フランドール・オーバーローデッド   作:凜としたBTQ

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第一話 妹様、異世界へいく

 ナザリック地下大墳墓第十階層。

 

 至高の御方々が治めるこの地下世界の最奥、玉座の間にて数多の異形が平伏していた。

 この世界からしたら逸脱した強者である百鬼夜行の異形達が一斉に平伏し、頭を垂れている様は異様とも言える。

 

 その中でも突出して強者のオーラを放つ者────ナザリック地下大墳墓、階層守護者達は地に伏したまま歓喜の念に打ち震えていた。

 

 ナザリックがこの異世界に転移して以来、これほどの喜びを感じたことがあるだろうか。

 この場にいる、全員が応えるだろう。ない、と。

 守護者達の主にしてナザリック地下大墳墓の最高責任者、至高の御方々のまとめ役であるモモンガ────アインズ・ウール・ゴウンより、かつて自身の失敗を慈悲深い労りの言葉にて許してくれた経験のあるシャルティアですら、その時と同等か、それ以上の喜びと感動に打ち震えていた。

 

 その理由は、眼上の玉座の間に座る二人の異形にあった。

 

 そう、二人だ。

 

 シモベから見て左に座するは、ナザリックにいる者なら誰もが一度はその威光を目にしたことのある至高の御方々のまとめ役にしてナザリックに最後まで残った慈悲深き死の支配者。

 アインズ・ウール・ゴウンこと、モモンガ。

 その絶対の死の王は今日、長年の孤独を払拭するかのように隣に座す存在へと温かな赤い眼光を向けていた。

 

「面をあげよ」

 

 伏していた全てのシモベが一斉に頭を上げる。

 

 顔を上げたことで死の支配者の隣に座る者の姿を目にし、込みあがる感情から涙を溢れさせているシモベもいた。

 言葉にならない喜びの感情からくる嗚咽は伝染し、玉座の間のあちこちから噛み殺した声が聞こえてくる。

 

 いつもならドン引きしているアインズだったが、今日だけは満足げにシモベ達を見下ろし、原因である隣にいる友人を見ながら全てのシモベ達に語りかけた。

 

「まずは緊急の招集に応じてくれたナザリックの全シモベに感謝を述べよう。この場に集まれなかった者についても、ナザリックへの忠勤に感謝していることを伝えてほしい」

 

 アインズの言葉にシモベ達が一斉に視線のみを下げる。

 面を上げながら頭を下げるという器用な技を皆自然と行っていた。

 

「今回集まった理由は他でもない。我が友が……そう、我が友が、栄光あるナザリック地下大墳墓に帰ってきた」

 

 シモベ達の涙にあてられたのか、アンデッドであるのにも関わらず目頭が熱くなるのを抑え、アインズは宣言する。

 

「この世界に来てからナザリックに所属した者には初顔合わせとなるだろう。故に改めて紹介する。我が友────フランさんだ」

 

 アインズに紹介された異形────吸血鬼の少女は、その幼い風貌からは想像もつかないほどの力の奔流を感じさせていた。

 少女は威厳に溢れる仕草で厳かに玉座から立ち上がると、その背から伸びている枯れ枝に宝石が吊るされたような異様な翼を広げ、おもむろにその小さな唇を開いた。

 

「────フランドール・スカーレットです。ただいま、みんな」

 

 墳墓全体を震えさせているのではないかと思えるほどのシモベ達の歓声が鳴り響き、この日、至高の41人の一柱が帰還したことをナザリックに所属するすべての者達が実感した。

 

(……ナニコレ)

 

 墳墓に帰還した新たなる支配者、始祖たる吸血鬼の少女が、号泣しながら跪いているシモベ達を見てドン引きしていることは、誰にも気づかれなかった────

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 時は吸血鬼の少女がナザリックに帰還する前、異世界に一人放り出されたところまで遡る。

 

「あれ……ここは……」

 

 目が覚めたら、見慣れない森の中にいた。

 辺りは真っ暗で、夜空に浮かぶ月が時間は深夜だということを告げる。

 

 俺は確かユグドラシルのサービス終了と聞いて、最後にナザリック地下大墳墓にいるギルドマスターのモモンガさんにお別れの挨拶をしようと向かっていたはずだ。

 病気で長期入院することになったことからユグドラシルを引退すると伝えたとき、一緒にアカウントも削除するとモモンガさんには伝えていた。

 だが実はフレンドを全員削除しただけでアカウントをこっそり残していたのだ。

 それはギルド、アインズ・ウール・ゴウンでの楽しかった日々を捨てきれなかったからかもしれないし、余命を宣告されて先のない自分に何か希望を残したかったからかもしれない。

 現実(リアル)では上流階級といえる立場であったが、そのせいか対等な友人もおらず、家族もいない俺は精神的な孤独を常に抱えていた。

 ウルベルトさんがいたら贅沢な悩みだと言うのかもしれないが……ユグドラシルは俺のすべてだったのだ。

 どうしても捨てきることはできなかった。

 

 そんな複雑な思いを秘めながらユグドラシルの終わりを知った俺は一時退院を強行し、モモンガさんに挨拶へと向かっていたはずだったのだが……ナザリックのある沼地に転移したところでゲームがフリーズし、気が付いたらここにいた。

 

「バグで森林エリアに転移した……? いや、明らかにもうサービス終了の時間は過ぎていたはず。……延期でもしたのかな」

 

 全く、最後の最後までしまらない糞運営だ。とりあえずクレームでも送ろう……。

 

 そう思ってシステムコマンドを開こうとしたとき、コマンドが開かないことに気づく。

 

「……は? GMコールがきかない? それに、転移先として登録していたポイントまで全て消えている……?」

 

 ナザリック地下大墳墓のある沼地まで<転移門(ゲート)>を開いたつもりだったが、転移先が指定できなかったため素通りしてしまう。

 これは本格的に異常事態だ。

 

「……まさか、これが『異変』ってやつ!?」

 

 100年以上前に人気があった某レトロゲーに由来するコンテンツにハマっていた俺は、この状況に某巫女の言葉を重ねて、ロールプレイを楽しむことにした。

 少ししたら運営がなんとかしてくれるだろう。

 

「フッ……こんなにも月が紅いのだもの。楽しまなければ損ってものよね」

 

 姉の方にロールプレイが寄ってないか? というツッコミもないため、この際好き勝手にロールプレイしようとして不気味な笑みを浮かべていたのだが、背後からかけられた声でピタリと止まった。

 

 ……本人は知る由もないのだが、転移直後による身体能力と精神の変化のせいで、気配に気づいてはいても脆弱な人間(それ)に注意が向かなかったのだ。

 

「……その紅い瞳、吸血鬼か。相手にとって不足なしだな。悪いが、俺の糧になってもらうぞ」

 

 

 




一体、ブレイン・何グラウスなんだ……。
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