受験の年なので相変わらず不定期にはなりますが、よろしくお願いします。
序盤は論田視点、後半は赤いアイツです。
織斑千冬がIS学園から居なくなった────その言葉を聞いた瞬間、宇野は俺に携帯を手渡すと村田さんと一緒に何やら慌ただしく準備をし始めた。
それを眺めながら、電話の無効でアワアワしてる女性に話し掛ける。
「失礼したな。改めて、俺はライブラリのレティシンス。そちらは?」
『えっと……IS学園一年一組副担任の山田真耶と申します』
「山田さんか。織斑千冬がどうこう言ってたが、具体的にどうなったのでしょうか」
『ええっとその……今の時期、私達教員はIS学園から出られないんです。各国から来た数十万人分の受験届を捌かないといけないんですけど……』
「その途中で織斑さんがいつの間にかいなくなってた、と。とんだ災難ですね」
『そうなんですよ! 受験日まで
山田先生は気怠げにため息を吐く。同情で胸がいっぱいになるが、今はどこかに消えた
俺は気を改めて彼女と会話を交わす。
「それで、織斑さんの行方の検討とかは?」
『いえ、全く……織斑先生はあんまり私たち教員とは関わることが無くて。せいぜいが廊下ですれ違った時の挨拶と、会議での会話ぐらいで』
「それは……随分とその、何とも……」
材料の少なさに辟易せざるを得ない。随分と拘束されてたみたいだし、適当にモノレール駅近くの飲み屋街でも捜索しようかと適当なことを考える。
そうしていると、宇野達がクロネコやらクギリといったマストを引っさげてこっちに来た。
「レティシンス、更識さん。すぐに出発です」
「えっ、もう行くの?」
「おいおいおいおい、待てよ蛇鴉!? 出るって、ブリュンヒルデの居場所なんてまだ──」
「彼女が向かった場所は既に把握してあります」
「──まじで?」「ほう」「本当に!?」『どうやってですか!?』
彼のシンプルで力強い言葉に、俺と彼女らは驚いた。着いてこいと手招きする宇野の後を追っていると、更に後ろにいる村田さんから説明が入る。
「実は、今回誘拐された織斑一夏くんの受験日もIS学園の物と同じ……というか受験会場が一緒なんですよ」
「ふむふむ」
『……ちょっと待って下さい。それは確か機密情報だったはずなんですけど?』
「私たちは
宇野はさも当たり前のように説明するが、普通に考えてとんでもないことである。ひょっとしたら、どこぞの
「ふぅん、専門家がいっぱいいるのねぇ。羨ましいわ」
「むしろ
「そういやそうか。俺らの部門とか十人ちょっとぐらいだもんな」
『その人数であの依頼を……?』
そこで村田さんが一つ咳払いをして、ズレかけた話の軌道修正をする。
「それでなんですが、不思議なことに
「
「──まあそういうことですね」
途中でセリフを奪われたからか村田さんは不貞腐れる。それを戯真さんが軽くなだめているのを横目に、俺は考えていた。
ここに来る前のボディーガードをやってた頃、何度か誘拐事件に巻き込まれたことはある。その大半は、身代金の要求だとか被害者の親族への報復が目的だった。
そうすると、宇野や村田さんの言ったことが合ってたとして、織斑千冬が向かう場所は────。
「つまり、あれか? 織斑先生は一夏くんが誘拐された場所にいる可能性が高いってことか?」
「そうです。そして、その場所と
「……本当に、脱帽しますよ。私の部下よりもよっぽど出来がいい」
戯真さんの言葉に「二対一の交換なら考えてあげますよ」と村田さんが軽口を返す間に、俺らは目的の場所にたどり着いた。
そこはやたら天井の高い駐車場で、眼前にあったのはただのハイエースだった。
「……ねぇ、なにこれ?」
「よくぞ聞いてくれました! これは私たちが作ったM.U.S.Tの一つで『3月27日』といいまして──」
「説明は後で、村田さん。とりあえず、更識さん達はこれに乗ってください。レティシンスは運転をお願いします。私は免許が無いので」
「なんだか分からんが了解!」
宇野に促されるまま、村田さん以外の俺たちは車の中に乗り込む。宇野の身長なら天井に頭をぶつけてそうなもんだが、その音は聞こえない。
……大方、『見た目以上に中が広い』って感じの代物なのだろう。運転席側は特に変な様子はなく、至って普通のシフトレバーやらが揃っていた。
全員乗り込んだのを確認し、出発する。後ろからの「目的地に行く間に、情報部門から詳しい説明をするようです!」という村田さんの声を聞きながら、俺らは地上に向かった。
ガラララァッ!! と勢いよく入口の扉が開け放たれる。お客さん達の目線がそっちに向かい、俺もそこを見る。
「はぁっ、はぁっ……」
「なあアレ、織斑さんじゃないか?」「なんでこんなところに?」「随分と汗をかいてるな」
肩で息をしていたのは千冬さんだった。やけに疲れてる彼女を不審に思い、近づいて話し掛ける。
「あのー、千冬さん? どうしまし────」
「五反田、力を貸してほしい!」
彼女は俺……五反田
浅黒く焼けた肌に、筋肉で覆われた丸太のような上腕。飯に混ざるという理由で短く刈り上げられた赤髪に
「どうした、千冬ちゃん。そんなに慌てるってこたぁ、一坊に何かあったか?」
「あぁ、五反田さん……いや、その……」
竹を割ったような性格で常にキビキビと話す記憶の中の彼女とは違う姿に、俺は困惑する。そこから何かを感じ取ったのか、じいちゃんは俺に無茶振りをしてきた。
「弾、お前確か二輪の免許取ってたよな?」
「い、一応。だけど何か……」
「千冬ちゃん乗せてってやれ」
「……はぁっ!?」
素っ頓狂な声を上げた俺の頭に、じいちゃんの鉄拳が落とされた。鈍い痛みで若干まともに戻った頭で色々考える。
「……そりゃ条件*1は満たしてるけど、このクソ忙しい時にそりゃないだろ?」
「寝言は布団で言いやがれ。お前がいなくても暫くは大丈夫だ。それに──」
「あぁもう、分かったっての!」
このままだと延々と話し続けそうだったので、切り上げて千冬さんを引っ張って外に置いてある赤いバイクに向かう。
「千冬さん、とりあえずこのヘル着けてください」
「おい、なんで二つもあるんだ?」
「買った時にバイク屋のおっちゃんが恋人用だとかなんかでおまけしてくれ……って今はそんなことどうでもいいか。それで、向かうのは?」
「あ、あぁ。レゾナンスの近くに新しくアパートが作られたそうなんだが、そこ────」
「了解!!」
後ろに彼女が乗ったのを確認した俺は、いつも通りエンジンをかけてエンジンの回転数を確認してから半クラにして出発する。
初めてだからか一瞬面食らった声を上げたが、千冬さんは直ぐに慣れたようだ。こっちに軽く抱きつきながら道順を教え始め、それに従って時々ショトカしながら走る。
……にしても、一夏に関する何か、か────
・3月27日
ハイエースを改造したM.U.S.T.。
その特性は『異空間との接続』であり、車内はちょっとしたホテルの部屋ぐらいの広さの別空間になっている。
頭数を必要とする依頼の為に開発された物であり、内部では装備の点検やいくつかの軽食が備えられている。
また、宇野に負担をかけない為にその天井は極めて高く設計されている。