「ねぇ、この後どうするの?」
「……」
「ね〜ぇ〜?」
横から話しかけてくる更識さんを尻目に、私はシェルター内の装置で
クギリ用の液体金属を瓶に詰めたり、エンケファリンアンプルの濃度を確認したり等といった、地味ながらとても重要な作業だ。
「それにしても、道具が多いわね」
「そうですね、お嬢様。あそこにある赤い弾丸などは面白そうですし」
「……面白い、か」
戯真さんのその言葉を聞き、ふと今まで使わされてきた道具達を思い浮かべる。その中の多くが『作れるから作った』なんて雑な理由のものだったが、そんなことをしたのは彼の様な少年心があったからなのだろうか。
「……面白いと言えば、最近のISはどうにも奇妙な装備や仕様の物が多いと聞くが」
「えぇ。お嬢様と妹様経由で色々と情報が入ってきますが、それがもう面白いのなんの! 英国はあの『パンジャンドラム』みたいな形のサポートドローンを開発してるとか、フランスが四本腕で六本脚のパッケージを企画しているとか……」
「ちょっと、戯真さんってば第二世代用の兵装のことばっかりじゃない。もっと第三世代のことも話してくれないかしら?」
ラインナップがお気に召さなかったのか、彼女は従者に文句を言う。雷神の配線をチェックしながら、再び会話に参加する。
「パンジャンドラム…………あれはいい物だ。作戦にて求められた機能を過不足なく満たしているし、なにより名前が素晴らしい。実にイギリス紳士らしいウィットに富んでいる」
「……どういうことかしら?」
私の言葉に、楯無さんが食いついてきた。好奇心に駆られた様子であり、言葉にこそしてはいないが戯真さんも同様だった。
「パンジャンドラム──正確には『
私は一旦言葉を区切り、『偉大なるパンジャンドラム』の文章をゆっくりと喋った。
そこで、彼女は庭に出た。
キャベツの葉っぱを切り出してアップルパイを作るために。
時を同じく大きな熊が通りを歩いてやってきてお店に頭を出しました。
「石鹸はないのかい?」そう言って彼は死んだ。
そして彼女は軽率にも床屋と結婚したという。
そこに居たのはピクニー、ジョブリリー、ガリユリに、偉大なるパンジャンドラムその人。
彼の頭には小さくて丸いボタンが付いている。
そして、彼らは皆、「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」ゲームに夢中になったという。
火薬がブーツのかかとで切れるまで。
「……なにその、なに?」
「なんというか、こう……」
「支離滅裂な文脈に、存在しない単語のオンパレード。不条理、不条理、そう実に!」
興奮して立ち上がり、ついつい荒々しく発言してしまう。二人もドン引きしてしまっていた。
「……失礼。まぁ要するに、パンジャンドラムのような理不尽が起きなければいいということだ」
「そうなの?」
「そうですかね……?」
「そういうことですよ」
どうにか無理矢理言いくるめる。普段から読み聞かせの延長をねだられたり、物語の結末に文句をつけられたり、それの意義について質問されたりをしているのだ。分別のある相手ならむしろ楽なぐらいだと言える。
『蛇鴉、そろそろ目的地だ! 準備は出来てるか!』
「可もなく不可もなく、問題無しだ」
返事をすると承諾の声が聞こえ、暫くするとシェルターのドアが開かれてレティシンスが手招きしてきた。それに従って私達も外に出る。
周りを見渡すと、少し遠くの方に建物の明かりが見えた。とても大きなそれは、どうやら『レゾナンス』のようだ。そして、眼前には新築の安っぽいアパートが街頭にぼんやり照らされている。
「さて、ここからどうやるのかしら。見せてくれる?」
「……【フォーカス】モード、起動」
ぼそりと呟くと、仮面に内蔵されたハイパーセンサーの一つが働き始める。デジタルな模様が私を囲うように浮かび上がり、周囲をスキャンする。
すると、アパートの一室にいくつかの人間らしきシルエットが浮かび上がった。少し位置を変えると、人数は四人でその内の一人が子供であることが分かった。
「三階、こちらから見て右から四番目の部屋。武器らしき物は……ない? 何故だ」
「あー、多分
経験則からか、論田さんはそう話した。彼にも同じものが見えてるからいいが、そうではない残り二人はどこか不満げだ。
「…………ISの運用申請、しとけばよかったわ」
「物騒なことは言うんじゃねえぞ、更識さん? 下手にあんなもの出したら大騒ぎだ」
「そりゃ分かってるけど、やっぱりこう……つまらないわ」
そうぼやく楯無さんを従者が宥めるのを尻目に、私はどう行動するかを思案する。試しにフォーカスの設定を弄ってみると、面白いことが分かった。
「どうやらあの部屋、
「……それが?」
「都合がいいということだ」
私が伸脚を始めると、他の三人が訝しげな態度を見せてきた。そのままアキレス腱に繋げてから、レティシンスに指示を出す。
「今から織斑くんを救出します。あの部屋の向こう側……大体2、300m離れたところに車を移動させといてください」
「お、おう! なんだか分からんがそうしとく!」
論田さんがそう返し、他二人と一緒にハイエースに乗って移動し始めたのを確認した私は、例の部屋のドアと一直線上になるよう立ち位置を調整し、走り始める。
1秒ぐらい初速を稼いだところで雷神を起動。
ドアまであと十数mになったぐらいの位置で斜め方向に【上昇】する。飛び蹴りをかました辺りでハイパーセンサーを高機動用に設定変更。勢いをほぼ殺さずに部屋に入りこむ。
そこにいた四人──赤いフードの女性、紫のスーツの男、黄土色のミリタリーコートの大男──そして
雷神と仮面で飛び散ったガラスの破片を防ぎ、ある程度の姿勢制御を行って地面に着地する。
「────誰、ですか?」
「君を助けにきたヒーロー、とでも言うべきかな」
僅か数秒での出来事に頭が追いつかないのか、お姫様抱っこをされた織斑くんはそれしか質問してこなかった。
これで後はハイエースで撤収するだけである。装備も壊れなかったし、どうにか説教もされずに済みそうだ。そんなことをこっちに来るハイエースに走りながら考えていると、胸元の織斑くんが私の後ろを見て驚いていた。
そっちをハイパーセンサーで確認すると──
「ばかな、ISだと!?」
「貴様はどこのどいつだぁ!!」
そうしている内に車がやってきて中から論田達が出てきた。ISの存在に驚いている彼らに対し、私は一つの判断をくだす。
「……更識さん、頼む!!」
「えっちょ、うわぁぁ!!?」
「「投げたぁ!?」」
抱きかかえていた織斑くんをそっちの方に下投げする。その間にもISに乗っているやつ……赤いフードの女は女子ほどの大きさの鋸状の刃の付いた鉈をどこからともなく取り出して襲いかかってくる。
大振りで一撃でも当たれば死んでもおかしくない攻撃を、私は何度も避け続ける。だが、体力的にも機動力でもこちらが不利なのだ。一体いつまでこの状態を維持出来るのだろうか。
「なんなんだ、お前は! そんな妙ちくりんな仮面なぞ被り、ドアを蹴破るなど!」
「それはこっちの台詞だ! どうしてISを持っている! 条約はどうした条約は!」
「そんなこと私が知るか!! 今朝のポストにノコギリのペンダントが入ってて気づいたら
問答を繰り広げる内に出てきたその言葉に、思考が一瞬停止する。その隙は大きく、鉈の背の部分が私の胴を捉えて重い衝撃とともに吹き飛ばされた。
「……殺しはしない。あの水色の女から織斑を取り戻せば問題はないしな」
「なにを……くっ」
ISが織斑くんの方に向かおうとするが、それを止める手段はない。更識がISを持っているとはいえ、周囲の環境が悪すぎる。
どうすればいい、どうすれば……。
唐突に響いた酷く濁った声。周囲には当然誰もいないし、こんな声の人間を私は知らない。だが、それは喋り続ける。
脳裏に浮かび上がったのは、論田さんと戯真さんが殺され、更識さんが死にかけている姿。『力』があれば、それを変えられるのだろうか。
──気づけば、私は立っていた。叩き付けられた胴以外の全身も熱くなり、心臓が早鐘を打つ。浅い呼吸を数度繰り返し、そして深く息を吸う。
「────
あらん限りの、喉笛が裂けそうになるほどの絶叫。狩人のようなISは振り向き、不審に眺める。
────そして、私は
次回、戦闘。