フランドール・オーバーローデッド   作:凜としたBTQ

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今回はちょっと長めです。
そしていつも誤字報告助かります!感謝します。


第七話 妹様、出遅れる

「ちょっと前から見てたよー。お兄さん、とぉっても強いんだねぇ」

 

 屋根の上から血に濡れた路地裏を見下ろす金髪の女性が、言葉とは裏腹に馬鹿にしたような口調でケラケラと笑いながらブレインに声をかけてくる。

 露出の多い軽装の皮鎧と腰に差した二本のナイフ。

 それを見て恐らくシーフであろうと推測したブレインは、さりげなく腰の帯を外し、刀へと手をかけた。

 

「そりゃどうも。生憎だが春売りなら間に合っているぜ。カモを探したいなら他を当たりな」

 

 そういってブレインは飄々とした態度で肩を竦めながら答える。

 

 ブレインは自分個人のことをリ・エスティーゼ王国内でも1、2を争う実力者であると自負している。

 宿敵であるガゼフを除けば、自分に勝ることができる人間は王国にはいないだろうと考えている。

 王国のアダマンタイト級冒険者である"蒼の薔薇"も、かつて戦ったことのあるリグリット・ベルスー・カウラウが脱退した今、一対一なら自身が負けるとは思えなかった。

 現在の蒼の薔薇にはリグリットの代わりにイビルアイという凄腕の魔法詠唱者(マジックキャスター)がいるのだが……実際に会ったことのないブレインは彼女の実力を知らないのでその自信も当然のものだといえよう。

 

 故にブレインは一対一の状況ならば、王国の人間で自分を倒せる人間はガゼフ以外ではいないと考えている。

 当然、目の前のこの女が自身を脅かすことができるとは思ってもいなかったのだが────女の先ほどの言葉を思い出し、少し警戒を強めた。

 

(少し前から見ていたってことは、俺の実力もある程度分かっているはずだ……それでも尚話しかけてくるってことは、交渉か、客商売か、あるいは……)

 

 ブレインは確かに王国内で自分に勝てる人間はほぼいないと考えてはいる。

 しかし、人間以外……そして他国にまで目を向けると話は別だ。

 先日会った吸血鬼の少女を筆頭として、世界には自分より強い者が存在していることを知っていた。

 

(あいつの親戚って可能性も万が一にある。……警戒しておいて損はない)

 

 今まではどこか漠然とした認識で、もし自分より強い者がいるのなら手合わせしてみたいとも考えていたのだが……その考えは吸血鬼の少女との出会いで粉々に砕かれていた。

 

 相手の力量を見誤れば、その先にあるのは死だ。

 自分の力量を過信すれば、その先にあるのは破滅だ。

 

 あの日、フランと出会った日。もし無謀にもあのまま戦いを挑んでいたらどうなっていたのか。

 そう考えるだけで今でも恐怖で震えが止まらなくなるほどトラウマとなっている。

 

 ブレインがフランの強さに気づくことができたのは、言ってしまえば偶々だ。

 偶々フランが魔力を隠蔽していない状態であり、武器を抜いてくれた。

 だからその重圧と殺気を肌で感じられ、気づけたのだ。

 今はもう魔力探知を阻害している状態のため、道中の盗賊も街の人間も彼女の強さに気づくことはできない。

 出会ったタイミングが少しでも違っていたのなら……ブレインはフランに戦いを挑み、そのまま塵芥の如く殺されていたであろう。

 

 だからこそブレインは警戒し、観察する。

 この女の顔からは余裕が見てとれる。明らかにこちらを見下した態度だ。

 先ほどまでいたチンピラ共を一蹴する程度の実力では怯まない何かがあるのは間違いないだろう。

 

 そういった考えの下、まずは挑発めいた言葉で相手の動向を探ろうとしていたのだが……どうやら予想以上に食いつきがいいようだ。

 

 ブレインの言葉を受けた女は身軽に屋根から飛び降りると、猫のような眼を獰猛に細め、そのまま進路を塞ぐように立ちはだかった。

 

「あ~? てめぇ……。このクレマンティーヌ様を売女呼ばわりとかいい度胸じゃねーかよ、おい」

 

 女────クレマンティーヌは先ほどまでの余裕めいた笑みから打って変わり、その端正な顔立ちを邪悪に歪めながら吐き捨てるように言い放つ。

 剣呑な雰囲気を身にまとい、今にも飛び掛かりそうな殺気を放ちながら腰にかかった二本のナイフを抜いて威圧している。

 手遊びのようにナイフをクルクルと回転させているが、その瞳は油断なくいつでも動けるようこちらを注視している戦士の目だ。

 

 明らかな臨戦態勢に警戒を強めるブレイン。

 クレマンティーヌが放つ強烈な殺気から一筋縄ではいかない相手だと察し、腰を低く落とした構え────居合い状態へと移行する。

 

 その様子を見たクレマンティーヌが興味深そうに息を吐き、その嫌らしい笑みを深めていく。

 

「ふーん、それがブレイン・アングラウスの居合いかぁ……。話には聞いていたけど、思ったより大したことなさそうだね~」

 

 ブレインの構えを注意深く観察しながら、見下した態度で嘲笑を続けるクレマンティーヌ。

 ブレインは自分を格下として見ているその態度に怒りを感じながらも、思考は極めて冷静に相手の言葉を受け止め、油断を排除していく。

 

「……俺のことを知ってるのか」

 

「まぁ~ね~。王国内で私とまともに戦うことができる人物は全員調査済み。────ま、期待外れだったみたいだけど。遊び相手にはなるかなぁ」

 

 そういってクレマンティーヌはナイフを構え、足に力を溜めるよう前かがみになる。

 そして地に手をつけ、クラウチングスタートのような構えを取りながら、武技を発動させる。

 

 ────武技、<能力向上>。

 

 武技を発動させたクレマンティーヌの身体に力が漲り、その身体能力を上昇させていく。

 身体能力全体に強化をかける<能力向上>は、非常に強力な武技だ。

 攻撃系の武技とは異なり強化(バフ)系に属するこの武技は、他の武技と併用することで爆発的な効果を発揮する。

 だがその反面、武技を使用するのに必要な集中力を大幅に使う上、効果終了時への肉体への反動も強く長期戦には向かない。

 クレマンティーヌのような短期決戦型でこそ真価を発揮できる武技だ。

 

 彼女にはまだ<能力向上>以上の武技が存在するが、今回はそれを使用しない。

 この後にンフィーレア・バレアレの捜索という仕事が残っており、街の外に出かけているという彼の動向を調べる必要がある。

 故に彼女は余計な負荷を減らし、最低限の強化のみを自身へと施していった。

 

「期待外れかどうか、自分の身で確かめるんだな!」

 

「英雄の領域を教えてやるよッ!」

 

 ブレインが声を発すると同時に、クレマンティーヌは溜めた両足を爆発させて一本の矢の如く突進する。

 彼女の足元にあった石畳が砕け散り、高速で風を切る音が鳴り響きながら二人の距離が縮まっていく。

 

(武技、<領域>!)

 

 クレマンティーヌが動くと同時に、ブレインは武技<領域>を発動。

 <領域>はブレインの周囲を円形上に囲む不可視の結界として広がり、舞い上がる砂塵一つ一つを正確に感知していく。

 

 かつてのブレインであったなら<領域>は戦闘が始まると同時に展開し、その状態で待ち構えていただろう。

 しかし今回は相手が油断している現状を踏まえ、ギリギリまで隠していた。

 

 <領域>は範囲内の空間限定で自身の知覚能力を増加させ、回避と命中率を上昇させる強化(バフ)系の武技だ。

 

 フランの修行では眷属のモンスターが何日も絶えず襲い掛かってきたため、戦闘中に集中力が切れて倒れるわけにもいかず、要所ごとの<領域>のオンオフの切り替えが必須技能であった。

 

 そんな地獄のような特訓の中で自然と覚えたのが、武技の高速発動だった。

 そのおかげで今回、武技をギリギリまで隠して敵の油断を誘うことに成功していた。

 

 だがブレインの成長はそれだけではない。 

 命の危機を伴った修行は、ブレインの<領域>を新たなステージへと進化させていた。

 

(────武技、<神域>!!)

 

 ブレインの知覚空間が倍に広がり、知覚能力の更なる向上と共に生命力ともいえる目に見えない力の波動を感じとれるように進化していく。

 この瞬間、半径六メートル以内のすべての生命体はブレインに感知され、範囲内におけるありとあらゆる行動が掌握された。

 

 その様子を見たクレマンティーヌは目を細め、一瞬の内にブレインの身に纏う空気が変化したことを鋭敏に感じ取り警戒した。

 

(……何? 身体能力向上の武技……? ……チッ、そのまま殺せば関係ねえんだよ!)

 

 構わず高速で突進するクレマンティーヌ。

 弾丸のように射出された身体がブレインへと迫り、そして<神域>へと接触した。

 

 そしてその瞬間。

 接触を感知したブレインが前へと踏み込みながら鞘から刀を抜き放ち、神速の斬撃<神閃>を発動する。

 

「秘剣、真・虎落笛(もがりぶえ)!」

 

 半径六メートルほどの範囲にある全てを把握するオリジナル武技<神域>による必中性能と、 同じくオリジナル武技、一度放たれれば知覚さえ不可能な神速の一刀<神閃>。

 この二つを併用し、対象の頸部を回避不能の斬撃で 両断するブレインの新たな秘剣――――真・虎落笛(もがりぶえ)

 

 対人に特化したブレインだからこそ生み出せた必殺の一太刀が、迫り来るクレマンティーヌの首筋へと吸い込まれていく。

 

(────ッ! 武技、<超回避>!!)

 

 自身の首元へ吸い込まれていく鈍色の閃刃を強化した感覚で感じ取ったクレマンティーヌは、その天性の戦闘センスを発揮し咄嗟の回避行動へと移った。

 爆発的に上昇したクレマンティーヌの回避力が、これまで外したことのなかった<神域>の必中性能を嘲笑うかのように覆す。

 

 そしてブレインの神速の抜刀が空を切り、クレマンティーヌの髪先が宙を舞った。

 

「────コ、ノッ!」

 

 地を這うように屈んで居合いを回避したクレマンティーヌはそのまま懐へと潜り込み、右手のナイフをブレインの首筋へと突き上げる。

 

 居合い直後の硬直を狙った完璧な一撃。

 防御も回避も不可能な体勢にある敵への、急所を狙った容赦なき刃。

 不可避の刃が今度はブレインの首筋へと吸い込まれ、その命を絶つ────

 

 ────前に、クレマンティーヌの頭部へ衝撃が走った。

 

 「……が、はぁっ!」

 

 クレマンティーヌの頭に鈍器で殴られたような痛みが走り、額から血が飛び散っていく。

 軽い脳震盪によって思考が途切れそうになる中、元漆黒聖典として鍛えられた強靭な意思で意識を保ち、何が起きたのか分析していく。

 

(なんだ? 何をした? 居合い直後を狙った完璧な一撃だったはず……。左腕の位置が変わっている? ……クソッ! そういうことかよ!)

 

 倒れそうになる身体をなんとか止めながら、先ほどの攻撃の正体に目を向ける。

 クレマンティーヌの視線の先には、ブレインが振り抜いた“鞘”が左手に握られていた。

 

「手癖が悪くてすまんな。最近、居合いの隙を嫌というほど襲われたことがあってね」

 

 そう言って、ブレインは振り抜いた右手を返し、そのまま振り下ろす。

 

 グラつく視界の端、硬直から回復したブレインによる第二刃を見た彼女は、左手のナイフを差し込んで武技を発動した。

 

「────<不落要塞>!!」

 

 振り下ろされた刃がナイフと接触した瞬間、時が止まったかのようにピタリと動きを止める。

 武技、<不落要塞>によって一切の衝撃を無効化し羽でも受け止めたかのような手応えを感じながら、クレマンティーヌは怒りのままに右手のナイフでカウンターを叩き込もうと動きだす。

 

 そして、左手のナイフで防いでいたはずの刀が再び“鞘”であることに気づいた。

 

「フェイント……!? コイツ、持ち替えて────」

 

「これで終わりだ!!」

 

 ブレインが振り抜いた左手を返し、鞘を受け止めているクレマンティーヌの首筋へと刀を振り下ろす。

 先ほどのブレインへの攻撃と同様の硬直を狙った一撃。

 しかし先ほどのクレマンティーヌによる攻撃とは違い、どうあがいてもナイフが届くよりも先に首と胴が別れるだろう逃げ道のない一撃だ。

 

(やば……死────)

 

 長年法国の特殊部隊にいたクレマンティーヌだからこそ経験でわかってしまった。

 これは間違いなく自分を死に至らしめる不可避の一撃であると。

  

 終わりの刃が首筋へと近づいていき、クレマンティーヌの意識を刈り取ろうと迫る。

 

「<盾壁(シールド・ウォール)>!」

 

 クレマンティーヌの首にブレインの刀が触れたその瞬間。

 不可視の障壁が盾のようにクレマンティーヌの眼前を覆い刃を弾いた。

 

 死の恐怖に思わずその場から飛び退いて後退したクレマンティーヌが見たのは、彼女の同僚────カジット・デイル・バダンテールが杖を構えて路地奥から近づいてくる姿だった。

 

「どこで油を売っているかと探してみれば……。フン、何をしているのだクレマンティーヌ」

 

「カジっちゃ~ん! ごめんごめん。ちょっと遊んでただけだよ」

 

「その割には死にかけていたようだったがな、全く……。貴様が今消えると儂の計画が狂ってしまうということは忘れるでない」

 

 クレマンティーヌがカジットの隣に立ち、喜びと共に余裕を取り戻しながら額の血を拭っていく。

 会話をしながらもブレインから目を離さずに警戒し、その目からは敵を逃がさない強い意思を感じさせられる。

 

 その様子を見ながらブレインは自分が置かれている状況の厳しさに歯噛みした。

 

(クソッ! 仕留め損なった上に新手まで来やがった! ……どうする? 同じ手はもう使えない。逃げるか? いや後ろを向いた瞬間、刺し殺されるのがオチだ……)

 

 先ほどの一戦でブレインは気づいていた。

 クレマンティーヌと呼ばれるこの女は、実力では自分より上にいる。

 

 さっきまでは油断していた隙をついていたが、今後はもう通用しないだろう。

 隙をついて尚、懐まで一度潜り込まれている時点で、実力は向こうが上だと認めるしかなかった。

 

「チッ、やってくれるじゃねえかテメェ……。このクレマンティーヌ様に傷をつけたこと、後悔させてやるよ」

 

 射殺さんばかりに殺気の籠った目でブレインを睨むクレマンティーヌが、吐き捨てるように言う。 

 隣ではカジットがクレマンティーヌに魔法による強化をかけ終え、退路を塞ぐようにブレインの後方へといつの間にか手にしていた宝珠をかざしていた。

 

「来い! 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)よ!」

 

 カジットが叫ぶと手にしている宝珠から妖しい光が輝き、ブレインの背後にある路地から瓦礫を破壊しながら骨で出来た巨大な竜が出現する。

 

 完全に逃げ場を失ったブレインは、嫌な汗をかきながら刀を正面に構え、ひきつった笑いを浮かべる。

 このまま騒ぎが大きくなれば冒険者や兵士達も気づくだろうが、スラム街は都市の中心から離れているため、衛兵が駆けつける頃には自分の命はなくなっているだろう。 

 

「……見逃しちゃくれねぇか?」

 

「残念だが儂らとここまで関わったからには死んでもらう。やれ! 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)!」

 

「グゥゥォォオオオオオ!!!」

 

 カジットの声と同時に骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が咆哮をあげて爪を振り上げる。

 正面は二人、後ろは骨の竜に挟まれた絶体絶命の状況。

 クレマンティーヌが不満そうに声をあげ、カジットが勝利を確信した笑みを浮かべている。

 

 一か八か背後の怪物を通り抜けて逃げようと振り向いたブレインだったが────その光景を見て止まった。

 

 

 

 そこには、粉々になった骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の残骸の上に佇む、一人の幼い少女がいた。

 

「あれ、壊れちゃった」

 

 狐面の隙間から夜空の月光を反射した紅い瞳を爛々と輝かせ、何かを握るように閉ざした自分の掌を不思議そうに見つめている少女────吸血鬼の少女(フランドール)が瓦礫の上に立っていた。

 

 

 

 

 




刃衛マンティーヌ「!?」
爪斬り抜刀斎「隙を生じぬ二段構え」

というわけで、クレマンちゃんVSブレインでした。
武技の説明は推測が大部分を占めています。

レベル的に真っ向勝負でブレインがクレマンティーヌに勝つのは無理だと思っているので、舐めプマンティーヌが叩き落とされる結果となりました。

この作品ではブレイン(Lv.30)、クレマンちゃん(Lv.36)で考えています。
フル装備ガゼフ(Lv.30前半?)がデスナイト(Lv.35)を倒せるくらいなので、このくらいかなーと。
本気のクレマンちゃんなら1on1でなんとかデスナイトを倒せると信じてるよ!

そしてLv.100がインしました。
カジットは泣いていい。
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