フランがブレインに出会ってから2日目。
吸血鬼の少女はいつまで経っても運営からの連絡もなく、ログアウトもできないことに流石に違和感を覚えていた。
「ログアウトできないのは明らかにおかしい。おそらく
一人でブツブツ言いながら顎に手を当てて考え込む少女は、眷属を新たに召喚しながら思考を続ける。
「……おい」
「確か、昔の小説に似たような話があったな……。MMOに閉じ込められて100階層クリアするまで帰れませんみたいなやつ……。あれと似たような状況か? 名前なんだっけ……」
「おい!」
「うーん。まっ、考えてもどうしようもないし、結果的にサービスが延期したことに感謝してゲームを楽しみますか!」
「おい!!」
刀を振りかぶりながら叫び声をあげる青髪の青年──ブレイン・アングラウスは、自分の頭の上で考え込んでいる少女に対して我慢の限界に達していた。
そんな怒り心頭な彼の様子を勘違いしたフランは、ごめんごめんと謝りながらスキルを発動させようと意識する。
「ちょっと物足りなかったよね。もう少し強いの召喚するからちょっと待ってて」
「そうじゃねーーーー!!!」
フンガー、という擬音が似合いそうな動きで両手を上げて怒りをあらわにするブレイン。
その彼に肩車する形で頭の上に乗っていたフランは、自分と同様にログアウトできないことに不安を覚えているのだと勝手に勘違いして、彼の頭を優しくなでなでしながら言う。
「カリカリしてもしょうがないよブレイン。大変なのはみんな一緒なんだから、今を楽しまなきゃ損だよ」
「楽しめるかーーーー!!!」
憤慨するブレインは頭の上のフランを掴んで叩き落そうとするが、悲しいかな100レベル魔法戦士職の身体能力を前にビクともしなかった。
岩のようにビクともしないフランに、やがて腕力ではどうしようもないと諦めたのか力なく手を下すと、肩で息をしながら抗議する。
「昨日の朝から戦いっぱなしなんだぞ!! 倒しても倒しても新しいモンスターを召喚しやがって!! さすがに限界だっつーのっ!!」
ブレインを強化するにあたりフランが考えたのは、召喚した眷属のモンスターラッシュによるレベリングだった。
当初はパーティを組んで高レベルモンスターを一緒に狩る予定だったのだが、システムコマンドが動かせなくなった今パーティの組み方が分からない上、この辺りには雑魚モンスターしかいなかったためそれは断念した。
そこでフランはまだパワーレベリングできるほどインフレしていなかった時代、ユグドラシル初期に定番だったレベリング方法であるPOP狩りを行うことにしたのだが、問題が発生した。
どれだけ探してもPOPスポットが見つからなかったのだ。
いつもなら経験則からある程度POPする場所に予測はつくのだが、今回は全くわからなかった。
見たことのないワールドのためPOPする法則が変わったのかもしれない、と早々に諦めたフランは経験値効率が多少悪くなるが召喚モンスターを倒すことによるレベリングにしたのだった。
「ギルメンのヘロヘロさんなら3徹は余裕だよ? まぁ、せっかくの貴重な休みを徹夜して素材集めしていたあの人と比べるのはどうかとは思うけど……」
「お前の化物仲間と一緒にするな! 俺は人間だっつの! 腹も減るし疲労するんだよ!!」
ブレインの言葉にフランは忘れていたばかりにとポン、と手をうつ。
「あ、そっか。異形種と違って人間種は疲労無効がなかったっけ。
「悪魔かお前は!?」
空腹と疲労を回復魔法で無理やりどうにかしようとしてくる頭上の少女に恐怖するブレイン。
親切心で言っているようなのがまた恐怖心を駆り立てる。
相手は人間でなく異形種だ。
それも遥か自分より格上の存在を前にして普通の人間なら文句すら言えないほど萎縮してしまうのだが……ブレインは極度の疲労状態であったことと相手の見た目が年端もいかない少女であったこともあり、つい粗雑な口調に戻っていた。
ハッ、と我に返ったブレインは鍛えて欲しいと自分から懇願しておいて無礼な態度だったと謝罪しようとするのだが────
「いやぁ、そんな褒めないでよ……」
自称、悪魔の妹を豪語するアンデッドには褒め言葉だった。
ブレインはもじもじと照れながら頭上で喜んでいる吸血鬼っ子を見て、気にするのをやめた。
「……なあ、一度街に行って食料を買いに行かないか? この森を抜けた先にエ・ランテルっていう都市があるから、そこで準備してからの方が修行も捗ると思うぞ」
白い目を向けながら言うブレインの言葉に、少し悩んだ末それもそうかと頷く吸血鬼。
ブレインも馬鹿じゃない。紅い瞳と宝石の翼を持つフランを街中に入れるのは危険であり、もし正体がバレて戦闘になった場合、エ・ランテルが滅ぶかもしれないと考えていた。
いや、最悪王国が滅ぶかもしれない。
それほどまでに強大なのだこの吸血鬼は。
だが、王国という国に特に愛着もないブレインは国の存亡より自分の命を優先した。
そうでもしないとブレインが廃人になるまで戦闘を続けさせられそうだったのだ。
一応多少の罪悪感をエ・ランテルに感じているのも確かなため、できる限りのフォローはしようとブレインは心の中で誓った。
「おっけー。じゃあ街に行こう。私は道知らないんだけど、ブレインは知ってる?」
肩車している頭上からお辞儀するような形でブレインを覗いてくるフラン。
彼女の紅い目に至近距離で見つめられ一瞬ビクリとしたブレインだったが、こういう奴だと諦めて肩をすくめる。
「ああ、分かる。元々エ・ランテルからある傭兵団のところへ向かう途中だったからな。行き方は任せてくれ」
おおー! とその紅い瞳を輝かせながら無邪気に期待を向けてくるフランを見て、実力はあってもまだまだ子供だな、と少し距離を縮めるブレインだった。
ちなみにフランはブレインの完璧な傭兵ロールに感動していただけである。
ヘロヘロさんはカローシスUQさんに似た何かを感じる。