フランドール・オーバーローデッド   作:凜としたBTQ

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今回はクレマンちゃん視点からです。






第八話 妹様、蹂躙する

「な……何をした……?」

 

 狼狽したカジットの声が静寂に染まった路地裏へと響き渡る。

 

 隣に立つ私は既にブレインには目もくれず、文字通り跡形もなくなった骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の上に突然現れた少女に対して最大限の警戒を持って見つめていた。

 

 そう、()()現れたのだ。

 

 私はブレインの一撃を受けてから一切の油断をなくし、彼が逃げた瞬間に攻撃できるよう路地には常に意識を向けていた。

 

 しかし、それでもこの少女がどこから現れたのか全く気づかなかった。

 それどころか、攻撃の軌跡すら見えなかった。

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が爪を振り上げた瞬間には既にもうバラバラに破壊されていた。

 

 まるで元から壊れていたかのように、トランプタワーの如く崩れたのだ。

 漆黒聖典でもこんな芸当ができる者は見たことがなかった。

 

(いや……第一席次の奴なら……。それでも、近づかれたことに一切気がつかないなんてあり得る? 隠密特化の暗殺者? でも、それなら何で姿を見せた……?)

 

 目の前の少女から目を離さずに私は高速で思考する。

 しかしその思考はこの惨状を引き起こした本人よって中断させられた。

 

「何をした? 何をしたかぁ……。多分言ってもワカンナイと思うけど」

 

 そういって少女はこちらを向き、その仮面から覗く紅い瞳と私の目が合う。

 

 瞬間、背筋が凍った。

 

「こうしたんだよ」

 

 少女が手を握ると、グシャリと何かが壊れる音がした。

 同時に何かが飛び散り思わず自分の顔に手を伸ばすと、手にはべったりとした血の感触が広がった。

 

 そして隣を見ると、カジットの首から上がなくなっていた。

 

「ヒッ……」

 

 その光景を見た瞬間、私は脱兎の如く逃げ出した。

 なりふり構わず全速力で逃げ出した。

 

 頭が考える前に<能力向上>の武技を使い、<能力超向上>も併用した。

 自身のオリジナル武技である<疾風走破>すらも使用し、間違いなく今までの人生で一番であろう速度で駆け出した。

 

(やばいやばいやばいやばい……! 何あいつ何あいつ何あいつ何あい────)

 

「────ねぇ、淑女(レディ)の顔を見て逃げ出すなんて失礼だとは思わない?」

 

 そして私が高速で駆け出して十歩目。

 路地の曲がり角にあと少しというところで、後ろ手をその少女(バケモノ)に掴まれた。

 

「……ッ! ハ、ナセェッ!!」

 

 掴まれた左手とは逆の右手を突き出し、魔法のこめられたナイフで眼球を抉ろうと仮面の隙間へ攻撃する。

 驚いたように目を見開く無防備な少女の瞳へと、容赦のない本気のナイフが吸い込まれていき接触した。

 

「……うそ」

 

 思わず間の抜けた声をあげた私は、目の前で起きた光景が信じられなかった。

 

 確かに私のナイフはこの少女の眼に当たった。

 当たったのだが……折れた。

 

 金属が折れたとき特有の嫌な音だけを残して、お気に入りのナイフは根元から先を失っていたのだ。

 

 信じられなかった。

 アダマンタイトの防具ですら貫通することのできる私のナイフが、この少女の眼と当たった衝撃でまるで棒きれのようにへし折られたのだ。

 人体の急所であり、最も柔らかい部分である眼球で。

 

「う……うぁぁぁあああああああッ!!」

 

 殴る、蹴る、殴る、蹴る、殴る、殴る。

 

 手が掴まれて逃げられない恐怖を誤魔化すように、自分の渾身の一撃が全く効かなかった悪夢(げんじつ)を誤魔化すように、私は攻撃を続けた。

 腕が折れ、脚が折れ、骨が抜き出しになってもただひたすらに攻撃を続けた。

 

 意味がないことはわかっている。

 効いていないことも知っている。

 

 だがそうしなければ……私は正気を保っていられる自信がなかったのだ。

 

「…………麻痺」

 

 涼しい顔で攻撃を受けていた少女の細い手が私の顔へ触れたかと思うと、全身に痺れるような衝撃が走り身動きが取れなくなる。

 

 最後の抵抗すら許されなかった私はその場に崩れ、断頭台を待つ死刑囚のような面持ちで目の前の絶望を見つめていた。

 

「バ、バケモノ……」

 

 ボソリ、と思わず呟いてしまった私の心は最早完全に折れてしまっていた。

 

 漆黒聖典の隊長でもここまで規格外の存在ではなかった。

 どうしてこんなバケモノが自分の下なんかに現れてしまったのかと、自身の運命を呪わずにはいられなかった。

 

 両親から疎まれ、兄との劣等感に苛まれ、最後に逃げた先がこれだ。

 

 あんまりではないか。

 

 漆黒聖典から抜けて逃げ出したのが間違いだったのだろうか。

 あのまま人類の守護者として道具のように扱われ、ボロ雑巾のように消費されることを受け入れるべきだったのだろうか。

 

 ……違う! そんな筈はない!

 私は……あいつらの道具なんかじゃない!

 私は、私にだって……好きに生きる権利はある筈だ!

 だから私は、何としてもここで……。

 

「……バケモノ、か。アハハ! 確かにそうかもしれないね。だってだって、だってね? こんなにも────」

 

 呆然とした私を見下ろしながら、少女が狐の仮面とローブを外していく。

 

 絹のような美しい黄金の髪に、神が造形したといわれても不思議がないほどの恐ろしく整った容姿。

 しかしその可愛らしい見た目とは裏腹に少女の衝動に溺れた紅い瞳は、どこか捨てられた仏蘭西(フランス)人形(ドール)のように冷たく、それでいて燃えるような狂気を孕んでいた。

 

「────こんなにもッ! NPC(おもちゃ)を壊すのが楽しいと感じてしまうのだもの!」

 

 ────<Ow O Nom Ur Uyar A Ot Ira Grip & Breakdown!(ありとあらゆるものを支配し破壊する)

 

 少女の狂ったような叫びを聞くと同時に、私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で倒れている死体をじっと見つめていたフランは、握っていた自身の掌をゆっくりと広げていく。

 フランの周りはまるで避けているかのように返り血が付いておらず、頭上にある血の球体がドクドクと脈打ちながら路地に広がった血を吸収していた。

 

「……大丈夫か?」

 

 ブレインが恐る恐るといった様子でフランに近づいていき、声をかける。

 

 呼びかけられたフランの瞳は爛々としており一瞬掌を握るような動きをしていたが、ブレインの顔を見るとすぐに首を振り目を閉じていく。

 そして再び目を開けた時にはいつもの宝石のような紅く美しい輝きに戻っていた。

 

「……うん、大丈夫だよ。んー、久しぶりのイベントだったからかなぁ……ちょっとテンション上がっちゃったみたい」

 

 あっけらかんと言うフランは悪戯が見つかった子供のような仕草でばつが悪そうに片目を瞑り、肩を竦めながら返事をした。

 

 明らかにちょっとテンション上がったではすまされない様子だったのだが、藪をつついて鬼を出す必要はないと考えたブレインはそのまま深く突っ込まないことにした。

 

「それより早くこの場所から逃げるぞ。これだけ騒ぎを起こせば衛兵が駆けつけるのも時間の問題だ」

 

「あー、それなら問題ないと思うよ。なんか黒ローブの集団がこの辺りに結界を張ってたから誰にも気づかれていないと思う。そいつらはもう私の眷属にしちゃったし、今も結界を維持してるのが伝わってくるから大丈夫だよ」

 

 どうやらあの二人以外にも敵がいたらしいが、フランによって無力化されていたようだ。

 コイツに見つかるなんて運のない奴らだと同情するブレインであったが、フランの言葉に今更ながらふとした疑問を浮かべる。

 

「吸血鬼の眷属は理性のない化け物になるって聞いたことがあるんだが……お前のは違うのか?」

 

下級吸血鬼(レッサー・ヴァンパイア)のこと? 真祖(トゥルー・ヴァンパイア)以上の上位種の吸血スキルなら吸血鬼(ヴァンパイア)以上になるから暴走の心配はないよ。今回私のスキルで作ったのは<真祖の魔術師(トゥルー・ヴァンパイア・ウィザード)>だから、人間だったときとほとんど変わらないはずだよ」

 

 ブレインは続くフランの説明をほとんど理解することができなかったが、彼女が自分の知らないほど高位の吸血鬼であり、その眷属も強力な吸血鬼であるということは理解した。

 

 ────フランが持つ<始祖(オリジン・ヴァンパイア)>の吸血は真祖(トゥルー・ヴァンパイア)は勿論、その派生クラスにも転職させることが可能だ。

 この派生クラスはタンク職の<真祖の騎士(トゥルー・ヴァンパイア・ナイト)>や、魔法職の<真祖の魔術師(トゥルー・ヴァンパイア・ウィザード)>など多岐に渡り、元々持っている上級職業のレベルに上書きする形で付与することができる特殊なクラスである。

 

 そのため既に上級職に就いている相手だと弱体化することになってしまうが、通常の職にしか就いていない弱い相手には抜群の効果を発揮する。

 

 今回フランとブレインを囲んでいた黒ローブ達は全員上級職を所持していなかったため、眷属化前とは比較にならないほどの強さを手に入れていた。

 

 魔力も大幅に上昇しており疲労のないアンデッドになったことで、彼らはこのまま丸一日結界を維持することすら可能となっていた。

 

「……それは俺にもして貰うことはできるのか?」

 

「……ダメ。眷属化による強化は手っ取り早くて強力だけど、本来の成長で得るビルド構成には及ばないんだよ。それにブレインは人間種として強くなりたいんでしょ? だからダメだよ」

 

 フランのその言葉を受けて、ブレインは己の言動を恥じ入った。

 昔のブレインであったなら力を手に入れるために吸血鬼となることを受け入れたかもしれないが、今は違う。

 

 吸血鬼になることで得られる強さは確かに魅力的ではあるが、それは約束と違うからだ。

 

 ブレインは人間として強くなれると聞いてこの少女の弟子になったのだ。

 一度頼んだことを途中で曲げるほど、剣士として落ちぶれてはいない。

 

 それにフランの眷属になって強くなったとしても────主人である彼女より強くなることはできないだろう。

 

「ふっ、そうだな。お前の言うとおりだフラン。俺は人間として強くなることにするよ」

 

 そういってブレインが静かに笑うと、その様子を見ていたフランは何が楽しかったのかと不思議そうに首を傾げていた。

 そんなフランを見てますます笑みを深めるブレインであったが、この場に突如下りてきた黒ローブ姿の男達に警戒をあらわにする。

 

「────ご報告いたします、至高にして唯一たる我が君。周囲の目撃者及び住民の処理が完了致しました。我々は引き続き結界の維持しながらこの場の掃除を行う予定ですが……()()()の片付けはどうなさいますか?」

 

 フランへ忠誠を誓うように片膝をつき頭を垂れながら口を開いたのは、紅い瞳をした黒ローブの男だ。

 犬歯のような鋭い牙とその瞳の色から彼等がフランの言っていた眷属にした黒ローブの集団だろうと推測したブレインは、警戒を解いて話を聞くように一歩下がる。

 

 黒ローブの男が目配せをした先には、先ほどフランが一方的に殺戮した哀れな被害者達の死体が転がっていた。

 

「その呼び方はやめてって言ったのに……。あー、これってあなた達の上司なんだっけ? なんかのイベントフラグっぽいし、眷属化で蘇らせて(アンデッドにして)おくからそのままでいいよ。あなた達もお掃除が終わったら解散してね」

 

 フランがそう言うと、黒ローブ達は一斉に返事をして立ち上がり、どこからか取り出したモップで血に塗れた路地を掃除していく。

 怪しげな黒ローブ集団がまるで一つの生き物のようにテキパキと掃除をしている姿に違和感を抑えられないブレインであったが、今更フランがすることをいちいち気にしても仕方がないと考え見えないフリをした。

 

「さてと、それじゃあ早速この二人も眷属にしちゃおっかな」

 

 フランの紅い瞳が妖しく煌めき、その小さな口から八重歯を覗かせ舌なめずりをする姿はとても妖艶であり、そして彼女の幼い容貌も相まってとても冒涜的であった。

 

 ごくりと生唾を飲む音がどこからか聞こえる中、ブレインを含むこの場にいる全員がフランに注目していく。

 そんな視線の中心人物であるフランは、その場に立ち止まったかと思うとこちらに振り向き、やがて恥ずかしそうに手を擦りながら上目遣いに呟いた。

 

「…………恥ずかしいからあっち向いてて」

 

 そんな可愛らしい言葉とは裏腹に、フランがゆっくりと魔杖を取り出していることに気づいたブレイン達は一斉にその場の掃除へと戻っていく。

 その一糸乱れぬ統率のとれた動きはまるで歴戦の冒険者パーティのようであったと語ったのは、黒ローブの人達と一緒に掃除をすることになってしまったブレインの談である。

 

 

 

 




というわけで、フランちゃんがウフフする回でした。

クレマンちゃんとカジっちゃんは死んでしまいましたが、フランちゃんが眷属として蘇らせてくれるよ! やったねカジっちゃん!
死の宝珠さんはぶっ壊されるのを恐れて静かにプルプルしています。

そしてクレマンちゃん愛用のナイフが折れてしまいました。
悲しいことに素のステータスが違う上、各種パッシブスキルで防御力と耐性が上がっているフランちゃんのお目目を貫くことはできませんでした。クリティカルも無効です。
ちなみにフランの刺突武器耐性はVです。
スピア・ザ・グングニル? ハッ! 効かんわ!

突如吸血鬼集団と化したズーラーノーンカジっちゃん支部。
末端でさえ元幹部を超える実力となった彼らを止めることができる英雄は現れるのだろうか!?

一方その頃アインズ様は、ニニャの言葉に傷ついて不貞寝(寝てない)しています。
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