フランドール・オーバーローデッド   作:凜としたBTQ

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今春発売予定だったオーバーロード15巻の霊圧が消えたので初投稿です。

探査回路(ぺスキス)を全開にしても見つからない・・・どこ・・・ここ・・・?


第九話 妹様、出立する

 フランがクレマンティーヌ達を眷属にした夜から翌日の夕方。

 

 ブレインとフランはエ・ランテルの大通りに立ち並ぶ商店の一角から出て、森で修行を再開するためにエ・ランテルを出る準備をしていた。

 

「今夜出発するとして、またいつ街に戻れるかわからんからな。食料はなるべく多めに日持ちがしやすいものを選んだ。これで当分は持つだろう」

 

「はーい。買ったアイテムは全部<無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)>に入れたよ」

 

 肩にかけるように白い袋を背負った小柄な少女、フランがブレインの言葉に元気よく返事をする。

 少女の華奢な体躯と比較するとやや大きめな白い袋を背負うその様は、まるで小さなサンタクロースのようである。

 

 フランは隣を歩くブレインを見上げながら変装のために被っている狐面を傾げ、その絹のような黄金の髪を揺らしながら尋ねる。

 

「でもブレイン。あのおじさんにお願いして一緒に馬車に乗せてもらった方が良かったんじゃない? 王都に向かう令嬢の護衛とか絶対あれイベントだったって」

 

「イベントとやらは知らんが、俺達は森に修行しに行くんだぞ? 途中で降りるにしても不自然だろ。野盗の仲間だと思われて冒険者を呼ばれても面倒だ」

 

 それもそっかー、と呑気な声で返事をする隣の少女を見てブレインは顔を顰め、今日の出来事を思い出す。

 

 フラン達が今日出立の準備をするということを知ったある人物────昨日出会ったズーラーノーン幹部のカジットと呼ばれる老人のような男から「我が君の一助になれば」と多額の金銭をフランは渡されていた。

 まさかコイツの全財産じゃないだろうな……? とブレインが思うほどのお金を受け取ったフラン達は、当初の予定を変更し少し大きめの商店へ買い物に出かけることにした。

 

 そこでセバスという壮年の老執事と出会い、目移りが激しく余計な物まで買おうとするフランの相手をして貰うなど色々と世話になったのだ。

 

 そのおかげでスムーズに物資の調達が進んだブレインは、果実水や甘味を与えられてご満悦のフランを受け取った帰り際に何か礼をしようとした。

 しかし丁度買い物を終えて合流したセバスの主である令嬢に罵倒を浴びせられたため、フランの耳を塞ぎながら逃げるように去ることとなり今に至る。

 

(あんなのと一緒に居たらフランがキレて何するかわからん。セバスさんのこと気に入っていたみたいだったしな)

 

 わがままの権化のような性格をしていた令嬢を思い出しながら、ブレインはフランを見てこいつも大抵わがままだわ、と大きく溜息を吐く。

 

(セバスさんも大変なんだな……気持ちわかるぜ……)

 

 そんな風にセバスにシンパシーを感じながら遠い目をするブレインの横では、フランが小首を傾げながら先ほど出会った老紳士達のことを思い出していた。

 

「うーん……あの二人どこかで見たことあるような……ないような……」

 

 悲しいかな。普段ナザリックの最奥に詰めておりユグドラシル時代もあまり接する機会のなかったプレアデス達は、フランにその存在を忘れられていたのであった。

 そしてプレアデスの長であるセバスも、部下であるソリュシャンも、ギルドから籍を外し人化して変装したフランに気づくことはなかった。

 

 ギルド長のモモンガでさえNPCの名前を思い出すのに少々時間がかかるくらいユグドラシル時代には出番が少なかったため、フランが気づかないのも仕方がないと言えるのだが……このことを本人(プレアデス)達が知ったらショックで自害すること間違いなしであろう。

 

 お互い正体に気づかなかったためそんな悲しい事件が起きなかったことは、果たして幸運であったのか、不幸であったのか。

 彼女達が邂逅するのはまだ先のことであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 日も暮れた夜の街道を走る馬車の中。

 

 私は今日の昼に出会い、そのまま流れで夕方までお世話をすることになった一人の少女のことを思い出していた。

 

「セバス様、いかがなさいましたか?」

 

 豪華な衣服で着飾り綺麗な金髪をロールで巻いたどこか傲慢な雰囲気を感じさせる令嬢────私の主人という設定の戦闘メイド(プレアデス)が一人、ソリュシャン・イプシロンが不思議そうに問いかける。

 

 もう一人の同行者であるシャルティアとソリュシャンが雑談に興じている中、私は一人思考に耽ってしまっていたことに気づき慌てて謝罪をする。

 

「失礼しました。シャルティア様、ソリュシャン。少し、今日出会った少女のことを思い出していました」

 

「敬称は不要でありんすよ、セバス。確か、街の調査をしている最中に出会った二人組の内の一人……でありんしたか」

 

「ああ、あの人間の少女でございますか。あれは素晴らしいものでした。仮面の隙間から覗く純粋な瞳……。恐れを知らぬ無垢な感情……。あぁ……私も思い返すだけで顔がにやけてしまいますわ」

 

 シャルティアが首筋に指を添えながら聞くと、思い出したようにソリュシャンが頷いて答える。

 

 しかしそんな賞賛するような言葉とは裏腹にソリュシャンは加虐的な笑みを浮かべ、その口元は凄惨に歪んでいた。

 

「……ソリュシャン。繰り返しになりますが、一般の方に対する軽率な行動は我々の任務に支障をきたす恐れがあります。ですので────」

 

「わかっていますわセバス様。私情で任務を疎かにするような行動は致しませんわ」

 

 そういってソリュシャンは妖艶に微笑み肩を竦めると、先ほどまでの邪悪な雰囲気が霧散していく。

 

 彼女はナザリックにいる多くの仲間達と同様に人間を見下す傾向が強い。

 しかし我らナザリックが誇る戦闘メイド(プレアデス)の中でも諜報を得意としている彼女は、自らの感情を自制し環境に適応する理性的な一面を持つ。

 

 一時の欲望に身を任せて主人から受けた命令に背くような愚かな真似は決してしないだろう。

 

「ふーん、面白そうな娘でありんすね。妾も一度会ってみたいでありんす。……まさかと思うけどセバス。その娘に懸想しているわけではないでありんしょうね?」

 

 ソリュシャンとの会話を見ていたシャルティアが興味深そうに声を漏らした後、私の顔を見てその紅い瞳を妖しげに細めながら聞いてくる。

 

 その鋭い視線は、私の回答次第で彼女がどう動くかを明確に表していた。

 

「そこまで愚かではありませんよ。たっち・みー様にはご息女がいらっしゃったとお聞きしていましたので……もし私に娘がいたら、と考えていました」

 

 少しの間お世話をした狐面の少女は、接していてこちらが温かな気持ちになるような純粋で快活な性格をしていた。

 

 物欲しそうに見つめていた果実水を渡してみると、仮面の上からでもわかるほどに喜びを露わにし、満面の笑みを浮かべているだろうことが窺えた。

 その後はおじさんおじさん、とまるで初めて親を見た雛鳥のように懐いてくる様は自然と笑みを浮かべてしまうほど微笑ましいものだった。

 

「この感情も貴方様がお与えくださったものなのでしょうか……たっち・みー様」

 

 自身を創造した今は無き主の姿を思い浮かべながら呟いたその一言は、夜道を走る馬車の音に紛れて消えていった。 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 フラン達が出立した翌日の夜。

 

 エ・ランテルには外周部の城壁内のおおよそ1/4を使った巨大な墓地がある。

 墓地の周りは分厚い高さ4メートルの壁が取り囲んでおり、西側地区のほとんどがこの墓地となっている。

 周囲を壁で囲むのは墓地にはアンデッドが自然と出現してしまうからであり、毎夜衛兵隊や冒険者が巡回して弱いアンデッドのうちに退治することで街の安全を守っていた。

 

 しかし、今ではその防衛も最早何の意味も成していなかった。

 

 墓地の最奥には霊廟があり、霊廟内に隠されている地下神殿ではとある少年の魔法を起点に「死の螺旋」を完成させようとアンデッド達が溢れかえっていた。

 そして霊廟から漏れ出たアンデッド達は墓地中に広がり、今にも壁を越えて街にいる生者達を喰いつくさんと壁に迫り、衛兵を貪っていく。

 

 そんな地獄のような凄惨な様子を霊廟入口から眺めていたズーラーノーンの十二高弟の一人────カジットは、本来の予想よりも遥かに多いアンデッドの軍勢に光悦の笑みを浮かべていた。

 

「おお……至高にして唯一たる我が君よ。貴女様から賜ったこのご加護は、我らに法国の秘宝すら身一つで実現するほどのお力をお与えくださった……」

 

 号泣しながら神に祈るように手を胸の前で組んだカジットは、その神秘的な行いとは裏腹にアンデッドを無限に召喚し続けている。

 

 第七位階魔法<不死の軍勢(アンデス・アーミー)>。

 

 スレイン法国の秘宝、叡者の額冠を使用することで初めて発動可能な人外の域にある大魔法だ。

 

 叡者の額冠に適合する者が希少なことに加えて、使用した場合その代償として術者は廃人となってしまうほど危険な魔法である。

 

 人類が未だ到達しえない神の領域である第七位階魔法であり、かの帝国の宮廷魔術師フールーダ・パラダインでさえ不可能である人外の魔法。

 

 その魔法を、カジット・デイル・バダンテールはただ一人で発動していた。

 

「うわー凄い数。精が出るねーカジっちゃん。いや、ここの衛兵達からしたら"生"が出て逝っちゃってるのかな? なーんちって」

 

 霊廟の奥から音も無く現れカジットの背後に立つ人影────クレマンティーヌが、墓地の惨状を見渡してケラケラと笑いながら声をかける。

 

「……貴様には儀式を見張っていろと言ったはずだぞ、クレマンティーヌ」

 

「なーんで私がカジっちゃんの言うこと聞かなきゃいけないのさ。私に命令できるのはこの世でただ一人、至高にして唯一たる我が君だけ。……次に命令したら殺すぞ」

 

 そういって猫のような切れ長な瞳を爛々と紅く輝かせながら、クレマンティーヌは鋭い怒気を含んだ殺気をカジットへと叩きつける。

 その怒気は先日までの自尊心からくるものとは異なり、絶対の忠心と信仰からくるものであることが窺えた。

 

「儂は我が君からこの『死の螺旋(イベント)』の指揮を一任されている。貴様も我が君の眷属であるならば、その儂の指揮に逆らうということの意味がわからぬほど愚かではあるまい」

 

「……わかってるっつの。私の能力で今も見張ってるから問題ねーよ。あーあ、我が君が直接命令してくれれば私もやる気がでるのになー」

 

 その豊満な身体を猫のように伸ばしながら、クレマンティーヌはここにはいない自身の小さな主人へと思いをはせる。

 

 仮面を外したときに魅せた人形のように整った美しい容貌と、金糸のように輝く黄金の髪。

 幼く儚い見た目とは裏腹に、戦闘が始まったときに感じた狂気のような禍々しい雰囲気(オーラ)

 絶対者という言葉が体現されたかのような、圧倒的なまでの暴力(せんとうりょく)

 

 眷属となったもののすぐに主人は街から離れてしまったが、今もその繋がりは信仰という形によって感じられる。

 

 そう、かつて法国にいたときに信仰していた存在しない神とは違う。

 この世界に顕現し、実際にこの目で見て肌で感じた神なのだ。

 眷属となった今、主人がどのような存在であるかを吸血鬼としての本能で理解している。

 

 全ての祖にして、窮極の一。

 ゼロより出でし原初の神格。

 

 ────吸血祖神(ザ・ワン)

 

 彼女の眷属となった者は────その本質を理解した者は。

 当然のように、必然のように、その悉くが彼女の信徒となった。

 

「我らの些事に我が君を煩わせるわけにはいくまい。我らは只、信仰を捧げ我が君の託宣を粛々と成すのみよ」

 

「それはそうだけどさカジっちゃん。盲目的になりすぎて周りが見えなくなるのもどうかと思うよ?」

 

 クレマンティーヌのその言葉を受け、墓地に着いてから今まで続けていた祈りの姿勢を中断したカジットは、ここに来て初めて彼女へと目を向ける。

 

「……どういう意味だ?」

 

「私が遊びに来たとでも思ってたの? ここに来たのは理由があるからに決まってんじゃん。まぁ、何が言いたいかっていうとさー」

 

 猫のような瞳孔を細め、アンデッドで溢れかえった墓地の先────入口にある門を見て彼女は口を開いた。

 

「────冒険者(お客さん)が来たってコトだよ」

 

 

 

 

 

 

 




オーバーロードの年表を見て初めて知ったのですが、モモンがエ・ランテルに来たときにはまだセバス達も居たんですね。

ということで少しセバス達と絡みつつエ・ランテルから出立するフランちゃんでした。

本来ならブレインとは王都編で出会うはずのセバスですが、ここでは少し早めに出会いました。
ちなみに(王都編にフランちゃん達が関わる予定は今のところ)ないです。
関わっちゃうとナーベちゃん達はともかく流石にデミウルゴスには気づかれちゃうからね仕方ないね。

でもデミウルゴスならナザリックに姿を現さない理由を勝手に解釈して黙っていてくれる可能性も微レ存・・・




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