フランドール・オーバーローデッド   作:凜としたBTQ

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(´・ω・`)────いつから失踪したと錯覚していた?



はい。すみません失踪しかけました。
年末年始は忙しくてな……(休日はウマ娘二次にハマってたとは言えない)

でもちゃんと帰ってきたお!
感想欄での更新待ちの声はホントにありがたいです。
それでモチベが上がりました(承認欲求の塊)

※今回もアインズ様視点からです。








第十一話 オーバーロード、墓地へ征く

「はぁー。私、疲れちゃったなー」

 

 刺突に特化した短剣、スティレットを構えたクレマンティーヌが溜息を吐くと同時に侮蔑の視線をこちらに向けながら呟く。

 

 彼女が言うことは尤もだ。

 戦闘が始まってから常にこちらが攻撃する側であったにもかかわらず、俺の攻撃はクレマンティーヌに一度も当たったことがない。

 

 猫のような俊敏な動きで流れるように躱され、力の動きを読んでいるかのように細いスティレットで迫りくる大剣を逸らし、はじいてくる。

 

 まるで身体の調子を確かめているかのような動きで徐々にギアをあげていくクレマンティーヌに対して、俺の戦士としての技量は完全に後れをとっていた。

 

「ていうかさー、確かに凄い身体能力かもしれないよ-? そりゃ自慢したくなるだろうねー。でもさ────」

 

 そういって言葉を区切ると、クレマンティーヌは今までの飄々とした態度から一変し、苛立ちが混じった剣呑な眼差しでこちらを睨んできた。

 

「────アホか、お前。てめえのは単に肉体能力で剣を振り回してるだけなんだよ。戦士をなめてんのか?」

 

「別に舐めてなんかいないさ。私は私なりに戦士として戦っているつもりだ」

 

 クレマンティーヌの言う通り、俺の戦士としての動きは子供が棒切れでチャンバラごっこをしているような粗末なものなのだろう。

 いくらレベル100とはいえ俺は純魔法職であり、前衛としてのステータスは精々レベル30前半の戦士職と同程度。

 

 ましてや近接戦闘の経験もほとんどなければ、大剣の二刀流なんてギルメンとのお遊び以外で使ったこともない。

 

 そう……確かあれは俺が<完全戦士化(パーフェクトウォリアー)>を習得したとき。今みたいな漆黒のフルプレートに二本の大剣を担いで第六階層の闘技場にて新たな魔王ロールを模索していたら、ペロロンチーノさんに渾身の必殺技(ドイツ語)が目撃されて────

 

 ……いや、この話は忘れよう。

 今はそんなことを考えている場合ではない。

 

 といっても、別段俺は焦っているわけでもない。

 クレマンティーヌが言うように今の俺の技量では彼女に傷一つつけることができないだろうが、それは想定内だ。

 

 今回の戦いは、レベル100であり既に成長の余地のない俺が戦士としての経験を積むことで、今よりも強くなることができるかの実験という面が大きい。

 

 レベルに依存しない技量や立ち回り(プレイヤースキル)といった、システム外での成長の余地が存在するかの確認だ。

 

 だからこそ自分よりも格上の戦士である彼女と自身の力量を比較することで、戦士として現在の自分の立ち位置を測る物差しにした。

 この世界でも強者に位置するであろう彼女なら、戦闘を通して戦士としての立ち回りや武技の使用法・対処法を十分に学ぶことができるというわけだ。

 

 こちらから攻め続けたことで今後必要となる戦士としての俺の課題は見つかった。

 

 となると、次に必要なのはこちらのターンではなく、相手のターンだ。

 

「だがまぁ────戦士のことは舐めていないが、お前のことを舐めていないとは言っていない」

 

「────あ゛?」

 

 俺がそう言うと、何を言われたのか一瞬理解できなかったかのように一拍を置いて、クレマンティーヌは返事をした。

 

 瞬間、周囲の温度が数度下がったかのような凍てついた殺気が墓地に蔓延する。

 

 先ほどまでのニタニタとした粘つくような笑みは鳴りを潜め、能面のように感情を失くした表情のクレマンティーヌがこちらを見つめていた。

 

「……ごめんねー。ちょーっとよく聞こえなかったんだけど、もう一度言ってもらっていいかなー?」

 

「その年で耳が遠いとは大変だな。いや、見た目と年齢が釣り合っているとは限らないのか。────もう一度言おう、お前では私の相手にはならないと言っている。吸血鬼(ヴァンパイア)

 

 俺の言葉を受け、クレマンティーヌの瞳が血で染まったかのように紅色に輝いた。

 

 と同時に、ギィンという音とともに背後から鈍い衝撃が鎧越しに肩へと伝わる。

 

 意識外の攻撃に思わず振り向くと、そこには全身が真っ黒で影のような姿をしたクレマンティーヌが立っていた。

 

 紅い瞳を妖しく輝かせ、その口元を三日月のように引き裂かせながら、鋭利な影のスティレットを俺の肩口へと突き刺した状態でケタケタと不気味な笑い声をあげていた。

 

「……チッ!」

 

 咄嗟に右手の大剣で振り払おうとするも、影のクレマンティーヌはとぷん、と音を立てながら墓地の闇の中へと沈んでいく。

 視界から影が消えると先ほどまで影に対して向けていた敵意が霧散し、既に目前まで接近していたクレマンティーヌの本体が目の端に映った。

 

「おせえんだよッ!!」

 

 二本のスティレットが漆黒のヘルムへと迫り、そのスリット内へと無慈悲に突き刺さる。

 金属が擦れる甲高い音が響くと同時に、突き刺さったスティレットの先端から雷と炎の魔法が炸裂し、衝撃が襲った。

 

「アハッ! お土産もやるよ! <血影の暗器(ブラッドウェポン)投擲短剣(スローイングダガー)>!」

 

 魔法の起動に合わせてフルプレートの鎧を蹴り飛ばし、爆風に乗りながら後方へと跳んだクレマンティーヌが衝撃で仰け反った状態の俺へと影の短剣を投擲する。

 

 矢のように放たれた複数の短剣がフルプレートの関節部へと突き刺さる。

 顔を魔法で焼かれ、全身を串刺しにされた俺は後方へ数歩後ずさりながらも、アンデッドゆえに存在しない眼球を貫かれた何とも言えない不快感を抱きながらなんとか踏みとどまる。

 

 よろけた体勢から立ち直ったタイミングで、足の関節に突き刺さった短剣がパキリと折れる音が聞こえた。

 

「……流石に今のはびっくりしたな。なるほど、影による奇襲か。ソリュシャンのスキルと似ているが、影そのものを分身としたりヘイト効果があるなど、より上位のスキルのようだ」

 

「……はぁ? 何で立っていられるんだよおまえ。……眼球蒸発コースのはずなんですけど」

 

 化け物を見るような目でこちらを見つめるクレマンティーヌの表情は、困惑と恐怖の感情が混ざりながらも警戒するように目を細めていた。

 

 まるで過去のトラウマから目を逸らすように恐怖を押し殺しながらも俺の一挙手一投足を注意深く観察しているようだった。

 

「それに私の正体が吸血鬼(ヴァンパイア)だと分かっていたみたいだしー……てめぇ、何者だ」

 

「私はモモン。先日冒険者になったばかりの、ただの駆け出しの新人だよ」

 

「……ふーん。ま、いっか。真面目に答える気がないのなら、無理やり吐かせるまでだし」

 

「そうやって漆黒の剣の四人も殺したのか?」

 

 ピクリ、とクレマンティーヌの肩が揺れ、その切れ長の紅い瞳が興味深げに細められる。

 

「へぇ、あの死体を漁ったんだー。ここに来たのはあれかな? よくも俺の仲間を! ってやつかなー?」

 

 ニタニタとした嫌らしい笑みを浮かべながら挑発的な口調でこちらを見つめるクレマンティーヌ。

 

 どうやら勘違いしている彼女に対し、俺は出来の悪い子供に言い聞かせるような呆れを含んだ口調で答える。

 

「別にアレを仲間だなんて思っていないさ。ただ……そうだな、アレは私達の名声を高めるための駒だった。それを邪魔されたことに対しては────」

 

 ここで得るべきものは既に得た。

 

 慣れない近接職での戦闘でいい加減苛立ちも募ってきた俺は、この茶番を終わらせるために鷹揚に両手を広げ、持っていた魔法の大剣を消失させる。

 

 そして装備を魔法で造ったフルプレートから普段着ているものとは違い偽装用である赤みのかかった焦げ茶色のローブへと変え、ヘルムと入れ替えるように嫉妬マスクを被った。

 

「────不快だな」

 

 そう告げながら慎重に探知妨害の指輪を外すと、解放された俺の魔力が暴風のように墓地全体へ吹き荒れる。

 

 万が一、プレイヤーが関与しているのならここが絶好のタイミングだろう。

 

 俺はまだ見ぬ誰かを警戒しながら、ナザリック地下大墳墓の支配者としてクレマンティーヌと相対した。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 クレマンティーヌは激怒した。

 

 必ず、かの邪智暴虐な運命を除かなければならぬと決意した。

 クレマンティーヌには敵の底がわからぬ。

 クレマンティーヌは、元法国の漆黒聖典である。

 強者としての自負を持ち、弱者を甚振って暮して来た。

 けれども理不尽な運命に対しては、人一倍に敏感であった────

 

 

(何これ……魔力……? 世界が塗り潰されたかのような重圧の、これが……? 我が君と同等……いやそれ以上……?)

 

 何か特別なことをしたわけでもない、ただの魔力の解放。

 男が指輪を外した直後にその重圧を感じたことから、おそらくあの指輪は魔力の抑制か探知の妨害効果がある魔法道具(マジックアイテム)だったのだろう。

 ここまで圧倒的な力を持っておきながらも実力をひた隠しにして罠を張り、食いついてくる獲物を待つ狩人のようなその慎重さに胸の奥から湧き出る罵詈雑言の言葉を抑えるのに必死だった。

 

(無理無理無理!! ふざけんな!! せっかく生まれ変わったのに、何でまたこんな目に遭う!?)

 

 彼女の人生は幸福とは程遠いものであった。

 

 優秀な兄と比較され、危険な任務には初めに斥候として派遣され、失敗すれば地獄を見た。

 

 生まれたときから法国の暗部というレールに敷かれ続け、いつしか他人の不幸と比較することでしか自身の生を実感できなくなっていた。

 

 そんな中、私はフランドールという少女と出会い、神という存在を知った。

 法国が掲げる偽りの神ではなく、本物の神だ。

 

 彼女がフランに敗北し眷属となった際、フランドール・スカーレットという少女が吸血鬼(ヴァンパイア)という種族の中でどういう存在であるのかを本能的に理解した。

 このセピア色の世界で宝石のように輝く、唯一無二の虹を知った。

 

 <真祖の暗殺者(トゥルー・ヴァンパイア・アサシン)>として生まれ変わり、かの少女()を信仰する信徒の末席へと加えられた今、かつて人間であったときに敷かれていた理不尽な運命とようやく決別することができたと喜んだ。

 

 それなのに。

 それなのに。

 

 この目の前の"絶望"は……いったい何だ?

 

「私が君を吸血鬼(ヴァンパイア)だと気づいた理由を知りたがっていたな。なに、単純な話だよ。こちらにもアンデッドの手勢がいただけの話だ」

 

 赤みがかった茶色のローブを羽織った仮面の男が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 まるで物語の魔王のように鷹揚に両の手を広げ、悠然と迫ってくるその様は、冗談にしても笑えない演出だった。

 

「……影の分身か。<暗黒孔(ブラックホール)>。……ふむ、絶望のオーラの即死効果をすり抜けてくるのは、吸血鬼(ヴァンパイア)としてのアンデッド特性が引き継がれているからか? 確か、眷属化でしか取得できない特殊な種族スキルにそんなものがあったような……」

 

 スキル<血影の虚影(ブラッド・ファントム)>による影からの奇襲を試みるものの、男の身体へ触れた瞬間に攻撃が弾かれ、そのまま指先から現れた黒い孔へと飲み込まれ消えていった。

 

 目の前の魔王は顎に指をあててぶつぶつと呟きながら、こちらが何を仕掛けても無意味と言わんばかりに隙だらけの状態で歩み寄ってくる。

 

(潜影直後の攻撃は強化がかかっているはずなのに無傷……!? 分身も一撃で殺された……もう一体を呼ぶか? いや、あのガキの護衛から外すのは作戦の指示に反する。我が君の意思に背くことだけは……絶対にできない)

 

 無意識の内に足がじりじりと後ろに下がっていることに気づき、自身が仮面の男に対して完全に気圧されていることを自覚する。

 

 脳内でグルグルとこの場から逃げる算段を模索するも、先日の路地裏での出来事がフラッシュバックしどんな手段を講じても殺される未来しかイメージできない。

 

「どうした? 怯えているな。逃げても構わないぞ? ────まぁ、逃げられればの話だが」

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)の鋭敏な感覚で周囲に意識を巡らせると、墓地の地面に不自然な陥没がいくつもあることに気づく。

 これは<不可視化(インヴィジビリティ)>の魔法で透明化した何かが待機していることを示す証だ。

 二人の周囲を囲むように布陣していることから、絶対に逃がさないという強い意志を感じさせるには十分だった。

 

「……ねえ。あんたはこの街で名声が欲しいんでしょ? だったら私達と協力しない? そうすれば、今後私たちが裏で起こした事件を、表向きはあんたが解決したように細工してあげることもできる」

 

 私の言葉に仮面の男はふむ、と悩む様子を見せ始め足を止めた。

 

 先ほど目の前の男は漆黒の剣の話をした際に、自身の名声を高めるための駒であったと評した。

 ならば今後名声を高めるためのマッチポンプの相手として協力を申し出れば、一時的にでも協力関係を結べるのではないかと考える。

 

 確かにこの男は底知れない強さを持っている。

 だが、時間さえ稼げれば我が君に進言し、この男の存在を知らせることができる。

 その結果がどうなるかはわからないが……もし我が君がこの男をお気に召さなかったら、こいつに待っているのは絶対的な力による破滅だ。

 

 我が君は全ての祖にして、ありとあらゆるものを破壊する能力を持った、破壊の神だ。

 

 その能力については何故か話すことを恥ずかしそうにしていたので詳しくは話してくれなかったが……何でも手のひらに集めた"目"を握りつぶすことでありとあらゆるものを破壊できるらしい。

 思い返せば骨の竜(スケリトル・ドラゴン)やカジっちゃんの頭が粉々になったときもそのような仕草をしていた。

 

 あの力を持った我が君がいる限り、我々に敵はいない。

 私達の主は、本物の神なのだ。

 どんな障害も、どんな絶望も、その悉くは我が君の手のひらの中にある。

 どれだけ私の運命に未来がなかったとしても、偽りの神に弄ばれているものだったとしても、あの御方なら、きっと。

 

「……面白い提案だが、その必要はない。お前を殺すことは既に確定している。だが、マッチポンプの必要性については今後の行動の参考にさせてもらうとしよう」

 

 ……最後の交渉も決裂した。

 

 もう私に残された道は二つに一つしかない。

 

 無理を承知で逃げるか……戦うかだ。

 

「……くそ、クソッ、糞糞糞ッ!!」

 

 私の人生はいつも逃げているばかりだった。

 疾風走破と呼ばれるまでになった自慢のこの足も、元はといえば斥候として敵から逃げるために鍛えたのが始まりだ。

 

 両親の期待から逃げ、兄から逃げ、任務から逃げ、国から逃げ、現実から逃げ続けてきた。

 

 そうして逃げて逃げて逃げ続けた先はどうだった?

 

 路地裏でフランドールという少女と出会い、呆気なくゴミのように殺されたのが人間としての最期だったではないか。

 

 そうして我が君と出会い、吸血鬼(ヴァンパイア)として生まれ変わっても、私はまだ逃げ続けるのか?

 

 

 

 

 

 

『クレちゃんは家の人や故郷が嫌で、この街に逃げてきたんだね。私も昔、嫌なことを忘れるために別の場所(ユグドラシル)に逃げていた時期があったから……少しわかるよ』

 

 あの日にかけられた言葉が走馬灯のように頭の中で蘇る。

 

 我が君に殺されて眷属とされてからすぐのこと。

 法国の出身であるという自身の生い立ちや漆黒聖典だった経歴、さらには今まで誰にも言ったことのなかった自身の心の内でさえ吐露してしまうほど弱り切っていたあのときに、臆病な私を落ち着かせるよう優しい言葉をかけて慰めてくれた我が主の言葉。

 

『私も両親から疎まれていたからね。いないものみたいに扱われたこともあったよ。上に立つものにふさわしくない危険思想の出来損ないってよく陰から罵られたもんだよ』

 

 もうみんな死んじゃったけどね、と続けながら、その小さな手で割れ物を扱うようにゆっくりと私の頭を撫でてくれる主人の様子に拍子抜けしたのはいい思い出だ。

 頭を撫でられたのなんていったいいつ以来だろう、と思わず考えてしまうくらいに、その手つきは優しかった。

 

『私は逃げることが悪いとは思わない。嫌なら引きこもればいいんだよ。だけどね……いつかきっと、逃げられないときが必ずくる。だから────』

 

 殺される前まではあれほど恐ろしかったはずの紅い瞳に、今では愛おしく思えてしまうほど恋い焦がれてしまっている。

 死からの復活という超常の現象で自分はおかしくなってしまったのだろうか。

 もはや私はかつての自分からは想像もつかないほどに、自らの新たな主人に対して心を許してしまっていた。

 

『────そのときに立ち向かえるよう、これからは私があなたを肯定してあげるわ』

 

 そのときはじめて、世界に色がついた気がした。

 

 

 

 

 

 

「……ハッ。いいよ。いいわ。やってやる。────やってやんよ」

 

 そうだ。私にはもう自身を認めてくれる存在がいる。

 "クインティアの片割れ"ではなく、"クレマンティーヌ"として見てくれる吸血鬼(ヒト)がいる。

 逃げ続けた先に失った人生の果てで、はじめて認めてくれた理解者がいる。

 

 ここで逃げたら、その御方の想いを裏切ってしまう。

 それだけは、絶対にできない。

 

「────<能力向上>、<能力超向上>」

 

 地面に両手をつき、ミチミチと筋肉が膨張する音を立てながら足を溜め、身体能力を向上させる武技を重ねていく。

 人間であった頃とは比較にならないほど向上した吸血鬼(ヴァンパイア)としての身体能力が、武技によって更に強化されていく。

 

 眷属となった際に反動で<疾風走破>の武技を失ってしまったが、それを補ってあまりあるほどの新たな力を獲得していた。

 

「────<血影の闇夜(ブラッド・ナイト)>、<血影の楽章(ブラッド・ムーヴメント)>、<血影の襲来(ブラッド・レイド)>」

 

 回避率強化のスキル、斬撃強化のスキル、足止め・バインド・スタン効果付与のスキルを自身に施していく。

 私の気配が闇夜に溶け込むように希薄になり、両の手に握ったスティレットが赤暗い光を帯びていくのが目に入った。

 

 全身から漂うかつてない力の奔流に全能感を感じながらも、力に溺れることなく目の前の敵に全神経を集中する。

 今の自分は漆黒聖典のあの二人を除けば、間違いなく法国でも最強の存在であると確信するほどであった。

 

「……なるほど。武技と種族スキルの併用か。興味深いな」

 

 だが目の前のこの男は全く動じない。

 英雄を超えて人外────そしてそのさらに上へと到達した私の殺気を受けても、一切の警戒や恐怖心が感じられない。

 

 まるで何をしても無意味といわんばかりのその傲慢な態度に、私は我が君から授かった力を侮辱された気がした。

 

(……舐めてんじゃねえぞ)

 

 地獄の底から湧き出るような、全身の血が沸騰するような怒りが自身の身を焦がす。

 今もなお仮面の男から放たれている圧倒的なプレッシャーを肌で感じてはいるが、先ほどまで残っていた恐怖心は既に私の中でなくなっていた。

 

 その代わりに、主から授かった力を侮辱されたことへの怒りで燃える忠義の炎が、恐怖心を薪にして私の胸の中に燃え盛っていた。

 

(見ていてください、我が君。私は、貴女の眷属である私は、貴女に認められた私は────こいつを殺して、貴女の期待に応えてみせます)

 

 地面が陥没するほどの脚力で踏み込んだ私は、次に会ったとき我が君は私のことを褒めてくれるだろうか、とそんなことを思いながら、目の前の絶望へと飛び込んでいった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ~、疲れた。なんだかんだ上手くいったけど、結局プレイヤーの存在は確認できなかったな」

 

 墓地での一件が解決した翌日。

 

 冒険者組合から色々と質問攻めにあったアインズであったが、ようやく一度落ち着いたため組合から指定された宿屋の一室で一人ベッドに寝転がっていた。

 

 その胸には昨日までかかっていた(カッパー)のプレートではなく冒険者組合から暫定として新しく支給されたミスリルのプレートがかけられていることから、今回の一件が"冒険者モモン"の名声をあげるための大きな一歩となったことを示していた。

 

「まぁ何もないに越したことはないからいいんだけど……警戒しっぱなしだったからか、終わった後にドッと疲れが出たなぁ。俺はアンデッドだから疲れるわけないんだけど……こう、精神的に」

 

 溜息をつきながらベッドでごろごろする姿は墓地でみせた魔王っぷりが何だったのかというほどだらけ切った姿だ。

 もしフランと一緒にこの世界に来ていたのなら「モモ……いや今は社員ズさんだったか」と言われていたくらいには、くたびれたサラリーマンの雰囲気を出していた。

 

「そういえばアルベドから連絡がきていたな。忙しかったから後にしていたけど、忘れないうちに折り返しの電話をしないと」

 

 アインズはエントマ経由できたアルベドからの連絡を思い出していそいそとベッドから起き上がると<伝言(メッセージ)>をかける準備をする。

 大きな仕事の後で疲れをリラックスしている最中であったとしても、営業職として働いていた経験を持つアインズは部下からの連絡をこれ以上後回しにすることなんてできないのだった。

 

 意識を切り替えるように咳払いをしてから自身の支配者ロールの確認を終えると、堂々とした態度でアルベドに向けて<伝言(メッセージ)>を起動する。

 

 そして<伝言(メッセージ)>がアルベドと繋がり、投じられた第一声は想像の範疇を遥かに超えるものだった。

 

 

 

 

 

 

「……アインズ様。シャルティア・ブラッドフォールンが────殺されました」

 

「……は?」

 

 

 

 




というわけでクレマンちゃんは死にましたとさ。めでたしめでたし(´・ω・`)
原作通りだしね。仕方ないね(´・ω・`)

ちなみに作者はクレマンちゃん視点を書くときが一番筆がのります。
逆に一番時間がかかるのがアインズ様ですね。
原作キャラを動かすときは原作のイメージと差異がないか少し緊張するんじゃ……。
クレマンちゃん視点の話は考察が大部分を占めてます。

<血影の〜>はオリジナルスキルです。
効果はHPと引き換えに影の武器(シャルティアの爪と同じで肉体武器扱い)を造ったり、高倍率のバフを付与したり、本体の1/3のHPを持った分身を生み出します。分身は2体まででHPの回復はできないです。
いくつかは作者がハマってるゲームのキャラを参考にしてます。
オリジナルスキルや職業はどこかでプロフィール一覧を作ってまとめたいなぁ……。

これでようやく原作2巻までが終了です。
次巻は人気なあの回ですね。
ここから原作の展開とは少しずつ変わっていきます。(いく予定)


次巻、シャルティア死す! デュエルスタンバイ!


※最後にクレマンちゃんの今後についてのアンケートがあります。

クレマンちゃんの今後についてのアンケート

  • 原作通り蘇生。野に放たれる
  • フランが蘇生。不全で野暮なメイドになる
  • 安らかに眠る。彼女のライフはゼロよ!
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