見られた。
誰もいないと思って、中二病全開の台詞を一人呟いていたところを、見られた。
いや、めちゃくちゃ恥ずかしい。
こんな姿をモモンガさんにでも知られたら、確実にこれをネタにして一週間はいじられるだろう。
親しい人には意外と容赦ないのだ、あの人は。
サービス終了するとはいえ、最後の最後で黒歴史に新たな一ページを刻むことになるなんてごめん被りたい。
とりあえず録画されてネットに晒されるのだけは困るため(過去に一度プレイヤーに晒されたことがある)、スクショを消すまで殴る(PKする)しかないか。
「ひぃ……っ!」
ギロリ、とワカメみたいな髪をした青髪の男を睨み、インベントリから装備した
「……撮ったのか?」
「は?」
「……スクショ撮ったのかって聞いてんだよ」
「スクショ……? いや、まだ何もしていないが……」
ユグドラシルではカメラ機能で写真や動画を撮ることをひっくるめて"スクショを撮る"と呼んでいた。
ネットの海に醜態が晒されることを危惧していたフランは彼の言葉に安堵して小さく息をつくと同時に、初対面の人に恫喝のまがいのことをしてしまったことを反省する。
(装備的にまだ初心者だよな。サービス終了日になんで新規がって気もするけど……。せっかくの最後の日だし、悪い思い出にはさせたくないな)
「……ごめんなさい。ちょっと前に嫌なことがあってさ。いきなりつっかかったりしちゃってごめん……」
ちょっと先輩面な上からの言い方になってしまったが、実際自分はユグドラシルでは結構な古参だ。まぁこのくらいは許されるだろう。
ワカメ男は頭を下げて誠心誠意謝罪をする俺をギョっとした目で見るも、やがて観念したのか頭を掻きながら手を振って答える。
「……いや、気にしなくていい。それに、さっきのであんたの強さは嫌というほど分かった。……俺が百人いても、万に一つの勝ち目がないってことがな」
ギリ、と音がするほど奥歯を噛みしめながらワカメ男が悔しそうに呟く。
それは当然だ。レベル100の上
それだけレベル差というものは非情なのだ。
ちなみにこのとき普通のユグドラシルプレイヤーなら表情が動いていることに違和感をもって異世界であることに気づくのだが、フランの中身が能天気質であることや、久しぶりにログインしたことから「最近のアプデすげー」くらいにしか思っていない。
「……それはしょうがないよ。人種は種族レベルがないから初期状態だと最弱だしね。でも代わりに、全て職業レベルでビルドができるから最終的には他種族より強くなれるよ?」
「そ、それは本当か!?」
「え? う、うん……」
食い気味に迫ってくるワカメ男に引きながら答えると、彼は申し訳なさそうに離れてからポツリポツリとその心境を吐露していく。
「……俺は、ある男を超えるために修行している。ガゼフ……っていっても吸血鬼のお前には分からないか。あいつを倒すために、剣を磨いているんだ」
なるほど、そういう設定か。
彼もなかなかロールプレイがお好きな人のようだ。
ここは悪名高いロールプレイギルドで有名だった先達としてはのらなければならないだろう。
そんな勘違いをしながらフランは、金髪ロリっ子吸血鬼の魅力をフルに使い、小首を傾げながら口元に指を当てて笑顔で答える。
ちなみに中身は30代のおっさんである。
「おじさんは負けず嫌いなのね」
「おじさんは止めろ。……ブレイン・アングラウスだ」
「……ブレイン。それで、ブレインはどうしたいの?」
まだ続きがあるんでしょう、とフランが促すと、ワカメ剣士ことブレインさんは一瞬俯いたものの、すぐに覚悟を決めた様子でこちらに向き直る。
めちゃくちゃノリのいい奴だ。
「頼む、俺を鍛えてくれ。お嬢ちゃんのためなら何でもする」
幼女相手に深々と頭を下げ、堂々と言い切ったその顔は、ひたすら武を求める修験者のそれだった。
その完璧なロールプレイに思わず素に戻り、感嘆の息を漏らしてしまう。
フランは一度コホン、と小さく咳をしてロールプレイに戻ると、ブレインさんの目をまっすぐ見据えて返答する。
「失礼ね、お嬢ちゃんじゃないわ。私の名前はフラン。悪魔の妹────フランドール・スカーレットよ。こちらこそよろしくね、ブレイン」
そういって笑顔で手を伸ばすと、ブレインも少し笑いながら屈み、その手を握り返す。
悪魔の妹と名乗っているが、吸血鬼の種族はアンデッドに分類されることのツッコミが特にこなかったことで内心恥ずかしがる彼女であった。
まさかのブレイン生存ルート……!