IS 殺し屋は日常を知りたい   作:黒鉄48号

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筆が乗ったので初投稿です。


第十二話 狩る者、狩られる者

 ……全く、面倒なことになった。私の後ろで地面に倒れている仮面の男や、ハイエースでやってきた奴らのことを考えて憂鬱になる。こいつ(IS)が無ければどうなっていたことか。

 吐いたため息が上手く抜けずに顔に戻ってきて少し嫌になる。姿がバレにくいのはいいが、些か不便だ。

 

 そんなことを思いながら、どうにか宙に浮く。ISがいきなり装着された時に操縦方法は頭の中に流し込まれたが、いきなり上手く使える訳ではないのだ。ブースターを吹かしいざ織斑一夏の元へ……といったタイミングで、何故か背中からプレッシャーを感じる。

 振り向くと、例の男が立ち上がっていた。刃の無い方で攻撃したとはいえそう早く立ち直れないはずだ。警戒して武器を構えていると、彼はいきなり叫んだ。『オニガネ』という奇妙な言葉に疑問を覚えた瞬間、レゾナンスの方からなにかが飛んでくる()()()()

 

 変化は大きく、そして早かった。仮面の男の周りに朧気な輪郭が浮かび上がると、それは実体を得る。何度かテレビで見た『打鉄』に形状は近いが、色はアレよりも濃いミリタリーっぽいし手足もかなり太い。後は胴体部の露出もまるでない……私のIS『シャサール・ジェヴォーダン(ジェヴォーダンの狩人)』と同じ全身装甲(フル・スキン)のようだ。

 だが、そんなことなど些細に思えるほどの特徴がそいつにはあった。堅苦しい逆への字の口元に、赤い双眸。そして額から突き出る二本の角。それは正しく『鬼』であった。

 

「男が、ISを……?」

「……」

 

 私が呆然としている間に、彼のISは地面を滑るようにこちらへと向かってきた。……全く、面倒なことになったようだ。

 


 

 気がつけば私は、よく分からない物に見を包まれていた。困惑していると、脳裏に色々な情報が津波のようになだれ込んできた。

 

 視界はより明瞭になり、重かった頭が軽くなる──ハイパーセンサー最適化、……終了。

 肌の上を極めて薄い何かが覆ってくる奇妙な感触──皮膜装甲(スキンバリアー)展開、……完了。

 足の裏で何かが回転する振動──無鉄心電動機(コアレスモータ)正常作動、……確認。

 四肢や胴体が()を打ち、生物的な暖かさを生む──発展型電磁気収縮筋(アドバンスド・マッスル・パーセル)始動開始、……正常。

 ほんのり体が軽くなる低重力感──PIC(パッシブイナーシャルキャンセラー)作動……稼働率()()()()

 

 それ以外にも、操縦方法だの稼働限界時間だの行動範囲だのと色々出てきたが、その内の一つに目が止まった。

──機体名称:鬼鉄黒烏(コクウ)──

「コクウ……」

 

 確か、太陽にいるという伝説上のカラスの名前だっただろうか。いわゆる『八咫烏(ヤタガラス)』とほぼ同じような存在のはずなので、随分と大層な物だ。その割には機体は黒くないのか、などと考えながら相手のISをまっすぐ見る。

 

 どうやら私がISを纏ったことに困惑しているようで、攻撃をしてこない。ならば、こちらからしかけるまでだ。

 足裏のローラーを用いて相手に急速接近する。先程のデータからして、私のISは()()()()()()()()()状態だ。精々が重量軽減だろうが……それで十分だ。

 

「そらっ!」

「……ふんっ!」

 

 振りかぶってきた鋸鉈を腕パーツで弾き上げ、すれ違いざまに拳を叩き込む。

 私にとってISは手足のように自由だが、どうやらフードの女性はそうではないらしい。わざわざ受け身を取ってしまい、不安定な飛行が更に覚束なくなる。

 だが、一つ問題もある────このIS、()()()()()()()()()()()()()。ナイフはおろか拳銃の弾一つすら入ってないというのは、いったいどういう機体なのだろうか。

 

 あれこれ考えている間に、相手のIS『シャサール・ジェヴォーダン』は飛ぶことを諦めたようだ。地面にハイヒール状の脚部を着地させ、右手に斧と左手に短銃を展開して構えてきた。

 それに対し私は右手を眼前、左手を腰ほどの高さに構える。何度か手のひらを開け締めしたところで、合図もなく攻防が始まった。

 

「戦場でボケっとして、そんなに死にたいか!」

「とんだ早とちりを!」

 

 彼女が牽制として撃った短銃の弾をするりと避け、ローラーダッシュで素早く近づく。機体一つ分離れた辺りでシャサールの斧が変形、倍近いリーチとなったそれを両手で振りかぶってくる。

 それを一時的にPICの出力を増幅してジャンプすることで掠る程度で済まし、空中で効果が切れたせいで地面に罅を入れながらもハイエースの方に近づくことができた。

 

「あなた、なんでISを……!?」

「今それはどうでもいいことだ、更識さん。ISが展開出来ないのはいいが、何か武器を持っているか? 誰でも扱えるやつなら特にありがたい」

「そんなの一つもっ…………いいえ、一つだけあるわ!」

 

 はっとした表情で彼女はそう言うと、私のISに武装が送られてきた。そのやり取りの間に近づいてきていたフード女のISに対し、その武器を展開して振るう。

 

「そんな不格好な……伸びる!?」

「油断をするからそうなる!」

 

 最初の状態からギュオン、と数倍は長くなった《ラスティー・ネイル》……いわゆる蛇腹剣であるそれは、切れ味こそ良くはなかったが質量と遠心力で彼女を弾き飛ばす。

 そこにローラーダッシュで突進してISを織斑くん達から離した後、私と敵は向かい合うことになった。私は右足を前に、右手に蛇腹剣を持って腰を落とす。

 

「……タイシャリュウ、か?」

「御名答──と言いたいが、少しばかり違う」

 

 剣呑な空気が漂い、センサー越しにフード女と目が合う。爛々と光る黄色いそれは、狩人よりも獣に近い様に見えた。

 そんなことを考えていると、いつのまにやらISから伝わる脈動が勢いを増していた。武者震いに近いそれは、私に彼女との戦いを強制しているのかと思わせる程だ。

 

「……参る!」

「来い!」

 

 動き出したのは同時だった。シャサールはサイドスカートのブースターを吹かして素早く走り、私は腰部の大型ブースターで地面を滑るように進む。

 ある程度進んだところでシャサールの短銃が火を吹き、私のシールドエネルギーを削った。だがそれに構わず私は蛇腹剣を振り下ろす。

 

「同じ手など!」

「どうかな!」

 

 彼女はそれを後ろに跳んで避ける。しかし私が狙っていたのはそれではない。振り下ろした刃の軌道を変え、下からの切り上げを行う。

 

「何だと!?」

 

 攻撃は当たったが、相手のISには大したダメージを与えられなかったようだ。やはり装甲の薄い場所を狙っていくしかないだろう。

 再び距離を取ろうとする彼女の後ろに回り込む。それに気付いたシャサールは再び短銃を構えるが、それよりも早く懐に入り込んだ。

 

「しまっ……」

「遅い!」

 

 剣を握った右腕の脈動が大きくなるのを感じながら、僅かに空いた顔の隙間……彼女の黄色い眼が覗く場所にラスティー・ネイルを伸ばさずに捻りながら突き刺す。

 絶対防御の強い光が漏れ出すと同時に、そのまま押し込むようにして蹴り飛ばした。

 

「ぐぅっ!」

「まだ足りないか!」

 

 さらにブーストをかけて加速し右脚でテレフォンキックを行う。同時に脚部に備えられたパイルバンカーを起動させ、シャサールの胴体部に叩き込んだ。

 

「がぁっ!?」

 

 その一撃がトドメとなり、吹き飛ばされたシャサールが粒子となってペンダントに戻った。

 それを回収するために近づき、どうにかISから降りる。ついでにフードの女を仰向けにすると、息も意識もあるようだ。

 

「……殺さない、のか?」

「……お前が無闇に力を振るう人間ならそうしたが、そのようには思えないんでな」

 

 そう告げると緊張の糸が切れたからなのか、彼女は意識を失った。しばらく私は思考し、雷神の裏ポケットに待機形態のシャサールを突っ込んでから再び黒烏に乗る。

 そしてフード女を米俵のように担いでハイエースの方へと向かうのだった。

 

 

 車の場所に着くとアパートの部屋にいた残り二人の男性が大人しく捕まっていた。コートの大男の方は少し抵抗したらしいが、更識の二人に取り押さえられたという。

 

「……本当に、ISを動かしてるのね」

「あぁ。今更だが、驚くべきことだな」

 

 更識さんに蛇腹剣を返しながらそういった言葉を交わして、ハイパーセンサーで織斑くんの方を確認する。

 論田さんと簡単な会話を行う彼の表情は、つい先程まで誘拐事件の当事者だったと人間のものと思えない。肝が座っている……というよりかは、()()()()()()()()()()()()様な感じである。

 

「レティシンス、彼はどうだ?」

「あぁ、問題はない。女装させられてるのは身バレ防止で、買い出しの時とかは外出させてもらえたんだってよ。ったく、妙な事件だよ」

「あぁ、そうだな。ところでだが──」

 

 遠くから聞こえてくるバイクの音とその上の人影を確認して憂鬱になりながら、私は自分のISを指差して問う。

 

「──後始末、どうしようか」

「俺に聞くな!!」




・鬼鉄黒烏
 どこか打鉄の面影を宿した、鬼武者のようなIS。
 全身装甲かつ一般的でない人工筋肉搭載型といったイレギュラーの塊の奇妙な機体であり、その謎は枚挙にいとまがない。(くろがね)色の装甲は、何故か埃を被っているのだが……。
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