司波(達也)咲耶のオラリオ『さすおに』物語——   作:仁611

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アイズとの模擬戦が行われた翌日から、毎日アイズは俺と一緒にダンジョンへと誘って来る様になり、俺の生活のルーティーンには鍛冶と魔法研究に勉強会と並び、アイズとダンジョン探索が組み込まれて行った。

 

世の中誰しも平穏無事が最良だが、『魔法科高校の劣等生』のお兄様事司波達也にそれは当てはまらないのだ…。魔法大学付属第一高校へ入学して数ヶ月の間だけでも、同級生の難癖や偏った思想の自己中犯罪集団の学校襲撃、魔法科高校のみで行う魔法中心競技の九校戦での外国人犯罪組織が仕掛けて来た殺人レベルの妨害。

 

振り返ると転移するその瞬間ですら狙撃されるなど、お兄様は事件やトラブルの吸引機だと言える。

 

 

 

目の前には狼人(ウェアウルフ)と呼ばれる種族のイケメン、ロキファミリア所属の【凶狼】(ヴァナルガンド)ベート・ローガが俺を睨みながら戦闘態勢を取っている。

 

ダンジョンでアイズと17階層にある嘆きの大壁に差し掛かった時、急に彼が俺に蹴りを見舞って来たのが事の始まりだ。雑魚にアイズの隣は相応しく無いなど嫉妬塗れのツンデレ狼に怒鳴られ、司波達也時代の罵倒や陰口に比べたら砂糖より甘い彼の口撃…。

 

アイズはベート・ローガの雑魚と言う言葉に頭に来たのか、ベートに向かって俺がアイズに勝ったと伝えた。彼からしたらどんな理由を付けてでも男を排除したいのだろうが、それ以前に俺のレベルが2である事をアイズと共にダンジョンに行く俺が有名になっていたので当然耳にしていた彼は、アイズの言葉と言えど卑怯な事でもしないと無理だと、どうしても信じられないでいる。

 

 

「テメェがどうせ卑怯な魔法か呪詛(カース)なんかでアイズに勝ったんだろうが!結局テメェが雑魚に変わりねえんだから、今すぐ自分の部屋に閉じこもって出て来んじゃねぇ!」

 

「…ベートさん——私の事も、馬鹿にしてる?」

 

「!?」

 

「そうだな。呪詛(カース)にしろ魔法にしろ、アイズが動くまでに当てる事が出来るならそれは強さだが?真正面からの物理以外は全てが卑怯と言うなら、剣術の研鑽は卑怯で体術の研鑽も卑怯になる。お前の言っていることはアイズが相手を舐めて掛かった上、俺の魔法に無残にも負けたと言ってる事になるが?俺はアイズと同条件で模擬戦を行い、彼女が俺を認めただけだ…。お前は俺達の模擬戦を馬鹿にしてるのか?」

 

「——俺と勝負しろ!それで勝てば認めてやる」

 

「……」

 

「俺にお前と戦うメリットを感じない」

 

「逃げんのか!?」

 

「はぁ……俺とアイズの模擬戦を馬鹿にした上、上から目線で勝負を挑む相手に俺がわざわざ付き合う必要があるのか?アイズがダンジョンに一緒に行く相手はアイズ自身が決める事だ、お前が認めるかどうかは関係ない」

 

「——俺が言ってる事が自分勝手なのは分かってる。頼む、勝負を受けてくれ!俺の勝手だが納得してぇだけだ」

 

 

アニメで知るベート・ローガでは見た事無い顔と、自分よりレベルの低い相手に頭を下げた姿にどこまでも真っ直ぐなレオを捻くれ者にした様な雰囲気を感じた——ベートはアイズ自身にも俺の時間を融通してくれる様に頼み込む姿は正にレオだと思ってしまった。

 

自分の信念故に譲れない何かがある事を、創作物では感じない人としての矜持を感じ、俺はアイズに視線をやって少しだけベートとの事に時間をもらう事になった。

 

ルールは致命傷や殺害以外、直ぐに治る攻撃のみで何でもありと言う事で決まり、アイズが合図をしてくれるらしく嘆きの大壁で模擬戦は始まるのだった。彼の心意気を買い、魔法は瞬殺で終わらない系統に絞って身体強化系や戦闘サポートのみ使用する事にした。

 

 

 

——「……始め」

 

 

 

ベートの瞬足はアイズを上回り俺を捉えようとするが、アイズに行った何倍ものスピードを魔法で行い、彼の攻撃を軌道を逸らす前段階の状態で関節を動かせなくする位置を鞘に収めた刀で叩く、彼がどんなに激しく動こうとも全て人体の構造を理解した上封殺する。

 

かれは恐らく、俺の能力をある程度予想はしていたのかも知れない様な表情で、必死に自分の矜持を貫いている様に感じた。彼の本気度を感じた俺は、『魔法科高校の劣等生』で登場する九島家の秘術と呼ばれる【仮装行列】(パレード)と名付けられた、元は古式魔法の幻術に由来する九島家の秘術だが、九重師匠に相談しながら創作物の知識で補填し、自身の個別情報体(エイドス)の色・形・音・熱・位置に関する情報を複写・加工して本体と異なる姿を映し出し、ダミーの情報体を作り上げる対抗魔法だが独自開発したそれを展開し、彼やアイズには俺が別の場所にいる様に認識させる。

 

【仮装行列】(パレード)の展開は通常の魔法とは違い、展開する起動式を相手にバレない位置で発動する。ベート・ローガは魔法を発動した事にも気付けず、俺の全力で背後から近付いて喉元に鞘が触れて初めて自身の負けに気付いた。

 

アイズも何が起きたのか分からず、俺が模擬戦で手を抜いたのかその後しつこく追求される。魔法を使えば無限の戦闘方がある事は肯定した上で、アイズとの模擬戦は剣術も魔法混合戦も真面目にしたと彼女に説明した。

 

ベートは黙って頭を下げ自分の未熟を認め、我儘に付き合った事に短く「感謝する」そう言って上層へと引き返して行った。そんなベートの意外な姿を目の当たりにしたアイズは、目を大きく開いて初めて見たと彼の感謝に感慨深そうにしていた。

 

 

「では、ダンジョン探索の続きをするか?」

 

「うん」

 

 

最近ではアイズの戦闘中の指導もだいぶ減り、俺が闘う姿を一生懸命見て自分に落とし込んだりしている。一番意外なのは魔法理論を苦戦しながらリヴェリアさんと一緒に学んでいる事だ…。

 

知識=強さを体現した現代魔法と呼ばれる知識、俺の戦闘そのものに経験と知識が含まれるが故に彼女も真面目に取り組んでいる。だがしかしトラブルの申し子のお兄様には、『アイズ絶LOVE』事レフィーヤ・ウィリディスが俺に突っかかって来るのは、それから数日後と言う直ぐの事だった。

 

 

 

 

 

いつもの様に、バベルにあるヘファイストスファミリアが店舗を構える場所に存在する、専用として改装してもらった俺の鍛冶場兼研究室でもある場所でリヴェリアさんとアイズは魔法理論を学んでいる。

 

CAD関係は室内では区切られた場所にあり、神ヘファイストスの執務室に似た造りになっており、そこに別に研究室が隣にある様に造ってもらった。そもそもCADは技術水準がぶっちぎりだし、熱に弱い物が多く存在するのもあり別室として設計した。

 

ある意味主神より扱いの良い俺の作業場は、別派閥の人間を呼んでも何ら不思議でない位置に入り口が繋がっている。店舗を経由しなくても店舗横から入れる扉を付けてあり、強度や秘匿性はオラリオに来て直ぐに開発した技術によってかなり強化されている。扉にはインターホンが取り付けてあり、CAD調整室と鍛冶場の両方に神フレイヤが覗き見する神の鏡を解析して創った認識阻害がされている。CAD調整室に至っては、壁に物理障壁と魔防障壁が展開された上での最高錬成硬度の鉱物が使われており、【不壊属性】(デュランダル)を解析した神秘を解き明かした技術が使われている。

 

【不壊属性】(デュランダル)の特性は至って単純で、個別情報体(エイドス)に壊れない仕様が施され、研磨や整備を行うと刃の鋭利を再度修復する事が明記されていた。それらの情報を常に維持する装置を設置して、CAD調整室は絶対防御に近いシェルターも逃げ出す世界最高峰のセキュリティを保持している。

 

 

そんな事を考えながら彼女達に理論の基礎を教えていると、店舗側の扉をノックする音が室内に響きわたる。【千の妖精】(サウザンドエルフ)レフィーヤ・ウィリディスが訪ねて来たのだとか、しかも呼び出し相手はアイズとリヴェリアさんだとか…。

 

それを聞くとリヴェリアさんは額に手を当て俺に謝り、店舗側からレフィーヤに話を付けに向かった。創作物としてのレフィーヤ・ウィリディスの性格を知る俺は、この後どうなるか予想が付いてしまっているが、アイズの質問へと意識を割く事で現実逃避を行った。

 

 

数分後には、リヴェリアさんによって事情説明を受けた上でレフィーヤさんの入室を許可するしか無かった。彼女は拗らせ系爆弾娘だからこそ、風評被害や暴走し過ぎて今以上に問題行動に出られない様にある程度の関係性を維持する事にしたのだ…。

 

レフィーヤさんが入室して直ぐに、チワワが番犬をする様に俺を威嚇し始めたが、アイズとリヴェリアさんに叱られ見えない筈の尻尾と耳が項垂れてる様に感じた。授業が始まって数分後にはリヴェリアさんすら知らない理論を説明する俺と、生徒になってる彼女に驚いている様だだったが、それより更にアイズが真面目に勉強を行なっている姿に自身が恥ずかしくなったのか静かに手作り教科書に目を通し始めたのだった。

 

 

「レフィーヤ——自分で自己紹介をしろ」

 

「……ウィーシェの森出身のレフィーヤ・ウィリディス…です」

 

「初めまして——司波咲耶です。咲耶が名前で、司波が苗字になります——呼び方は出来たら名前でお願いします」

 

「えっと…わ、私もレフィーヤでお願いします!多分私の方が年下だと思うので」

 

「ああ。分かった——リヴェリアさんに聞いていたが、レフィーヤは勤勉で努力家だそうだな?それに若いと言うのは俺の勉強に関して言えばプラスになると思うぞ」

 

「あの…何でですか?」

 

「魔導師の殆どがエルフだと聞いてるが、エルフ族は長命だからこそ多くの知識を有してる。だがその知識は時として、新たな思想や革新的な知識を自分の積み重ねが邪魔をする場合が多い——リヴェリアさんの様に柔軟に知識を欲するタイプは意外と少ないんだ」

 

「なるほど——」

 

「レフィーヤに面白い考察を教える——エルフ族が長命な理由を多少は分析出来たと思うぞ…。エルフは多種族より心臓の速さが遅く、それらの代用として魔力循環が、身体全体に必要な栄養を巡らせている様なんだ——細胞の老化が遅いのも、精霊と同じ原理だと俺は考えているが、精霊は特殊な核とも言える【霊子】(プシオン)要は魂を持っていて、それら以外は膨大な魔力で肉体を構築している。精霊が神の様に死なない訳はココにあると考えてる——」

 

「それは面白い発想だな——我々エルフが長命なのは生まれながらに多くの魔力を有しているから、そう言う事か?」

 

「単純に魔力を持っているだけでは駄目ですが、魔力循環を幼い頃から学んでいる事や元々持って生まれた素地が良いお陰ですね」

 

「では、冒険者が一般人より長生きなのは——」

 

「そうですね。リヴェリアさんが考えた通り、この世界では誰でも魔力を有しており、【神の恩恵】(ファルナ)が元々持っている魔力を強化することで更に増えるからですね——エルフ族は魔法と言う分野では凄く興味深い種族だ…レフィーヤ、もし良かったら今度アイズとのダンジョン探索に付き合ってくれないか?」

 

「えっ!良いんですか?」

 

「私は…良いよ?」

 

「むっ——狡いではないか」

 

「リヴェリアさんも来ますか?」

 

「サクヤは何やら、また世界の深淵を覗こうとしているのか?」

 

「まだまだ深淵など、遠いですね」

 

 

 

今もこうして勉強は教えているが、俺の知識としてある魔法理論は漏れる事はまずい内容の為、教科書もノートも全部がこの部屋以外ではリヴェリアさんの責任で管理されている。リヴェリアさんが漏洩と言う部分で信頼するファミリアの団員以外は教えず、限定的な知識として徐々に枠を広げる予定だ…。

 

話によると準幹部候補以上の団員以外ははまだ知らないようで、それはレフィーヤ以外全員レベル4以上になる。元々知識が財産だと知るロキファミリアだからこそ、俺自身そこまで心配してはいない。

 

今日の勉強が終わると、レフィーヤからは嫉妬ありきで尊敬が(ない)交ぜな表情が見受けられ、偶に「負けません」とか呟いているが少しずつ俺の印象のが変化してるのを感じられた。今後も少しずつ友好な関係性が出来るよう、見っともない姿を見せない様に気をひきしめた。

 

 

 

 

 

 

 

——転移数日後の事

 

 

「お邪魔するわね、ヘファイストス」

 

「えっ?どうしてフレイヤがここに」

 

「どうしてって…。そこにいる不思議な子に会いに来たのよ」

 

「さっ咲耶に——いくら貴女でもこの子はあげないわよ」

 

「ふふっ——どうかしら?私の元に来ないかしら」

 

 

これは俺が目をつけられて数日の事だ、初日から個別情報体(エイドス)を読み取られてる様な不快な感覚を覚えていたし、何となくだが神の鏡で覗いてると直感で感じて鏡を解析した。それ以降事あるごとに覗く鏡を分解したりもしたし、直接視線を感じて認識阻害を行ったりしたが、彼女は霊子(プシオン)を直接見てる為意味がない事は理解していた——前世に置いて柴田美月、彼女が神フレイヤと同じ様な特性を持っており、霊子放射光過敏症と言う霊子を直接見て色々な情報を受けていた。

 

 

神フレイヤが俺の頬に触れ、魅了と呼ばれる彼女固有のある意味呪いに近い能力は効かなかったのだ——俺と言うか、司波達也は調整体として感情起伏を抑制されている事と、俺と言う人格は別の位置に存在する様になっている。達也が多くの情報を得る受信機で、俺がそれをテレビの様に見てコントローラで操作してる感じだ…。

 

神フレイヤは、俺の一切影響を見受けられない姿を見て嬉しそうに笑っている。次に発した言葉は、俺が司波達也の頃に思っていた事に少し似ているのでは、そう思ってしまう内容だった。

 

 

「あら、やっぱり魅了されないのね。ねえ——私の初めての友達になってくれないかしら?」

 

「ええ、構いませんよ——フレイヤ」

 

「!?——貴様!」

 

 

横に控える猫人(キャットピープル)の護衛が怒鳴って来たが、その横に佇む猪人である都市最強と言われる【王者】オッタルが制しすると、オッタルを睨みながらそのまま黙り込んだ。オッタルにはフレイヤの気持ちが少しだけ分かるのかも知れないな…。

 

司波達也だった頃は、魔法科高校に行くまで友達は愚か好意的に接してくる人間など片手未満だった。色眼鏡抜きに見られる事も無いし四葉と言う枷が重くのしかかっていた——フレイヤも【美】【豊穣】の美によって苦しんでいるのかも知れないな…。

 

フレイヤは神として定められた存在の在り方に、司波達也は調整体で四葉のガーディアンとして深雪と共に四葉としての生き方に…。

 

 

 


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