一にもありませんねええ。そしてつくしちゃんは俺がムラムラするポイントをよく抑えているので、まぁ結論何が起きるかっていうと初利用で初お泊りになりましたとさ。

 ──これ、いつでも使えるの絶対バグってるのでなるべく使わないようにしようとつくしと二人で話し合って決めた原因になったのが、その日のことでしたとさ。おしまい。

 

 

 

 

 

 

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