フランドール・オーバーローデッド   作:凜としたBTQ

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 年度末は仕事が地獄だった……。
 誤字報告、感想、評価いつもありがとうございます(´;ω;`)
 今年度もよろしくお願いします(´・ω・`)



第十三話 妹様、交渉する

 漆黒聖典隊長、第一席次である彼はとある任務に失敗して撤退している最中であった。

 

 その任務とはトブの大森林の奥地にいるとされる破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)を法国の秘宝を用いて支配下に置くことであり、番外席次を除く漆黒聖典はその秘宝を所持する巫女の護衛として出国していた。

 

 しかし、任務中に偶然出会った吸血鬼によって巫女であるカイレは殺害され、撤退のため秘宝をその吸血鬼に使用してしまうという最悪の事態に陥る。

 吸血鬼は秘宝の効果を受けたため追撃してくることはなかったが、接敵してから一瞬の内に巫女であるカイレ、護衛である漆黒聖典のセドランとエドガールが死亡した。

 

 まさに悪夢という他なく、遠征部隊の主力二人と要人が殺され秘宝も使用してしまったことから隊長である第一席次は法国への即時撤退を宣言。現在夜の森を移動している最中だった。

 

 そこで彼らは出会ってしまった。

 

 先ほど身に起こった悪夢が手ぬるいと思えるほどの、本物の悪夢(ルナティック)に。

 

「こんばんは。今日も月が綺麗ね」

 

 鈴を転がしたかのような美しい声が夜の森へと浸透し、闇に溶けて消えていく。

 

 即座に武器を構えて臨戦態勢に入る漆黒聖典の面々だったが、第一席次は声をかけられるまで気付けなかった事実から手でそれを遮り、相手を見定めようと上空を見上げたところで彼は言葉を失った。

 

 そこには満月を背に空に浮かぶ金色の少女がいた。

 

 まず目を引いたのは少女の背であった。

 

 そこには枯れ枝のような翼が付いており、皮膜の代わりに色とりどりの宝石が吊るされていた。

 その宝石一つ一つに法国の魔法詠唱者(マジックキャスター)全員が集まっても足元にすら及ばないような途轍もない魔力が秘められていることが大気を通じて伝わってくる。

 

 次に目を引いたのは少女のその幼くも美しい顔だった。

 

 薄桃色のナイトキャップに付いた赤いリボンからはサイドにまとめられた金色の髪を覗かせており、絹のように透き通った黄金の髪は肩口で整えられ、少女の可憐さを際立たせている。

 無垢な幼さを残しながらも妖艶な妖しさを思わせる美しき容貌は、見る人全てを魅了し一切の動きを停止させる。

 そして月夜に照らされて爛々と輝く紅い瞳は、ゾッとするほど冷たいものだった。

 

「……何者ですか」

 

「何者? 何者……ナニモノかぁ……。そうだなぁ……そう聞かれたら、こう答えるかなぁ」

 

 ────アインズ・ウール・ゴウンだよ。

 

 得体の知れない緊張感が漆黒聖典の全員を襲う。

 闇の中で三日月のように笑う口から、彼女は何かを試すようにそう告げてきた。

 

「……生憎、存じあげませんね。それが貴女の名前ということでしょうか?」

 

 第一席次が皆を代表して上空に浮かぶ少女と対峙すると、金色の少女はその言葉を聞いて不思議そうに首を傾げていた。

 

「……んん? 知らない? アインズ・ウール・ゴウンを? その反応はちょっと予想外だなぁ……」

 

 何かを考えるように唸りながら、その宝石のような紅い瞳で訝しむようにこちらを見下ろす幼い少女。

 

 その瞬間、先程までの重苦しい緊張感の中に恐ろしいほど濃密な殺気が混ざった。

 

 後方でガタガタと肩を震わせ始めた漆黒聖典の鎧がズレる音が、静寂の中でより一層大きく聞こえてくる。

 

 ごくり、と唾を飲み込むと、自分の言葉が相手に何かを警戒させたことを察した第一席次は、現状を打破するため再度目の前の怪物に話しかけた。

 

「……ご用件は何でしょうか? 我々は現在、国へ急ぎ帰る道中の身。あまりこの場で事を荒立たせたくないため、できる限りの便宜を図ることを約束しましょう」

 

 正確な力量を測れたわけではないが、第一席次はこの少女の実力が自分と同等かそれ以上のものを持っていることをこの時点で理解していた。

 

 負傷者を抱えており秘宝も使用済であるこの状態での戦闘は、最悪部隊の全滅すら覚悟しなければならない。

 

 故に隊長である彼は交渉に対して友好的に応じる姿勢を見せた。

 

 声をかけられるまで気付けないほどの隠密性を持ちながらも奇襲を行わなかったことから、彼女が何らかの交渉を持ちかけようと接触してきたことは明白。

 

 そして今重要なことは先程の吸血鬼のことも含め、彼女達の情報を祖国に持ち帰り報告することだと判断した。

 

 なので、ある程度不利な条件でも応じる姿勢で声をかけたのだが……それは返された少女の一言により完全に失敗であったことを悟った。

 

「ふーん? そう。じゃあ単刀直入に言うね。────貴方のその槍、ちょーだい?」

 

 その言葉を聞いて第一席次が初めに思ったことは何故、という疑問だった。

 

 見るからにみすぼらしい槍。他の漆黒聖典の装備と比べても一段も二段も劣る見た目であることは間違いない。

 しかしその見た目に反してこの槍は法国の秘宝の一つだった。

 真の力を解き放つ時にその神力は解放されると言われているが……何もしていない今はただの汚い槍にしか見えない隠匿されし秘宝。その筈だった。

 

 何故わかった?

 

 そう考えカマをかけられていると思った第一席次が口を開こうとすると、それを牽制するように少女は言葉を続けた。

 

「その槍以外には興味ないわ。それをくれれば貴方達には何もしないし、ここで会ったことも誰にも言わない。────逆に言えば、その槍を渡してくれない場合、貴方達全員をここで殺す」

 

 殺す。

 そう告げられた瞬間、背筋が凍るような感覚が彼の全身を襲った。

 

 振り返れば他の漆黒聖典の面々は顔を蒼白にし、失禁して気絶している者さえいた。

 

 不味い。

 

 これ以上この少女と相対すれば、自分はともかく他の漆黒聖典の者達が倒れかねない。

 

 そうなれば撤退することも難しくなる上、死体と共に回収してある使用済の秘宝すらも奪われる可能性がある。

 

 それだけは避けなければならない、そう考えた第一席次は数秒の沈黙の末、苦渋の決断を下した。

 

「…………わかりました。その代わり、一つ条件があります」

 

「……何?」

 

 一瞬驚いたような表情をするも、こちらが条件を提示すると少女は鋭い視線を向けてきた。

 

 重圧となって場を覆っていた殺意が第一席次のみ向けられ、後方の漆黒聖典の者達が安堵の息を吐く。

 しかし少女の殺気を一人で受けることとなった第一席次本人はかつて番外席次から受けたトラウマを思い出して嫌な汗をかくも、なんとか表情を取り繕うことに成功し慎重に口を開いた。

 

「この先に銀髪の吸血鬼がいます。我々は彼女から手痛い被害を受けましてね……。反撃をし撃退に成功したのですが……しかしいつ回復し追撃が来るかもわからない状況……。ですので、我々の代わりにその吸血鬼の討伐を依頼したいのです」

 

 第一席次はこの依頼による反応で相手の立ち位置を明確にしようとしていた。

 

 少女も先程の吸血鬼同様、埒外の力を持った実力者であり、両者が仲間である可能性は高い。

 

 仲間であるのならばこちらが撃退したという言葉に何かしら反応があるはず。

 

 その場合は戦闘となるかもしれないが……既に反撃したのは事実であり、少女が吸血鬼の下へ向かえば遅かれ早かれ知られてしまうことでもある。

 

 ならば交渉の対価として穏便に済ませることが望ましい。

 

 吸血鬼の仲間であればこのまま見逃してくれるよう再交渉し、カイレの持つ秘宝と彼女達の情報だけは何としても持ち帰ろうと考えていた。

 

「うーん、吸血鬼? PKに襲われた復讐の代行ってことかな? いいよ! 約束してあげる! でも槍は先払いね」

 

 そう言って満面の笑みで手を差し出してくる少女に呆気を取られるも、第一席次はすぐに切り替えて真剣な表情で頷いた。

 

 口ぶりでは吸血鬼と仲間でないようだが……それは法国へ帰り使用済となった秘宝の力が取り戻されるかどうかで判断すればいい。

 

 吸血鬼が殺されれば秘宝は再度使用可能となり、この少女が約束を守ったかどうかの判断ができる。

 

 そのときはこの金色の少女が何者かわからずじまいとなるが……それは後々調べていけばいいだろう。

 

 第一席次が手に持つ槍を差し出すと、空からゆっくりと降りてきた少女が慎重にその槍を受け取った。

 

「……うん! 確かに受け取ったわ! この私、フランドール・スカーレットの名に誓って貴方の言う吸血鬼の討伐を約束してあげる」

 

 フランドール・スカーレット。

 

 そう名乗った少女は受け取った槍を虚空へ消すと、今まで放っていた殺気を霧散して背を向けていった。

 

 少女が立ち去ろうとする姿を見て第一席次はようやく安堵の息を吐くと、「あっそうだ」と言いながら少女はこちらを振り返って口を開いた。

 

「みんなももう姿を見せていいよ。警戒ご苦労様。このまま帰るよ」

 

「「「はーい!」」」

 

 元気のいい声が聞こえると同時に、金色の少女と瓜二つの顔をした三人の少女が漆黒聖典の周囲を取り囲むようにして突然現れた。

 

 文字通り、突然現れたのだ。

 

 漆黒聖典の面々は元より、神人である第一席次ですら気づかない隠密性。

 口ぶりからして始めから周囲にいたのだろう三人の少女達は、その全員がひと目見て規格外の化物だと分かる実力をしている。

 

 第一席次は見誤っていた。金色の少女はこれらを従えるほどの力を持つ超越者だった。戦闘になれば万が一にも勝ち目はなかっただろう。

 

 自分の目測の甘さに冷や汗を流すものの、第一席次は交渉を断らなくて良かったと自分自身の判断に賞賛を送る。

 

 

 

 もう二度とこんな綱渡りのような真似はしたくない、と第一席次は三人の少女を連れて去って行く一人の少女を見ながら、苦虫を噛み潰したような顔で独り呟いた。

 

 




 フラン「おらぁ! 寄越せぇ!」ビクビク
 隊長「はいぃ!」ビクビク  
 フラン「や っ た ぜ」
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